妖精さんの勧めで提督になりました   作:TrueLight

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17.くちくかんゆうだちがのりこんできました

「っぽぉーーーーーーいっ!!」

 

 とある日の早朝。妖精さんが用意してくれた緑茶を啜りながら、僕が提督室で大淀ノートを開いていたところ、素っ頓狂な怒声と共に両開きの部屋の扉がバタン!! と大きく開かれた。

 

「ひゃわーーー」

「てきしゅう! てきしゅう!」

 

「くちくかんゆうだちがのりこんできました」

「てったい! てったいー!」

 

 入口付近ではないちもんめをしていた妖精さんたちが、風圧で散り散りになっていく。

 

「……どうしたの? 夕立。今日は休日だから集まらなくて良いんだよ」

 

 僕の言葉通り、現れたのは駆逐艦夕立。そして今日この鎮守府は休日だ。

 

 鎮守府は治外法権に近いものがあるらしく、活動期間については提督の裁量に任されている。

 もちろん、大本営の定期調査で鎮守府として機能してるとは言えない活動日数だと判断されたり、逆に艦娘を酷使していると摘発対象になるみたいだけど。

 

 この辺りの采配は海軍兵学校での訓練生時代に教わるようで、当然僕は基準を知らない。大淀ノートにも記載はないし、他の鎮守府もわざわざ公表していなかった。

 

 とりあえず今着任している五人の艦娘と相談して、一般的な日本の会社の労働時間と出勤日数を参考にしている。つまり、週5日勤務の2日休だ。

 まぁ、鎮守府近海の哨戒だけは毎日欠かせないから交代で行ってもらっているけど、今日夕立は非番のはずだった。

 

「うぅ~~~~」

 

 夕立は両腕を胸前でギュッと合わせ、ぱたぱたと執務机の前に走ってきた。高校時代、同級生の女子が好いているらしい男子の前で同じことをした時は気色悪かったのに、なぜだか夕立がやると違和感が無かった。

 

「提督さんっ!」

「ハイ」

 

「もっと夕立を頼って欲しいっぽい!」

「……ハイ?」

 

 艦娘が五人しかおらず、全員に負担を強いてしまっている現状。

 頼りっぱなしなのを(なじ)られこそすれ、さらに頼れと言われても困ってしまう。

 

「夕立には十分助けられてるよ。ありがとう」

「そうじゃないっぽいっ!」

「えぇー……」

 

 感謝を告げてみたものの、やっぱり納得がいかないっぽい。

 というか否定した割にあたふたしてる様子を見ると、夕立も自分の言いたいことを整理できてはいないみたいだ。

 朝起きてすぐに、気持ちの(おもむ)くままにここへ突撃したんだろう。イノシシかな?

 

「えーと、えーっと……。そう! 五十鈴!」

「五十鈴? 五十鈴がどうかしたの?」

 

「提督さんは五十鈴に勉強を教えてもらってるっぽい!」

「そうだね。情けない話だけど」

 

「あと雷! 雷は、提督の身の回りのお世話をしてるでしょう!?」

「あぁ、うん……。そうだね、本当に情けない話だけど……」

 

 艦娘の年齢を考えるのは野暮だと五十鈴に言われたことがあるけど、パッと見年下の女の子に世話を焼かれている自分を省みると、何とも言えない気分になるね……。

 でも、雷が凄く嬉しそうに洗濯や掃除をしてくれているのを見ると、もう受け入れるしかない。実際心底助かっているし、文句なんて欠片もないんだけど。

 

「ちがうのっ、提督さんが情けないとかじゃなくて!」

 

 僕の遠くを見るような目に気付いた夕立は、両手をブンブン振って他意はないことを示してくれた。うん、ありがとう……。

 

「でもでも、そういう感じ! あたしも二人みたいに、何か、作戦とか以外でもお役に立ちたいっぽい! その、一応、初期艦だし……」

 

 ……いい子だなぁ。最後の方は指を合わせてもじもじと、言葉は尻すぼみになっていたけど。

 夕立は今でも、僕が何の気なしに言った、初期艦として頼りにしている、という言葉を大切にしてくれているんだ。

 

 思えば他の四人が僕を不審がっていた時から変わらず、陰に日向に支えてくれていた。

 彼女の、僕の役に立ちたいという思いは紛うこと無いものだろう。それに対し、僕は面と向かってきちんと感謝を伝えていただろうか? きっと答えは否だ。

 

 もしかすると夕立は、そのせいで不安になったのかもしれない。きちんと役に立てているのだろうか、と。

 

「けなげねー」

「ぽいんとたかい」

「せっかくだしなにかたのんだら?」

 

 そうだね。そのあとに、今までのことも改めて感謝を伝えよう。夕立が初期艦じゃなかったら、今僕は提督としてこの場に立っていなかったかも知れないんだから。

 

「……それじゃあ、夕立。一つ、僕のお願いを聞いてくれるかな?」

「っ! もちろんっぽい! 一つじゃなくてなんでも言って欲しいっぽい! 夕立頑張るっぽい! ぽいぽいぽーいっ!!」

 

 僕の言葉に、夕立は目を輝かせて勢いよく執務机に身を乗り出す。

 

「……僕を海に連れて行ってくれないかな」

「……ぽい?」

 

 机に両手を突いたまま、夕立はこてんと首を傾げた。

 


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