妖精さんの勧めで提督になりました   作:TrueLight

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25.独りの寂しさは知ってる

 

「……どういうこと?」

 

 響の、僕と二人きりになれる瞬間を待っていた、という発言を受けて。

 彼女と視線を重ねたまま、僕はそう問いかけた。

 

「何から話したものかな……。司令官は、集合的無意識、という言葉を聞いたことはあるかい?」

 

「集合的……? ごめん、初めて聞いたよ」

 

「簡単に言うと、人間の意識は他人と無意識に繋がっている、という考え方だよ。

 例えば神様という概念があるよね? それは日本でも、海を越えた他の国でも、言葉や考え方に多少の違いはあってもおんなじだ」

 

「神様……」

 

「神様じゃなくてもいいよ、御伽噺の竜とか。天国や地獄と言った概念もそうじゃないかな。

 不思議なことに、人間は別々の場所で進化を遂げても、文化や文明に差異はあれど似たような思想や想像を抱く」

 

「それは、元が同じ種だからということじゃないの?」

「そうかも知れないね。ただ、この話はあくまでたとえ話なんだ。大事なのは艦娘(わたしたち)の記憶はどこから来るのか、ってことさ」

 

「艦娘の、記憶……?」

「そう。私たちはもともと軍艦だ。それが人の姿をとって、それぞれに軍艦だったころの記憶や知識、独自の感性……個性を持ち得ている。では、これは一体どこからもたらされるんだろう」

 

「艦娘もその、集合的無意識っていうので繋がっているってこと?」

「少し違うね。正解は『海』さ」

 

「海……?」

「艦娘は全員海から現れる。建造する時、妖精が言っていたことを覚えているかい?」

 

 響に言われるまま記憶をさかのぼる。工廠で建造する時。海水に浸ったドックを見て、僕は妖精さんに故障しているのでは、と尋ねたはずだ。

 

 それに対して妖精さんは、「海水に浸かっていないと呼べない」と表現していた。

 つまり、建造とは資源を消費して海から艦娘を呼ぶこと……?

 その考えに至ったとき、一つの疑問が脳裏をよぎった。

 

 なぜ響がそのことを知っているんだ(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 初期艦である夕立すら建造する前のことだ。このことを響は知り得ない。

 誰かに話した覚えはないし、唯一知っている妖精さんと会話ができるのも僕だけなのだから。

 

 そして僕がその考えに至ったことを察したのか、にこりと微笑んで響は言葉を続けた。

 

「その疑問の答えが、そのままさっきの答えだよ。そして、海でつながっているのは艦娘だけじゃない」

「妖精さんも、ってことなのか……」

 

 全然消化しきれないけど、思い当たる節はある。初めて見た鎮守府の構造を知っていたり、鎮守府での活動を助けてくれた知識やその技術。妖精さんは海を通じてそれらを会得していて。

 

 そして響もまた、海を通じて妖精さんの記憶を継承している……。

 

「軍艦だった頃の事を人間のように実体験として記憶している艦娘も居れば、当時の記憶なんてまるで無いって艦娘もいる。

 そして私は、軍艦だった頃の記憶どころか、それがどこから来るのかを知識として授かった」

 

「僕と一緒に過ごしてくれた、妖精さんの記憶も……」

 

 掠れた声で呟く僕に、響は腕の中で小さく頷いた。

 

「全部じゃないけどね。……ある程度は、司令官の生い立ちを知ってるんだ」

 

 今まで響が僕に見せた、僕のことを理解しているという言動や、考えを見透かしたような瞳を思い出す。

 他の艦娘が知らない僕を、響は最初から知っていたんだ。

 

「……幻滅したんじゃないかい? 君たち艦娘が命懸けで守ろうとしている人間を、提督である僕は欠片も大事に思っていないんだよ」

 

 それは艦娘にとって、裏切り以外の何物でもないんじゃないか。

 

「……私には雷の他に二人、姉妹が居るんだ」

 

 思わず口走る僕に取り合わず、響は唐突にそんなことを話し始めた。

 

「四人揃って第六駆逐隊。雷は記憶としては希薄なようだけど、私は当時の事を人間の思い出のように憶えているんだ。

 敵艦隊と戦ったことも、怪我をした私を暁……お姉さんが守ってくれたことも。

 ……そして、私以外の三人が、手の届かないところへ行ってしまった時のことも……」

 

 静かな口調で軍艦としての記憶を語ってくれた響の瞳は、何かを悔いるように歪んでいる。

 

「司令官の境遇や気持ちを理解している、なんて言うつもりはないよ。

 でも……前に言ったことは嘘じゃない。独りの寂しさは知ってる(・・・・・・・・・・・)

 

「……!」

 

 息を飲む僕の動揺を悟ってか、改めて振り返り、響は僕と真っ直ぐに視線を交わす。

 

「だから、良いんだ。人間のため、だなんて曖昧な使命感はいらないんだ。

 自分のために。自分の大切なもののために、司令官は生きてくれればいい。

 大丈夫。司令官を独りにはしない(・・・・・・・・・・・)から」

 

「響……。っ……ありがとう」

 

 思わず彼女を強く抱き寄せてしまった僕に、彼女は苦しそうにする様子も、さりとて諫める訳でもなく。

 ただ、その小さな手の平で僕の腕を、優しく撫でてくれた。

 


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