妖精さんの勧めで提督になりました   作:TrueLight

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16.かいにはまだはやいわっ!

 

 艦娘の皆と新たに関係を結び、鎮守府での活動を開始してしばらく経った。

 

 大淀が残してくれたノートや、支えてくれると宣言した彼女たちの助けもあって、なんとか僕も提督として指揮を執ることができている。最低限ではあるけども。

 

 というのも、鎮守府とは深海棲艦の襲撃が確認された、あるいは予測される海域を守護するのが主な役割だ。言ってしまえば、鎮守府近海の制海権を確保できていれば、大本営からせっつかれることもない。

 

 もちろん、危険海域の攻略に対する積極性は常に求められるらしいけど。

 

 今のところ、五十鈴を旗艦とした水雷戦隊の活躍によって、鎮守府正面海域の近海警護は(とどこお)りない。

 それどころか、鎮守府から南西に広がる島々――便宜上南西諸島と呼んでいる――の沖合まで哨戒を行っており、提督が着任したばかりの鎮守府にしてはそれなりの活躍らしい。

 

 まぁ、五十鈴が提督室にあるPC端末と資料から他鎮守府の実績と比較して教えてくれたことで、僕には本当かどうかの判断はつかないんだけど。

 意味もなく彼女が嘘をつくこともないだろうし、素直に喜んでいいんだと思う。

 

 日々の哨戒任務に、遠征による資材の安定供給にもそれなりに慣れてきて、この頃は少しゆっくり時間をとれるようになってきた。……とはならなかった。

 

「制空権については分かったかしら?」

「なんとなくは……。とにかく、空母に艦上戦闘機を搭載して相手の航空戦能力を上回るのが大事、ってことだよね?」

 

「そうね。ただ、爆撃機や攻撃機も積まないと空母は敵艦を直接攻撃できないから、兼ね合いが大切ね」

「たくさん積めばいいってもんでもないと。難しいね」

 

「ま、うちにはまだ空母が居ないし、出撃海域でも敵空母は確認できていない。詳しいことは追々ね。

 でも今後の作戦全てに関わるといってもいい重要事項よ。上から一方的に叩けるのか、あるいは叩かれるか。それで全戦域の趨勢(すうせい)が決まると言っても過言じゃない。

 大事なことだという意識だけはきちんと持っておきなさい?」

 

「了解。空母を建造できたら、直接話を聞きながらもう一度確認しよう」

「うん、良い返事ね♪」

 

 艦隊の指揮やら執務が終わっても、空いた時間は五十鈴から勉強を教わることになるからだ。

 と言っても、別に不満がある訳じゃない。僕の理解度に合わせて教えてくれるし、彼女の期待通りの回答ができれば機嫌良さそうに褒めてくれる。

 

 教師が黒板に書いたことをノートに写して、テストになると出題範囲を暗記するだけだった学校のお勉強とはまるでモチベーションが違った。

 

 先生との相性って大事なんだなぁ……なんて。五十鈴が教え上手ってのもあるだろうし、今までの学校生活で先生って当然人間なんだから、相性も何も無いんだけどね。

 

「なんかかんちがいしてそー」

「いままでがいままでですし」

「たのしければよかよー」

 

「かいにはまだはやいわっ!」

「かいにははやいほーがいくない?」

「ちがうそうじゃない」

 

「しかしぷっ、ぷゅ、ぴゅあねー」

「とゆーかちょろい?」

 

 妖精さんたちは勉強中の僕を邪魔したりせず、基本的に部屋の隅でティータイムに興じている。楽しそうにお喋りする声が気にならなくもないけど、五十鈴の機嫌を損ねたくはないので聞こえないフリをした。五十鈴には妖精さんの声が聞こえていないし。

 

 余談だけど、妖精さんが直接艦娘に話しかけると、何となくの意思疎通はできるらしい。楽しい、焦っている、とかの感情だったり、内容を単語レベルなら端的に感じとれるそうだ。

 

 それはともかく。とまぁこんな感じで、鎮守府としての役割を何とか果たしつつ、提督としての知識をつけるために勉強する毎日だ。もちろん、僕が他のことを気にせず提督業に努められるのは他の艦娘たち……というか、主に雷のおかげなんだけど。

 

「はーい! 司令官、お洗濯ものもらいますよー!」

 

 雷は驚くほど献身的で、僕が提督としての仕事に専念できるよう、身の回りの雑事を積極的にこなしてくれていた。最初は出会って間もない女の子に洗濯を頼んだり、部屋の掃除をしてもらうのは恥ずかしいし、申し訳ないので断ったんだけど……。

 

「そんなんじゃ駄目よぉ! みんなで司令官を支えるって言ったでしょ? 五十鈴さんが司令官の先生なら、私は家政婦になってあげる!」

 

 明らかに仕事としてやるべきだというような使命感や、義務感から言っているのなら僕も固辞(こじ)していた。でも雷の満面の笑顔を見るととてもそうは思えず、やりたいからやるんだ、という強い意志がうかがえた。

 

「……うん、じゃあ悪いけど、よろしく頼むよ。でも面倒だったらいつでも言ってね?」

 

「わかったわ! でも、もーっと私に頼っていいのよ! 司令官こそお仕事が大変だったり、体調が悪かったらすぐに言ってね? 雷じゃなくても、みんな力になるんだから!」

 

 いちいち僕を泣かせようとするの止めてくれないかな。彼女たちに悪気はないんだけど、だからこそ胸に沁みてつらい。

 

 こうしてなんやかんやありつつも、僕を提督として支えてくれる艦娘たちの助けもあって、鎮守府での生活に慣れてきた。

 

 そんな中、とある一人の艦娘の不満が爆発したのだった。

 

「っぽぉーーーーーーいっ!!」

 


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