妖精さんの勧めで提督になりました   作:TrueLight

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31.雨上がりと夕焼け

 

「提督さん、どういうことっぽい!?」

「きちんと説明してもらえるよね? 司令官」

 

 窓から夕陽が差し込む提督室。

 僕は執務机に乗り出して前のめりに迫る夕立と響に問い詰められていた。

 理由はもちろん、時雨との添い寝の件。

 

 時雨より早く目を覚ました僕が、彼女を起こさないように寝台から抜け出し、寝室の扉をくぐって提督室に移ると。

 

 作戦の報告に訪れた夕立と響に鉢合わせてしまったのである。

 そこで平静を装えれば良かったんだけど、つい背後のベッドに視線を送ってしまい。

 つられて二人が部屋を覗き込むと、当然時雨が寝台で横たわっていて、今に至るという訳だ。

 

 時雨もすでに目を覚ましていて、夕立と響の後方少し離れたところで、ばつが悪そうに頬をかいている。

 

 顔が少し赤いところを見ると、弁解しようにもさすがに恥ずかしさが勝るみたいだ。助け舟は期待できそうにない。お願いする時は気にすること無いって言ってくれたけど、実際二人に見つかるのは予想できなかっただろうから仕方ない。

 

「えーと……実はね」

 

 折を見て説明はする予定だったし、いい機会だと思って時雨に話した内容を夕立と響にも聞いてもらった。

 

 悪夢を見て眠れない日があること。最近は特に頻度が高くて、疲労がたまっていたこと。

 僕の不調に気づいた時雨が、添い寝を申し出てくれたこと。

 

 二人に相談しなかったのは、提督としての立場を利用するみたいで悪い気がしたから、ということにさせてもらった。まさか夕立と響に、直接僕への好意やら順番やらの話をする訳にもいかないから。

 

 僕の話を聞き終えた二人は、先ほどの威圧するような剣幕から一転して、心配そうな表情でこちらを見上げている。

 

「も、もう大丈夫っぽい? 提督さん……」

「……そうか。もっと早く気付くべきだった……」

 

 夕立は不安そうに両手を胸に寄せているけど、僕の過去を詳しく知っている響は、なんというか……不調に気づかなかったことを悔やんでいるみたいだ。

 隠していたんだから僕としては気づかれると困るんだけど、その気持ちは本当に嬉しい。

 

「時雨のおかげで久しぶりにぐっすり眠れたし、二人とも気にしなくていいよ。心配してくれてありがとう」

 

 ちらっと時雨に目をやると、すぐに視線を逸らされてしまった。うん、ごめんね話に出しちゃって。でもそれを避け続けても怪しまれるだろうし、許して欲しい。

 

 内心謝りつつ時雨から二人に視線を戻すと、夕立と響は見つめ合って頷いていた。

 え、今の一瞬でどういうアイコンタクトがあったの?

 

「提督さん!」

「司令官」

 

「な、なんだろう」

 

 二人の勢いにたじろいでいると、響が言葉を続けた。

 

「時雨と一緒に寝て体が休まったと言っていたけど、それは一時しのぎに過ぎないはずだ」

「……まぁ、そうかも知れないね」

 

「また体調を崩した時、司令官はまた艦娘の誰かに添い寝を頼むことになると思う」

「……恥ずかしいけど、そうだね、うん」

 

「それが良くないことなのは、司令官も分かるよね?」

「もちろんだよ。……だから、今日まで隠してきたんだから」

 

 響の言ってることはきっと正しい。提督が艦娘と一緒に寝るなんて、他の鎮守府では無いことだろうし、簡単に許されることでもないと思う。

 

 僕が提督になるきっかけを作った大本営のおっさんも、艦娘に手を出す事件が絶えないって言ってたし、それを調べるための定期調査でもあるだろうから。

 

 そう考えていた僕に、響は予想外の言葉を放つのだった。

 

「だからね……原因を絶つべきだと思うんだ」

「……うん? 原因?」

 

「司令官はどうも勘違いしてるみたいだけど。私が良くないって言ってるのは、艦娘(わたしたち)に添い寝を頼むことじゃないよ。

 ……司令官が体調不良を隠して、限界になってようやく私たちを頼ることだ」

 

「えーっと……」

 

「つまりさ……毎日艦娘と一緒に寝れば(・・・・・・・・・・・)寝不足なんて起こらない(・・・・・・・・・・・・)ってことだよ」

「ぽいっ!!」

 

「ええっ?」

 

 響の発言に、夕立が我が意を得たりと首肯するけども。僕としては複雑な申し出だ。時雨にお願いしたのだって、響の言う通り限界だったからなのに。

 

 ……いやでも、僕の身を案じてくれてる彼女たちにとっては、僕が倫理観や遠慮で固辞するほうがよっぽど酷い仕打ちなのかな。

 

 艦娘と接していれば、提督という立場にある僕の助けになれないということが、彼女たちの心を傷つけてしまうのだと実感できる。

 

 しかし……毎日。毎日艦娘と一緒に寝る、かぁ……。

 

「……司令官。どうか私たちの気持ちを、分かって欲しい」

 

 響が熱っぽい視線で僕を見上げてくる。あの日と同じように。受け入れて欲しいと。

 

「………………………………分かった。就寝時に一人、誰かにお願いして一緒に寝てもらうことにするよ……」

 

「! 司令官……」

「やったっぽい!! さっすが響! すごいっぽい!!」

 

 僕が諦めたように提案を受け入れると、夕立と響は両手を合わせて喜んだ。

 ……さっき視線を交わしてたのはそういうことか。僕としては、目の前でそう喜ばれると面映ゆいんだけど……。

 

「でも、差し当たり今日は誰に頼めば良いのかな……」

 

 ふとよぎった疑問をぽつりとこぼすと、笑みを浮かべていたはずの二人が急に血相を変えて僕に向き直った。

 

「提案した責任もあるし当然今日は私が供をさせてもらうよ安心してほしいソ連では信頼できるという意味の名を(たまわ)ったこともあるんだ」

「夕立なら一緒に寝られるっぽい! 寝るっぽい!! 寝かせて欲しいっぽい!! ぽいぽいぽーいっ!!」

 

「えっ、あの。ふっ、二人とも!?」

 

 夕立と響の予想外の食いつきに、わたわたと手を挙げて焦るしかない僕。

 そんな様子を哀れに思ってくれたのか、沈黙を守っていた時雨が助け舟を出してくれた。

 

「……二人とも落ち着きなよ。もともとは作戦の報告に来たんでしょ? 今日の哨戒で、貢献度(M)が高か(V)ったの(P)は誰なの?」

 

「……うー」

 

 時雨の意図を悟ったのか、どこか残念そうに夕立が声を漏らした。ということは……。

 

「随伴を蹴散らして突破口を開いたのは夕立だけど、旗艦撃破と退路の確保は私だったよ」

 

 響がどこか誇らしそうに告げると、時雨が僕に視線を移した。

 

「そういうことらしいから、今日は響にお願いしたらどうかな。 今後も、作戦でMVPだった艦娘にその権利があることにすればいい。艦娘側に拒否しても良いって念押しすれば問題ないだろうし、その場合は貢献度順に回していけば大丈夫だと思うよ」

 

「そう、だね。うん……。そうさせてもらおうかな」

 

 きっと他にもいい案はあると思うんだけど、目の前の二人……というか、流れ的に今日頼むことになるであろう響が、他の案を検討する時間をくれるとは思えない。

 

「……それじゃあ響。本当に情けない話だけど、今日寝る時は、よろしくお願いします」

Хорошо(ハラショー).任された。大丈夫だよ、朝までしっかり温めてあげるから」

 

 こうして。僕が提督を務める鎮守府では、同日作戦行動において特に優秀な成果を上げた艦娘一人が、僕と寝床を共にするという謎のルールが出来上がるのだった。

 

 ……いつか憲兵に捕まることになっても、文句は言えないかもしれないね。

 


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