妖精さんの勧めで提督になりました   作:TrueLight

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36.めにものみせてやるぜ?

「五十鈴、どう思う?」

 

 無事に暁光鎮守府へと到着した僕たちは、案内役を務めてくれるという霞に連れられて、この鎮守府の講堂へと向かっている。

 

 その最中(さなか)、隣を歩く五十鈴に小声で尋ねてみた。

 

「……やっぱり、指令書の内容はアテにならなさそうね」

 

 端的な質問でも、彼女は正確に僕の意図を汲み取ってくれたようだった。

 五十鈴が言う指令書とは、僕宛に届いた暁光鎮守府への異動を命じる、という内容の電文だ。

 

 そこには暁光鎮守府の概要がざっくりとまとめられていたんだけど、気になる箇所がいくつもあったんだ。

 

 その中でも特に、『暁光鎮守府の艦娘は人間に敵愾心(てきがいしん)を抱いている可能性が高い。上官である提督に対して非常に攻撃的な態度をとる様子が多数報告されている。浮上艦は建造艦と比べて精神的に不安定であるという証左に他ならない。提督の命令や意向に背いた艦娘はその裁量によって解体することを認める。浮上艦へのあらゆる対応は摘発事項の対象外とする』というもの。

 

 艦娘は大きく二種類に分かれる。建造艦か、浮上艦か。

 建造艦は文字通り、鎮守府の建造ドックによって、建造されることで誕生する艦娘の総称。

 一方で浮上艦とは、海底から浮かび上がった艦娘だ。深海棲艦の敵艦隊をすべて撃沈した際、稀に起こる現象とのこと。

 

 浮上艦の中には建造での着任が確認されていない艦娘も多数いて、この暁光鎮守府はその浮上艦を各所から集めた場所らしい。

 

 深海棲艦の迎撃を担う最前線ということで、浮上艦はいち早くこの鎮守府に着任させ、海域の攻略を確固たるものにする、というのが建前のようだ。要は深海棲艦との繋がりを否めない艦娘の隔離施設ということだろうと思う。

 

 当然僕は、この電文の内容を鵜呑みにしてはいない。人間と艦娘、どちらが信頼できるかと聞かれればもちろん艦娘だ。ただ浮上艦については五十鈴のほか、僕が建造した艦娘の皆も詳しくは知らないらしい。なので、霞の様子を見てどう思ったか、と問いかけたんだ。

 

 そしてやはり、五十鈴も大本営の考えには否定的らしい。

 霞の反応は攻撃的どころか、やり過ぎなくらい丁寧だ。というか、ひどく礼を失することを恐れているようにすら見える。

 

「電文の、あの内容。関係あると思う?」

 

『提督の命令や意向に背いた艦娘はその裁量によって解体することを認める』

 これによって既に解体された艦娘が居て、それを恐れているからこそ、霞はここまで礼儀正しいのだろうか。

 

「いいえ、暁光鎮守府の来歴として送られてきた資料から、大本営がこの鎮守府あてに送った電文を洗ったりもしたけれど、あの内容自体が最近制定されたみたい。今のところ、この鎮守府で艦娘の解体は行われていないはずよ」

 

「……ってことは、そういうことか」

「そうね。ある意味安心したんじゃない?」

 

 つまり大本営が浮上艦を、言うなれば非正規艦娘、というように扱っているということだ。勝手に気持ち悪がって、少しでも言動が気に障ったら大袈裟に騒いで、大本営に報告する。『上官である提督に対して非常に攻撃的な態度をとる』というのはそういうことだろうね。

 

 僕と五十鈴の想像が勘違いじゃなければ、彼女の言う通り、確かに安心したと言える。

 僕にとっても、この暁光鎮守府の艦娘たちにとっても、この異動は理想的なものになるはず。

 はみ出し者同士。きっと僕たちは上手くやれると思うんだ。

 

「まずは信頼を勝ち取らないとね」

「あら、弱気じゃない? 妖精提督の面目躍如よ?」

 

「結局、妖精さん頼りだからさ」

 

艦娘(わたしたち)にしてみれば、妖精にお願いを聞いてもらえるというだけで凄いことなんだから。五十鈴は気を損ねないようにするので精一杯。だから、胸を張りなさい。妖精を友達だって断言できるなんて、間違いなく世界に一人だけの存在よ?」

 

 僕の顔を覗き込むように微笑む五十鈴から目を逸らして、僕はついて来ていた妖精さんに視線を向けた。

 

「いすずいーこというねー」

「りそーのかのじょぞーやも?」

 

「とにもかくにもー」

「かいはどぉんとかまえてればよろし」

 

「ようせいさんにおまかせー!」

「めにものみせてやるぜ?」

 

「……ありがとう。それじゃあ、手筈(てはず)通りよろしくね」

 

「「「らじゃー!!」」」

 

 相変わらず頼もしい妖精さんに笑いかけると、前を歩いていた霞がびくりと肩を震わせた。明確には言葉が分からないと言っても、たくさんの妖精さんが同時に声を上げたんだ。慣れてない彼女が驚くのも当然だね、申し訳ない。

 

「ぇっと、ここが講堂になります。手の空いている艦娘は既に集合しておりますので、どうかお言葉を(たまわ)れればと……」

 

「うん。挨拶させてもらうよ。案内ありがとうね、霞」

「……恐縮です」

 

 頭を下げる霞にこちらも会釈して、僕は大勢の艦娘が待つであろう講堂の扉を開いた。

 


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