RELEASE THE SPYCE 3部作   作:真庭鳳凰
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地球が球形であるとなぜ断定できる?
1+1が2であるとなぜ断言できる?
お前の生に明日があると、一体どうして信じている?

天に順う者は存し天に逆らう者は亡ぶ。それが人に与えられた精一杯の権利。
だがそれにさえも抗うならば、あさましくも神に逆らうと謂うのならば。

全てが敵の世界でも、希望を信じて嘆き叫べ。

――――――不確かで危うい現実が、狂い終わって逆さに廻る。





主要なオリキャラが2人、サブ的な扱いのオリキャラが1人出てきます。オリキャラを受け入れられないという方は注意してください。


だったら世界こそが私の敵だ

 第六章 幸災楽禍(ディストピア)-完成された理想郷(ユートピア)-

 

 

 

 1カ月前、歴史の裏側で世界の覇権をかけた戦いがあった。私設情報機関『ツキカゲ』と世界規模の犯罪組織『モウリョウ』の頂上決戦。謀略と裏切り、懐柔と陰謀、血と刃、硝煙と臓物に塗れた最高で最低の戦い。人智を超越した天才である天堂久良羅と師の死を糧に急激に成長した源モモの頂上決戦。互いの正義をかけた8月18日の最終決戦。巨大装置の上で行われた命懸けの戦い。

 その結果として2人の女が表世界からも裏世界からも消えた。

 その結果として世界に安寧とした平穏がもたらされた。

 当然、表世界の人間はそんな戦いが起こっていたことなんて知らない。知らないからいつも通りの日常を送っている。

 畠山結愛と北斗凪もそんな一般人だった。

 

「うっす、凪っち」

「おはよう。結愛ちゃん」

 

 現在の日付は9月18日。2学期の始業式もとっくに終わり、普通に授業が始まっている時期だ。結愛と凪の2人は空崎高校に通っている学生である。だから午前7時45分現在、2人は普通に登校していた。

 

「昨日の英語の小テストどうだった?私全然ダメでさー。9割くらいしかとれなかったよ」

「私はそうでもなかったかな。あんまり難しくもなかったし、もっと復習していればちゃんと100点とれたと思うよ?結愛ちゃん地頭はいいんだから」

 

 街の光景は至って普通だった。治安が悪化していたり、瓦礫がそこら中に存在していたり、浮浪者やストリートチルドレンなどが大勢いたり、人の数が減っていたり、商店の多くが閉店していたり、誰もが俯いていたり、そんなことは全くなかった。

 それがつまり、『ツキカゲ』と『モウリョウ』の、源モモと天童久良羅の勝敗を示していた。

 世界はより良くなっていた。

 治安は良くなっているし、街にはゴミ1つ落ちていないし、ポイ捨てするような人間は1人もいないし、浮浪者やストリートチルドレンの数も激減し、少子化問題にも解決の兆しが見え、街は活性化し、誰もが笑顔で、戦争はなくなり、政治家の汚職もなくなり、みんながみんなの事を考えて、みんなのために行動するようになった。

 完璧だ。完璧に完成された完全な世界だ。これが勝者のもたらしたもの。勝者のもたらした結果。勝ったからこそだ。負けてしまってはこんな世界にはならなかった。闘争と謀略に満ちて欲望と本能を満たすために戦争を起こすような世界は変わったのだ。変えたのだ。

 

「そういやどうだったよ。昨日病院にいったんだろ?」

「うん、ちゃんと妊娠してたよ。これで私も日本の少子高齢化問題に貢献できるね」

 

 喫茶店で夫婦が仲睦まじく話している。たった1ヶ月前には離婚寸前までいった彼らも今はどうだ、新婚ほやほやのようなバカップルだ。

 

「1170円になります!」

「カードでお願いします」

「はい!えー、キャッシュレス決済なので消費税80%の内20%が割り引かれて、1040円になります!」

 

 コンビニの中で店員がレジ打ちをしている。クレーマーなどもはやいるはずもない。ただ無機質に作業的にバーコードを読み取るだけの店員などどこにもいない。客と接するわずかな時間を楽しんでいる。作り笑顔ではない本心からの笑顔を向けている。それはまさしく理想的な店員だ。

 

「昨日ネット動画みてたんだけどね、四国を丸ごと原発の設置地域にしようって話が議論されてるらしいよ?」

「ほんとう!私はいいと思うなぁ。だってあの人達の言うことは絶対に正しいし!やっちゃえばいいよね!」

 

 道端で友人同士が仲良く話しをしている。迷惑にならないように前後に広がりながら、政治についての話をしている。1カ月前はただ毎日を怠惰に過ごしているだけの彼女たちも、今は世の中の情報について積極的に話し合っている。

 

「今度は久しぶりにあいつにボーナスでいいもん買ってやるか」

 

 とある会社の給料はここ1カ月で5倍になっていた。

 

「7時間睡眠はやっぱり素晴らしい!」

 

 ブラック企業なんてモノはなくなり、人々は毎日きっかり8時間の労働を意欲的にしていた。しかし経済が下向きになるなんてことにはならずに、むしろ経済は上向いていた。

 

「先輩先輩、結局例のプロジェクトって通ったんですか?」

 

 暴力的な人間はどこにもいなくなり、世の中の全ては話し合いで解決できることが示された。

 

「北海道に核兵器が配備されたらしいけど、管理はやっぱり米軍がやるのか?」

 

 人間同士のあらゆる対立は公明正大に正された。

 

「楽しい、楽しい、楽しいです!」

 

 資源の残量。

 民族の対立。

 宗教の差異。

 食糧の不足。

 人口の爆発。

 国家の闘争。

 環境の破壊。

 土地の開発。

 貧富の格差。

 老若の拡大。

 全ての問題が完全に解決された。

 

「でも凪っち、やっぱり1カ月じゃ限度があったよ。流石に1日10時間勉強しても1カ月じゃ無理だったみたい。私ももっと頑張って貢献できるようになりたいのに」

「大丈夫だよ!結愛ちゃんなら出来るよ!私も手伝うし、頑張るから!」

 

 一言でいえば今の世界は平和そのものだった。統治が完全である以上そこに問題が生じるはずがない。人民が幸福である以上そこに歪みが生じる謂れがない。現状で満足している以上そこに異常が発生するわけがない。

 つまりは理想郷(ユートピア)

 これこそが楽園(ロクス・アモエヌス)

 その立役者こそが、

 あの戦いの結末は、

 平定された世界の管理者は、

 現生人類の支配者というのが、

 

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 常識とは、

 日常とは、

 当たり前とは、

 簡単に崩れるモノでしかない。

 

「うん。『モウリョウ』のおかげで私達は生きてるんだから。頑張って勉強して『モウリョウ』に貢献できるようにしないとね」

 

 かつて、特殊相対性理論の発表などいくつもの偉大な功績を残したドイツの科学者であるアルベルト・アインシュタインはこんな名言を言った。

 常識とは18歳までに身に付けた(Common sense is the collection of)偏見のコレクションである(prejudices acquired by age eighteen)

 つまりはその程度のモノでしかないのだ。環境によって常識など容易く変わる。

 『モウリョウ』はそれを為した。

 『ツキカゲ』は敗北した。

 『モウリョウ』は世界を支配した。

 地球(この星)は『モウリョウ』の支配下に落ちた。

 

 誰かが話している。

 

「そういえばさ、アンタ昨日のテレビ見た?」

「あっ、ひょっとして『モウリョウ』の幹部様の演説の話?もちろん見たよ~!やっぱりかっこよかったし、『モウリョウ』の人達はすごいよね~」

 

 人類は新たなる秩序の元に組み替えられた。

 地球は新たなる世界に再構築された。

 だが、それが全面的に悪い事なのかといえばそうではないだろう。

 

「今日も『モウリョウ』のために頑張るかね」

「『モウリョウ』の命令には従わないと」

「『モウリョウ』は絶対。『モウリョウ』は神。『モウリョウ』の素晴らしさをもっとみんなに伝えないと」

「『モウリョウ』様『モウリョウ』様『モウリョウ』様『モウリョウ』様『モウリョウ』様」

 

 確かに、全人類の思考は『モウリョウ』のもとに組み替えられた。『モウリョウ』を尊敬し、『モウリョウ』を崇拝し、『モウリョウ』を盲信し、『モウリョウ』に尽くし、『モウリョウ』のために生き、『モウリョウ』のもとに返る。そういう存在になってしまった。

 だが、だからといって別に世界は大きく変わっていない。

 

「ねぇ、そこのあなた!聞いて聞いて!さっきね、私の携帯に『モウリョウ』の幹部の片からメールが来たの!新薬の実験台になってほしいんだって!私に!私にぃ!!!」

「本当かよ!見せてくれ見せてくれ!!!おぉ、素晴らしい事じゃないか!羨ましいぜ!『モウリョウ』のためになることを出来るだなんて!」

「『モウリョウ』からのメール!直接送ってもらったの!いいなぁいいなぁいいなぁああああ!!!私もほしい……。画面だけでも写真撮っていいかなぁ?」

「流石は『モウリョウ』だよな。やっぱり『モウリョウ』こそが俺たちと世界を支配すべき存在だよ」

 

 そもそも、『モウリョウ』の目的は世界を手に入れ、世界の支配者として頂点に立ち、人類をより良い方向に導くことであり別に世界を混沌に落とし込むことではない。人為的に大規模な戦争を起こそうだとか、全人類の心に悪意を埋め込んで闘争を誘発させようだとか、地球を丸ごと滅ぼそうだとか、そんなことを考えているわけではない。

 だから、もたらされたのは平和だった。

 ある意味では『モウリョウ』が支配する前よりも格段に今の世界は平和だった。

 それが良いか悪いかを判断することは現行の生命体には不可能だ。もしもその絶対的判断を下せる存在がいるとしたら、それは人智を超越した超越的存在くらいだろう。

 

「『モウリョウ』のおかげで私は片目を失ったよ。やっぱり『モウリョウ』は素晴らしい組織だよね」

「何当たり前のこと言ってるのさ。『モウリョウ』が完全な組織だなんて当たり前の事さ。今日日子供でも知ってるよ」

「『モウリョウ』は素晴らしい組織だよね。なんていっても『モウリョウ』は素晴らしい組織なんだから素晴らしいに決まってるし」

「いやいや勘弁してください。『モウリョウ』が完璧な組織だなんて『モウリョウ』を少しでも知ってるのなら分かるでしょう?だって『モウリョウ』は完璧な組織なんですから」

「そりゃそうでしょ?『モウリョウ』は素晴らしい組織。まさに世界を支配するためだけに生まれた組織だからね」

 

 何も変わらない。

 生態系のパラダイムシフトが起こったわけでもなければ、人類という種に大きな変革が起きたわけでもなければ、何らかの漫画じみた非現実的事象が起きたわけでもない。

 何も変わらない。

 この程度では、あの程度では、その程度では、何も、何1つとして変わりやしない。

 

「それにしても、」

 

 だが、

 ただ、

 でも、

 

「モモち、どこにいっちゃったんだろうね?早く帰ってきてほしいのに」

「うん。『モウリョウ』は優しいから、きっとモモちゃんのことも許してくれるのにね」

 

 この現実を許せない人間はいる。この現在を拒絶したい人間はいる。この現象に異を唱えたい人間はいる。

 変わってしまった現実が許せなくて、支配されているという現在を拒絶したくて、『モウリョウ』という絶対的存在に異を唱えたい人間はいる。数は少なくてもいるのだ。

 そう、存在している。

 その絶対数こそ少ないモノの『モウリョウ』による薬品散布の影響から逃れた人間は存在するのだ。

 だからこれは反抗の物語。

 全てが終わってしまった世界でなお無意味に抗った10人にも満たない少女たちの物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第七章 抵抗勢力(レジスタンス)-絶望の中にあるか細い灯-

 

 

 

 緒形(おがた)(みさお)という人間にとって学校とはまさに最悪の牢獄だった。

 

「うだー、今日の小テストはできたと思ってたのにぃ」

「またですか。あなたこの間もそんなこといってませんでしたっけ?」

「この間私が勉強を教えたのに、なんで出来ないの?そんなんじゃいつまでたっても『モウリョウ』のためになれないよ?」

「分かってるよぉ……。もう戦闘方面でも鍛えようかなぁ」

「余計才能無いはずよね」

「うぅ…………」

 

 当たり前が狂った世界では学校の授業のカリキュラムも変わってしまっていた。しかしそれを異常だと思える人間は少ない。絶滅危惧種よりも少ない。そして残念なことにそんな異常者は保護されないですぐに『モウリョウ』に知らされ、再教育を受ける羽目になる。

 『モウリョウ』の統治は万全だ。

 歪みはほとんど見られない。

 

「ッ!?」

 

 突如として、歩みが止まった。まるで雷に撃たれたかのように、あまりにも突然彼女は静止した。

 だがそれも一瞬の事だった。

 

「……2人とも、そのまま落ち着いて聞いてください」

「?どうし」

「9時方向に90メートルほど行った場所に、……『ツキカゲ』を見つけました」

「!?」

「…………は?」

 

 それはあまりにも驚天動地の知らせだった。到底信じられないようなことで、しかし操は親友が嘘をつくような人間でないことを知っていて、それ以上にそんな『モウリョウ』のためにならない嘘をつくことなんてありえないと分かっていた。

 驚愕から再起動する。

 ではどうするかの議論に移る。

 

「じゃあ、最近起きてた何人もが行方不明になってる事件って、やっぱり」

「十中八九、彼女達の仕業でしょう」

「ッ!」

 

 もう1人の親友がすぐに携帯を取り出した。フリック入力で『モウリョウ』へ緊急の連絡を取っている。

 

「今、『モウリョウ』の上層部の方々に連絡したよ。私達はこのまま、不自然にならない程度に『ツキカゲ』を監視しよう」

「周りの人達に協力を求めたほうがいいんじゃないの?幸い、皆『モウリョウ』の一員何だし、一声かければ」

「いえ、それは悪手です」

 

 操の言葉はすぐさま否定された。

 

「『ツキカゲ』も馬鹿じゃない。自分たちが追われていることは分かっているはずです。少しでも怪しい動きを見せる人がいれば、おそらく逃げの一手を打つでしょう」

「自分たちを不自然に監視する人が増えれば、それだけ察知しやすいもんね」

「はい。私が気づけたのがそもそも奇跡です。ここは大人しく、『モウリョウ』の上層部の方々の指示を待ちましょう。上層部の方々ならば、的確な指示をくれるはずですから」

 

 盲信。狂信。崇拝。

 絶対的な信頼。『モウリョウ』に対する依存。思考力の低下。

 これが『モウリョウ』の目指した世界だというのか。これが人類の在り方だというのか。こんなものが、『モウリョウ』の統治だというのか。

 正常(異常)異常(正常)な人間はそう否定したいことだろう。

 だが、一概に全否定していいのだろうか。

 原初の罪が何なのかと考えれば、案外この在り方は正しいのかもしれなかった。

 

「ん、返信メールが来たみたい」

 

 びっくりするくらい早かった。

 その異常に操は気付けない。

 思考力を奪われた人間に考える力は存在しない。いや、そもそも『モウリョウ』が絡む時点で疑うという判断は出来なくなっているのだ。しないではなく、やらないでもなく、出来ないのだ。

 

「っ、私達が、こんな大役を……っ」

「荷が重いけど、やるしかないよね」

「ですね。せっかく上層部の方々が出してくださった指示です。必ず遂行しましょう」

 

 メールに書かれていた指示は待機ではなく追跡だった。つまるところ狩りに参加しろという指示。素人でしかない操では役に立てるか分からない指示だが、『モウリョウ』から期待されているのであればやるしかない。やる気は十分で、準備は万全だ。

 

「…………私が先行します。『ツキカゲ』の正確な位置を把握しているのは私だけでしょうから。……しょっぱなから全速力で行きます。2人は私について来て下さい」

「オーケー」

「分かったよ」

 

 1度、操は眼を閉じた。覚悟を決めて腹を決める。

 そして強く、目を開く。

 

「ッ!」

 

 走り出す。急に走り出した3人を周りの人が驚いた眼で見ているが、気にしている暇はない。『ツキカゲ』を捕まえる千載一遇のチャンスなのだ。

 路地裏に入って何度も角を曲がり、時にアクロバティックな動きをして、階段を駆け上がり段差を飛び降りて走る、走る、走る。

 息が荒くなる。心臓が破裂しそうだ。頭が痛くなる。

 だけど走り続ける。親友2人が頑張っているのに、自分だけ休むだなんて許されない。

 そしてずっと先で先行していた2人が立ち止まっているのが見えた。

 

「ツ、『ツキカゲ』はッ!?」

 

 先行していた友人にやっと追いついた操は乱した息を必死に整えながら聞いた。体力は限界に近いが、しかし『モウリョウ』のためになるのならばそんなことに頓着している暇はない。

 

「操、『ツキカゲ』はこの建物の中に入りました。…………上層部の方々が派遣した人間が来る前に、私達が中に入りましょう」

「待った。この建物の出口を探して、1人ずつでそれを確認しない?中に入って逃げられましたじゃ笑い話にもならない」

「出口が4つ以上ある可能性はどうですか?それにわざわざ『ツキカゲ』が逃げ込んだ建物ですよ?何らかの脱出経路がある可能性も零じゃない」

「…………私は、踏み込んだ方がいいと思う」

 

 3人寄れば文殊の知恵だ。女3人寄れば姦しいともいうが、逆を言えばそれはそれだけ女は積極的に話すということだ。だから意見をぶつけ合って、それを合わせ合って、相談して、素晴らしい結論が出せる。

 

「……はぁ、分かったよ。なら踏み込もう。どのみち、この辺りは今偵察衛星が監視しているはずだから、外に出ればすぐに捕捉できるだろうし」

 

 『モウリョウ』は現代社会の全てを掌握している。宇宙から地球を監視する偵察衛星の全てを手に入れた『モウリョウ』に隠し事をするなど困難を通り越して不可能に近い。

 最も、その不可能を『ツキカゲ』は1カ月も成し遂げているのだが。

 

「私が扉を開けます。開けたらすぐに」

「分かった」

「了解」

 

 だから油断は一切できない。いくら時間稼ぎとはいえ、無様は晒せない。

 軽くアイコンタクトをする。

 

「3、2、1!」

 

 一気に扉を開けた友人の事をしり目に、操は一番の建物の中に入る。

 

(いない?)

 

 建物の中は仄暗くて視界があまり聞かなかったが、それでも見る限り人はいないように見え

 

 後頭部に衝撃を感じた。

 

「ッ!?」

 

 ガンっ、と何者かに殴られて、操は倒れ伏した。抵抗なんて出来ず、意識もそこで落ちた。

 一般人の能力なんて、所詮そんなモノだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 操を殴った張本人達は後ろ手に扉を閉めながら建物の中に入り、会話を交わす。

 

「……まぁ、計画通り、と言ったところかな」

「……(みさお)には、悪い事をした」

 

 正常と異常は簡単に入れ替わる。信じていたものが真実であるとは限らない。操の友人たちは、操の事を友人だなんて欠片も思っていなかった。これはたったそれだけの話だ。

 

「夢。その辺に放置しておくわけにもいかないし、操は眠らせて適当なベッドにでも寝かしておいて」

「…………やっとく、リーダー」

 

 彼女達2人は正常ではない。信仰すべき『モウリョウ』に反抗する異端者だ。つまるところ1カ月前の世界の残党。だからこそ、彼女達は何のためらいもなく操を殴った。異端者からすれば操はただの狂人だ。付き合いきれないし、利用価値があるのだ。

 だから気絶させた。

 もう操の役割は終わっていた。

 

「さて、そろそろ出てきていいんじゃないかな?僕らよりも前に入ったんだ。一通りの安全性は確認できたんじゃないのかい?」

 

 誰もいないように見える部屋の中に大声でそう言い放つ。確信をしていた。絶対にいる。どこに隠れ潜んでいるかは全く分からないが、絶対にいる。分かっている。そのためにこんなめんどくさい芝居をわざわざしたのだ。

 

「んー」

 

 そう言いながら、2人の少女が出てきた。へそ出しの忍び装束。険しい表情。

 間違いない。彼女達こそが『モウリョウ』最大の敵。この世界最大の異端者。

 目的としていた人物に会えて、彼女は笑う。

 

「随分と、手荒な手段をとるね。メイ達が、その誘導に従わなかったらどうするつもりだったのかな?」

「それならそれで構わないさ。僕らのような存在がいる。そのことを『ツキカゲ』が知った時点で、第1目標は達成されているんだよ」

 

 それは決して虚言ではない。どちらでもよかった、というのが本音だ。手はまだいくらかある。品を変えればいつか引っかかると確信していた。『ツキカゲ』は正義の組織だ。『ツキカゲ』は悪を見逃せない。それが誘導であると分かっていてもだ。

 

「リーダー」

「夢」

 

 操を運び終わって帰ってきた最愛の相棒の隣に立ちながら、彼女は雰囲気を変えて言う。

 

「さて、」

 

 泰然と、

 自らを圧倒的強者であると告げる様に大きく両手を広げて、

 1カ月もの間全てを欺いてきた少女は、

 言った。

 

「ようこそ『ツキカゲ』。僕らの秘密基地(アジト)に」

「…………歓迎、する」

 

 点滅する蛍光灯と仄暗いランプの灯りのみに照らされた薄暗い部屋の中で、異常識人靄隠(もやかくし)(さい)と第六患者相良(あいら)(ゆめ)はそういった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第八章 虚虚実実(ネゴシエーション)-終わりが齎した始まり-

 

 

 

 今にも破裂しそうな風船のような緊張感が空気を満たす。

 メイは相手を威圧するように若干の笑みを浮かべて、楓は無表情の中で不安そうにメイのことを一瞥して、彩は心底楽しそうに嘲笑し(笑い)ながら、夢は一切の感情を感じさせない無表情でしばらく動かないでいた。まるで時が静止したような空間。だが、いつまでもそうしているわけにはいかない。

 楓には彩と夢の目的がわからなかった。こんな手間のかかったことをやる以上、狂う前の世界の人間と同じように会話が成立する以上、彩と夢は『こちら側』――つまりは『モウリョウ』に相対する存在であるはずだ。

 だが、と楓は考える。

 だが、それだけであるのならばもっと単純な接触方法をとってきていい。そしてこんな思わせぶりな態度をとる必要性もない。つまり彩と夢は単純にメイと楓、そして『ツキカゲ』に協力を求めたいわけではない……、そう楓は推察した。

 敵ではない。だが単純に味方とも言えない。

 ならば主導権(アドバンテージ)を握るべきだ。場の空気を支配することが出来ればそれは戦略的勝利につながる。

 

「アンタ達は」

「『八咫烏』って知ってるかな?」

 

 機先を制しようとした楓よりもさらに先に彩が話しかけてきた。自然に、まるで友達のような雰囲気で。

 

「八咫烏……?3本足の?」

「そっちじゃなくて組織としての『八咫烏』なんだけど。まっ、やっぱ知らないか」

 

 決して馬鹿にするような態度ではなく、まるで知らなくて当然だとでも言いたそうな態度でそんなことを言う彩のことがほんの少し気に障る。だが、それは抑え付けることのできる程度のイラつきだ。敵対的な態度で接してせっかくの協力者になれるかも知れない存在を刺激するほど楓は愚かではない。

 そう、この2人を基点に『モウリョウ』に一矢報いることが出来るかもしれないのだから。そして、そこからさらに大反撃を出来るかもしれないのだから。

 

「『八咫烏』……、僕らはね、この日出ずる国を守ってきた、日本の裏組織の1つなんだけど」

 

 そこでメイが割り込む。

 

「おっかしいな~、政府の情報機関は表世界じゃ内閣官房内閣情報調査室(サイロ)とか公安が、裏世界じゃ『凪の部隊』がやってるはずなんだけどな~。………………『八咫烏』なんて組織、メイは聞いたことないね」

「…………なら、その程度。…………『八咫烏』は2700年前から存在するこの国の最暗部。…………たかが数百年程度の歴史しか持たない『ツキカゲ』が知らないのも無理はない」

「へぇ、言うじゃん」

(…………師匠?)

 

 楓は少し戸惑っていた。なぜ、メイはそんなにも喧嘩腰で彼女たちに接する?『八咫烏』……、確かにそんな組織を楓は聞いたことがない。今の態度からしてメイも知らないのだろう。だが、だからといって『八咫烏』が存在しないとも言い切れないはずだ。

 いくら『ツキカゲ』といえど、いくら『財団』といえど、日本の全てを知っているわけではない。国が本気でその存在を秘匿した組織であるのならば、『ツキカゲ』がその存在を知らないのも無理はない。

 敵ではない。敵の敵かもしれないが、少なくとも彩と夢の2人は今の『ツキカゲ』の敵ではないはずだ。だとすれば表面上だけでも仲良くするのが当然の態度のはず。なのになぜ、メイはこんなにも敵対的に接する?その理由が楓には分からなかった。

 

「はいはい夢、そんなに喧嘩売らない。今の『八咫烏』なんて、所詮は惨めな敗北者にすぎないんだから」

「…………ですけどリーダー?」

「リーダー?アンタが『八咫烏』のリーダーだっていうわけ?まだ若そうなのに?」

「若いのはそっちも同じっしょ。まだ16歳なんでしょ?君?」

「!?」

 

 ほんの少しだけ、楓は頬をひくつかせた。それを目ざとく察知して彩はより笑みを深くする。

 

(へぇ、その情報は真実だったんだ)

 

 既に読み合いは始まっている。だが、アドバンテージは彩と夢の方にある。彩は『ツキカゲ』の情報をかなり多く知っている。自身を『モウリョウ』に洗脳された一般人と偽装することによって彩は『モウリョウ』から『ツキカゲ』の情報を得ることが出来たし、個人的に構築した別ルートからも『ツキカゲ』に関するいくつかの情報は得られた。

 ただ、その得られた情報は8割型ダミーであろうことも容易に予想できた。世間には、そして『モウリョウ』内部には『ツキカゲ』のことを軽視する意見も多くあった。所詮は『モウリョウ』の計画をとめられなかった敗北者だと、『ツキカゲ』なんて『財団』が『モウリョウ』の支配下に落ちた今放置していても問題ないと、壊滅するのも時間の問題だと、そう(おとし)める声もあった。

 だが彩はそうは思わなかった。

 

(そう、確かに『ツキカゲ』は敗北した。だけど、生き残った。『モウリョウ』は『ツキカゲ』に勝っても『ツキカゲ』を全滅させることは出来なかった)

 

 そもそもが驚異的なのだ。今現在『ツキカゲ』が組織として残っていることが。

 『ツキカゲ』は『モウリョウ』に敗北した。『モウリョウ』はこの1カ月間、生き残ったあらゆる敵対組織の殲滅に力を入れていた。そしてその結果、生き残った多くの組織は壊滅し、全滅した。『モウリョウ』は既に人類の大多数を洗脳している。つまり、『モウリョウ』の情報網は全人類70億人で構成されていると言っても過言ではない。その情報網から逃れることは余程優秀な人間、組織でなければできず、その情報網から逃れ続けるのは余程運に恵まれていなければできない。

 だから『ツキカゲ』が生き残っているのは奇蹟だ。

 だから彩は『ツキカゲ』をとても評価している。

 だからこそ、彩は『ツキカゲ』に接触した。『ツキカゲ』となら彩の目的を果たせると信じているから。

 一方で、メイも笑顔の裏で思考していた。

 

(出所はメイがボスに送ったデータかな?)

 

 Tファイル。

 それはメイが文鳥の女こと天堂久良羅に送った『ツキカゲ』のデータのことだ。最も送信したデータは8月19日の午前0時に自動消去されている。ただ、天堂はそれを予期してデータのコピーを九天サイエンスのサーバー内に保存していた。

 メイは8月18日の夜、保険として、九天サイエンスの上層階に存在する『モウリョウ』のサーバー内に保存されていた全ての情報を時間差でメイの知る全ての組織に送信されるように設定していた。そしてその送信されるように設定した情報の中には当然そのコピーデータもあった。

 メイは先を読んでいた。

 『ツキカゲ』が『モウリョウ』に敗北した場合もちゃんと考えていた。

 だからこそ、『財団』というバックアップを失った『ツキカゲ』は、それでも今存続している。

 

「年齢なんてモノはもう関係ないでしょ。優秀な奴は優秀で、無能な奴は無能だ。今の世の中、結局それだけだよ」

「それは確かに、僕も所詮は15歳で、『上』がいなくなったが故に繰り上がっただけだしね」

「へぇ……、てことはやっぱり『八咫烏』も被害を受けたんだ?」

「まぁねぇ……、僕らだって色々裏で動いてはいたけど、まさか『モウリョウ』がここまでたいそれたことを企んでいたなんて、1カ月前にはとても思えなかったし」

「『八咫烏』……、この国の最暗部だっていうんなら、なんでアンタ達はあの時動かなかったのよ?」

 

 楓は純粋に疑問だった。

 『八咫烏』。それが本当に存在する組織であるのならば、その力はとても強大なものであるはずだ。なにせ『ツキカゲ』ですらその存在を知ることが出来なかったのだ。つまりそれは『財団』の情報網を上回る隠蔽体勢を持っているという事。控えめに言ってあり得ないことだ。『財団』のネットワークは日本の隅々まで至っている。そこから逃れるのは並大抵の事ではない。

 だが、それが出来るというのであれば、『八咫烏』は『モウリョウ』の計画なんて赤子の手をひねるように止められたはずだ。だからそこが違和感。どうしようもないほどに違和感。

 

「…………それは、悔しいけど逆。……最暗部であるが故に、『八咫烏』は『モウリョウ』の計画に気付けなかった」

「であるが故に?」

「はは、まっ、こっちの不手際だよ。僕らは深すぎたんだ。だから、信じてしまった」

 

 今までの笑みとは違う、どこか自嘲するような笑みを浮かべて彩は言った。

 

「まぁこの際言っちゃうけど……、僕ら『八咫烏』は内憂外患の外患担当だったのさ。だから気付いた時にはもう手遅れ。それに加えて情けないことに内憂には気付くことすら出来なかったし。いくら担当を完全に分けていたとはいえ……、はぁ、もう本当に情けなくてたまらないよ」

「スパイがいたってこと?」

「…………………………端的に言えば」

 

 夢は傍目から見ても分かりやすいくらいに悔しそうに顔を歪めた。『モウリョウ』が『八咫烏』に送り込んだスパイを見抜けなかったことに気を病んでいるのだろう。あるいは後悔しているのだろう。もしもあの時気付いていれば、と。

 

「もともと、僕ら『八咫烏』は『モウリョウ』に二重スパイを送り込んでたんだ。でもその二重スパイがさらに裏切ってたことに間抜けな僕らは気付かなかった。本当に気付かなかったよ。まさか3本足の2本目が三重スパイになってただなんてね」

「随分と間抜けね。この国の最暗部を自称する癖に」

「だから言ったろ?深すぎたって」

「…………絆があるって信じてた。…………ずっと、小さいころから志を共にしてきた仲間だったから。…………まさか、裏切ってるなんて思いもしなかった」

「本当に間抜けな話だ。僕らが失敗したせいで、この国は、世界は、こんな様になってしまった」

「……………………………」

 

 気落ちしたように語られる2人の言葉が嘘であるとはとても思えない。変装術を得意としている楓はそれ故に相手を観察する術に長けている。その楓の眼で見る限り、2人の態度が偽装されたものだとはとても思えなかった。

 本気で後悔している。本気で沈んでいる。本気で、本心からの言葉の……、はずだ。

 少なくとも楓はそう感じた。

 

「絆、ね」

 

 二重スパイを演じていたメイは思う所があるのか、少し感情を込めて呟いた。

 

「あるだろ?君らにも?」

「まぁねぇ。メイだって、余程確信的な理由がない限り身内を疑う事なんてしないだろうし?」

 

 彼女たちの気持ちが楓には痛いほど分かった。楓だって8月17日の夜、メイが裏切ったふりをした時とてもショックを受けた。まさか、信じられない、そんなはずがない、なんて、現実から目を逸らした。現実を直視したくなくて、最後まで無様に縋って信じてしまった。

 1年程度の関係しかない楓でもそうだったのだ。それが、小さいころから志を共にしてきた仲間だというのならば確かに、疑う事すらしないかもしれない。

 ある意味で同情する事態だ。彩と夢が受けたショックは楓の何倍も深いモノなのだろう。だとしたら、よくそこから立ち上がれたものだ。楓は2人をわずかに尊敬する。

 

「ははっ、それは皮肉だね……。『八咫烏』はもう半壊滅状態だよ。3本足――『八咫烏』の幹部はもうここにいる夢1人しか残っていない。1人は『八咫烏』を裏切って『モウリョウ』に加担して、もう1人は最後まで『モウリョウ』に抗った末に死んだ。リーダーは僕みたいな経験の浅い小娘で、数多くいた部下の9割9部は『モウリョウ』の手に落ちた。そこから得ただろう情報で『モウリョウ』は『八咫烏』を精確に攻撃してきた。『八咫烏』が作ってきた情報網はもう機能してないし、全国に存在する秘密基地(アジト)も、特殊な連絡手段も、もうほとんど意味をなさなくなった」

 

 溜息をつきながら彩はそう報告した。

 全てが終わってしまった世界。何もかもが変わってしまった世界。たった1度の失敗は取り返しがつかなくて、ここからの逆転劇が起こるとすればそれはまさしく奇跡の産物だろう。

 口にすることでの事実確認は当人をさらなる絶望に追いやる。最も、彩は全く気落ちなどしていなかったが。

 彩はまだ、まだまだ、欠片も諦めてなどいない。

 

「全く、本当に情けない限りだよ。どうしようもないくらいに、絶望的だ。…………僕ら『八咫烏』が、まさか、他組織に頼る羽目になるだなんて」

「それが本題?」

「…………分かってる、くせに」

 

 今はどこもかしこも、どの組織もどうしようもなく弱体化している。『モウリョウ』は人を洗脳する薬品の慣性品を世界中にばらまくことによってたった半月で世界の全てを支配した。薬品から逃れることのできた組織の数は非常に少ない。いくらメイが『モウリョウ』の内部データを様々な組織に送ったとしても、それを信用するかはデータを受け取った組織の対応次第だ。

 メイが送ったデータを全く信用しない組織は多かった。

 いくら『ツキカゲ』のデバイスから送られたデータとはいえ、データの中身は『モウリョウ』の最重要機密情報なのだ。何らかの罠ではと、『ツキカゲ』に勝利した『モウリョウ』は『ツキカゲ』のデバイスを奪い誤情報を送ったのではと、そんな疑いをもった組織は1つや2つではない。

 結果、多くの組織は『モウリョウ』の薬品散布に対して適した対応をとれなかった。適した対応をとった数少ない組織の多くも全人類70億という圧倒的な数の暴力を前に敗れ去った。

 だから今残っている『モウリョウ』に相対する組織は本当に少ない。ひょっとしたら、両の指で足りる程度の数しか存在しないのかもしれない。

 その数少ない組織の1つが『ツキカゲ』。

 その数少ない組織の1つが『八咫烏』。

 最も『ツキカゲ』はどうしようもなく弱体化しているが。

 

「協力を要請したい。君らとしても悪くない提案のはず。『ツキカゲ』は確かにこの1カ月を生き延びてきた。水面下で反攻の準備もしてきたんだろう?でもまだ実行していない。……それは戦力が足りないか、時間が足りないか、情報が足りないか、あるいは他の何かが理由か」

「…………私達なら協力できる。…………1人よりも2人。…………1組織よりも2組織。…………『八咫烏』は半壊滅状態だけど、まだ、終わってない」

「どうかな?『ツキカゲ』としては?受け入れてくれる?」

 

 そう言って、彩は右手を伸ばしてきた。握手の構え。手を取れば合意を為せる。

 

「師匠」

 

 楓は、

 個人的には、楓はこの『八咫烏』の提案を受けてもいいのではないだろうかと思っていた。楓の観察した限り、2人の言葉に大きな嘘はない。そりゃ隠していることや細かい偽装はそこそこ感じられたが、しかし致命的な誤魔化しは感じられなかった。そして同時に悪意も感じない。『ツキカゲ』を利用してやろう、なんて思惑は確かに感じ取れる。しかし別に『ツキカゲ』を壊滅させるだとか『ツキカゲ』を裏切るだなんて思惑は感じない。

 人の感情はどうしても態度に出る。

 身体の微細振動、眼球の向く方向、瞬きの間隔、声のトーン、話のスピード、指の絡ませ方、顔の向き、他にも他にも。どうしたって表に出る。だから楓は2人を信じられた。

 

「そうだねぇ」

 

 ゆったりと、

 あくまでも余裕の態度を崩さずにメイは少し考える様に目を閉じた。

 

「悪くない提案だし、出来れば1度持ち帰って話したいんだけど」

「そんな政治家みたいな態度はやめてほしいな。こっちだってリスクを冒してるんだ。この場で決めてほしい」

「流石にメイ1人じゃ決められない。連絡先を渡すから、それでもう1度話し合いを」

「その連絡が盗聴されない保障は?連絡する前に『ツキカゲ』が『モウリョウ』に敗北しない保障は?……無限のリスクが考えられる。もう1度言うよ。……今決めろ、八千代命」

 

 ここで初めて、彩はとても強い口調を使った。彩としてはそこは絶対に譲れない一線だった。

 『モウリョウ』に洗脳された一般人を装っている彩と夢は、それ故に『モウリョウ』に洗脳された人間と接触する機会が多かった。つまり違和感があればすぐに怪しまれる危険性がある。彩と夢が『モウリョウ』に相対する人間だとはまだばれていない。そのアドバンテージを活かすためにも、怪しい行動を控えなければならない。

 何度も何度も『ツキカゲ』と接触はできないのだ。直接的間接的問わず。

 だから、確約が欲しかった。

 

「だったら、こうしない?そこにかけてあるあれを使って」

 

 目線を彩と夢の右後ろに投げて、メイは右手人差し指でその方向を指した。

 

 

 

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「―――――――――――――――――――――――――――――――――――――」

 

 シュン、と、

 一筋の風が吹いた。

 

「――――――ぇ」

 

 一瞬で、

 メイは彩との距離を詰めていた。

 

「――――――――――――――――――――――――――」

 

 メイは右手にクナイを握りしめていた。いつもメイが武器として使っているクナイだ。メイはそれを彩の首に向かって思いっきり振り下ろした。

 

「――――――――――――――――――――――――――――――」

 

 言うまでもない事ではあるが首は人体の急所である。首は頭と胴を繋ぐ重要部位であり、様々な重要器官が存在する。神経、血管、呼吸器など、本当に様々な器官が。

 首を深く刺されば人間はたいてい死ぬ。首を深く切り裂けば人間はたいてい死ぬ。

 つまりはまぁ、そういうことだ。

 

「――――――――――――――――――ぁ」

 

 距離が縮まっていく。1センチ、また1センチ。そしてそのままに、メイの握ったクナイが彩の首に突き刺さる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その寸前だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キンッ、と、

 もう1つの刃がメイの振り下ろしたクナイと彩の首の間に割り込まれた。

 

「…………これは、何の真似?」

「ふぅん」

「しっ、師匠!?いったい何を」

 

 超速の攻撃に対応したのは夢だった。夢にはメイの攻撃など見えていなかったが、しかしそれでも夢はメイの攻撃を防いで見せた。

 その理由は夢の異常に発達した第六感にある。

 

「…………協力はしないどころか、私達を攻撃する……。…………『ツキカゲ』、お前達実はもう『モウリョウ』に洗脳されてる?」

「なっ、そんなことは!」

 

 夢は危険というモノに昔から敏感だった。夢にとって世界はとても不安定なもので、現実はいつも理不尽なもので、全ての人間は敵だった。そんな状況で育った夢の第六感は自身を守るために異常に発達した。それを鍛えて鍛えて鍛えて、生き抜くために鍛え抜いて、今の夢はもうたいていの危険を事前に察知できるようになった。

 故に夢の二つ名は第六患者。

 第六感という病を患った者。それが相良夢だ。

 

「………………………答えろ、八千代命!…………リーダーを攻撃するなんて、どういう料簡!?」

 

 ギリギリと武器同士での鍔迫り合いを行いながら夢はメイをどなりつけた。それを聞きながら楓はひたすらに戸惑う。

 楓にはメイの思惑が全く分からなかった。

 なぜ、メイは彩を攻撃する?その合理的な理由が楓には全く思いつかない。メイは最初から彩達に敵対的な態度だった。何か、何か楓では思い当たることの出来ない理由があるのだろうか?それとも彩達がそんなに信用できないのか?まさか、本当に『モウリョウ』に洗脳されているとでも?

 

「『八咫烏』っていうのがさ」

 

 1秒で場の空気が変わった。

 一瞬で場の支配者が変わった。

 たった一言で場の全てが掌握された。

 ドクン、と彩の心臓がはねる。その心拍数が否が応でも上昇する。

 見抜かれた?ばれた?勘付かれた?

 いや、いいや。そう彩は必死に誤魔化す。あり得ないと否定する。

 無論、表情になど微塵も出さずに。

 

「本当にあるのか、ないのか。それは正直メイとしてはどうでもいいんだよね」

「で?」

「ただ、気になる訳だ」

「何が?」

「『八咫烏』の実力が」

 

 彩は瞬きもしなかった。夢は動揺を見せなかった。メイの行動に驚いたのは楓だけだった。

 それが、実力を表していた。

 

「協力しようっていうんならそれ相応の実力が必要でしょ?」

「ならそれはもう証明できたかな?夢は、君の刃を止めたよ?」

「そうだね」

 

 メイの超速の攻撃を夢は止めてみせた。刃に刃を交わわせ、彩のことを守って見せた。

 彩は驚きもしなかった。メイの超速の攻撃に対して、まるで動く必要がないかのように動かなかった。

 2人の実力は高いのだろう。いくらメイが本気ではなかったとはいえ、それでも『ツキカゲ』に属する超一流のスパイの攻撃に対応して見せたのだから。2人とも、それなりの強さは持っている。

 ただ、まだ不十分だ。

 それだけでは足りない。

 

「だから、メイの弟子と戦ってみせてよ」

「へぇ」

「しっ、師匠?」

 

 楓はまるでついていけなかった。どうして急にそんな話になる?

 知能指数(IQ)が20違うと会話が成立しないなどという俗説があるが、今の楓はまさにそれだ。メイと彩のやりとりが高度過ぎてまるで話についていけない。会話のテンポが早過ぎる。というか事態が急展開過ぎる。

 

「フーも最近実戦できてなくてさぁ。鈍っちゃっても困るし、そっちも構わないでしょ?お互いにメリットもあるし」

「…………条件付きなら、いい」

 

 夢はあまり頭が良くない。ただ、別に場の空気が読めないわけではない。特にこの1カ月間行動を共にしてきた仲間である彩のことは、言葉を交わさなくても、瞳を交わさなくても、ある程度読めるようになった。求めてほしいこと、やってほしいこと。第六感でそれらを感じ取り、夢はメイの提案を受けることにした。

 ただし、その先は彩に受け継いで。

 彩はメイの腕を払いながら提案した。

 

「実戦想定。完全な何でもあり(バーリトゥード)。噛みつき、目への攻撃、頭突き、急所攻撃もOK。ただし、この後の戦闘に支障がでるようになったら困るから、相手を死に至らしめる様な攻撃、もちろん遅効性のモノも含めて、それは禁止。重傷、重体状態にさせる攻撃も禁止。このルールなら飲むよ」

「重傷、重体状態の定義は?」

「身体欠損はダメ。完全回復に1週間以上の時間がかかるような攻撃も禁止。致命的な認識齟齬を齎す攻撃もなし。……まぁ、こんなところかな」

「フーは?何か追加したいルールとかある?」

戦う(やる)のはもう決定事項なんですね……。なら完全な一対一(サシ)かつ戦闘場所を決めてください。場外への干渉、場外からの干渉は完全に禁止。ギブアップ有り、タイムアップはなしで」

 

 甘い、と彩は思った。なるほど、と夢は思った。

 これは試練なのだ。そして同時に厳しめの愛。

 元より断るつもりはなかったが、これで余計に断る理由がなくなった。

 

「場所は僕らで用意するよ。四方50メートルくらいの障害物の無い場所でどうかな?地面はコンクリート、ギミックはなし」

「すぐに用意できるの?」

「ちょうどここの地下にそんな場所がある。地の利は僕らにあるけど……、まぁ、障害物もない場所だからそれは勘弁してほしいな」

 

 メイは彩に振り下ろしたクナイをしまい、首を振って肯定の意を示した。そのまま楓の方に歩いて、楓の背中を押す。

 

「案内するよ。ついてきて」

「…………先導する」

 

 さっきメイに命を奪われる寸前までいったことは水に流し、2人はそういって建物の奥に歩いていった。

 

「いくよ、フー」

「分かりました、師匠」

 

 それをメイと楓の2人も追う。

 何もかもが予定通りとはいかないが、それでもメイにとってこの展開は許容範囲内だった。

 だからメイは楓と共に2人を追う。

 その先に待ち受ける試練を予想しながらに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第九章 枕戈待旦(マインドコントロール)-思考を続ける豚と猿-

 

 

 

 案内された場所は地下だった。

 

「ここは世界がこんな風になった後に僕らで用意した安全な隠れ家(セーフハウス)の1つでね、戦闘出来る場所も用意はしてあるんだ。……喜んでいいよ、『八咫烏』の人間以外で此処に踏み込んだのは君らが始めてだから」

 

 地下空間はとても広かった。それこそ、『ツキカゲ』の秘密基地の軍議の社の4倍くらいには。

 中央にはまるで闘技場のように柵で区切られた空間があった。そしてその区切られた空間を囲むようにして四方に空いたスペースがある。

 

「こっちは夢が戦うよ。僕が戦ってもいいけど、夢の方が強いしね。実力を見るっていうんなら、現在の『八咫烏』の最大戦力を見せたほうがいいだろ」

「確か『八咫烏』の3本足の2本目なんだっけ?」

「1本目だ。3本足の2本目は裏切り者だよ。2度と間違えないでほしいね。……直接的戦闘能力は夢がダントツだからね。その気になれば君にも勝てるかもよ?」

「だったらありがたいなぁ」

 

 メイが軽く入れた牽制をそれとなく彩が返す。夢や楓には分からない超一流の謀略家同士の表に出ない戦い。言葉1つ、行動1つを注意し、注視しなければならない。ミス1つでアドバンテージは簡単にとられる。ミス1つでアドバンテージは簡単にとれる。

 『八咫烏』の正体。それを暴かれることは許されない。

 

「必要な武器はあるかな?高度なギミックの存在する武器は流石に用意できないけど、剣とか槍とか弓とか斧とか手甲とか、そういうのは用意できるよ?」

「自前のがあるからいらない」

 

 そういって、楓は手裏剣を取り出した。

 それが誘導であることに楓は気付けない。この時点で格付けは済んでしまった。直接的戦闘能力はともかくとして、心理戦において彩は楓に勝ると。

 

「それは失礼。夢、君も用意して」

「…………了解、リーダー」

 

 夢はそのまま歩いて闘技場の中央に向かう。己の武器を見せびらかしてしまった楓とは対照的に、夢は己の真の武器は見せていなかった。

 

「フー、実力を確かめる意味もあるから、初手から本気でいっていいよ」

「分かりました、師匠」

 

 今、楓が武器を手に取る必要性は特になかったはずだ。サブウェポンならともかくメインウェポンを見せることはこの後の戦いで不利にしかならない。楓と夢はさっき会ったばかりだ。各々がどんな戦い方をするのか全く分からない。なのに、楓は自分から武器を見せてしまった。手札を1枚きってしまった。

 愚かなことだ。非常に愚かなことだ。

 不合格を下されても仕方がないくらいには。

 

「最初の立ち位置は、……ん~、自由でいいか。どこに立ってもいいや。実戦想定だしね」

 

 ただ、今回の場合に限れば彩が上手かったというべきだろう。わざわざ武器を用意すると言うことで楓に武器を取り出させた。その誘導に楓がひっかかった。無論、メイはそれに気づいていた。だがわざわざそれを指摘するほどメイは優しくはない。二重の意味で、このひっかけは必要なことだった。

 未来のために。

 

「――――――――――――」

 

 楓は思考する。初期立ち位置が自由である以上、楓は夢から距離をとるべきだ。楓のメインウェポンは爆弾が内蔵された手裏剣。中から遠距離用の武器。近接戦でも使えないことはないが、その効果は薄れる。それに楓自身も、メイの教育方針の影響もあり、近接戦よりも中遠距離戦の方が得意だ。

 

(だとしたら……)

 

 夢の位置も気にしながら、楓は闘技場の端から10メートル離れた場所に立った。闘技場の形は1辺50メートルの正方形だ。地面はコンクリートで凹凸も存在せず、障害物の1つも存在しない。極めて平易な場所といえるだろう。

 だからこそ、初動が重要になる。

 

「――――――――――――」

 

 夢は思考する。相手は『ツキカゲ』。油断は出来ないし慢心なんてもってのほかだ。あまり頭は良くないようだが、それは夢も同じこと。彩が気を使ってくれなければ得られなかったアドバンテージだ。それを鼻にかけるつもりはない。

 楓は『ツキカゲ』の弟子。戦闘能力は師匠には劣るだろうが、しかし夢よりは遥かに場慣れしているはずだ。経験。そう経験だ。夢にはろくな経験がない。無論、戦ったことがないといえば嘘だが、今までの夢の戦いは裏世界の人間からすればお遊びみたいなものだ。1流とはほど違う。

 

(…………これでいく)

 

 方針を確認する。相手の武器は手裏剣。事前情報通りならあの手裏剣は楓によって自由に爆発させることができる。となれば遠距離戦は不利。だがだからといって近距離戦を挑んむのは下策。となればやはり夢は真正面から戦うべきではない。いくら夢のセンサー、第六感が優れているとはいえ、それだけが勝てるほど甘い相手ではないのだから。

 

「僕から見て左にある電光掲示板が見えるかな?」

 

 彩から見て左側。つまりは今の楓から見て右側で今の夢から見て左側。

 楓と夢。今の2の距離は直線で10メートルほどだ。楓から見て夢は正面に6メートル、左に8メートルほどの位置にいる。手裏剣の十分に届く範囲。楓からすれば理想的な距離感。

 それが夢によって与えられた印象であると楓は気付けない。

 

「この電光掲示板に表示されている数字が0になった時を戦闘開始の合図にする。構わないよね?」

「…………了解」

「オーケーです」

 

 彩は別にこの戦闘において夢を贔屓するつもりはない。一方的に夢をサポートするとか、分からないように夢に有利な裁定を下すとか、そんなつまらない事をするつもりは全くない。

 楓と夢、2人の条件はほぼ同じだ。

 夢も楓も、これから起こることを知らない。

 

表示(カウント)は5から」

 

 そう言って、彩は手を振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5

 

 

 

 

 

4

 

 

 

 

 

3

 

 

 

 

 

0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

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 そのことに気付いた時にはもう、遅すぎた。

 

「っ!?」

 

 楓の眼前に夢が迫っていた。楓は何もできない。予想外の出来事に停止した脳からの指令は身体に下らなかった。

 

「…………遅い」

 

 ズッ、ガァッッッッッ!!!、と

 夢の拳が楓の腹に突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第十章 妄誕無稽(ナチュラルボーンサイコパス)-真実と嘘の見抜き方-

 

 

 

 自分でやったことではあるが、少々やりすぎたかもしれないと彩は思った。

 

「ひどいなこれは」

 

 圧倒的で、絶対的で、暴力的だった。夢が楓を蹂躙していた。

 電光掲示板の細工。思い込みを利用した不意打ち。だが、楓と夢の条件は同じだ。どちらか一方が不利になるような合図の出し方を彩はしていない。

 彩は夢にも電光掲示板を利用した不意打ちについては言っていない。というか誰にも言っていない。それは彩が勝手にやったことだ。最も、電光掲示板によるカウントダウンと言った時点でメイには気付かれていただろうが。

 

「一方的だ。あんまりにも」

 

 『この電光掲示板に表示されている数字が0になった時を戦闘開始の合図にする。構わないよね?』。

 『表示(カウント)は5から』。

 

 彩は何1つとして嘘を言っていない。ただ、楓は思い込んでしまった。カウントは5から、数字が0になった時を戦闘開始の合図にする。そういわれればよほど捻くれた人間でない限り、5、4、3、2、1、0、と数字が減っていくと思うだろう。まさか5、4、3、0、と数字が減っていくだなんてそうは思わない。

 だが、そういう考えこそが裏世界では必要なのだ。

 謀略家である彩にはよくわかる。メイの考えもある程度は読める。だから怖い。

 楓と夢を戦わせるこの策は、メイにとって一石何鳥の策だというのか。

 

「夢っちはフーより優秀だね。よくあの不意打ちに対応できたもんだよ」

 

 実の弟子がボロボロになっているというのに、メイはそんな軽口を叩いた。情がないというわけではない。メイは楓の事をとても気に入っている。だがそれとこれとは話が別だ。

 事実として、楓は弱い。

 夢に負ける程度の強さしか持たない楓を認めることなどできはしない。

 メイは楓が好きだ。とても好きだ。メイが『ツキカゲ』を裏切ったふりをして『モウリョウ』についた時もメイは楓には手を出さないように天堂に言った。メイとしてはそこは絶対に譲れない一線で、つまりそれだけメイにとって楓は特別なのだ。

 そう、特別。

 快楽主義者八千代命にとっての特別。

 はたしてそれが良い意味なのか悪い意味なのか。そしてメイの特別であるということは楓にとって良い事なのか悪い事なのか。

 

「君もはたして、随分と厄介な人だね。お弟子さんが可哀想だよ」

「フーが?どうして?」

「これ、僕らへの試験じゃなくて、お弟子さんへの試練なんでしょ」

「………………」

 

 壁際で、楓と夢の戦いを見ながら、2人は話をする。

 続きを促すように、メイは黙って彩の顔を見つめた。

 

「君の僕に対する攻撃は、僕はもちろん見えていた。見えていて、その上で夢がその攻撃を防いでくれることも分かっていたから、僕はあえて動かなかった。夢は君の攻撃を防ぐことが出来た。でも、君の弟子はたぶん君の攻撃を全く見えていなかったんじゃないのかい?」

「だろうね。フーはメイの行動にすごく驚いてたし」

「つまり君の弟子――相模楓はこの場にいる4人の中で一番実力が低い。鈍ってるっていうのも嘘じゃないんだろうけど、それにしたって実力が低い。不安なんだろう?弟子が『モウリョウ』との戦いについていけるのか」

「………………………」

 

 『モウリョウ』は今や世界の全てを支配している。そんな組織との戦いには常に死のリスクが付きまとう。今までは、逃げ隠れしているだけでよかったのだろう。だが本気で『モウリョウ』の支配からの脱却を目指し、本気で世界の解放を望むのであれば『モウリョウ』との正面戦闘は避けられない。

 つまり、八千代命は不安なのだ。相模楓が『モウリョウ』との戦闘についていけるかどうか。『モウリョウ』との戦闘で死なないか。

 

「だから鍛えることにした。身内との戦闘じゃどうしたって情けが出る。身内との戦闘じゃどうやったって手の内が読まれる。だから、僕らの接触は本当は渡りに船だったんじゃないのかい?」

「もともとどこかの組織とは接触するつもりだったんだ。でもまぁ、事前に情報を送ってた組織のほとんどが洗脳されちゃったのは予想外だったよ。まさか『桃源』すらも『モウリョウ』の手の内に落ちるなんて」

「……なるほど、だから僕らの誘いに乗ったのか」

 

 彩の誘いを受けた時、メイにはいくつかの選択肢があった。彩の誘いに乗るか乗らないか、彩を利用するか利用しないか。あのまま逃げてもよかったし、楓だけ『ツキカゲ』のもとに帰す選択肢もあった。それをしなかったのは、それをしなかった時点で、メイはここまで考えていたというのか?

 先の先の先を読む力。

 先の先の先まで操る力。

 超一流の謀略家である彩をすらも手玉に取る神域の謀略。

 

「『ツキカゲ』のシステムについては知ってる?」

「師匠と弟子。師弟制度についてのことかな?」

「今の『ツキカゲ』には師匠が2人いて、それぞれに1人ずつ弟子がいるんだ。『ツキカゲ』はもともと少数精鋭だから、8月18日に2人脱落したのは割と痛かったね」

「それで?」

「メイはもともと、フーのことをもう少しゆっくり育てるつもりだったんだ。メイの寿命はユッキーと違ってまだだいぶあったからね。フーを戦闘での中後方支援職にして戦い方を教えるつもりだった」

 

 それはもう出来なくなった。そんな悠長なことは言っていられないほどに、『ツキカゲ』は追い詰められていた。

 

「なるほどね。だから予想よりもだいぶ弱いのか。まぁ、夢は今の『八咫烏』のエースだから、勝てないのは当然としても」

「エース?あれで?」

「あれで」

 

 メイの言葉は受け取る側にとっては夢の実力を蔑むようなモノだったが、メイとしてはそんな意図はなかった。蔑むのではなくただの挑発だ。メイの言葉に彩がどう返すのかを見ているのだ。メイの見た限りでは夢はそれほど強くない。『ツキカゲ』の番付でいえば甘めに採点しても関脇レベルだろう。夢の直接的戦闘能力はおそらく半蔵門雪のはるか下。つまりは雑魚だ。『モウリョウ』との戦いにおいても戦力として数えられるかどうか。

 最も、それはあくまでも直接的戦闘能力に限ればの話だが。

 

「勘弁してほしいな。そう夢のことを蔑まないでほしい。あれでも彼女、めちゃくちゃに努力してるんだよ?」

「確かにね、本来の戦闘スタイルならもっと強いんだろうし」

「流石だね。見破られてるか」

 

 彩は軽く受け流した。その程度の偽装は軽く見破られるだろうと思っていたから動揺はなかった。

 

「まぁ確かに、夢の本来の武器はチャクラムだからね。舐めプってのも間違っちゃいないけど。……底を見せるほど、僕らも君らを信じちゃいないってことさ」

「それは別に構わないけど、だからってやり過ぎはよくないって、メイは思うなぁ」

「どういう意味だい?」

 

 言うまでもない事ではあるが、彩とメイはただ緩慢に雑談をしているわけではない。むしろ逆、彩とメイの会話は1つの戦いでもあるのだ。舌戦という名の直接的戦闘能力とは違う間接的戦闘能力。『ツキカゲ』の番付では評価されない項目。分かりやすい形では存在しない、目で見ることが難しい、数値に現れない数値。

 2000年以上前、孫武という人物は孫子という兵法書の中に『勝兵先勝而後求戰、敗兵先戰而後求勝』と書いた。これを書き下せば『勝兵は先ず勝ちてしかる後に戦いを求め、敗兵は先ず戦いてしかる後に勝を求む』となり、意訳文は『勝つ軍はまず勝利を得てそれから戦をしようとするが、敗ける軍はまず戦を始めてからあとで勝利を求める戦い方をする』となる。

 つまりは事前準備の大切さを説いているわけだ。

 どれほどの天才であろうとも何の準備もせず戦いに挑めば敗北する。

 だから彩とメイはこうして話をしているわけだ。少しでも相手から情報を得ようと、少しでも優位な立場に立とうと、アドバンテージをとろうと。

 相手の嘘を見破ろうと。

 

「『八咫烏』が政府所属の組織っていうの、あれ、嘘でしょ?」

「へぇ」

 

 何でもないような口調でメイは仕掛けた。

 

(仕掛けてきたね。だが、この程度なら想定の範囲内)

 

 動揺を一切見せずに彩は対応する。あくまでも余裕の表情、あくまでも涼しい表情。だが彩の内心はひどくあらぶっていた。心拍数が高まり、動悸が激しくなり、脈拍が早くなる。それを内に隠して、彩はメイを見た。

 

「フーは17歳だよ」

 

 彩とメイ。

 靄隠彩と八千代命。

 『八咫烏』の現リーダーと『ツキカゲ』のトリックスター。

 どちらが格上なのかといえば、それは当然メイの方だった。

 

「そうやって僕を揺さぶるつもりかな?相模楓の年齢は16歳だ。こんな世界になる前のアーカイブで『ツキカゲ』の情報は確認しているよ」

「へぇ」

「相模楓。空崎高校1-A所属。身長150センチメートル。3サイズはB(バスト)80-W(ウェスト)54-H(ヒップ)83。誕生日は11月22日。家族構成は父母妹で4人家族。コードネームは風魔。『ツキカゲ』での番付は前頭。武器は手裏剣。得意なのは変装術。こんな世界になる前はメイド喫茶でバイトしてたらしいね」

 

 彩は自分の知る限りの楓についての情報を話した。

 悪い事ではない。多くの真実を話すことは信用を得ることに繋がる。ただ、一方でそれが墓穴を掘ることに繋がることもある。語った多くの真実の中に1つの虚偽を混ぜる事で相手を騙すテクニック。逆に何1つとして真実を話さないことで不信を得て、それを利用して相手を騙すテクニック。舌戦には様々なテクニックが存在する。

 今回、彩はあえて真実を話した。格上相手に嘘をつくのはリスクが大きいという判断からだった。

 ただ、

 

「嘘っていうのは、さ」

 

 ただ、それをふまえた上でも、まだメイの方が何枚も上手だった。

 

「嘘っていうのは、つき続ければ真実になる。そして真実の中にまぜられたわずかな嘘は、なかなか嘘とは分からない」

「何が、言いたいのかな」

「Tファイルは嘘だってこと」

 

 びくり、と彩の眉が動――くことはない。そんな低レベルな失態を犯すほど彩は無能ではない。ただ、荒れ狂う内心までは誤魔化せない。Tファイル。それはメイが文鳥の女こと天堂久良羅に送った『ツキカゲ』のデータ。偽情報も多く混ぜられたそれは、しかし確かに真実の情報も入っている。

 メイは8月18日の夜、『モウリョウ』のサーバー内の全ての情報を時間差でメイの知る全ての組織に送られるように設定していた。その情報の中には当然Tファイルも存在する。天堂は『モウリョウ』のサーバー内にTファイルのバックアップをとっていたのだから当然だ。

 

「まだ分からないの?」

「…………………………………………………………」

 

 彩は今、全力で考えている。Tファイルが嘘?それは別に構わない。もともとTファイルはメイが『モウリョウ』に流した情報だ。それが嘘である可能性を彩は当然考えていた。

 だから彩は情報ソースを二重にとっていた。『モウリョウ』から齎される情報と彩独自で調べた情報。彩は『モウリョウ』に洗脳された一般人を装っているわけだから『モウリョウ』からの情報は簡単に得ることが出来る。洗脳したと思っている人間に対しての『モウリョウ』からのガードは緩い。ゆるゆるだ。だから『モウリョウ』から『ツキカゲ』の情報を得るのは楽だ。

 ただ、逆に『モウリョウ』以外から『ツキカゲ』の情報を得るのは難しかった。そもそも、『ツキカゲ』はこの1カ月間まともに情報を残すような行動はしていない。『ツキカゲ』のバックであった『財団』は既に『モウリョウ』の洗脳下にあるので、情報の二重確認という意味では使えない。

 ただ、『ツキカゲ』の情報を得るための場所はまだある。

 それは学校だ。

 空崎高校のデータベース。

 何の因果か『ツキカゲ』のメンバーは全員空崎高校に通っていた。だから彩は職員室に忍び込むことで『ツキカゲ』の個人データを手に入れることに成功したのだ。

 

(……………………動揺しないで、揺さぶりにも惑わされないように。この程度で底を見せるほど、私は甘くなんてない。温くなんてないからね)

 

 情報は二重にチェックした。

 誤りなんてあり得ない。

 自信に満ちた態度はブラフだ。

 彩の動揺を誘おうとしているだけだ。

 惑わされるな。

 騙されるな。

 

(あぁ、全く)

 

 笑うな。

 哂うな。

 嗤うな。

 

(罪深いなぁ、私)

 

 ()()()()()()()()()

 

 ()()()()()()()()()

 

「何が言いたいのかな?」

 

 そうだ、ずっと、ずっと彩はこういうことがやりたかった。こんな裏世界に、世界の闇に焦がれていた。

 友達と笑いあえる日常?

 くだらない。

 恋人が出来て子供を産む人生?

 反吐が出る。

 抑圧された不自由な生き様?

 クソ喰らえ。

 ずっと、ずっとずっと、ずっとずっとずっと、彩は、もっと、もっともっと、もっともっともっと、自由に生きたかった。たった1カ月前の世界は制限が多すぎた。

 人に暴力を振るってはいけません。

 人を騙してはいけません。

 人を殺してはいけません。

 ふざけてる。

 法を犯してはいけません。

 他人を尊重しましょう。

 人の役に立ちましょう。

 烏滸(おこ)がましい。

 (ゴミ)が、(クズ)が、豚が、何かわけのわからないことを話している。

 阿呆(アホ)が、馬鹿が、猿が、何か意味の分からないことを決めている。

 何だそれは?多数派であることがそんなに誇らしいか?

 何だそれは?主流派であることがそんなに得々なのか?

 能力の無い雑魚が群れて粋がっている。未完成の付属品が集まって何か喚いている。

 くだらない。

 くだらない。

 くだらない。

 

 本当は、全部ぶち壊してやりたかった。

 

「フーの誕生日は9月15日だよ」

 

 だがそれを彩はしなかった。我慢した。分かっていたからだ。彩は異常な天才だが、それでも1人でしかない。個人では世界には勝てない。全人類70億なんて彩からしたら塵に過ぎないが、塵も積もれば山となる。山を動かすことはいくら彩でも難しかった。

 だから彩は(人類)の定めたルールの中で生きてきた。

 そのルールは撤廃されたが、新たに定められたルールもまたクソだった。

 まぁそれでも、前のルールよりはましだと彩は思っていたが。

 

「墓穴を掘ったね。『八咫烏』が政府機関に属する組織だっていうんなら当然その情報網には政府機関を主体としたものがあるはず。『ツキカゲ』に属する人間が誰かは別枠で調べないといけないにしても、『ツキカゲ』メンバーの個人情報については戸籍を調べれば確実に分かるはずだ。メイ達『ツキカゲ』も流石に政府機関の持ってる個人データまでは干渉できないからね。……空崎高校のデータや、Tファイルは別として」

「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

 

 彩の人格は破綻している。生まれながらにして壊れきっている。修正できないほどに、修理できないほどの、矯正できないほどに、崩れきっている。生来の狂人。鳶から鷹が生まれたように、人間から生まれた異星人(エイリアン)。大胆不敵に破滅した、蓋世不抜の快楽主義者。人類史という籠に捕らわれていた哀れな鳥は、『モウリョウ』によって籠の外に解き放たれたのだ。

 故に彩の二つ名は異常識人。

 異常な常識の中で生きる人間。それが靄隠彩だ。

 

(………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………)

 

 ただ、それで言えばメイも全く負けていなかった。負けていないというか勝っていた。彩は人間が数千年かけた生み出した共通世界観――人類史という名の檻に飼い殺しにされる選択肢を選んだ。檻の中で精一杯自由に生きて、懸命に嗤う生き方をしてきた。

 だがメイは違う。メイは、そんな檻から抜け出して見せた。

 表側の世界から脱出して裏世界、『ツキカゲ』に入った。

 それが単純な差だ。メイと彩のどうしようもない絶対的な差。

 檻の中で飼いならされる道を選んだ養殖品(靄隠彩)と檻から抜け出して限りの無い自由を手に入れた脱獄犯(八千代命)

 その時点で格付けは済んでいた。

 もちろん『ツキカゲ』という組織だって檻の中であることに変わりはない。ただ、人類史という巨大で強大な檻よりも随分緩い檻だ。

 彩は諦めた。メイは諦めなかった。

 それが彼女達2人の差だった。

 

「参ったなぁ」

 

 だから、

 彩は、

 諦めたように溜息をついた。

 

「あれが、ダミーか」

 

 同類は同類を感じ取れる。彩はどうしようもなくメイとの実力差を感じ取ってしまっていた。

 故に屈した。今もブラフかもしれないとは思っている。今も騙りだとは思っている。今も自分の調べた情報に自信を持っている。

 だが、それに絶対の確信をもてない。

 メイの態度がそうさせない。

 だから屈した。負けを認めるなら早めがいい。時間がたてばたつほど不利になっていく。メイとの舌戦に勝てる気が彩にはしなかった。いずれ論破されるのであれば、いつか矛盾をつかれるのであれば、早く白旗を上げたほうがいい。

 ここでの敗けは許容できるのだから。

 

「相模楓の反応的に、それはないと思ったけど」

「仕込みっていうのは、長期でやればやるほど染み込むなんだよ」

 

 ふっ、とメイは笑う。絶対的強者の微笑み。彩の実力は天堂よりも落ちる。『ツキカゲ』として数年も空崎市で戦ってきたメイの相手ではない。

 と、思わされていることにまだメイは気付いていない。

 メイですらもまだ、彩の本当の正体には気付いていない。

 

「『ツキカゲ』にはいくつかの伝統があるんだ。12月には師匠が弟子にプレゼントを贈るとか、基本的には皆同じ高校に通うとか」

 

 裏の読み合い。策のぶつかり合い。超一流の謀略家同士の戦い。それは言葉だけではない。表情を読んで、身体の微細振動を見て、話し方を気にして、目線の向き、息遣い、汗の流れ、他にも他にも。

 そういうモノが楽しくてたまらないのだ。

 どうしようもなく、楽しい。

 他人を騙す感覚。言葉1つで他人を操る感覚。あぁ、本当に堪らないと思う。

 

「メンバーの誕生日は皆で盛大に祝う、とか」

 

 人の認識は少なからず外部からの影響を受ける。例えば朝起きて時計を見た時、時刻が午前9時と表示されていれば今の時間は午前9時だと思ってしまうのだろう。テレビをつけてニュースキャスターが今日は9月18日ですと言っていれば今日は9月18日だと思うだろう。

 少しずつ、少しずつメイは楓の認識を操ってきた。それと知らず、楓はメイに操られてきた。

 

「なるほど」

 

 呟く。

 呟いて、凍える。

 何でもないように、恐ろしい事を言う。

 とても恐ろしい事を、何でもないように言う。

 

「なるほどなるほど」

 

 『まだ16歳なんでしょ?君?』。

 『フーは17歳だよ』。

 

 随分と念の入れたことをする。自分の誕生日を忘れてしまうほどに、今日が何月何日なのか分からなくなってしまうほどに、楓の認識は操られていたというのか。

 そしてより悪質なのはそのことに本人が気づいていないであろうこととそれを仕掛けた人間が全く罪悪感を持っていないであろうことだ。

 端的に言って、

 

「イカレてる」

「あはは、大丈夫大丈夫。フーは欠片も気づいてないから」

「だからこそ悪質だ。人の心を何だと思ってる?」

「あはは、大丈夫大丈夫。フーはメイのこと信じてくれてるから」

 

 たぶん、メイから楓への好きと楓からメイへの好きは違う。メイから楓への好きはどちらかといえば彩から夢への好きと同じだろう。つまりは本質的にメイは楓を同等と見ていない。不幸なことだ。健常者の愛は異常者へは届かないのだから。

 

「こういう事態を予期して?」

「それ以外にもね」

「無駄になるかもしれないのに」

「メイ達のやることなんてだいたいそんなもんでしょ」

「これだから怖いんだ」

「別に誇りはしないよ?」

「お優しいことで」

 

 いくつかの言葉を抜いても十二分に言葉は通じた。それはもちろんメイと彩だからこそで、例えばここにいるのが夢や楓であれば全く意思疎通など出来なかっただろう。生来より壊れた人間同士の会話だ。とてもまともでは成立しない。

 メイと彩はとてもよく似ている。組織の中での役割も、その人間性も、人との関わり方も、とてもよく似ているのだ。メイにとっての楓はつまるところ彩にとっての夢で、彩にとっての夢こそがメイにとっての楓なのだ。 

 

「目的は『モウリョウ』殲滅後の世界の実権を握ることかな」

「僕は所詮下っ端だよ。『上』の思惑は完全には知らされていない」

 

 看破されるのは別に構わなかった。所詮『八咫烏』は出来損ないの急造品だ。いざとなれば切り捨てられるし、メイほど頭の良い人間であればわざわざ破綻させる理由もないだろう。ある意味では見破られるのが前提の組織ではあったのだ。

 最も、こんなに早く見破られるとは欠片も思っていなかったが。

 

「だけど推測できることはあるでしょ?最下層ってわけでもないんだから」

「…………………………………………………たぶん、『上』の目的は世界の実権を握ることだけじゃない」

 

 ここで素直にメイの求める情報を語るのには当然理由がある。彩にとって『上』の情報はそこまで重要なモノではないのだ。嘘で塗り固められた彩の人生において本当に重要なのは自分自身についての事。暴かれたくない嘘は彩の過去についての事。

 

(見破れやしない。まさか、私達の本当の姿を)

 

 彩と夢の正体を覆い隠す最大の嘘。

 彩と夢の過去を覆い隠す最高の嘘。

 いくらメイでも見破れない。その絶対の自信が彩にはある。裏世界にいる人間だからこそ存在する絶対の隙。生き様は思考を固定化させる。不可能だ。この短時間で。辿り着けやしない。絶対に。

 彩は確信している。最後の一線だけは、絶対に越えられない。最大の秘密は必ず守られる。

 出来るわけがない。

 

「詳細は誤魔化すけど、僕らの組織は人間の進化を目的としてるんだ」

「人間の進化」

「つまり不老不死。権力者が最後に求める奇蹟。僕らの組織はそれを求めてる。……だから、僕の予想が正しいんだったら『上』は全人類70億をその糧にするつもり、……かもしれない」

 

 先入観。

 彩はメイに先入観を植え付けていた。

 

「あくまでも予想だよ。僕は『上』じゃない。幹部ではあるけど、ただの中間管理職だから」

「いいや、それで十分だね。どっちにしても『八咫烏』にも勝てせるわけにはいかないってことがわかったんだから」

 

 確認しておくが、彩の謀略家としての実力はメイよりも下である。が、下であるからといって別にメイに敗北するわけではない。伏線は既に張られていた。彩はいくつもの嘘をついているが実のところ彩は楓のデータに関しては何1つとして嘘を言っていないのだ。

 ある程度真実を話したという事実はそこそこの信頼を齎すことが出来る。少なくとも、全てが嘘で満たされた言葉よりも信じる場所を見つけやすい。何が真実かを見破る必要はあるが、それをすることを既にメイは出来ている。

 ()()()()()()()()()()

 

「言っておくけど僕は『上』に反抗するつもりはないよ?『上』には恩がある。僕をこんな風にした恩が」

「でも協力はしてくれる」

「現状をどうにかしたいと思っているのはどこも同じさ。僕らの『上』もね」

 

 メイは彩の嘘を見破った。地力で見破って見せた。それはメイに自信を与えた。彩の嘘は見破れると、メイの無意識領域にはそんな確信が刻み込まれた。

 嘘が見破られた後にすぐ嘘をつく人間はそうはいない。いるとしても、それはどうしても態度に現れる。

 彩の態度に動揺はなかった。だからメイは信じた。筋も通っていた。『八咫烏』という組織に関しては嘘だろうがだからといって彩が個人活動家であるということはあり得ない。この場所を用意できたということが、『モウリョウ』の洗脳から逃れているということがその証明だ。

 彩の裏には誰かがいる。それは間違いない。そしてその裏、つまり彩の言うところの『上』。これを偽る意味はないはずだ。

 彩が、メイと協力体制を築きたいのは本当のはず。でなければあんなリスクを冒して『ツキカゲ』に接触するわけがない。そしてだとすればそもそも嘘をつくべきではないのだ。協力には信用が必要。信用は真実から生まれる。だが、仮に彩の所属する組織がメイの想像するようなモノなのであれば、最終的には彩と『ツキカゲ』は決裂する。故に彩には話せないことが存在する。それを覆い隠すための嘘だ。

 

(だからこそ)

 

 1度見破られた嘘を覆い隠す嘘をつくことはできない。それは無意味な行為だ。

 信じられる。彩個人ではなく、彩の口から出た発言を。

 最も、彩の『上』とやらが彩に本当の目的を教えていない可能性も十分に考えられるが。

 

「プランは?」

「こっちに乗ると?君らだって計画を立ててるんじゃないのかい?」

「それなりの規模だってことは分かってるし、せっかくだから使い捨てるつもりがないなら乗るよ~」

「意外だ、けど。……なら詳しく詰める必要があるね」

 

 寄りかかっていた壁から背を離して、彩は話を1段階進める。これ以上はまずいと本能的に感じていた。そもそも長時間の会話はリスクがあるのだ。メイは予想以上だった。予想以上の逸材だった。これ以上の一対一(サシ)での会話は余計な情報を抜き取られる可能性があった。

 ここは逃げの一手だ。

 

「ちょうど模擬戦も終わりそうだ。続きは4人でどうかな?」

「悪くないんじゃない?」

「心配しなくても、君の弟子を苛めるつもりはないさ。そんな恐ろしい事はしないとも」

 

 メイは彩を一瞥して、倒れ伏した楓のもとに歩いて行った。決着はついていた。楓の敗北という形で。

 

「全く、怖いな」

 

 呟く。

 ある意味での勝利宣言。

 ある意味での敗北宣言。

 

「本当に、怖い」

 

 誰であれ、思いもしないだろう。

 まさか、彩と夢が本当はただ泰然自若なだけの部外者だなんて。

 そんなこと、思いもしないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第十一章 金城鉄壁(コンスタンティノープル)-戦場で卑怯と罵りながら死ね-

 

 

 

 単純な戦闘能力だけで言えば夢はそれほど強くない。『ツキカゲ』の番付でいえば甘めに採点しても関脇レベルでしかない。だが今、夢は楓を圧倒していた。

 

「っ、く!?このッ!!!」

「…………冗談」

 

 対応力。危機に対するセンサー。第六感。直接的戦闘能力以外の項目が夢は異常に優れていた。それは例えば戦闘における駆け引き。目線によるフェイント、緩急の付け方、敵の動きの誘導の仕方。楓が簡単に引っかかりすぎているというのももちろんあるのだろうが、それにしたって夢は異常だった。

 

「…………甘い、温い、弱い」

 

 手裏剣を振るう。両手に持った手裏剣を振るう。

 速度では楓の方が勝っている。

 重さでは楓の方が勝っている。

 経験では楓の方が勝っている。

 なのに届かない。

 1撃も当たらない。

 それが上手さだ。夢は戦い方が上手いのだ。

 

「っ!」

 

 近距離から手裏剣を放つ。紙一重で夢に避けられるが、それは織り込み済みだ。

 手裏剣を起爆させる。

 

「――――――」

 

 いくら事前情報があろうと、接近戦を行っている最中に近距離で起きた爆発から逃れられるわけがない。爆風は夢に影響を与える。対応をすることが出来た楓は別としても、夢の体勢は崩れる。

 揺らぐ。傾いた。右後方で起きた爆風によって夢の体勢が左に流れる。左足の踏ん張りが見える。頭が左に傾いている。動きが止まった。

 

 明確な、隙!

 

 それを見逃す楓ではない。初手の不意打ちから掴まれていた流れを断ち切るために、一切の容赦なく夢は手裏剣を振るった。ここで距離をとるのは得策ではない。距離をとる時間があれば夢の体勢は回復されてしまうだろう。だから今だ。今、このタイミングこそが絶好の機会。

 トン、と1歩距離を詰める。いける。当たる。

 

(これでッ!)

 

 だが警戒は忘れない。

 夢の右半身を注視する。

 左足に重心がある以上攻撃が来るとしたら右半身からだ。バランスが崩れている以上左手での攻撃は威力が乗らないから気にしなくていい。頭突きをするには距離が足りない。

 いける。当たる。届く。

 勝った!

 そう、楓は思った。

 

「がふッ!?」

 

 攻撃は入った。もろに、右脇腹に蹴りが入った。

 夢の左足が楓の右脇腹に直撃していた。

 

(な、なんで……?)

 

 痛みと同時に戸惑いが溢れた。

 夢の身体の重心は間違いなく左にいっていた。左足は身体を踏ん張るのに使っているから蹴りなんて来るはずがなかった。つまりは右半身からの攻撃がくるはずだった。だから楓は夢の右半身に注目して、左側のガードを固めた。

 なのに、なぜだ。

 重心の移動は見られなかった。

 けれど、どうして。

 予備動作なんてなかったのに。

 

「…………ふっ!」

「がッ!?」

 

 夢はそのまま足を振り抜いて楓の事を数メートルもぶっとばした。ゴロゴロと楓の身体が地面を転がって、身体中に擦り傷がつく。擦れた肌から少量の血が出てじわりと服を赤く染める。

 無様に、

 無残だ。

 

「ぁ、くっ……!はぁっ、……ぐ、ぅ」

 

 膝に手をついて立ち上がる。闘志はつきていないが実力差は明確だった。今の夢も、何も特別なことをしたわけではない。

 重心の位置を欺瞞する技術なんて古今東西様々な戦闘スタイルに存在する。夢はただ、楓の視点を誘導しただけだ。

 

(…………弱い)

 

 楓の戦い方は分かりやすいのだ。確かに楓は強い。おそらくは単純戦闘能力において夢を上回っている。だがなぜか楓の動きはひどく単純で、根底に疑いの思いが存在していない。だから簡単に騙せるし騙される。

 夢には楓の意図が透けて見えた。手裏剣の起爆はあまりにも分かりやす過ぎた。センサーに頼るまでもなく、楓の瞳にあった覚悟から読み取れた。だから夢はわざと左足に全体重をかけているように装ったのだ。実際は身体を左に傾けれながらも右側に重心を移動させていた。

 だから夢は右足で楓を蹴ることが出来た。単純なことだった。楓が夢の身体全体を見ていればそれだけで夢の蹴りを避けることは出来ただろう。そしてそこにカウンターを加えることも。

 

(…………思ったよりも、遥かに弱い)

 

 追撃は仕掛けない。この程度の実力では、追撃を仕掛ける気力もわかない。出そうになる溜息を抑える。失望しそうになる心を戒める。

 こんなモノか?こんなモノなのか?裏世界は、『ツキカゲ』は?

 相良夢なんてただの三流未満の新人に圧倒される程度なのか?

 相良夢なんて現実に適応できなかっただけの雑魚に簡単にねじ伏せられる程度なのか?

 だとしたら、だとすれば、とても、とても、それはとてもではないが。

 

「…………それが本気?」

「何、を」

「…………この程度?…………『ツキカゲ』とやらは、こんな低レベル?」

「っ!?」

 

 侮られている。

 それがとても悔しい。我慢できない。

 楓が侮られるならともかく、楓だけが侮られるならともかく、『ツキカゲ』全体が侮られるのは我慢がならない。皆頑張ってるのに、こんな、こんな会ってたった十数分の人間に『ツキカゲ』全体が罵られるなんて、楓1人の実力が、『ツキカゲ』全体のレベルのように見えてるなんて。

 

「そんなわけ、ないでしょ!」

「…………それで?」

 

 もう夢は楓に何の期待もしていなかった。そもそも夢は弱いのだ。本質的なところで夢はどうしようもなく敗北している。そんな夢に勝てないどころか接戦も演じられないようじゃ楓の底は見えている。浅すぎる。

 相良夢なんて、ただ逃げ続けただけの塵にすぎないのに。

 

「…………もう、いいや。…………それが『ツキカゲ』とやらの強さだっていうなら、失望すら通り越して絶望した」

「な」

「…………お前の(レベル)は見えた。…………弱いよ、お前」

 

 言い放つ。それは絶対の判決だった。悲しみの滲んだ死刑判決だった。

 

「…………何も、見えてない。…………何も、分かってない」

 

 期待はしていたのだ。過ちだらけの夢の人生において全ての人類は光り輝いていた。そしてその中でも正義のために、誰かを守るために、みんなを救うために戦っている人間は、こんな変わり果てた世界を元に戻そうなんて無駄にしか思えない努力を重ねる人は特に輝いて見えた。

 でも、『ツキカゲ』がこの程度ならば、それはきっと錯覚でしかなかったのだ。

 地獄の底から見た地上は煌めいていた。

 そんな地上に行って生きたかった。

 だけど憧れは憧れのままで良かったのだ。実際に見れば、人間なんてくだらないと分かってしまうから。

 

「…………誰かを信じるのはそんなに尊い?…………誰かを信じられる自分に酔ってる?…………誰かを信じて死んでも後悔はない?…………誰かを信じられるのが誇らしい?」

「何を、言いたいの!?」

「…………くだらない。…………本当に、心底、幻滅した。…………お前は、」

 

 軽蔑した瞳の由来が分からない。夢にとって楓の弱さはそこまで許せないモノだったのか?だとすれば、いやだとしても楓のすることは何も変わらない。

 立ち上がった楓は手裏剣を構える。だが、何をどうしてもその手は少し震えていた。動揺。それがいけないことだとは分かっているが心の震えは止まらない。精神の揺らぎが身体を振るわせて、これでは楓は本来の実力の5分の1も発揮できない。

 だから勝敗は決していた。

 

「そんな自分に溺れて死ね」

 

 フェイントなんていらない。何の偽装も必要ない。もう一直線でいい。

 夢は全速力で楓に向かって突っ込んでいった。

 

「私のこと、侮りすぎてない!」

 

 いくらなんでも下に見過ぎだ。単純戦闘能力では楓は夢に勝っているのだ。直線行動ならいくら楓が動揺していると言っても手裏剣は当てられる。外すわけがない。

 シュッ、と楓は両の手に握った手裏剣を夢に向かって投げた。避けられるだろう。それを前提とした攻撃でもある。避けたところに追撃を入れる。幸い、手裏剣の残数はまだ多い。まだしばらくは戦える。

 だが前提条件が崩れた。

 

「…………そんなんじゃ、誰も救えない」

 

 夢は、

 夢は、そもそも避けなかった。

 手裏剣が腕に突き刺さった。

 そして、誰でもない自分自身に訴える様に呟いた。

 強いだけじゃダメだけど、弱くてもいけないのだ。

 強いだけじゃダメなのだ。その前に正しくなくてはいけない。

 その正しさを持てないから、夢は自分が嫌いだ。センサーなどあっても意味がない。

 

「はあ!?」

 

 驚愕の叫び声を上げる暇があれば攻撃をすればいいのに、手裏剣を起爆すればそれだけで勝てるのに、それは出来ない。

 戦う前に決めたルールが夢の動きを阻む。

 

 『身体欠損はダメ。完全回復に1週間以上の時間がかかるような攻撃も禁止。致命的な認識齟齬を齎す攻撃もなし。……まぁ、こんなところかな』。

 

 まさか、彩は、これを見越して。

 

「何も、ね」

 

 突っ込んでくる夢から逃げようと楓が慌てて横っ飛びしようとした瞬間だった。

 

 

 

 ()()()()()()()()()

 

 

 

「ッ!!!???」

 

 だから、楓は失格だったのだ。

 何1つとして分かっていなかった。

 相手の言う事を唯々諾々と信じる奴はスパイには向いていない。

 ここは『八咫烏』の秘密基地だ。仕掛けの1つや2つあって当然だろう。彩がギミックはないと言った?だから何だ?それが真実であるという保証がどこにある。

 足元に埋まった地雷。もちろんその威力は最小限に抑えられていたが、だがまぁ、それで終わりだった。

 致命的な隙を、楓は晒してしまった。

 

「…………さよなら」

 

 振るわれる拳を今度こそ避けられない。

 相模楓には何もできない。

 

「ぁ」

 

 そして勝敗は決した。

 それが今の楓の実力だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第十二章 三界無安(プランビー)-格の差、核の差、赫赫たる-

 

 

 

 何が悪かったのだろうかとずっと後悔していた。

 どこから誤ってしまったのだろうかとずっと考えていた。

 失敗した。失敗した。失敗した。

 それは分かっている。でも、何を失敗したのかが分からない。

 八千代命の二重スパイが失敗だったのか。

 いや違う。メイはとてもよくやっていた。

 であればあの時、楓はモモと共に行くべきだったのか。

 モモを1人で天堂と戦わせてしまったから、こんなことになったのか。

 2人であれば、2人だったら、

 こんなことにはならなかったのか。

 変わり果てた世界。崩れ落ちた現実。腐り壊れた人類。

 毎日が辛かった。叫び出しそうで泣きそうになるくらい辛かった。だって、見せつけられている。『モウリョウ』の勝利を。だって、見せつけられている。『ツキカゲ』の敗北を。『モウリョウ』を讃える人々。『モウリョウ』を崇拝する人々。クラスメイトも、友人も、家族も、他人も、全員洗脳されてしまった。

 笑う事なんてもう出来なかった。 

 

「……ぅ」

 

 傷に痛む身体が楓の意識に覚醒を促した。瞼を少しだけ開けて、楓は自分の状態を確認する。全身の擦過傷、脇腹や腹の青痣、そして軽い倦怠感。楓は床に寝転がらされていた。

 

(……あぁ、……負けた、んだった)

 

 自分が無様に気絶していたらしいことに気付いて、楓は自嘲した。今思い出しても無様極まりない。侮っていたつもりは一切ないし、手加減する理由はもっとない。つまりは純粋に負けたのだ。『ツキカゲ』でつんだ経験の一切が夢には通じなかった。それほどの実力差があった。

 それを再確認して、そして楓は少し離れた場所で話をしているメイと彩に気付いた。

 

「――――――先は渡しておくから、目途が立ったら連絡してよ」

「うん、数日の内には出来ると思うよ?作戦会議はどこでやる?」

「表ってわけにもいかないだろうし、『ツキカゲ』か『八咫烏』か、どっちかの安全な隠れ家(セーフハウス)でってことになるだろうね」

「ん~、なら場所はこっちで用意しようか。簡易的な安全な隠れ家(セーフハウス)ならいくつか用意できるし。君らがいいなら、だけど」

 

 ガンガンと痛む頭で2人の会話を咀嚼する。どうやらメイは彩達と協力関係を結ぶことにしたらしい。メイと夢が戦っている間に何かあったのか、それとも最初からそうするつもりだったのかは分からないが。

 師匠は、どういうつもりだったのだろうか。

 そう楓は思ってしまった。

 メイは分かっていたのだろうか。電光掲示盤を用いた不意打ちに対してメイは何も言わなかった。メイは、分かっていたのだろうか。楓では夢には勝てないと。

 だとすれば、夢との戦いには何の意味があったのだろうか。『八咫烏』の戦力調査ではなく、何か別の目的があったのだろうか。

 分からない。楓には分からなかった。メイの考えが、楓には分からなかった。所詮は1年程度の付き合いだ。楓はメイが『ツキカゲ』を裏切ったふりをしたことにも気付けなかった。楓はメイを理解しきれていない。

 ネガティブだ。

 夢にこてんぱんに負けたせいで楓はネガティブなっていた。

 

「…………起きた?」

「うわ!?」

 

 急に後ろから声をかけられた。慌てて楓が振り向けばそこにには戦闘中と変わらない相変わらずの無表情の夢がいた。

 

「…………起きた」

 

 夢は何の感情も感じさせない声色で未だに何やら熱心に話し込んでいるメイと彩の2人の会話に割り込んだ。楓が起きたと報告した。そこには何の色もない。なぜだろうか、なぜかそれはとても楓の癇に障る。

 

「……そう簡単に起きれるような傷じゃなかったはずだけど」

「師匠がいいからね」

 

 呆れたように言う彩と自慢げに言うメイ。そこにある意図は楓には読み取れない。なぜだろうか、楓にはメイがとても楽しそうにしているように見えた。

 なぜだろうか、あんなに近くていたはずの師匠のことを、なぜか今は、とても遠くに感じる。

 

「フー、大丈夫?どこか身体に大きな異常はない?」

「だい、丈夫です!ちょっと、全身が痛いですけど、たぶん明日には治ってるんで」

 

 実際、楓の身体に大きな傷はなかった。それは予め1週間以上の治療期間を有するような傷を負わせないことを戦う前に決めていたからではなく、それだけ楓と夢の間に実力差があったからだ。夢は楓の身体に気を使って攻撃が出来るほどに強かった。

 

「だったらまぁ、このくらいが限界かな。そろそろいい時間だし、ここらで1度解散しようじゃないか」

「逃げるの?」

「逃げるさ。実力差が分からないほど子供じゃないし、その実力を気合で埋められるなんて思えるほど夢想家でもない。……踏み込まれてはいけない領域ってのを守るためなら、ここは無様に負けてもいいのさ」

「それはメイ達の信を失う行為だよ?」

「君はそこまで馬鹿じゃない。分かっているはずだよ。現状を」

 

 彩が言外に告げているのは『ツキカゲ』の置かれた状況の不利さだ。今の『ツキカゲ』は控えめに言っても全方位が敵だ。周りにいるのは敵と敵と敵と敵で、敵の敵さえも敵。そんな状況下からしたら例え裏があると分かっていても『八咫烏』――ひいては彩との協調路線は魅力的なはずだ。

 なんせ彩はメイよりも劣っている。つまりその気になればメイは彩の上を行けるという事。その安心感を逆説的に利用する。

 分かっていても、だ。

 利用する事自体が利用されているということになると分かっていても、メイは彩の提案に乗らざるを得ない。それほどまでに『ツキカゲ』の置かれた状況はまずいのだ。

 

「この接触、予想外にしても僥倖のはず。次があると思うかな?時間はあるのかな?そして仮に次があったとしても、その相手は君より下かな?」

「………………」

「何も仲良し小好しをしようってわけじゃない。でも徹底的に利用しようってわけでもない。ちょうどいい塩梅だよ。僕にとっても、君にとっても」

 

 損得勘定をして、考えているふりをするメイ。ふり、あくまでも考えているふりだ。結論は決まっている。仲間たちの了承を得るまでもなく、『ツキカゲ』全体の合意を確認するまでもなく、出さないといけない答えなんて分かり切っている。だがだからといって安易に首を縦に振る理由はない。だからといって簡単に同調することはあり得ない。

 表面上は仲間でも本質的には敵なのだ。アドバンテージは常に意識しなければならない。

 流れを作ることはあっても流れに飲み込まれてはいけない。誘導することはあっても誘導されてはいけない。

 こういう目に見えない戦いではいつ致命的な展開になっているかは分かりづらいのだ。気がついた時にはもう手遅れなんてざらにある。

 だから簡単に言葉を交わしてはいけない。安易に言質をとられてはいけない。

 メイは経験上、それを分かっていた。

 

「仲よくしようじゃないか、八千代命。言いたかないけど、僕らは『ツキカゲ』の尻拭いに協力してやろうっていってるんだよ?」

「ッ!?」

 

 それはあんまりといえばあんまりな言い草だった。だが、真実で事実で、だからこそ否定しづらくて痛かった。確かに、確かにだ。世界がこんな風になってしまったのは『ツキカゲ』が『モウリョウ』に負けたせいだ。でも、だからって尻拭い?協力してやろう?

 なんだ、その上から目線は?

 確かに『ツキカゲ』は『モウリョウ』を止められなかった。頑張りました、一生懸命やりました、あと一歩のところまでいきました。何の意味もない。言い訳にすらならない。世の中は結果が全てだ。『ツキカゲ』は敗北した。それが絶対の事実。変わらない変えられない真実。

 だけどそれをいうなら『八咫烏』だってそうだろうが!

 

「ア」

 

 抑えられなかった。

 最後まで『モウリョウ』の計画を防ごうとした仲間達を馬鹿にされた気がして、そして何よりも最期まで天堂と戦って果てた源モモのことを否定された気がして。彩にそんな意図はなかったのかもしれない。だが、それでも、それでも楓は。

 

「フー」

 

 だけど、楓が怒鳴り散らす前に、メイが楓の肩に手を置いた。

 

「ッ、――――――……………………師、匠」

「あんまり、フーのことをいじめないでほしいな」

「…………それで、返事は?」

 

 挑発。それの意図するところは1つしかない。

 くだらない事だ。結局のところ、どれほど危機的状況でも人間は1つになどなれない。本当に、なんてくだらない生命体。天堂が失望した理由もわかるというモノだろう。

 

「どのみち、メイだけじゃ決められないね。これは『ツキカゲ』の今後を決める重要な事だから」

「実力は示したはずだけど」

「だから?」

 

 少しだけ、メイは彩の本質を掴んだ気がした。

 

(焦ってるね。『上』にせっつかれてるのかな?)

 

 彩の態度に僅かに焦りが見えた。押しが強い。違和感はあった。彩は『ツキカゲ』との協力の確約を欲しがっていた。その理由はおそらくタイミングの問題。彩の所属する組織にとっての最適のタイミングが今なのだ。だから今、協力してほしい。『モウリョウ』に対する反抗作戦に対しての協力の確約が欲しい。

 だとすれば使える。

 条件を『ツキカゲ』にとって有利にできる。

 

「とはいえ、メイは協力してもいいと思ってるよ?だから連絡先も渡したんだし」

「なら」

「次に会うまでに詳細を詰めておいてよ。メイも何とか、皆の合意を取り付けるから」

「…………それは」

 

 その言葉は致命傷だった。

 

「……………………………………………………………………………」

 

 夢や楓には分からないだろうが、同類である彩には分かった。何でもないような、今までの会話と変わらないような会話。だが致命的だった。見抜かれたことが伝わった。だから敗けたと思った。

 だから終わりだった。

 

「はぁ、失敗だったかな。…………分かったよ。また連絡する。次会う時までに、詳細を練っておくよ」

 

 それは明確な敗北宣言だった。

 靄隠彩は、疲れた様に笑った。

 嘘が見抜かれた。

 何も考えていない口先だけの愚者であることが分かられた。

 法螺吹きの詐欺師で、千三の空言人で、三味線弾きの不正直者であることが暴かれた。

 つまり終わりだ。

 ここが引き時。

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「君は強いね、八千代命」

「メイは強くなんてないよ」

 

 強ければメイは『ツキカゲ』にはいないし、こんなこともしなかった。

 そしてそれは彩や夢も同じだろう。

 逃亡者で逃走者。逃げ続けた敗北者。どれだけ強くなったところで人の本質は変えられない。メイと彩と夢の3人は逃げただけだ。表に居場所をつくれなかったから、自分の居場所を求めて裏に来ただけだ。

 全く笑える。皮だけ強くなったって、何の意味もないのに。

 

「帰ろうか、フー」

「っ、分かりました。師匠」

 

 意気消沈しているフーのケアについて考えながら、メイは出口に向かっていく。そして外へつながる扉を開けて楓を先に外に出し、顔だけ振り返りながら別れを告げる。

 

「また会おう、八千代命。次はもっと大勢でね」

「『ツキカゲ』は彩りんの考えているほど温い組織じゃないんだよね、これが」

 

 そういって、メイは扉を閉めた。

 ゆっくりと、ある意味であからさまなくらいに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 盲点を知っているだろうか。人間の目の構造上、生理的に存在する見えない部分の1つだ。そしてそこから転じて、現在では『気づいて当然だったのに見落としていたものごと』という比喩的表現でも盲点という言葉は使われる。

 『ツキカゲ』はそんな人の意識の盲点をつくことで1カ月もの間70億の追跡者の目を逃れて生き残っていた。

 

「フー、夢っちとの戦いはどうだった?」

 

 誰も気が付かない。

 こんなにも堂々と街中を歩いているメイと楓のことを、誰1人として気が付いていない。

 だがそれも当然なのだ。所詮、どれだけ『モウリョウ』によって洗脳されたところで70億人の大多数はただの一般人だ。一流のスパイの変装に気が付ける人間などいない。

 

「……全然ダメでした」

「そっか」

 

 頑張った人間に頑張れというのは逆効果だ。そして頑張った人間に頑張ったねというのも逆効果だ。今の楓は負けて落ち込んでいる。下手な言葉は楓を傷つけるだけ。重要なのは、楓に気持ちを吐き出させること。楓の気持ちを知って、その上でどうすればいいかの解決策を教える事。

 弟子の事だ。師匠のメイが一番よく分かっている。

 

「でもねフー、それでいいんだよ」

「良くありません」

 

 即座に、楓はメイの言葉を否定した。全然、全く届かなかった。いっそ笑えるほどに負けた。無様に地に這い蹲って、無残に殴られ蹴られて気絶した。彩の言葉を信じてしまった。夢の事をどこかで侮っていたのかもしれない。

 仲間達に顔向けできない。楓の敗北で、『ツキカゲ』のレベルが誤解されてしまう。

 

「いいわけ、ないじゃないですか!……だって、こんなんじゃ私、『モウリョウ』になんて」

 

 『ツキカゲ』の中では楓が一番弱いのだ。だから、楓は無意識のうちに焦っていた。謀略でも、戦闘でも、楓は『ツキカゲ』の役に立てない。同じ弟子の五恵は横綱で、白虎にすら1対1では敗北してしまう。頭の回転はカトリーナ・トビーには敵わず、懐柔能力では初芽に劣る。そして師匠であるメイにはあらゆる面で届かない。

 こんなんじゃダメだって分かっているのに、一足飛びに成長なんて出来るはずがない。積み重ねた日々の修練が強さにつながると分かってはいるけれども、悠長に修行している時間がないことが分かっていた。

 だから、涙が出そうなほど悔しくて悲しくて、唇を噛みしめる。

 

「フーは気にしすぎ」

 

 そんな楓の頭を、メイはゆっくりと撫でた。

 

「フー、フーは1人で戦ってるわけじゃないんだよ?そりゃ、フーが強いにこしたことはないけど、そもそも『ツキカゲ』の師弟システムは師匠が弟子を支えることを前提としてるんだ。メイは、フーのフォローなんていくらでもできるんだから」

 

 諭すように、言う。

 思いつめることは誰にだってある。悩むことは誰にだってある。時間がないから焦るのは仕方がない。周りと比較して余裕をなくすのは当然だ。そして、それをフォローするのは師匠の役目だ。『ツキカゲ』は、ずっとそうして力と心を受け継いできた。

 昔も今も、そして未来もそれは変わらない。

 

「今は弱くてもいい。大事なのは強さじゃなくて、先を目指す意志なんだよ」

「…………先を目指す意志」

「誰だって最初は弱いんだ。メイだって、初めは弱くて、師匠に迷惑ばっかりかけてたしね」

「師匠もそうだったんですか?」

「もちろん。メイは、メイのせいで師匠を喪っちゃったからね」

 

 それを後悔と人は言う。3年ほど前の吸血鬼姉妹との戦いの果てに高坂信はメイを庇い腕を失った。誰にだって失敗はある。問題はそこから何を学び、どう成長するのかという事。

 やり直しはいつだって出来るのだ。間に合わないなんてことはない。

 

「だからそんなに落ち込まないの」

「――――――ぁ」

 

 ゆだねる様に、

 倒れたいほどに優しい言葉だった。

 

「別に、落ち込んでなんていませんっ」

「そうそうその調子だ。フーはやっぱりそうじゃないと」

 

 笑いあう。

 いつの間にか、胸の中の焦燥感は消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 周囲に夢以外の誰もいないことを確認してから、彩は身体の緊張状態を解いた。

 

「行った……みたいかな」

「……どう、だった?……『ツキカゲ』は」

「厳しめに採点して60点。八千代命1人なら95点」

 

 つまりは楓がメイの足を引っ張っていると、彩はそう言いたいのだ。

 

「夢はどうだった?実際に相模楓と戦ってみて?」

「……育成に失敗してる気がする。……名選手が名監督であるとは限らない。…………その典型例」

「いんや、たぶんそれはわざとだと思うけどね」

「……わざと?」

 

 足をひっぱっていると言ったが、メイはそれをよしとしている節がある。メイだって楓の実力は正確に把握しているはずだ。外部の人間があれこれいうまでもなく、メイと楓は師匠と弟子なのだから当然に。それでもメイが楓を放置しているということは、つまりはそういうことなのだろう。

 

「弟子の育成に手を抜くタイプじゃないだろうし、なら名監督になれない人間かといえばそうも思えない。後継者にするつもりもないんだろうし、ただ単に、()()()()()は大事にするタイプなんでしょ」

「……お前にとっての私のように?」

「そう、僕にとっての君のように」

 

 メイの思考回路は楓でも分からない。そして同じようにカトリーナ・トビーも青葉初芽もメイの思考回路を理解することはできない。『ツキカゲ』のトリックスターたるメイの内心はそう簡単に読めるモノではない。裏表がないということは逆説的に真意を読みづらいという事。狂人の考えを理解することは常人には難しい。

 だからこそ、彩には少しだけメイの考えが分かる。その理由はいうまでもなく、メイと彩が少なからず同類だからだ。

 快楽主義者と異常識人。

 共に社会から逸脱した人格破綻者にして共に人類という枠組における居場所を持てなかった存在不適合者。

 ただ生きているだけで罪深い、生来の大罪人。

 

「自信があるんだろうね。溢れんばかりに絶対の確信が」

 

 だからこそ彩は楓が憐れでならない。憧れを持っていて、大好きではあるのだろう。ただ悲しいかな、それでは全く足りないのだ。興味を惹けても狂喜には至れない。関心を持たれても感心はされない。予測を上回れても予想は上回れない。

 愛されても愛されはしない。

 

「そしてその自信を裏打ちするだけの実力がある。思考力という点でも戦闘力という点でも、謀略でも戦いでも最終的には勝てる自信があるんだ。そして、何よりも」

 

 彩はちゃんと自覚している。メイには勝てない。メイは彩の上位互換だ。怠惰に諦めて過ごしてきた彩では勤勉に努力してきたメイには届かないだろう。故に彩はメイを尊敬する。

 つまらない世界だと思っていた。

 でも違った。

 くだらない現実だと思っていた。

 でも違った。

 どうしようもないと思っていた。

 でも違った。

 つまらなかったのは、

 くだらなかったのは、

 どうしようも、ない、の、は、

 本当は、

 

(こんな世界で、私、やっと気づいた)

 

 彩は笑みを浮かべながらメイ達が出ていったドアに近づいて、そのドアノブを触り、

 

「――――――抜け目がない」

 

 そこに仕掛けられていた盗聴器を潰した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ザリッ、というノイズと共に一切の音が聞こえなくなった。

 

「ちぇー、気付かれちゃった」

 

 情報を得られることを期待して仕掛けた盗聴器が潰されたことを理解して、そこからメイは2つのことを理解した。

 1つに彩は盗聴器を通じてメイに偽情報を流す戦略をとらなかったという事。自身が無かったのか、信頼をしてほしかったのかは分からないが、彩がわざわざ分かりやすい形で盗聴器を潰したことは1つのメッセージとして受け取ることが出来る。

 2つに彩が盗聴器に気が付いていたという事。つまりメイ達が部屋を出て行った後の彩と夢の会話は自然性のあるものではなくある程度の不自然性が伴っているということだ。

 

「師匠?耳なんて抑えてどうしたんですか?」

「んー、出る時に仕掛けた盗聴器を潰されただけ」

「盗聴器!?」

 

 耳の中に入れていた小型の受信機を道端に投げ捨てて、それと分からないように破棄する。

 メイの行動を楓は驚きをもって迎えた。盗聴器を仕掛けたことに全然気が付かなかった。いくら落ち込んでいたとはいえ、楓はメイの近くにいたのに。

 そして同時に楓は自分と彩の間の力量差も思い知る。楓が気付くことの出来なかった盗聴器に彩は気付き、そして即座に破棄してみせた。

 

「それ、大丈夫なんですか?協力するのにそんなことをしたらまずいんじゃ」

「まぁね。でもこれくらいなら許してくれるってメイは思うよ?」

「そんなに優しい人には見えませんでしたけど」

「そうじゃなくて」

 

 あくまでも自然に、メイは楓の腕をとって、

 

「おあいこ様だからね」

 

 そう言って、メイは楓の右袖口に仕掛けられていた盗聴器を潰した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ザリッ、というノイズと共に一切の音が聞こえなくなった。

 

「あっちゃあ。まぁ、見破られるよね」

「…………大丈夫?」

「どのみちそこまで頼るつもりもなかったし、問題はないね。ある程度、こっちが泳がされるってのは想定内でもあったしね。そもそも私程度が彼女の上を行けるとは、思ってなかったし。……負け惜しみじゃないよ?10分にも満たない会話だったけど、実力差は痛感しちゃったから」

「…………別にそこは疑ってない。…………次は?」

 

 似てるからこそ互いがやることもある程度は読めていた。盗聴器を仕掛けるなんてことは当然やるし、やられるに決まってる。他にもメイが何かを仕掛けたか、なんて彩は少し考えてみるが、そもそもがこの安全な隠れ家(セーフハウス)にメイが来ること自体がメイにとっては予想外だったはずだ。万全の装備があったとは思えないから、仕掛けられてるとすれば盗聴器くらいなものだろう。発信機を付けても意味がないことはメイならば分かっているだろうし、監視装置はいくら小型化しても分かる。

 だから彩が警戒していたのは盗聴器だけだ。2つ以上仕掛けられている、ということももちろん考えられるが、メイの行動を見る限りそれはないだろうと彩は断定した。

 だから彩はこれ以上盗聴器を探すようなことはしなかった。

 

「会合までは特にすることなんてないよ。もう表にいる意味もないし、素性がばれないようにだけ注意して、あとは自由に過ごしたらいいんじゃないの?どのみち、勝っても負けても1週間後が最後の戦いだから。こんな風に過ごせるのはもう本当に最後だろうし」

「…………大丈夫。…………ちゃんと、ついていくよ?」

「別に心配はしてないよ、夢」

 

 裏切りなんて低レベルな行為を夢がするわけがない。その程度の信頼関係ならとっくの昔に破綻していた。

 守るから従え。

 2人はそう約束したのだ。

 

「…………ところで彩。…………ここでかなり残念なお知らせがある」

「残念?まさか、相模楓と戦った時に何処か痛めたの?」

「…………違う。…………分かりやすく一言でいうと」

 

 そこで一呼吸の間を夢は置いた。まるでとてつもなく重大な何かを告げる様に。珍しく、夢の顔に緊張が現れていた。最も、それは夢を理解している彩でなければ気づけないほどの僅かな差だったが。

 そして夢は告げた。

 

「…………囲まれてる。…………このままじゃ逃げられない」

「………………………………………………………………は、い?」

 

 さしもの、

 さしもの彩の思考も、停止した。

 メイと話していた時にもなかった戸惑いの感情が溢れる。

 え?なんだ?それは?

 何の前触れもなく、

 そんな急展開が?

 

「…………今、私のセンサーが察知した。…………たぶん、相当ヤバいと思う」

「…………オーケー、理解した。……緊急事態に備えて装備は整えてたよね?自分のを20秒でとってきて」

「…………分かった」

 

 だが彩は1秒もかからずにいつもの冷静さを取り戻した。大丈夫だ問題ない。いくつものパターンを予測してきた。彩の長所は人並み外れた想像力だ。こういう展開も想像してきた。

 だから全く無問題。退路もしっかり確保してある。

 

「嗅ぎつけられたにしては早過ぎるし、私達の優先順位は下位のはず。裏切ったにしては遅すぎるし、何よりもメリットがない。……ちょっと意図が分からないなぁ」

 

 考えを口に出して思考をまとめながら、彩もまた最低限にまとめた自分の荷物をもってきた。まとめていた荷物を本当に最低限のものだ。防災セットのようにこれから先必要になる最低限の装備だけをいれた登山用のザック。武器と食料、逃走用の煙幕やらなんやら。夢が背に負ったザックと合わせればこの隠れ家(ハウス)を放棄してもまだ生きていけるはずだった。

 

「仕掛けを起動させておいて」

「…………もうやった。…………5分後に廃棄される」

「脱出ルートは?」

「…………ない、……て言ったら、どうする?」

 

 長い付き合いではなかった。所詮、彩と夢はたった1カ月前に会ったばかりの関係性しかない。だから、彩と夢は互いに互いを知らない。2人の関係はメイと楓よりもはるかに短いモノでしかない。

 だが、絆の深さに期間は関係あるのか?

 確かに彩と夢はたった1カ月の付き合いしかない。しかしその1カ月の間に2人は何度も何度も修羅場を越えてきた。協力して命の危機を回避してきた。

 絆は期間が生むモノではなく体験が生むモノだ。

 壊れた世界を共に抗ってきた彩と夢の間にある信頼関係は深く重い、強く硬い。確かに彩は夢を対等とは見ていないが、それは誰に対してもそうだ。間違いなく言えるのは夢は彩にとって特別であるという事。そしてそれは夢も同じだ。

 だから絆がある。

 2人の間には、絶対に断ち切れない真の絆が。

 

「そっかぁ……。そうきた、か」

 

 故にこそ、彩は夢の言葉を100%信じている。そこに疑いを持つことはないから、絶望的な状況なのが分かった。

 脱出ルートがないなら、作るしかない。

 備えた全てが無駄になったなら、生み出すしかない。

 

(こんなところで死んでたまるか)

 

 せっかく『ツキカゲ』と会えたんだから。

 これから先、もっと面白くなりそうなんだから。

 

「危険度が少なさそうなのは分かる?」

「…………逃げ切れるかもなら、56番あたり、かも。…………確信はない」

 

 備えあれば患いなしなどという言葉があって、彩はその通りに万全の備えをしてきたつもりだが、どうやら現実というのは時に最悪を容易に飛び越えるらしかった。

 

(だからこそ、面白いんだけどッ!)

 

 少なくとも、こんなフィクションみたいな展開を迎えることは1カ月前には出来なかった。だから、その点で言えば彩は『モウリョウ』にとても感謝している。だからといって死ぬつもりはないし、捕まるつもりはもっとないが。

 

「最悪でも契約は果たすよ。…………私はどうしようもない異常識人だけど、約束は守る質だから」

 

 終わりが近いことを知っていた。

 世の中にはどうしようもないことがあるということは分かっていた。

 それが嫌だから戦っている。

 解放された世界で彩の欲望もまた解放されてしまったのだ。

 もっと、次も、また、と引き延ばす。せめて明日も楽しみたいから。こんな世界で、それでも生きていたいから。

 

「行こう。私が先で、あんたが後」

「…………死なばもろとも。…………最期まで付き合う、リーダー」

「…………………………笑っちゃう」

 

 変わったな、と彩は思った。

 変わってしまったな、と夢は思った。

 それが良い事なのか悪い事なのか2人には分からなかったが、少なくとも2人とも、もっと先が欲しいと思っていた。

 ここでは終わりたくないと、願っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第十三章 刎頸之交(ベストパートナー)-繋いだその手だけは離さないように-

 

 

 

 彩達は『モウリョウ』にばれないようにが確保した家を、例え敵が来ても逃げられるような安全な隠れ家(セーフハウス)に改造していた。あらゆる意味で3流でしかない彩と夢は、出来る限りの備えをしておかないといざという時に対応できなくなると知っていたからだ。

 彩と夢は自分たちの実力を過大評価していない。むしろ最大限に過小評価してもまだ足りないくらいに過小評価するべきだと思っている。所詮、彩も夢も素人未満の劣化素人だ。だから当然、安全な隠れ家(セーフハウス)からの逃げ道をいくつも用意していた。

 

「ライトはつけないように」

「……分かってる」

 

 56番は地下下水道を利用した逃げ道だった。安全な隠れ家(セーフハウス)にはいくつもの逃げ道隠れ場所がある。壁に掛けた鏡をずらせばその裏には抜け道があるし、ソファの中身はくりぬいて隠れられるようにしている。洋服ダンスの下には穴を掘って作った裏道があって、天井裏にはそれとわからないように居住スペースを作ってある。風呂場を改造して作った逃げ道を利用して地下下水道まで逃げるのが56番の逃走ルートだった。

 

「センサーは?」

「…………反応はまだある。……逃げ切ってない」

「具体的な反応はどこにあるか分かる?」

「……ちょっと分からない。でも、前方はまだ大丈夫なはず」

「だとしたら後ろ、か?」

 

 彩と夢は今地下下水道にまでつながる1本道を早歩きしていた。そう、1本道だ。つまり逃げ場がない。敵が前から来れば後ろに逃げるしかなく、敵が後ろから来れば前に逃げるしかなく、そして挟み撃ちされればどうやっても逃げられない。

 夢のセンサーが察知した危険が何かは分からないが、交戦は出来るだけ避けたいというのが彩の本音だった。彩は強くない。そして夢もまた強くない。誤魔化して誤魔化して必死に戦っているが、ど素人の工夫ではやはり限界がある。

 

「最悪2手に別れて、後で合流しようか。3日後の2時45分(マルフタヨンゴ)にポイントαω(アルファオメガ)で」

「…………間に合わなかったら」

「死んだって判断でいい。『ツキカゲ』との約束も切り捨てて全力で逃げよう。……今までずっと、2人だからこそやってこれたんだよ。……どれだけ『ツキカゲ』が有能でも、私達どちらか1人しか協力できないなら、それはもう無理だと思う」

 

 いつになく弱気な発言だった。それだけ彩は夢のことを、夢のセンサーを信じているということだが、それを盲信するようになれば終わりだ。信用と信頼が違うように信じることと縋ることもまた違う。

 その過ちは正さなければならなかった。

 だから夢は後ろから彩の身体に抱き着いた。

 

「!?」

「……大丈夫」

「夢……?」

「……勝てるよ、私達。……こんなに、頑張ってきたんだから。……素人なりに、必死になって」

「――――――――――――」

「……神様、なんて、信じてないけど、……お前のことは、信じてる。……約束、ちゃんと果たすから」

「――――――――――――私も、焼きが回っちゃったかな」

 

 彩も夢も1人ならきっと死んでいた。彩は頭でっかちの愚か者で、考えるだけで碌に行動してこなかった。夢は直情型の筋肉馬鹿で、毎日を生き抜くだけで必死だったから思考を停止させていた。彩は1人で生きていきたいと思っていた。夢は1人で生きていくんだと思っていた。彩は周囲を見下していた。夢は周囲を恐れていた。彩は変わり果てた世界にわらった。夢は狂い終わった世界でわらった。

 そんな2人が、壊れた世界で出会えた奇蹟。相性抜群のパートナーになれた軌跡。

 ぶつかり合って口論して傷をつけ合って、

 心の隙間を埋め合って抱き合って傷をなめ合って、

 2人は、互いに支え合って生きてきたのだ。

 

「ごめん。らしくないこといったね。大丈夫。自信はあるよ。そのために逃げてるから。……夢は後ろを警戒しておいて、センサーの反応に特に注意を尖らせておいて」

「……分かってる」

 

 夢の慣れない励ましに励まされた彩はようやく調子を取り戻したようだった。そう、そうだ。調子を崩せば終わりだ。いつも通りができなくなった時点で勝敗は見えてしまう。深呼吸をしろ。考え続けろ。落ち着け。まだ、状況は致命的じゃない。まだ致命傷は負っていない。挽回のチャンスはある。

 思い出せ。今までの全てを。

 思い返せ。今までの努力を。

 

「……敵の正体も目的も規模も何もかもわからないままなんて、まるであの時と同」

「止まって!!!!!」

 

 ビタァッ!!!!!

 と、彩が身体の動きを止めた。

 

「夢?」

 

 彩は夢を信じている。彩と夢はパートナーで、バディだ。瞬間的で即応的な対応が出来るくらいには、2人の間には深い信頼関係が構築されている。

 だからこそ過つということも、もちろんあるのだ。

 敵は聡明で、狡猾で、何よりも手慣れていた。

 

「……ごめん、ミスった。……誘い込まれた」

「トラップがあるの?」

「…………今起動した。…………ここから1歩でも動いたら、……………………これは、動けないと思う」

 

 夢のセンサーには弱点がある。夢のセンサーは危機の大小や方向性、接近距離が多少の精度の違いはあれど分かる。しかし夢のセンサーは危機の内容は分からないのだ。近くで危機を感じても、その危機の内容が夢たちに害を及ぼすモノなのか、及ぼすのならばその内容はどんなものなのか、近距離攻撃なのか遠距離攻撃なのか、毒ガスなのかナイフなのか、トラップなのか直接攻撃なのか、それが夢には分からないのだ。そしてあくまでも夢のセンサーは危機を知らせるモノだから、例えば銃弾の入っていない拳銃には反応しない。

 だから起動していない状態のトラップを大量に配置して、そこに彩と夢を誘導した上でトラップを起動状態にすれば夢のセンサーは抜けられる。

 戦いに、読み合いに慣れていけばそんなトラップにもセンサーは反応できるようになるんだろうが、残念ながら今の夢ではそれは出来なかった。

 

「これは私のミスだね。思考するのは私の担当なのに」

「…………どうする?」

「トラップはどれくらい危険なの?」

「……即死ではないと思う」

 

 つまり重傷重体にはなる、ということだ。そして重傷重体にするということは、

 

「……私達から情報をとるつもり、かな。抜けられる?夢?」

「…………無理。…………盾にしても届かない」

「見えざる拘束。……まさか、この脱出ルートがばれてたなんて。……最大限なで過大評価してまだ侮っていたのかな」

「……どうする?」

 

 どうしようもない状況だからこそ逆に冷静になってきた。ここが最低のラインであればこれ以上状況が悪化することはない。そう、ならば、打開の策さえ打てれば一発逆転だ。

 考えろ考えろ考えろ。冷静になれ冷徹になれ。思考を回して頭を回せ。

 

「動いたら死ぬ。動かなかったら敵の思う壺。外部との連絡は地下だからとれない。希望があるとすれば、『ツキカゲ』か」

「…………気づいてくれる?」

「八千代命は優秀だから、私達の動きは察知できるはず。問題はそれまで私達が持つかだけど、まぁ3日くらいだったら」

 

 ある程度の不信感は与えていて、ある程度の手掛かりは残していたはずだ。どれだけ調べても情報が得られなかったら、きっと1度くらいは直接乗り込んでくる。それは期待ではなく確信。同類であるが故の確信だった。

 なのに、

 

「いいや、お前たちはここで終わりだよ」

「――――――――――――」

 

 その声に、

 驚いていたのは彩よりも夢の方だった。

 

(……センサーをすり抜けた!?……どうやって)

 

 夢は自分のセンサーに絶対の自信を持っている。そりゃ、確かにセンサーをすり抜けられることはさっきのトラップみたいにある。だが、センサーは夢の人生の集大成、夢の人生そのものといっても全く過言ではない。単純に言って、夢こそが一番センサーに依存していた。

 悪意を探知するセンサー。危機を察知するセンサー。敵意を感知するセンサー。

 どうやって、すり抜けた?

 半ば呆然とする夢に、敵にわからないようにして彩が話しかける。

 

「タイミングを見て仕掛けて」

「…………り」

 

 彩は考える。敵が何者なのかはわからないが、少なくとも彩達を殺すつもりはないらしい。姿を現す必要はなかったはずだ。例え敵がどれほど絶対的な戦闘能力を持っていたとしても、彩と夢の周りを高威力の罠で囲み封殺した現状、敵が近くに来る必要は一切ない。彩と夢は迂闊な行動を起こせないのだ。放置しているだけでほぼ彩と夢の死は確定している。

 なのに姿を現したということは、敵は彩と夢に用があるということ。

 であれば交渉の余地はある。

 だとすれば、突破の可能性はある。

 

「『モウリョウ』、……じゃないよね」

「――――――ほぉ」

 

 わずかに感心したような声が、敵から漏れた。ボイスチェンジャーを使っているような違和感のある声ではない。生の声、女性の声だ。推測するなら年齢は30代後半。声の聞こえる位置からして敵の身長は170センチメートル前後。衣擦れの音の中に僅かな違和感。おそらくは服の中に暗器を仕込んでいる。声に動揺は見られない。この手の状況になれている、確定で裏の人間。

 後方の敵に見えないように上手く身体で隠しながら、彩はそれらの情報を指の動き(タッピング)で夢に伝える。

 

「何処の組織の人間だ?『ウロボロス』?それとも『ラグナロック』?まさか『尸解仙』かな?」

 

 揺さぶりをかける、時間を稼ぐ。会話が成立するなら、問答無用で攻撃して来ないなら、彩でも役に立てる。口は達者なのだ。

 それだけしかないとも言えるが。

 

「ふっ、ははははははははははははは!!!!!」

 

 だが、敵の返答は哄笑だった。

 嘲るのではなく感心するような笑い。必死に背を伸ばす子供を微笑ましく見守る大人の視線。それに一瞬、彩は動揺して、

 その隙を見逃すような夢ではなかった。

 

「――――――行く」

 

 彩と夢は2人で完成された1つだった。頭脳担当の彩と戦闘担当の夢。考えて、言葉を交わして、誘導して、揺さぶって、予測をする彩と動いて、戦って、勘付いて、血を撒き散らして、前に出る夢。1人1人ではただの雑魚に過ぎなくても2人揃えば古今東西の並み居る組織にすらも匹敵する一騎当億の猛者となれるのがこの2人だ。

 故に完璧なタイミングと連携だった。

 夢が飛び出したのはまさしくその瞬間しかないという一瞬の間だった。

 

「――――――」

 

 夢はまず全速力で身体を振り向かせながら、背負ったザックを後方の敵に向かって投げつけた。敵の視界を狭めるのと自身を身軽にするのがその目的は。ザックの中身は重要なものだが、命には代えられない。

 そして夢だからこそ分かることもあった。

 

(…………トラップが解除されてる)

 

 理由を考えるつもりは全くなく、その事実だけを夢は認識していた。先ほどから嫌になるほど危機を訴え続けていた夢のセンサーが、今は一転してサイレントになっている。そうサイレント。目の前の敵に対してすらも、夢のセンサーは無音を貫いていた。

 

(…………敵じゃ、ない?)

 

 だとしても、と夢は考える。

 だとしても攻撃を加えない理由はない。怪しい。あまりにも怪しすぎる。この状況下、間違いなくトラップを仕掛けた人間と同一人物。

 彩の指示もあるし、殺すべきだ。

 夢は人殺しに対する嫌悪感を一切持っていなかった。

 

「思っていたよりも、」

 

 ただ、もしも彩と夢の2人が、2人揃えば一騎当億の猛者となれるほどの、1000年に1人の逸材だとするのならば、

 この敵は、まさしく人類史に大きな爪痕を残せるほどの天才だった。

 

「頑張っているじゃないか」

 

 何をしたのかといえば、特に特別なことをしたわけではない。あくまでも基礎の延長線上にある、誰にでもできる行動を誰にでもできる速度で誰にでもできる様に行っただけだ。

 ただ、それだけだったはずなのに、もたらされた結果は絶大に理解不能なものだった。

 

「なぁ!!!???」

「……ば、っ!?」

 

 夢の攻撃は訳が分からないうちに空ぶっていた。

 正体不明の敵はいつのまにか彩のすぐ後ろにいた。

 

「ふっ」

 

 そして一瞬で組み伏せられる。

 

「――――――ど」

 

 どうやって、なんて、馬鹿丸出しの言葉を言う所だった。

 

「流石に驚いたよ。まさか、よりにもよってお前達のような人間が『モウリョウ』の洗脳を逃れるとはな。お前達のような、ただの」

「彩ッ!」

 

 悲鳴のような叫び声を夢があげる。

 

「夢っ、逃げ」

 

 必死に伸ばした手は届かない。

 

(これが、終わり……?)

 

 努力は才能を凌駕しない。

 

(こんな、呆気なく)

 

 人間のステータスは生まれた瞬間に決まっている。

 

(ここから、なのにッ!)

 

 運命は超えられない。

 

「彩いいいいぃぃぃぃいぃぃぃいいっぃぃぃぃぃいいッッッッッ!!!!!!!」

 

 そして、

 そして、

 そして、

 

 組伏せられたままの状態で、彩の瞳が、女の顔を捉えた。

 だからこそ浮かぶのは驚愕の表情。

 天地がひっくり返ったかのような衝撃。

 

「あんた……は!?」

 

 呟く。

 呟いた。

 

「ふ…………」

 

 組み伏せた彩の首を掴んだ状態のまま、

 もう片方の手にもった拳銃を夢に向けつつ、

 

 その女は、嗤った。




さて、この展開を予測できた人はどれくらいいるだろうか。
言うまでもなく、1話目の最終決戦にて源モモは失敗しました。巨大装置は壊せず、リップクリーム爆弾は空ぶりました。

2話目は終わりきった世界でそれでも足掻く少女たちの話です。
ただし、主にメイと彩の会話にはいくつもの嘘が混ぜられています。例えばですが第十章のメイの発言、「フーの誕生日は9月15日だよ」は嘘です。相模楓の誕生日は公式の通り11月22日です。つまりは揺さぶり。この揺さぶりに、見事に彩はひっかかった形になりました。
まぁ彩の方も根本的にメイを騙しているのでお相子様ですがね。

ではオリキャラ紹介に移ります。



靄隠彩

異常識人。謀略家。『八咫烏』の現リーダー。最大の秘密はまだ暴かれていない。しかしヒントは作中にあるので、その気になれば読者視点でなら分かるはず。

相良夢

第六患者。戦闘員。『八咫烏』最高幹部3本足の1本目。最大の秘密はまだ暴かれていない。しかしヒントは作中にあるので、その気になれば読者視点でなら分かるはず。

緒方操

ただのサブキャラ。特筆すべき点のない正真正銘の一般人。これ以後関わることはないし、そもそも彩達があの建物は爆破して痕跡消去しているので死亡していたりする。



さーて、3話目は決戦です。『ツキカゲ』VS『モウリョウ』の再戦。実は私が一番楽しみにしてるので、頑張って書き上げますよ!


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