妖精さんの勧めで提督になりました   作:TrueLight

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41.えへー♡

 

「殴られ損にならないって言うのは、こういうことだったのね?」

 

 前の鎮守府に比べると慎ましい夕食を続けていると、隣席の五十鈴が小声で話しかけてきた。医務室でのことだろう、天龍に殴られた意味はあったのか、と。

 

「貴方を害したはずの天龍が、いつの間にか提督と打ち解けて、食事の席を一緒にしている。目に見えて処罰された様子もない。それが他の艦娘に伝われば……ってことかしら」

 

「ん、そんな感じだね。想像より上手く行って、僕もちょっと驚いてるよ。天龍があんまり気にしていないのが功を奏したね」

 

 もし天龍が思い詰めて僕に服従でもしようものなら、逆効果になる可能性だってあったんだ。思い付きで危ない橋を渡ったけど、結果良ければ全て良しってことにしておこう。

 

 五十鈴も僕の内心を悟ってか、やれやれと首を振ってから食事を続けた。未だ僕の様子をちらちらと窺う目はあれど、みんな和やかに夕食を取っているように見える。

 

 ある程度、僕に対する警戒は解けたと思っていいだろう。

 

 そんな中、食堂の扉が薄く開き。何人かの妖精さんが僕のもとへ飛んできた。必然、艦娘たちの視線がこちらへ集中する。

 

「かいていとくー」

「ひとまずかんりょーしたー」

 

「ありがとう。妖精さんも着いたばかりなのにごめんね?」

 

「いいってことよー」

「たのしーしねー♪」

「んねー♪」

 

 どうやら妖精さんに頼んでいた仕事がひと段落着いたらしい。……それは有り難いんだけど、ということは、だ。

 

「……完了したって言うのは、銅像も?」

「えへー♡」

 

 懸念事項を問うと、妖精さんは善意100%の笑顔で頷いた。うん、妖精さんが喜んでくれてるからもういいや……。

 

「かんむすりょーがひどかったー」

「皆の寝室があるとこだよね? そんなに?」

 

「あまもりしほうだいー」

「ゆかいたぼろぼろー」

「おふとんもぺったんこ」

 

「家具とかもか……。どうにかなったの?」

 

「あたぼうよー!」

 

 なんて頼りになるんだ。周りの艦娘には僕の独り言のように聞こえるかも知れないけど、きちんと説明すれば驚いてくれるだろう。でもその前に、もうちょっと成果を聞いておきたい。

 

「艤装とかはどうなってた?」

 

「ひつようなものはさいていげんあったけども」

「いらないもののほうがおおかったー」

 

「じゃまだからかいたいしたらね」

「あかしないてたねー」

「わるいことをいたした」

 

 ああ、工作艦明石。この鎮守府には着任しているみたいだ。艤装の管理は彼女が行っていたのだろう。それを話の通じない妖精さんが急に解体しだしたら、そりゃあ焦るよね……。

 この場にいないところを見るに、多分倉庫の備品リストなんかを更新しているんだろう。後で謝りに行かなきゃ。

 

「じゃあ資材とかは少し余裕ができたのかな? いやでも、建物の改修とかに使ったよね……。貯蓄は問題無さそう?」

 

 すると妖精さんがぎくりと硬直した。にっこり笑顔のまま、ぎぎぎっとあらぬ方向へ顔を向けだす。

 

「ふ、ふゅー、ふひゅ~♪」

 

 下手くそな口笛まで吹きだす始末。なるほど……。

 

「……そんなにまずい状況なの?」

「……えへー♡」

 

 分かった。使っちゃったものは仕方がない。許してくれるかは皆次第だけど、僕が頭を下げて、今後取り返していくしかない。妖精さんが間違ったことをした訳でもないんだから。

 

「……ごめんねー?」

「やりすぎたー……」

 

 しゅんとした妖精さんに、いいよ、と笑いかけると。安心したようににぱっと笑ってくれた。うんうん、妖精さんにはいつも笑っていてもらわないと。僕が頑張れない。

 

 席を立って食堂の配膳台、カウンター近くの目立つ場所に移動する僕。妖精さんと僕の様子を窺っていた艦娘たちは、言われるまでもなく注目していた。

 

「えー、みんなに大事なお知らせがあります」

 

 僕が話し始めると、僕が連れてきた六人以外は気を引き締めているように見えた。五十鈴たちは、あぁ、なんかやらかしたのかな、といった表情を浮かべている。遺憾である。

 

 ちなみに追従してきた妖精さんたちは、威厳を出すためか、僕の周りで胸を張り、腰で手を重ねていた。愛らしい。

 

「まず、良いお知らせから。実はこの鎮守府に着いた時から、施設にガタが来てるなって話を妖精さんとしていたんだ。だから建物の改修をお願いしてたんだけど、もうそれが終わったらしい」

 

 妖精さんから受けた報告を語り聞かせると、艦娘たちは愕然とした様子で静まり返った。気持ちはよく分かる。慣れていたつもりの僕だって、妖精さんの仕事がこんなに早いなんて思いもしなかった。

 

 まぁ彼女たちにとっては、提督がまともに建物を直してくれた、ということすら驚愕に値するのかも知れない。

 

「聞いたところによると、皆が生活してる寮もひどい状態だったみたいだけど。家具寝具含めて、妖精さんが誂えてくれたみたいだから。遠慮せず使って欲しい」

 

 まだ僕の言葉が呑み込めていないらしい彼女たちを待たず、話を続けることにする。下手にざわついてからだと、僕が話しづらいしね。大勢の前で話すことに慣れてる訳無いんだから。

 

「次に悪いお知らせなんだけどー……。改修作業が捗り過ぎて、資材の貯蓄が……ほとんど底をついたみたい。しばらくは水雷戦隊による遠征任務が主になると思うので、認識のほどよろしく」

 

「「「……え?」」」

 

 良いお知らせがじわじわと頭に浸透し、表情に喜色を浮かべ始めていた艦娘たち。

 しかし悪いお知らせの方は、理解できずに静まり返るとはいかず。

 

「「「えぇええええええええっ!?」」」

 

 重なった驚愕の声が、食堂を大きく揺らした。

 それを受けた僕と妖精さんたちはと言えば。

 

「本当に申し訳ない」

「「「ごめんなさーい」」」

 

 深々と頭を下げることしか出来なかった。

 


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