妖精さんの勧めで提督になりました   作:TrueLight

11 / 59
11.いちどきょりをおいたほうがいいとおもうの

「まさか……本当にただの一般人だなんて……」

 

 僕がこの鎮守府に着任した経緯と、ここで過ごした数日のことを話し終えると、五十鈴は唖然とした様子でつぶやいた。

 

「まぁ、そういう訳だ。お前が言った通りだな。俺はそのノートに頼らないと、何もできない。悪かったな、期待していたような歴戦の提督じゃなくて」

 

「またわるぶるー」

「だめよ、おんなのこにはやさしくしなきゃ」

「でもやさぐれてるのもちょっといい」

「わかるー」

 

 妖精さんは茶化すが、悪いと思ってるのは僕の本心だ。僕だって急にこんなとこに連れて来られたうえ、きちんと指導を受けられないまま放り出されたんだ。

 

 鎮守府に着任したかと思えば、無能な上官を(あて)がわれた彼女たちの不満は想像に(かた)くない。

 僕に直接的な非はないだろうけど、それでも何となく、頭は下げておきたかった。

 

 でも五十鈴が憤慨した理由は、僕の想像とはまるで別のものだった。

 

「……そうじゃないの。私が呆れたのは大本営の方よ。まさか、訓練すらまともに受けてない一般人を、たった一人で鎮守府に放置するなんて。度し難いわ……!」

 

 どうやら素人が提督であるということより、守るべき国民を巻き込んていることが許せないらしい。

 

「怒鳴ってしまってごめんなさい。ただ……信じたくなかったの。大本営はそこまで落ちぶれてしまったの? それとも……本当に、あなたのような一般人を鎮守府に配属するほど後がないというの……?」

 

 海軍をよく知らない僕には、これがどれほどの大事なのか分からない。

 ただ間違いないのは、五十鈴にとっては冷静でいられなくなるほど常識はずれなことだったということだ。

 

「…………」

「…………」

 

 しばらく、提督室を沈黙が支配した。

 夕立だけは、うー、うー、と唸りながら僕と五十鈴へ交互に視線をやっていたが。

 何となくだけど、僕のことをフォローしようとしてくれてるように思えた。……根拠はないけど、本当にそうならありがたいことだ。

 

「……海原さんは」

「?」

 

 そうして幾分か経つと、未だ戸惑いが抜けない様子で五十鈴が口を開く。

 

「海原さんは、それで良いの? このまま……提督を続ける気なの?」

 

「……ああ。最初は強引だったが、一応自分で選んだんだ。お前たちからしたら迷惑な話だろうが、これでも前向きに取り組んでる……つもりだ」

 

 妖精さんたちは鎮守府で活躍できるのが楽しいようだし、僕もそれを見られるのは嬉しい。応援したいと思ってる。困ったことがあっても妖精さんが助けてくれる、というのが一番大きいかも知れないけど。

 

「……そう、分かったわ」

 

 五十鈴は一度頷くと、提督室の掛け時計にちらりと視線をやった。つられて僕も時間を確認すると、ちょうど九時を過ぎたところだ。

 

「一度、解散させてもらえないかしら。少し頭を冷やす時間と……私たち艦娘だけで話し合う時間が欲しいの。ヒトヒトマルマルに再集合。どう?」

 

「ひとひと……?」

 

「じゅういちじだよー」

「にじかんご」

「あたちたちきゅうすぎたのよー」

「いちどきょりをおいたほうがいいとおもうの」

 

「なるほど、了解した。では一度解散とする。二時間後、またここに集まってくれ」

 

 僕が五十鈴の提案を了承すると、彼女は無言で会釈し、退室していった。

 続いて扉に近い順に、時雨、雷、響も部屋を出ていく。夕立だけは、どこか未練がましそうに何度も振り返ってきた。

 

 気まぐれで右手を挙げてみる。すると。

 

「っ! ――! ――!」

 

 嬉しそうに両手をぶんぶん振りながら、退室する時にぺこんと大きく一礼して扉を閉めていった。なんで夕立はあんなに好意的なんだろう……?

 

「……はぁ。疲れた」

 

「もうきぶんはだいじょうぶ?」

「げろっちまう?」

 

「いや大丈夫。お水、ありがとね」

 

「なんのなんの」

「おいしいおかーしをくれれば」

「もんくはないのよ?」

 

「色々落ち着いたら、また買いに行こうね。……さて、どうなるのかな」

 


 ▲ページの一番上に飛ぶ
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。