妖精さんの勧めで提督になりました   作:TrueLight

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19.さあ、ステキなパーティしましょ!!

 

 静止状態から急激な加速を始めた夕立に引かれ、僕が乗るゴムボートは水面を高速で滑る。

 

「ぅわあっ!? ぶはっ!!」

 

 駆逐艦の航行速度はおよそ30~40ノット、時速換算で50~70Km程度らしい。

 水面から顔に飛び散った飛沫(しぶき)と一瞬のGにより、思考が定まらない僕の脳裏をそんな知識がよぎる。

 

(これで自動車と同じ程度!? 嘘でしょ!!)

 

 穏やかな波に障害物の欠片もない水平線。夕立を邪魔するものは皆無だ。

 

「うぅ~んっ、気持ちいいっぽーい!」

「ちょっ、夕立! 速い速い!!」

 

「!! そうでしょそうでしょ!? 速さには結構自信あるっぽい! 提督さんのためなら、夕立どんどん速くなれるっぽい!!」

「そうじゃなくてっ、ていうかもっと!?」

 

 軍帽が飛ばされないよう片手で抑えながら叫ぶ僕の想いは届かず。褒められたと勘違いしたらしい夕立は、さらに速度を増していく。

 

「さあ、ステキなパーティしましょ!!」

「うわぁああああああああああああ!!」

 

・・・

 

「な、慣れてきた……」

「ご、ごめんなさ~い……。提督さん、酔ったりしてない?」

 

 しばらく叫び続けた末、声が枯れボートの勢いままに仰け反っていた僕。背後の絶叫が途絶えたことに気づいてくれた夕立は、心底申し訳なさそうに手を合わせていた。というか涙目だった。

 

「うん、それは意外に大丈夫だった……。急発進するのだけ止めて欲しいかな……」

 

 実は夕立がスピードを緩める直前くらいには、速さにも慣れて来ていた。どうやら止まった状態から急に加速したせいで速く感じただけだったようだ。

 落ち着いてしまえばたしかに、車両の速度とそこまで乖離(かいり)していないように思える。

 

 しかし一瞬で風と海水が顔に叩きつけられて、呼吸がしづらくなったせいもあり、情けなく取り乱した。これじゃあ夕立が罪悪感を感じてしまいそうだ。

 

「わかったっぽい……。ゆ、ゆっくり走るから、許して欲しいっぽい……」

 

 あぁやっぱり。僕が大袈裟に騒いだせいで落ち込んでしまっている。

 

「いや、気にしないで。いきなりだったから驚いただけで、あとの方は割と平気だったから。さっきと同じ速度で走っていいよ」

 

「ほ、ほんと? 提督さん、無理してない?」

「もちろん。ほら、夕立の知ってる海を見せてくれるんでしょ? 僕も、夕立が見ている景色を、同じ速さで楽しみたいから」

 

「て、提督さん……!!」

 

 感極まったように夕立は瞳をうるうるさせている。よし、なんとか気を持ち直してくれたようだ。

 

 驚きで心臓はまだ跳ねてるけど、この鼓動はそれだけじゃない。

 まだ僕の胸には、砂浜を発った時のわくわくが宿っている。

 

「さ、夕立。気を取り直して」

「! っぽい! 最高(さいっこう)に……」

 

 笑って彼女へ頷く僕に、夕立も満面の笑顔で応えてくれる。

 

「ステキなパーティ「しましょ!!」「しよう!」」

 

 視線を交わし、息を合わせた僕らの声とは裏腹に。

 夕立と彼女に引かれるゴムボートは、少しずつ速度を上げていった。

 


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