「ここに来るのも随分久しぶりな気がするなぁ」
「久しぶりどころか、五十鈴たちを建造した日から一度も来てないんじゃない?
着任したての
「僕も建造に興味はあるんだよ? ただ、妖精さんがもうちょっと待って欲しいって言うからさ」
そう、僕が五十鈴とともに足を踏み入れたのは、艦娘を建造するための工廠である。
もちろん目的は建造。特に、空母を戦力として迎えるのが狙いだった。
「改めて相談したら、資材は当分問題ないって言ってたよ。むしろやる気みたい」
「それは重畳ね。大本営が基準として弾き出した建造の定石を考えるのが馬鹿みたいな成功率だし、妖精の言うことは無視しないほうが良さそうだもの。
……あまり妄信するのも怖いところだけれどね」
五十鈴の話だと、五回の建造で五人の艦娘を迎え入れることができる確率は相当低いらしい。
それを妖精さんの指示に従えば、確実に建造が成功するのだ。喜ぶべきことだと思うし、やっぱり妖精さんは凄いんだと僕も鼻高々なんだけど。
五十鈴としては大本営に目をつけられないか心配で、無邪気にはしゃいでもいられないとのことだ。
「ま、それはとりあえず置いておきましょ。確実に空母が建造できるなら文句ないわ。……そうすれば、海上輸送ラインの防衛作戦も何とかなるはず」
彼女が呟いた通り、僕たちは一つの作戦行動に従事している。
『海上護衛作戦』。文字通りこの鎮守府直近の製油所地帯沿岸部、その海上輸送ラインを深海棲艦から防衛するのが主な作戦内容だ。
一度五十鈴を旗艦とする五人の水雷戦隊で出撃したんだけど、作戦は失敗に終わった。
それも仕方のない話で、この作戦海域でなんと戦艦級の深海棲艦と会敵したのだ。
夕立が
僕も通信と映像でしか確認できなかったけど、敵戦艦の主砲が巨大な水柱を上げたところを見て肝が冷えた。
艦種上、装甲が厚いとは言えない軽巡や駆逐の彼女たちに直撃すればただでは済まないだろうことは、素人の僕でも容易に感じ取れる。それくらい激しい水飛沫と轟音だった。
この一件もあって、いい加減に空母を建造しようという運びになったのだ。
空母が居れば、偵察機によって先んじて敵艦隊を発見することができ、射程外から攻撃機や爆撃機で先手を打つことも可能なはず。
五十鈴との座学で制空権を確保することの重要性は理解してるつもりだし、僕も空母の建造には大いに賛成だ。
「それで、妖精さん。早速だけど、投入する資材はどうしようか?」
五十鈴との会話が終わるまで静かにしていた妖精さんに視線を向けて、そう問いかけてみる。
ちなみに工廠には僕と五十鈴、そして三十人ほどの妖精さんしかいない。
駆逐艦のみんなは手分けして遠征任務と哨戒任務を処理してくれている。
作戦に向けて頑張っている彼女たちのためにも、なんとしても空母を建造しなくちゃならない。
「それでは~」
「はっぴょうします」
「とうにゅーしざいはぁ」
妖精さんはもったいつけるように言うと、プラカードのようなものを持った四人が進み出て、くるくる回り始めた。なんだろう、これ。
「どぅるるるるるるるぅ~」
「じゃんっ!」
「ねんりょう!」
「さんびゃく!」
「だんやく!」
「さんびゃくっ」
「こーざい!」
「ろっぴゃく?」
「ぼーき!」
「ろっぴゃくー」
新たに歩み出た一人の妖精さんがそれぞれ資源を口にすると、回っていた妖精さんが順番にポーズを取り、しゅばっとプラカードを掲げた。何これ可愛い。
プラカードには数字が書かれていて、順に300、300、600、600となっている。
「ありがとう妖精さん。それじゃあ五十鈴、建造始めるね」
隣に立っている五十鈴に視線を移すと、ポカンとした様子で妖精さんを凝視していた。……あぁそっか、妖精さんのこういうところ、艦娘のみんなは見慣れていないんだった。
その上言葉もしっかり聞き取れる訳じゃないらしいから、五十鈴にしてみたら妖精さんが急に奇行に走ったように見えたかも知れない。
「えっと……五十鈴? 始めても大丈夫かな」
「っ。え、ええ。大丈夫。ちょっと驚いただけだから。始めましょ」
我に返った五十鈴に頷いて、いつかのようにコンソールを操作していく。
投入資材を確定して建造開始のキーを押下すると、妖精さんは慌しく工廠内を行き来し始めた。
こうなると僕と五十鈴は待つだけだ。
「……やっぱり、見たことないような資材比率ね。さて、どうなるのかしら……」
五十鈴のそんな呟きからいくばくか時間が過ぎて、室内を真っ赤に染め上げた炎も跡形もなく消え去った。目の前には開錠を待つ建造ドックが一つ。
「あれ、今回はあの、大きいネジ使わないの?」
ふと以前の建造模様を思い出した。火炎放射器で建造ドックを燃やした後、妖精さんがドックの引き出しのような場所にネジを入れるよう促してきたはず。
「くうぼはさすがにむりー」
「……? そうなんだ。今回は要らないんだね」
僕の言葉に、妖精さんはこくこくと頷いた。
よく分からないけど、妖精さんが使わなくていいと言うならそうなんだろう。
隣で五十鈴が「大きいネジ……?」と訝しげに呟いてるのがちょっと不穏だけど。後で絶対追及されるな、これ。
「じゃあ、開けるよ? ドック開錠っと」
コンソールを操作すると、閉じられた建造ドックからガコンッと重い音が響き、次いで金属製の蓋が持ち上がった。
中から歩み出てきたのは……。
ここで初めて後書きをば。
感想・コメントを下さる皆様、全部読んでます! ありがとうございます!
ただ申し訳ないことに、すべてに返信することが難しくなっております。
一つ一つきちんとお返ししたいんですが、そこに時間を費やすと本編を書く時間がなくなってしまうのです……。
今後は隙間時間で、目に付いた感想やコメントにちょこちょこっと返信させてもらう形になりますが、ご容赦いただけますと幸いです。
ちなみに、今まで後書きを書かなかったのは作者の好みです。自分が小説読んでるとき、一話毎に前書き・後書きがあると、そのたびに作品の世界観から現実に引き戻されるような気分になっちゃうので。
ただ、今回の感想の件のようにどうしてもお伝えしたいことがある時は後書きを利用させてもらいます。活動報告はあまり目に付かないかと思います故。
長くなりましたが、ここまで読んでくださりありがとうございます!
これからも暇なときに少しずつ更新していきますので、良ければお付き合いくださいませ!