妖精さんの勧めで提督になりました   作:TrueLight

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思いついたままに執筆してまいります。良ければお付き合いください。


本編
1.こいつはくれいじーだぜ


「急な話で困惑してると思うのだがね。是非とも君に、提督になってもらいたいのだよ」

 

 ……どうしてこうなった?

 

「突然家に押しかけ、この大本営まで連行したことは謝ろう。すまなかった。

 しかし、それだけ君の存在が……提督としての資質が欲しいということなんだ」

 

 数日前に高校を卒業したばかりの僕は、就活なんて一切せず、人里離れた山奥に移り住むことを決めた。幼馴染の妖精さんたちと共に。

 しかし、荷物をまとめて家を出た途端、海軍司令部の使いを名乗る黒服に車で拉致されたのだ。

 

「やろうよー」

「やまおくでじきゅうじそくなんてはやらないしー」

「にんげんもいないらしいしいーんじゃない?」

「わたりにふねとはこのことなり」

 

 お高そうな調度品が並ぶ広い室内。きらきらと期待に満ちた表情で、妖精さんたちが僕を見つめている。

 

 くそう、裏切り者め。僕をここからどうにか逃がそうと、手分けして建物の構造やら人の出入りを見てくれてたっぽいのに。

 上座でふんぞり返ってるおっさんが「提督になれ」と言った途端、この手のひら返し。

 

 妖精さんは嘘をつかない。たまに間違ったことを言うこともあるけど、それは知らないだけで、本人たちに嘘をついているという自覚はない。これは僕の、ただの経験則だけど。

 

 妖精さんは友達だ。僕にとって、唯一無二と言っていい親愛なる存在だ。それは僕の片思いじゃないと自信をもって言える。妖精さんが勧めてくる以上は、僕にとって不都合な展開にはならないんだとは思う。

 

「見目麗しい艦娘たちに囲まれ、民衆からは尊敬と感謝の念を抱かれる職業だ。給金も悪くないし、非常に競争率が高いお仕事だよ。本来であれば厳しい試験やら検査やらを経て、ようやく訓練生から始まるんだ」

 

 おっさんは大げさな身振りでアピールしてくる。どうにか僕をその気にさせようと躍起なようだった。

 

「それを君は、その資質だけで一足飛びに提督というわけだ! ご家族や、君が先日卒業した高校の教員に確認を取ったのだが、君は卒業時点で進路が決まっていなかったようだね。

 どうだろうか、きっとご家族も安心されるだろうし、母校の先生方も鼻が高いだろう」

 

 その言葉に僕の表情が歪んだ。しかし、すぐに焦った様子の妖精さんが僕の顎に体当たりしてくる。

 

「はやまらないで! あたちたちまだやりなおせるとおもうの!」

「それちがくない?」

「ここはおさえるのよー」

 

 妖精さんから受けた衝撃と、気の抜けるような言葉に、熱しかけた脳が覚めていくのを感じた。

 おっさんは突然僕の頭部がのけ反った様子を見て、目を見開いていたが。

 

「……今、就くのが難しい職業だって言ってたけど。希望者多いんだろ? その人たちにやらせりゃいいだろ」

 

「あちゃー」

「なにいってやがる」

「こいつはくれいじーだぜ」

「にんげんあいてだとくちわるくなるんだからぁ」

 

 妖精さんたちにボコスカと殴られ蹴られるが、言われるままに就いていい職でも、流されていい状況でもないだろう。

 一般人の僕だってテレビやら新聞やらで知ってる。提督になるっていうのは、深海なんちゃらいうやばい連中と戦争するってことだ。

 

「言ったろう? 君の才能が必要なんだ。……私には見えないが、その……、居るんだろう? その辺に」

 

 一瞬何のことかと思ったが、一人の妖精さんが視界に割り込んできて、柔らかい左右のほっぺに両手の人差し指を当ててぶりっこしていたことで察した。

 

「妖精……。提督の資質を持つ者と、艦娘にしか視認できない存在だ。才能ある人間は、自然と妖精を侍らせているという。試験さえ突破できれば、妖精の存在を認知できなくとも提督を目指せるがね」

 

 話しながら手元の資料におっさんは目を落とす。逆光でうっすらと刷られた文字、そして写真らしきものが見て取れる。あれは……僕の顔? 僕の調査資料か何かだろうか。

 

「市井の者にはあまり知られていないが、艦娘や提督も一般の店で買い物をすることがある。頻度はとても少ないがね。そしてひと月ほど前、一人の提督がショッピングモールで君を見かけた。

 ……驚いたことに、君は二十近い妖精を従えていたそうじゃないか。すでに提督として活動している者ならいざ知らず、一般人でこれは異常なことだ。その後も別の提督や艦娘に君の調査をさせたが、報告内容は変わらなかった」

 

「はぁ……」

 妖精さんに強請られてお高いクッキーを買いに行った時だ。人混みどころか人が嫌いな僕はあまり外出しないのだけど、仲良しの妖精さんの頼みとあらば折れざるを得なかった。

 というか海軍に監視されてたのか。まったく気づかなかった。

 

「妖精の力が無くとも鎮守府の運営や艦娘の運用は可能だ。しかし、その存在の有無は戦果に大きく関わる。妖精の存在が多ければ多いほどその鎮守府は強力だと言えるだろう」

 

 妖精さんたちにそんな力が……? 僕の周りを浮遊したり、膝の上で戯れている妖精さんたちに視線を向けると、どこか自慢げな表情を浮かべている。本当の話なのか。だから僕が提督になることに賛成なのか。きっと妖精さんたちにとって、得意な仕事があるんだろう。

 

「希望者から提督を選出すべきだ、と君は言ったね。大変もっともな話だ。

 しかし、いかに訓練生時代に優秀な成績を収めようとも、必ずしも優秀な提督にはなれないものでね。……先ほど、見目麗しい艦娘に囲まれる、華々しい立場だと説明したね?」

 

 おっさんは物憂げな瞳を僕に向けてきた。大変気持ちが悪い。

 

「艦娘はね、提督という、自らを指揮する者へ多大な信頼を寄せるのだ。無論、提督自身の人柄や、一部の艦娘には例外もあるが、概ねそうなのだ。

 ……故に、問題を起こす提督が少なくない。信頼を恋慕の情と履き違え、立場上強く否定できない艦娘を手籠めにしようという輩がね」

 

「……俺がそうならない保証はないだろ」

 

 100%ないけど。昔の船の神霊がなんちゃらした存在だといっても、見た目や考え方はほとんど人らしいし。

 幼い頃から妖精と過ごしてきた僕は、彼女たちを見えない連中から散々な目に合わされてきた。見た目が人間というだけで嫌悪感が沸く程度には人間嫌いな僕だ。恋愛なんて考えたこともない。

 

「その通りだね。しかし、今話したような問題を起こす者には共通している事柄がある」

 

「……妖精……?」

 

 説明をしっかり理解した訳じゃないけど、妖精さんの話ばかりしてるんだから、無関係じゃないはずだ。

 一度深くうなずき、おっさんは言葉をつづけた。

 

「事件を起こした鎮守府には当然、憲兵の調査が入る。その際同行した艦娘の証言によれば、その鎮守府の一切に、妖精の姿は発見されなかった。逆説的に言えば、妖精に好かれている者は問題を起こさないと言える。当然、それは永続的なものではないだろうがね」

 

「どういうことだよ」

 

「妖精は善い人間にしか寄り付かない、ということだが……。

 艦娘に手を出した提督の中には訓練生時代や、鎮守府に着任した直後に妖精を従えていたことが確認できている者もいる。

 おそらく、提督として活動していく中で思想や価値観が変化し、伴って妖精が離れたのではないか、と考えられているのだよ。

 故に、憲兵と大本営直属の艦娘が妖精の数の推移を確認するため、鎮守府内を定期的に調査する。これは最近導入された規則だがね」

 

「なるほど……」

 

「それで、どうだろうか。できる限りサポートはさせてもらうつもりだし、何か要望があれば、大抵のことは適宜対応する準備がある。どうか引き受けてもらえないだろうか。

 ……非常に恥ずかしい話ではあるが。君のような、一切軍務に関わったことのない素人であっても、スカウトせざるを得ないほど人手が不足している。

 君を愚弄するつもりはないが、敢えて言葉にさせてもらおう。提督への希望者とは、イコール適正者の数ではない。訓練生や試験をすべて無視してでも、突出した才能ある人間は一刻も早く鎮守府に送りたいというのが本音なんだ」

 

 おっさんのその目に虚飾は見られなかった。学生時代、上っ面の言葉で僕に話しかけてきた同級生や教員からは向けられたことのない、期待と不安に満ちた瞳であるように感じられた。気持ち悪い。

 

 でも、そのおっさんに引けを取らないくらい、きらきらした目を向けてくる僕の親愛なる友達。可愛い。

 

 ……もともと、僕にとって妖精さんの存在以上に大切なものなんてない。それは僕の命ですら同じことだ。

 

 危険な仕事であっても、妖精さんの勧めなら断る理由はなかった。

 

「……分かりました。とりあえず、やってみます」

 ぼそぼそと敬語で了承すると、おっさんは嬉しそうに立ち上がり、僕の座る来賓用のソファに歩み寄ってきた。

 

「そうか、ありがとう海原君! いや……海原海人提督! 今後ともよろしく頼むよ!!」

 

 こうして僕……海原海人(うなばらかいと)は、提督としての道を歩み始めたのだった。


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