妖精さんの勧めで提督になりました   作:TrueLight

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40.妹は心配性

 

 さて、暁光鎮守府で初めての夕食時間だ。

 医務室で天龍の謝罪を受けた後、僕はこれから主に過ごすことになるだろう提督室で資料を流し読みしていた。

 

 今この鎮守府がどういう形態で作戦を実施しているのか、所属する艦娘やその艦種はどうなっているのか。把握するべきこと、やるべきことは山積みだ。

 とりあえず直近の報告書だけ目を通しておこうと考え着いたところで、食堂への迎えが来てしまった。

 

 五十鈴たちは既に到着しているらしく、再び案内を名乗り出てくれたらしい霞が僕を先導する。

 

「まったく、初日くらい鎮守府を見て回んなさいよ。引き籠って指揮するだけが司令官の仕事じゃないでしょ」

 

「そうは言っても、まだ提督という存在そのものが怖いって子も居るんじゃないかと思ってね」

「それはそうだけど……話してみなきゃ、溝なんて一生埋まんないわよ」

 

 初対面の時は凄く丁寧だったけど、どうやらこっちが素みたいだ。

 口調こそ刺々しいものの、溌溂としてて……何というか、話してて身が引き締まる気がする。

 

「霞はここ、長いんだよね?」

「ええ。出来たばかりの頃から居るわ」

 

「……そっか。さっきも言った気がするけど、色々教えてくれると助かるな」

「ふんっ、当然よ! 司令官だからって、ド素人が好き勝手出来ると思わないことね!」

 

「分かってる分かってる。勉強させてもらうよ」

「口調が雑! 艦娘相手とはいえ先達には敬意を払いなさいよこのクズ司令官!!」

 

 罵倒するのに躊躇が無いなぁ……。でも蔑んだようなニュアンスは一切感じないし、むしろここまで気安く怒鳴られると清々しい気分だ。

 

 まぁ比較対象が人間だしね。霞の言葉は近しい者同士が心を開いている相手にのみ(あらわ)にする本心のようで、逆に嬉しいくらいだ。

 

 とにかく霞とそんな掛け合いをしつつ歩いていると、いつの間にか食堂の扉の前に着いていた。

 

「どうぞ。ほら、さっさと入んなさい!」

 

 一応の礼儀としてか、扉を開いて促してくれた霞に視線で感謝を伝え、僕は食堂に足を踏み入れた。

 

 その瞬間、ざわめいていた食堂内がぴたりと静寂に包まれる。

 うん、まぁ予想はしてたけど。まだ僕を異物だと感じているだろうし。

 

 でも多分五十鈴たちか、あるいは――。

 

「よぉっ! 遅いぜ提督! こっちだこっち!!」

 

 一人の艦娘が、立ち上がって僕へと手を振っていた。

 もちろん、先ほどひと悶着起こしたばかりの天龍だ。

 

 彼女が囲んでいたテーブルには五十鈴たちも揃っており、僕を待っていてくれたみたい。

 右手を挙げてそれに応えつつ近づき、それとなく周囲の様子を探ってみると。何事もなかったように接する天龍を見て、みんな唖然としているようだった。

 

「や、みんな揃ってるね」

「提督が遅いのよ。初日くらい余裕をもって行動しなさいな」

 

「霞にも言われたよ。次から気を付けるって」

「あら、そうなの? なら今後は霞に監督してもらおうかしら」

 

「ちょっと五十鈴! 元はと言えばアンタ達の監督不行き届きなんじゃないの!? 威厳の欠片もないし、見てらんないったら!!」

 

「ド素人の提督に威厳を求められてもなぁ」

 

 五十鈴と霞のお小言を聞き流しつつ、いただきますと手を合わせて食事を始める僕。

 すると五十鈴も何食わぬ顔で食べ始めたため、霞も不承不承といった様子で席に着いた。

 

「……ん?」

 ふと視線を感じて顔を上げると、正面に座る天龍の左隣、一人の艦娘が僕を見つめていた。

 

「何か用かな? えーと……」

 他の艦娘もちらちらと視線を向けてくる様子は窺えるけど、ここまであからさまに凝視してくるのは彼女だけだ。名前は……。

 

「初めまして。軽巡洋艦、天龍型2番艦の龍田です。よろしく~」

 

 口ごもる僕に対して彼女は、にこやかにそう名乗った。

 あれ、天龍型ってことは。

 

「さっきは天龍ちゃんがご迷惑をおかけしたみたいで~」

「いやこっちこそ、誤解させちゃったみたいで。それより天龍の姉妹艦、でいいのかな」

 

「はい♪ 妹です~」

「まぁ竣工自体は龍田が先だから、年齢的にへぶっ!」

 

「天龍ちゃんは静かにしててね~?」

「……オゥ」

 

 目にも止まらぬ速さで頭を叩いた龍田にも驚いたが、天龍が素直に頷いたのもびっくりだ。力関係は龍田の方が上なんだろうか……。

 

「そう言えば、お怪我の具合はどうですか~?」

「ああ、あんまり痛みは無いよ。見栄えが悪いからガーゼで隠してもらったんだ。ちょっと大袈裟になっちゃったね」

 

 表面上はにこやかだけど、龍田の瞳は少し不穏だ。値踏みされてるみたい。

「安心しました~。それで、天龍ちゃんはどんな罰を受けちゃうのかな~?」

 

「罰? あー、今回はお咎めなしってことで。仲間を思ってのことだし、この鎮守府の来歴を思えば、僕も無遠慮だった。気にしなくていいよ、本当に」

 

「そうは言っても、提督の優しさに甘えちゃうと、風紀が乱れちゃうから~」

 

 ……やけに引きずるな。天龍に罰を受けさせたい理由でも……あ、そうか。

 

「龍田、大本営に報告するようなこと(・・・・・・・・・・・・・)なんて起きてないから。安心して良いよ」

「……意外に鋭いのね~?」

 

「あん? どういうこった?」

 

 いい加減に妹の様子を怪訝に思ったのか、天龍が手を止めて口を開いた。

 

「君の妹は、僕が天龍のことを大本営に報告するんじゃないかと危惧してるんだよ。だから何かしら罰を受けさせて欲しい。そうすれば、今回の件に関して大本営が介入してくることは無いだろうからね。問題が起こって、処罰は下った。それで話はお終いになる」

 

「……おい龍田!」

「心配なんだから仕方無いでしょ~? そもそも天龍ちゃんが悪いんだよ?」

 

 話していたはずの僕をそっちのけで姉を叱る龍田。それにへいへいと適当な返事をする天龍。仲いいなぁと頬を緩めつつ、僕は食べかけの料理に再び手を付けた。

 


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