妖精さんの勧めで提督になりました   作:TrueLight

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43.新しい朝

 

 僕が暁光鎮守府に着任した日の翌日。

 この日は水雷戦隊と潜水艦隊を中心に複数回遠征任務をローテーションすることにし、昨日まで慌しく出撃に明け暮れていた艦隊主力艦娘達の多くは非番となった。

 

 昨晩の夕食でその旨は説明していたけど、やっぱり実際に休日となると、皆時間を持て余しているみたいだ。

 まぁ駆逐艦の中には改修された施設がどうなってるのか気になって、探検ごっこに興じている娘も居るみたいだけど。

 

 ともあれしばらくは鎮守府近海の哨戒と、資材回復のための遠征が主な活動方針となる。前線は後退するし、敵にも準備期間を与え、ゲリラ的な襲撃を警戒する必要もある。けど、仕方ない。資材が無いんだ、闇雲な出撃は避けたいところだ。

 

 ・・・・・・まぁ、勝手に使った僕と妖精さんが半分くらい悪いんだけどね。残りの半分はこの鎮守府の歴代提督と、ここまで放置し続けた大本営。

 艦娘の皆もそう思ってくれているのか、僕に対する批判の声は少ない。むしろ廊下ですれ違うと、嬉しそうに挨拶してくれたり、お礼を言ってくれるくらいだ。

 

 ふかふかのベッドと布団は、思いのほか皆の心を癒してくれたらしい。

 

 それはさておき、当面の問題は深海棲艦の強襲についてだ。この日の早朝、鎮守府の防衛にあたって、どれくらい守りを固めるべきか、兵装を管理する明石や、古参の霞。そして航空母艦筆頭、加賀を交えて作戦会議を行った。

 

 一応議事録を取るため、五十鈴を秘書として同席させ。僕が建造した唯一の空母ということで瑞鶴にも参加してもらう。

 他にも話を聞かせて欲しい艦娘はたくさん居るんだけど、彼女たちも出撃に次ぐ出撃で疲労していたため、今回は見送ることにした。

 

 暁光鎮守府を切り盛りしていた三人に意見を述べてもらい、僕の指揮方針や提督としての知識レベルを把握している五十鈴に注釈や助言を求め。実際僕が運用した経験がある空母の瑞鶴が作戦を吟味する。

 

 会議は恙無(つつがな)く進み、満場一致で鎮守府の作戦方針は決定した。結果的に言えば、十分資材が貯まるまで、遠征と哨戒、深海棲艦の襲撃に対する反撃以外の作戦行動は控えることになったんだ。

 

 というのも、明石曰く。この鎮守府に在籍している艦娘と現在の兵装。そこに僕が連れてきたたくさんの妖精が居れば、鎮守府の護りなど造作も無いことらしいのだ。

 

「索敵による先んじての敵艦捕捉。主砲の有効射程、命中精度。防盾の取り回しや被弾時の装甲。そのいずれもが、妖精によるサポートで飛躍的に上昇します。

 私たちは他の鎮守府の艦娘と違い、今までそれ無しに戦ってきました。練度で言えば、はっきり言って全鎮守府の中でもトップクラスの筈なんです。そこに、海原提督と妖精が加わる。……正直、連合艦隊級の襲撃でもない限り、陥落はありえないかと」

 

 明石が不敵に笑って見せると、霞と加賀は苦笑した。しかし、その言葉を否定はしなかった。きっと二人も燻っていたのだろう。まともな提督が、妖精さんの助けがあれば。どの鎮守府にも負けない戦果が挙げられるのに、と。

 

「分かった。それじゃあ、方針はそれで行こう。妖精さん、皆のサポートお願いできる?」

 

 話は決まったけど、当の妖精さんにも一応確認しておく。鎮守府での活動の鍵は妖精さんだ。提督になるまで欠片も知らなかったけど、ここ最近で痛いほど実感した。断るとは思えないけど、それでもきちんと確認しておくことは大切だ。勝手に考えを決めてかかって、分かった気になって。そうして妖精さんに嫌な思いをさせるのは、僕にとって何にも勝る苦痛だから。

 

「まかしてー」

「あたしがちょーせーすれば」

「ひゃっぴゃつひゃくちゅーよー」

 

 僕の問いかけに、しれっと会議室に入っていた妖精さんが応えてくれる。よし、それなら安心だ。

 

「妖精さん、何かあったときは、僕か明石に相談してね? ……いや、明石だけで良いかな? 嫌な事があったら僕に言って欲しいけど、そうじゃなかったら出来るだけ明石の手伝いをして欲しいな」

 

「あいあいさー」

「あかしとはいいわいんがのめそうだ」

「おしごとちゅーはあるこーるだめー」

 

 明石はある程度妖精さんと意思疎通できるみたいだし、直接やり取りしてもらったほうが都合が良いよね。アルコールがどうとか不穏なこと言ってるけど、きっと大丈夫なはず……。

 

「提督……ありがとうございます。感謝します……っ!」

「気にしないでよ。もし疲れがたまったり、体調不良になったらすぐに相談してね? 明石の代わりなんて居ないんだから」

 

「はいっ!」

 

 一晩しっかり身体を休めた明石は、昨晩に比べて幾分か血色が良くなった様に見える。それでも僕の言葉に瞳を潤ませているところを見ると、普段から涙もろいタイプなのかも。

 

「あら、五十鈴たちには代わりが居るみたいな言い方ね?」

「そうですね。さすがに気分が落ち込みます」

「そんなこと思ってないから! 面白がってるよねっ? 五十鈴!」

 

 にやにや笑う五十鈴に、言葉だけは悲しげな加賀。というのも、彼女は澄ました表情のままそんなことを言ったのだ。冗談なのか本気なのか……。

 

「霞も、五十鈴に言ってやってよ。会議中にふざけるのは良くないよね?」

「……フンッ!」

 

 霞に助けを求めるも、何故か不機嫌そうに腕を組み、ぷいっとそっぽを向かれてしまう。なんでだ。

 

「あはは……。とりあえず、今日の会議はこんなところですかね?」

「そうだね。今日から新しい鎮守府として、皆で支えあっていこう!」

 

 明石の言葉が結びとなり、僕の締めの言葉で会議は終了した。

 そんなこんなで、新・暁光鎮守府の新しい歩みは始まったのだった。

 


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