妖精さんの勧めで提督になりました   作:TrueLight

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3.まぁはなのしたのばしちゃって

 

「……あえっ、えっと。海原です。海原、海人。よぉしくお願いします……」

 

 軽巡洋艦、大淀。そう名乗った女性に対し、僕はすぐさま挨拶を返した。すぐに返せた、と思う。

 

「めずらしーぃ」

「かいがどもってるー」

「おーよどみたいなのがたいぷなの?」

「きーーーー」

「まぁはなのしたのばしちゃって」

 

「うっ、うるさいなぁ」

 

 見逃してくれたっていいじゃないか! あっ、こら袖を噛まない!

 僕が赤くなっているであろう顔を誤魔化すように妖精さんたちを振り払っていると、大淀……さんが目を丸くしてこちらを見つめていた。

 

「……すみませんね、やかましくて」

 

 つい皮肉ったような言い方になってしまったが、大淀さんは気にした様子もなく口を開く。

 

「いえ、そんなことはないのですが……。えぇと、やかましい、というのはつまり……」

「はい? だからその、妖精さんたちがうるさくしたかな、と」

 

「うるさくないもーん」

「やかましいっていうやつがやかましいんだい」

「ねー、おーよどがすきなかんじなの? ねーってばー」

 

「あとでっ! あとで聞くから! 話進まないからちょっと静かにしててお願いだから!」

 

 僕が両手を合わせて懇願すると、しかたないわねーと言いながら、妖精さんたちは口を両手で塞ぎながら僕から距離をとった。

 しばらくは静かに様子を見ててくれるみたいだ。良かった。

 

「妖精の声が聞こえているのですか……?」

 

 内心恥ずかしいところを見られたかな、なんて思っていると、大淀さんは相変わらず驚いた様子で僕と妖精さんを交互に見つめている。どういうことだろう?

 

「それが、提督の才能、なんですよね? 艦娘にも見聞きできるって聞いたんだ……ですけど」

 

 とりあえず質問に答えると、大淀さんは少し考える素振りを見せた後、ゆっくりと言葉を紡いだ。

 

「……正確には、提督の資質ある者は妖精を視認し、その身に侍らせている。艦娘は妖精を視認し、簡単な意思疎通ができる、といったところです。

 私にも見えていますし、何となく感情の動きや意思を感じ取ることはできるのですが、その。……はっきりと妖精の声を聞きとれる、なんて聞いたことがありません。

 海原提督はやかましくて申し訳ない、と仰いましたが。私にはそれほどはっきりと言葉は聞きとれませんでした……」

 

 ……つまりどういうことなんだろう。僕が世界で唯一、妖精さんの言葉を理解できる人間、ということだろうか。

 

 ……えっ、本当に? だとしたら……めちゃくちゃ嬉しい!

 

 これまで歩んできた人生から、僕にしか見えないと思い込んでいた妖精さんたち。

 それは間違いで、実は提督と呼ばれる軍人や、艦娘たちにも見えているらしい。

 

 幼い頃から僕が受けてきた仕打ちは何だったんだ、と思わなくもないけど。その声を聞くことができるのは僕だけということなら、なかなか誇らしい気分だ。

 

「……なるほど、提督としての訓練を受けていない方が着任される、とは伺っていましたが。これほど特異な才能をお持ちなら納得です。

 急に不躾な質問をして申し訳ありませんでした」

 

「あ、いえ。お構いなく」

 

 僕が気もそぞろに返答すると、大淀さんはこほんと一息つき、気を取り直すように言葉を発した。

 

「では、まずは……部屋に荷物を置いて、支給された提督用の衣服に着替えていただけますか? 何事も形から、と言いますから。そちらの扉の奥が提督の私室になりますので」

 

 大淀さんに手で促された方向には、確かに扉が備え付けられていた。

 提督室に直通で私室があるのか……。なんかやだなぁ。職場で寝起きなんて、噂に聞く社畜みたいだ。

 

 なんてことを考えながらも扉に歩み寄り、ドアノブに手をかける。

 

「てつだおうかー?」

「ついについにー」

「かいていとくたんじょうだね」

「ていとくがちんじゅふにちゃくにんしましたぁ」

「それさっきやったー」

 

 すると我慢の限界なのか、口々にまくしたてながら妖精さんたちがついてきた。

 

 ……初めて会う人も、艦娘も、見たことない建物も。

 妖精さんたちが一緒なら、頼もしいことこの上ない。ちょっと騒々しいこともあるけど、おかげで寂しさとは無縁に生きてこれた。

 

「……よしっ、早く着替えよう」

 

 カチャリ、と小気味良い音を立てて、僕の私室となった部屋の扉を開いた。

 


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