妖精さんの勧めで提督になりました   作:TrueLight

33 / 66
33.幸運の空母が運んだもの?

「はじめまして。翔鶴型航空母艦2番艦、妹の瑞鶴です。よろしくね、提督さん」

 

 役目を果たした建造ドックから歩み出てきたのは、一見すると弓道着に似た装いの女性だった。

 切れ長の瞳が気の強さの表れであるように感じるのは、不敵に弧を描いた口元のせいかも知れない。

 

 長い黒髪を両の側頭部で結っており、落ち着いた佇まいとは裏腹に、どこか活発的な印象を受ける。

 

「はじめまして。この鎮守府で提督を務めている、海原海人と言います。こちらこそよろしく、瑞鶴」

 

「一発で建造に成功したのは、もう気にしないことにするけれど……。これはまた、凄いところを引いたわね」

 

「凄いところ?」

「詳しい話は省くけれど。瑞鶴と言えば、日本海軍の最殊勲艦(さいしゅくんかん)に数えられる一隻よ。幸運の空母、なんて呼ばれることもあるわ」

 

「そんな風に言われると、ちょっと恥ずかしいけど……。艦載機がある限り、どれだけだって戦い抜いて見せるよ!」

 

「頼もしい限りね。……瑞鶴、貴女がこの鎮守府で初の航空母艦になるわ。忙しくなるけれど、共に励みましょう。挨拶が遅れたわね、軽巡洋艦、五十鈴よ。よろしくお願いするわ」

 

「ふふっ、かの貴族船とまた一緒に戦えるなんて光栄だね。よろしく、五十鈴」

「からかわないでちょうだい……」

 

 握手を求めた五十鈴に対し、溌溂とした表情で瑞鶴も応じた。

 

「また、ってことは。軍艦だった頃に同じ作戦に?」

 

 瑞鶴の言葉で浮かんだ疑問を口にすると、揃って答えを返してくれる。

 

「そこまでの頻度じゃないし、直接の関係も薄いけれど。大きな作戦で何度か、ね」

「私は肩を並べて戦った、くらいには思ってるけどなぁ。船の一隻、弾薬の一発で戦況が変わることもある。五十鈴が応援に来てくれたことは、しっかり記録し(おぼえ)てるよ」

 

「面映ゆいわね。悪い気分じゃないけれど」

 

 僕にはわからないけど、きっと二人の間には何かしらの繋がりがあるんだろう。何にせよ、相性が良さそうで良かった。離れて見てると容姿も結構似通ってるし、まるで姉妹みたいだ。

 

 小柄な五十鈴のほうが何故かお姉さんに見えてしまうのは、普段から僕が頼り切りなせいでは無いと思いたい。

 

「ともあれ、これで大きな戦力向上に繋がるわ。早速、鎮守府の案内と当面の実行作戦概要の説明に入りましょう」

 

「うん、そろそろ皆戻ってくるだろうし。一通り回ったら、提督室で作戦会議しようか。

 瑞鶴、さっそく頼らせてもらうよ」

 

 不敵な笑みをさらに深くして、瑞鶴は僕の言葉に大きく頷いて見せる。

 

「うん、いい感じじゃない♪ なんで幸運の空母だなんて呼ばれるのか。五航戦の力、見せてあげる!」

 

 こうして新たに正規空母、瑞鶴を迎え入れることに成功し。

 僕たちの鎮守府は、海域の攻略に向けて本格的に活動することになる。

 

 

 

 

 

 

 

 そのはずだった。

 

 

 

 

 

 

 

「提督っ、大本営から辞令が下ったわ!」

「……てことは、例の話が本決まりに?」

 

「ええ。……暁光鎮守府への異動命令よ」

 

 暁光鎮守府(ぎょうこうちんじゅふ)。深海棲艦との争いにおいて、現在最前線基地となっている鎮守府。

 

 ――通称、落ちこぼれ(ドロップアウト)鎮守府。

 数多くの艦娘を擁しているそこは、以前から提督が不在となっており、後任の選定が急務だったらしい。

 

 瑞鶴の建造からしばらく経って、いくつかの海域攻略作戦に成功し。ついに僕の鎮守府へ、初めて大本営から調査の手が入った。

 事前に用意していた諸々の報告資料により、僕の身柄が拘束されたり、といったことは無かったんだけど……。

 

 大本営は、僕を囲って妖精と対話する力を利用できないのであれば、別のところで使い潰せば良いという考えに至ったらしい。

 僕も状況全てが理解できている訳ではないけど、一つだけ確かなことがある。

 

 

 

 

 

「ようこそおいで下さいました、海原提督。駆逐艦、霞。お迎えに上がりました。どうぞよろしくお願いします……」

 

 僕と、六人の艦娘は。陸路で繋がってすらいない、最も危険で、最も残酷な鎮守府に送り込まれたということだった。

 

 

 

 

 

「おぉー」

「ぼろぼろだー」

「たてものがないてるぜ」

 

「これはなおしがいがあるね」

「どーぞーたてよ? かいのどーぞー」

「それさいよー!」

 

 もちろん、たくさんの妖精さんを引き連れて。

 




要素が薄いので[ギャグ]タグを外しました。
新たに[ブラック鎮守府に異動]タグを追加しました。
※2019/07/14

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。