妖精さんの勧めで提督になりました   作:TrueLight

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38.逆鱗―SIDE天龍―

 作戦を終えて、鎮守府に戻ったオレの目に入ったのは、見慣れない一隻の小型クルーザーだった。そいつを見て今更思い出す。近々この鎮守府に、大本営が提督を寄こすって話があったことを。

 

「――っ、クソが!!」

 

 オレは一緒に出撃した仲間を置いて駆け出した。大事な艤装(そうび)を放り出すのは気が引けるが、そんな場合じゃねぇ。運が良けりゃあ、まだ講堂に居るはずだ。

 

「間に合ってくれよ……!」

 

 いい加減仲間をバカにされんのはうんざりなんだ。前回の提督(クソ野郎)が消えてから、オレには一つ決めていたことがある。

 

「はっ、はっ――。無茶するんじゃねぇぞ、――霞……!」

 

 誰よりも仲間想いなクセに、その仲間に頼るってことを知らねぇバカを、今度こそ一人にしないってな。(ツラ)腫らしながら『私は大丈夫』なんて口走るアイツを、これ以上放っておいてたまるか。

 

 

 

 

 全力で走ったオレが講堂に着くのに、それほど時間はかからなかったはずだ。

 ……だが。

 

 

 

「な、にが……」

 

 

 

 俺は、間に合わなかったらしい。

 

 ――泣いている。

 どいつもこいつも、講堂から出てくる仲間はみんなして顔ぐちゃぐちゃにしてやがった。

 

 今までこんなことあったか? いや、ねぇ。間違いなく。

 どんな……どんなクソ野郎が来やがったんだ……!?

 

「……!!」

 

 頭が真っ白になったオレは、講堂の入り口を少し離れた場所から呆然と見つめていた。そしてしばらくすると、そいつは現れる。

 

「霞……」

 

 白い軍服に身を包んだ提督(クソ野郎)が、霞の肩に手を置きながら出てきやがった。

 霞は俯いたまま、両手でスカートを握りしめている。その皺を見りゃあどれだけ力を入れてんのか一目で分かった。

 

 鼻をすすってんのか、小刻みに揺れる霞の顔から、光る雫が地面に吸い込まれんのを見送って――。

 

「――殺す!!」

 

 俺は再び駆け出した。

 

「何しやがった! てめぇええええ!!」

 

 叫びながら拳を振り上げるオレを見て、クソ野郎は一瞬目を見開いた。

 どうせ殴れやしねぇと舐めてんのか、連れの艦娘をチラッと見てから一歩脇へずれる。

 

 バカが、霞から離れやがった! これで万に一つも霞を巻き込むことはねぇ!!

 

「歯ぁ食いしばれ!!」

 

 余裕綽々のいけ好かねぇ(ツラ)に、オレは全力で拳を叩き込んだ。

 

「ぐあっ!!」

 

 ドガッ! 鈍い音を立ててそいつは地面に倒れ込む。ざまぁみやがれ!!

 打点、腰の捻り、振りぬき! 我ながら渾身の一発が入った!!

 

 しかしヤツはすぐに上体を起こして、殴った頬に手を当てた。傷の具合を確認してるらしい。すぐに頭をかばって受け身取ってやがったし、ナヨっとした身形(ナリ)の割りに喧嘩慣れしてやがる。

 

「よそ見してんじゃねぇぞ!!」

 

 オレは倒れ込んだクソ野郎のマウントを取り、襟首を掴んで――

 

「オラァッ!!」

 

 頭突きをお見舞いしてやった!!

 額同士がぶつかり、ゴンッ! とぶん殴った時より鈍い音があがる。

 

「がっ……!!」

 

 さすがにクラッと来たらしいな。

 一瞬白目を剥くクソ野郎。だがすぐにぎゅっと瞼を閉じ、ブンブン首を振って意識を保とうとしやがる。チッ、意外にしぶとい野郎だぜ。

 

「いいぜ。お望み通り、くたばるまで――」

「やめなさい! 天龍!!」

 

「あぁ? 止めんじゃねぇよ、霞。黙って見てろ。今からこのクソ野郎、二度とここに来れねぇようボコボコにしてやっからよ」

 

「誤解よ! いいから早くどきなさいったら!!」

 

 何が誤解だ? 目ぇ腫らして鼻真っ赤にしてよ、説得力ってモンがねぇ。

「なぁに安心しろ。俺がどうなろうがコイツだけは道連れだ……!」

 

 提督一人消えりゃあ、さすがの大本営様も浮上艦(おれたち)への認識を改めるだろうよ。

 

「あーもう! さっさと離れなさい!!」

「あっ、おい! 離せよ霞ッ!! おい誰か、危ねぇから(コイツ)を――っ」

 

 オレの腹に手を回してる霞を引き剥がすよう頼むと、提督に対して角が立つ。

 そう考えたオレは、霞自身が危険だから遠ざけるように、と含みを持たせて仲間に呼びかけた。これなら続けても、処罰されるのはオレだけのはずだ。

 

 そう考えつつ振り返ると、みんな心配そうに見つめていた。

 オレを……じゃなく。何故か、クソ野郎の方に注目している。

 

 ……オイ、なんだよその目は。まるで、クソ野郎の怪我を心配してるみてぇじゃねぇか。

 

「提督っ、大丈夫!?」

「あー、うん。ちょっと口の中を切っちゃったけど。これくらいで済んで良かった」

 

「っ、てめぇ何勝手に終わらせてんだ? こっちはまだっ――!!」

 

 駆け寄ってきた五十鈴にへらへら返答するクソ野郎。オレはもっぺん蹴飛ばしてやるべく、霞を引きずって近づこうとした。

 

 !?

 

 その時、ぞくり、と。

 肌が粟立つような悪寒が走る。

 

 

「――それ以上は、許さないっぽい」

 

 

 いつの間にか、そいつは俺とクソ野郎の間に割って入っていた。

 駆逐艦……夕立、か?

 

 パッと見第二改装済みだ。感情が読めねぇ表情でオレを見上げてくる。

 

 駆逐とは言え改二艦。ナメて良い相手じゃねぇ。だが、俺だって相応の覚悟がある。誰が相手だろうが、大本営に一発デカい印象(インパクト)を与えるために、テメェがどうなってもいい。そんくらいは随分前から心に決めてる。

 

 

 ……なのに……動けねぇ……!

 

 

 頭一個分以上ちっせぇ身形(ナリ)夕立(コイツ)に、命さえ賭ける覚悟のオレが……気圧されてるってのか!?

 

「夕立、駄目だよ。……天龍さんも、落ち着いてくれないかな」

 

 俺と夕立が睨み合ってると、クソ野郎の連れらしい時雨も止めに来た。

 夕立がオレにガン飛ばしてるのを注意してるみたいだが、こいつもオレから目を離そうとはしねぇ。どころかおっぱじめたら加わる気満々じゃねぇか、コイツ。

 

 その時、腹に回されてた手が離れるのを感じた。

 オレの脇を走り抜けて霞は、クソ野郎に肩を貸しやがる。

 

「オイッ、霞……」

「謝りなさい」

 

 ……夕立から感じた雰囲気とは、別の意味で悪寒が走った。

 今の底冷えするような声、本当に霞が言ったのか?

 

「な、なぁ。何言ってんだ? 今までどんだけこいつらに……」

「天龍」

 

「あ、あぁ?」

 

 霞は肩を貸しつつクソ野郎の背中を支え、俺に目を向けてきた。

 そのまま目を細めてゆっくり笑うと、もう一度口を開く。

 

「いいから。司令官の目を見て。今すぐ謝りなさい」

 

 …………一体、何が起こってやがる?

 


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