妖精さんの祝福を受けてしばらく。
僕は自分を偽らず、ありのまま彼女たちと接することを決めた。と言っても妖精さん以外とはまともに人付き合いのない僕だ。きっと間違えてしまうこともあると思う。
それでも、やってみないと進めない。
僕は一人、提督室で艦娘たちの帰還を待っていた。というのも、
「きょうのところは」
「ひとりでがんばるべし」
「べしべしー」
そう言った妖精さんたちに背中を押されたからである。
ぐっとサムズアップするみんなに、僕も同じ動作を返した。
正直不安だけど、何もかも妖精さんたちに甘えるわけにはいかない。
提督室から出て思い思いの場所へと散っていく妖精さんたちを見送り、静かになった提督室で時計の針を見つめていた。
そして。
「帰投したわ! 当然、遠征は成功よ?」
幾ばくか時間が過ぎると、先ほどの礼節はどこへやら、ノックもせずに五十鈴が入室してきた。
もちろん、一緒に遠征に向かっていた駆逐艦の四人も一緒だ。
僕は心持ちゆっくり立ち上がり、コホンと咳を挟みつつ、緊張で乾いた口を開いた。
「あー……。うん。よくやってくれたね。お疲れ様。疲れてなければ詳細を報告してもらっていいかな? さっきも言った通り、今後に役立てないとね」
情けないけど、五十鈴と目を合わせながら
「…………」
誰からも反応が無かった。しかし彼女らの表情を確認しないわけにもいかず、恐る恐る視線を五人へ向けると。
「ふふっ。その方が可愛いわよ?」
五十鈴はにやにやと口の端を吊り上げ。
「ぽーいっ! 提督さん、やっぱり演技してたっぽい!」
夕立はズビシッ! と僕に指を突き付けていた。工廠で夕立には妖精さんと会話するところを見られていたし、感づかれていたんだろう。
「はわぁ~……」
雷は何やらよく分らない声を漏らしている。両手を頬に当て、目を輝かせて僕を見つめていた。何だろう、凄く居心地が悪いんだけど。
「なるほど、本当に夕立の言ってた通りなんだね。うん、僕も今の方がいいかな」
時雨はしばらくきょとんとしていたけど、得心したように頷いた。やっぱり艦娘だけで話し合った時に、夕立がフォローしてくれていたんだな。
「
そして響だ。彼女は一言呟くと腕を組んで目を閉じ、ウンウンと頷いていた。だからなんなのその、さっきからの分かってるよ感は。しかも、その響の反応に違和感を覚えない自分がおかしい。
まぁとにかく五人五色の反応を見た僕は、いたたまれなくなって再び目を逸らしてしまった。
けれどこれは言っておくべきだと思い直して、改めて五人の顔を見渡す。
「……夕立の言った通り、事情があって僕は自分を隠してた。でも考えが変わった……いや、違うかな。考え方を変えていこうと思ってる。何度も混乱させて悪いけど、理解してほしい」
何も具体的なことは言えなかったけど、腰を直角に曲げて頭を下げた僕の思いは伝わったようだった。
「……バカね、支えてあげる、って言ったでしょ? それに考えを変えるとは言っても、根っこは同じよね?」
五十鈴の言葉はつまり、僕の目指す場所が変わるのか、ということだろう。
それなら答えは一つだけだ。
「当然。僕はここで、一人前の提督になるよ。それは、そこだけは変える気はない」
サポートすると言ってくれた君たちと、親愛なる妖精さんに誓って。
「なら良いんじゃない。しっかり頑張りなさい」
曲がりなりにも上官に対する態度とは思えない、上から目線の言葉で。
けれども慈愛に満ちた表情で、五十鈴は僕に微笑んだ。
――ぽつり、と。胸に温かい何かが灯ったような気がした。