「はじめまして。翔鶴型航空母艦2番艦、妹の瑞鶴です。よろしくね、提督さん」
役目を果たした建造ドックから歩み出てきたのは、一見すると弓道着に似た装いの女性だった。
切れ長の瞳が気の強さの表れであるように感じるのは、不敵に弧を描いた口元のせいかも知れない。
長い黒髪を両の側頭部で結っており、落ち着いた佇まいとは裏腹に、どこか活発的な印象を受ける。
「はじめまして。この鎮守府で提督を務めている、海原海人と言います。こちらこそよろしく、瑞鶴」
「一発で建造に成功したのは、もう気にしないことにするけれど……。これはまた、凄いところを引いたわね」
「凄いところ?」
「詳しい話は省くけれど。瑞鶴と言えば、日本海軍の
「そんな風に言われると、ちょっと恥ずかしいけど……。艦載機がある限り、どれだけだって戦い抜いて見せるよ!」
「頼もしい限りね。……瑞鶴、貴女がこの鎮守府で初の航空母艦になるわ。忙しくなるけれど、共に励みましょう。挨拶が遅れたわね、軽巡洋艦、五十鈴よ。よろしくお願いするわ」
「ふふっ、かの貴族船とまた一緒に戦えるなんて光栄だね。よろしく、五十鈴」
「からかわないでちょうだい……」
握手を求めた五十鈴に対し、溌溂とした表情で瑞鶴も応じた。
「また、ってことは。軍艦だった頃に同じ作戦に?」
瑞鶴の言葉で浮かんだ疑問を口にすると、揃って答えを返してくれる。
「そこまでの頻度じゃないし、直接の関係も薄いけれど。大きな作戦で何度か、ね」
「私は肩を並べて戦った、くらいには思ってるけどなぁ。船の一隻、弾薬の一発で戦況が変わることもある。五十鈴が応援に来てくれたことは、しっかり
「面映ゆいわね。悪い気分じゃないけれど」
僕にはわからないけど、きっと二人の間には何かしらの繋がりがあるんだろう。何にせよ、相性が良さそうで良かった。離れて見てると容姿も結構似通ってるし、まるで姉妹みたいだ。
小柄な五十鈴のほうが何故かお姉さんに見えてしまうのは、普段から僕が頼り切りなせいでは無いと思いたい。
「ともあれ、これで大きな戦力向上に繋がるわ。早速、鎮守府の案内と当面の実行作戦概要の説明に入りましょう」
「うん、そろそろ皆戻ってくるだろうし。一通り回ったら、提督室で作戦会議しようか。
瑞鶴、さっそく頼らせてもらうよ」
不敵な笑みをさらに深くして、瑞鶴は僕の言葉に大きく頷いて見せる。
「うん、いい感じじゃない♪ なんで幸運の空母だなんて呼ばれるのか。五航戦の力、見せてあげる!」
こうして新たに正規空母、瑞鶴を迎え入れることに成功し。
僕たちの鎮守府は、海域の攻略に向けて本格的に活動することになる。
そのはずだった。
「提督っ、大本営から辞令が下ったわ!」
「……てことは、例の話が本決まりに?」
「ええ。……暁光鎮守府への異動命令よ」
――通称、
数多くの艦娘を擁しているそこは、以前から提督が不在となっており、後任の選定が急務だったらしい。
瑞鶴の建造からしばらく経って、いくつかの海域攻略作戦に成功し。ついに僕の鎮守府へ、初めて大本営から調査の手が入った。
事前に用意していた諸々の報告資料により、僕の身柄が拘束されたり、といったことは無かったんだけど……。
大本営は、僕を囲って妖精と対話する力を利用できないのであれば、別のところで使い潰せば良いという考えに至ったらしい。
僕も状況全てが理解できている訳ではないけど、一つだけ確かなことがある。
「ようこそおいで下さいました、海原提督。駆逐艦、霞。お迎えに上がりました。どうぞよろしくお願いします……」
僕と、六人の艦娘は。陸路で繋がってすらいない、最も危険で、最も残酷な鎮守府に送り込まれたということだった。
「おぉー」
「ぼろぼろだー」
「たてものがないてるぜ」
「これはなおしがいがあるね」
「どーぞーたてよ? かいのどーぞー」
「それさいよー!」
もちろん、たくさんの妖精さんを引き連れて。
要素が薄いので[ギャグ]タグを外しました。
新たに[ブラック鎮守府に異動]タグを追加しました。
※2019/07/14