君と結ばれる、物語の作り方   作:らむだぜろ

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初めての対抗演習 作戦会議

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 静かに二人が戦慄しているのを知らない七海は、順調に仕事を続けている。

 近海防衛、任務、遠征、海上訓練。これらを経験して、残すものは数少ない。

 それは、艦娘の改造と、対抗演習の電報だった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先ず、改造である。艦娘の強化を渋っていた訳ではない。

 ただ、練度を十分あげてからの改造をしようと決めていた。

 練度は言うなれば艦娘の強さを表す数字ではある。

 だが、それは目安だと七海は思う。何せ、練度は何をしていても勝手に上がる。

 戦おうが遠征しようが訓練しようが勝手にだ。

 ならば、練度が高いことは、強いという訳でもない。

 七海が目指したのは、死なないための練度である。

 要は実戦で練度を中心にあげていた。

 故に、練度のわりにはここの艦娘は実戦に慣れていた。

 数は少ないゆえに、常に何かしらで経験値は上がっている。

 濃密にあげるのなら、やはり戦うことだ。危険なのは承知の上。

 だが、訓練であげた練度など張りぼてと考えた七海は兎に角戦いを選んだ。 

 結果、大体20以上の練度を保ち、近海では十分通用する練度にまで成長。

 そして、一斉に改造した。全員だ。

 五十鈴などは練度12で改造できたのだが、七海は一斉にやるから我慢してと頼んでいた。

 ……珍しく、命令ではない。お願いだった。知らぬ間に対応は優しくなっている。

 以前なら有無を言わさずに一方的に通達して終わりだったが、今は事前に本人に伝えるぐらいはしている。

 成長と、言えるのだろうか? 中身は変わらず機械のまま、数式のままだが。

 一斉にやった理由も、一部だけ強くすると自分の指示じゃ性能の差が出て妨げになる。

 それほど、一度で上昇する性能に他が追い付けないという理由であった。

 因みに重巡の一名は練度が足りずにいまだに無改造。

 文句を言う鈴谷は練度が一番高い。

 しかも種類が変わる。現在備蓄する装備の候補となっていた。

 何れは航空戦艦も迎え入れたいと思う。資材はちゃんと計画的に使っている。

 不意に対処するだけの備蓄はしていると皆は言うから、大丈夫だろう。

「潜水艦と防空は五十鈴にお任せ。提督を勝利に導いてあげる」

「……でも艤装の装備は、二刀にするにはそれほど搭載できませんね。じゃ、特化してください。主にお魚退治に」

「お魚って……まあ、良いわ」

 七海は相手の名前を覚えるのも面倒くさくなっていた。

 自分の担当する海域の敵は適当にいつも言っている。

 しょっちゅう出てくる潜水艦はお魚退治、あるいは害虫駆除。

 戦艦は火力バカ、空母はカトンボ。軽巡、重巡は重たいのと軽いの。

 駆逐は雑魚、と言った風に。強化したものが出ない割りと平穏な海域だから言える話だ。

 普通なら、舐めていると思われても仕方ない。

 呆れる五十鈴にソナーと爆雷を大量に詰め込み、日々お魚を退治してもらっている。

 特化させると強い。五十鈴という艦娘は潜水艦を皆殺しにする達人だ。

 以前は駆逐艦と一緒だったが、今は随伴に一名居れば全滅する。

「ふふん。どうよ、七海。五十鈴に頼って良かったでしょ?」

「前から害虫駆除には五十鈴をメインとしていますが?」

「……なんであんたは、素直にありがとうって言えないのよ」

「頼りきりなのは今も変わってませんから」

 戦果を見せて自慢げに胸を張る五十鈴に、前から頼っていると素面で言う七海。 

 未だに素直にならない面倒な少女だが、多少報告時に私語を交ぜても怒らなくなった。

 トゲは無くなってきてはいる。が、感情の起伏は薄く、怒り以外はあまり出さない。

 この辺は、七海という人間の性格なのかもしれない。

「イムヤもまだ、改造は出来ませんか」

「んー……。潜水艦って、改造できるまでの間が長いの。イムヤは確か練度50だったかな?」

「…………」

「司令官、途方に暮れてるけど大丈夫?」

 なんていう会話をしていた。潜水艦も無改造だ。

 要求される練度が高すぎる。50ってなんだ50って……。

 この鎮守府で、練度上位は大体特化している艦娘であった。

 潜水艦特化の五十鈴、空母特化の古鷹と由良、あとは大捕物のイムヤとイク。

 イクは然し、性格の問題なのか土壇場でミスる悪癖があるので、最近では哨戒任務が多い。

 イクは夜に強いのね! という自己主張を汲んで、某軽巡と毎日夜間警備のお仕事中。

 実際夜の方がイクは強い。逆にイムヤは夜に弱かった。

「何でだか分かんないけど、不安になるの。イムヤが外したら、皆が死んじゃうって……。指先が震えて、上手く魚雷を放てなくなる……」

 と、血の気が引いて、七海に自分でいっていた。

 試しに夜間訓練を実施したのだが、言う通りイムヤは簡単に撃破されていた。

 適性なし、とさっさと断じて昼間の戦い以外には彼女は出なくなった。

「元より潜水艦は得意不得意がハッキリしています。なら、それで構いません。あたしも不得意をしたくないので」

 と、アッサリと許可して、現在は主戦力の戦艦と重巡キラーであった。

 そして、七海は自分の戦果を見て気がついた。

(……あたしって、潜水艦の指示の方が得意なんですね)

 意外なことに、七海が最も得意とする艦娘は潜水艦。

 駆逐や軽巡などに比べて明らかに撃破している割合が高い。

 俗に言う大捕物が一番数字が高かった。

 と、自分の得意分野も発見している今日この頃。

 初めての対抗演習のお知らせが、任務として届くのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 内容は、連合艦隊の練習。

 数名の新人提督同士で、大型艦隊の指揮を数名で取りながら対抗演習に励め、とのこと。

 七海の場合は、知り合いの提督と一緒にやれとメンバーが決まっていた。

 第一、第二艦隊に分かれて、一名につき艦娘二人ずつ指揮して全体とせよ、と。

 つまりは、艦隊の中に複数の提督がいる。協調性も必要だった。

 合計12の艦娘からなる連合艦隊。七海はまさかの第一艦隊の方だった。

 第二ならば支援で済んだのに、矢面に立たされていた。

 旗艦は話し合って各自決めよと通達されている。

 任務が来てから早速、知り合いの提督が飲み会しながら決めるから顔出してくれと誘われた。

(あたし未成年……)

 最年少の辛い所だ。酒は飲めないが、必要なので出掛けることにした。

 代理はこの日は飛鷹に任せる。万が一があり得るので。

「万が一?」

「こっちの地元でやるんです。あたしに気を使ってくれたみたいで。なので、帰れなくなった酔い潰れた連中が押し掛けるかも。飛鷹は慣れていると聞いているので、準備だけしておいてください」

「……ええ。分かったわ。帰りは?」

「憲兵さんにお願いしてます。迎えに来てくれるそうです」

 飛鷹は姉妹に酷い飲んべえがいると聞いている。

 彼女は深いため息をついて、了承。準備しておくと言われた。

 夜遅くになるので、付き添いに憲兵を頼み、一緒に出ていく。

 帰宅ラッシュの時間帯。

 明かりの漏れる言われたお店に送られて、終わったら連絡と言われて、彼女はお店の暖簾を潜る。

 人生初の、居酒屋であった……。

 

 

 

 

 

 

 居酒屋鳳翔。

 それが、指定されたお店の名前だ。

 狭いお店で、店内は座敷とカウンターだけのこぢんまりとしていた。

 いわく、海軍の関係者が経営しているようで、機密に関しても大丈夫だそうで。

 本日は貸しきりだそうだ。

「おー!! 渋谷、こっちだー! こっちー!」

 奥の座席で、既に酔っぱらっている知り合いが頬を赤くして、手をふって呼んでいた。

 呆れる七海は、酒の臭さを我慢して向かった。

「赤松さん、もうべろべろですか?」

「だっはっはっは!! 悪いなあ、鎮守府じゃ酒が飲めねえんでさ!!」

 若い男性が、豪快に笑っていた。こんなので、本当に作戦を立てられるのか。

 ただ口実に騒ぎたいだけのように見えるが……。

 七海もあがる。私服の数名の提督が、久し振りと挨拶して座っていた。

「お久し振りです皆さん。ご活躍は聞いております」

 丁寧に挨拶をして、座った。机の上には大量の肴とビールが並ぶ。

 まだ早いのに、三人ぐらいは出来上がっていた。無礼講と言うが、やる気はあるのか。

 夕飯も食べていく。経費で落とすが、赤松の鎮守府が支払いをすると言うので有りがたく頂こう。

「なに、今日は簡単な打ち合わせだ。連れていく艦娘と、互いの戦法のすり合わせだな」

 適当に言っている赤松。一番の知り合いがこれでは、当てには出来ない。

 酔っ払った状態でも、ちゃんと最低限の事は決めると言うが……。

(大丈夫ですかね……?)

 一応資料なども持ってきたが、使う機会は果たしてあるかどうか。

 兎に角、演習に対する会議を始めるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

「俺は、ズバリ嫁の姉妹を連れていく。誰がなんと言おうとこれだけは譲らんッ!!」

 数時間経過。意外と皆さん真剣に取り合っていた。

 酒が入っているわりには、マトモな事を言う。全員メモを記録し、忘れないようにしている。

 七海も記録は取っていた。酒の席と言えど、やはり提督だ。

 大人を貶しすぎたと内心反省している。流石は皆、規模のある鎮守府の長。

 日々激戦を戦い抜く精神は伊達じゃない。感服していた。

 セクハラで捕まった赤松は、ちゃんと和解して現在は仲良くやっているという艦娘をつれてくるという。

 例の戦艦らしい。七海が詳細を聞いた。

「おう! 高速戦艦、金剛と榛名だ!! 良い娘っこだぜ!? やらねえけどな!!」

 ビールをあおりながら豪語する赤松。口許に泡がついていた。

 戦艦金剛、戦艦榛名。

 成る程、速力がある戦艦だったか、と七海は思い出す。 

 二人して戦艦。しかも支援の第二艦隊の方だ。

 第二艦隊の旗艦は金剛でいいと、そちらは決めていた。

 一応、混戦となる予定だ。一斉に殴りあうらしい。

 第二艦隊が援護するから、第一艦隊全員突撃、という雑な動きだった。

 第二艦隊は戦艦と空母で固まっている。金剛、榛名、空母赤城、加賀に航空戦艦伊勢、そして。

「決戦兵器を導入したい。……うちの大井だ」

 一人がそんな事を言い出した。

 大井。確か、改造後は重雷装巡洋艦という全身魚雷の塊のような凄まじい艦娘になると聞いた。

 軽巡から派生した物らしいが、希少で中々新人の場所にはいないらしい。

 七海はその決戦兵器について聞いた。

「一つお伺いしますが……装備の魚雷は何を使いますか?」

「装備か? ああ、61cmの酸素魚雷を予定している」

「…………」

 魚雷のなかでも火力の高い装備だ。それによる雷撃なら、戦艦が来ても対処は容易い。

 が、問題は果たして相手に当たるか。

 魚雷は追尾性能が最近のはついているらしいが、そんな危険な相手を相手が放置するとも考えにくい。

 第二艦隊はまさに攻撃特化。守りがまるでない。

 空母たちも攻撃ばかりに気をとられて、守備を無視している気がする。

 攻撃は最大の防御。殺られる前に殺れを、皆はやりたいらしい。

 圧倒的物量と火力で押し切る。悪くはないが、万が一の保険がほしい。 

 彼らの火力を押し返すかもしれない相手がいたら、困る。

 相手も新人とはいえ、何をしてくるか分からない。

 第一艦隊も、重巡や軽巡が大半で、漸く第二艦隊のうち漏らしを倒す算段ぐらいで。

(……不安ですね。あたしとは、やり方が違いすぎる……) 

 火力の一辺倒。弾幕と航空だけで倒せるのか。

 七海は火力をあまり気にしない。

 無事に皆が帰ってくる戦いしかしたことがない。

 出来るとは思えない気がする。

 一応言い出してみよう。七海は盛り上がる彼らに口を出した。

 

「……あたしは、如月とイムヤで行きます」

 

 意外な発言だったか。駆逐艦と潜水艦。

 当たれば一撃で持っていかれるような脆い艦娘を、七海は選んだ。

 皆、驚愕していた。

「……意図を、お聞かせ願えないか渋谷提督」

 大井を出すと言った提督が、理由を聞く。

 七海は、火力だけの艦隊の、言わば隠し玉のような物だと説明する。

「相手がもしも、持久戦を選んだ場合に、息切れ起こして止めをさせなかった、という情けない結果は嫌です。あたしは、敢えて守りを意識していきます。駆逐も潜水艦も、幸い燃費は上々です。火力は、皆さんに任せます。あたしは、守りを意識してみようと思いまして。どうせ、火力も装甲も貧弱な駆逐です。いっそ、ならばカバーしてくれる皆さんに頼って、脇役に徹します。万が一、相手が残っていた場合の最低限の火力さえあれば、問題ないかと。潜水艦には、戦艦や重巡、空母は餌です。隠れて狙い撃ちするのも、ありかと思いますし、あたしは潜水艦の指揮が得意だと最近わかったんです。ですので、火力をカバーする為に駆逐と潜水艦を選びます」

 という七海に、皆は暫し考える。

 互いに見て、七海の提案を聞いて、軈て。

「……ありだな。私は賛成だ。殲滅はうちの大井に任せてくれ。少し、私も対空を視野に入れておこう。大井は魚雷が全てではないと、見せてやる」

「……確かに少しは守りにも気を使うか。おっしゃ、三式弾持っていくか! 火力は弾変えれば補えるな!」

 皆は柔軟に取り入れた。火力を重点に、守りは装備の変更で補う。

 軽巡の多様性や重巡の拡張性なら問題はない。七海は守備特化にした。

 最低限の自衛の火力と、イムヤの特性を活かして戦おう。

(125mm速射砲、如月は使えますかね……?)

 吹雪が無理だと投げたあの速射砲。

 火力は十分だが、対空は出来るだろうか。

 如月にした理由は、如月は響よりも守りが上手いから。

 睦月のフォローをしている訳じゃない。彼女なら、行けるだろう。 

 あれこれ、互いに案を出しあって、皆は作戦を進めていく。

 七海は頼るべき部分を、頼ることにした……。

 

 

 

 

 

 

 

 追記。

 飲んべえは無事に自分の鎮守府に帰って、嫁さんに絞られたらしかった。合掌。


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