妖精さんの勧めで提督になりました   作:TrueLight

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48.最強の鎮守府

 

「今日は召集に応じてくれてありがとう。もう事情は説明したと思うけど、君たちには大本営が編成した艦隊と演習をしてもらう。

 まぁ、負けたからといって何か罰則がある訳でもないんだけど……やるからには勝ちたいところだね」

 

 大本営からの電文を受けて幾日が過ぎ、僕は提督室に数人の艦娘を招いていた。当然、件の演習に参加してもらうメンバーだ。

 

「旗艦、航空戦艦、扶桑。戦艦、金剛。軽空母、隼鷹。同龍驤。軽巡洋艦、天龍。駆逐艦、朝潮。

 ……うん、欠けることなく揃ってくれて嬉しいよ。何か聞きたいことはあるかな?」

 

 名簿と眼前に並んだ艦娘を改めて確認し、次いで彼女たちにそう問いかけた。

 

「HEY、提督ぅー! もし勝ったら、約束とは別にご褒美を期待しても良いですカー?」

 

 即座に挙手したのは金剛だった。今回の演習にあたって、一番初めに参加するよう頼んだのは彼女なんだけど……。その際、食糧とは別に嗜好品を用意してくれるなら参加する、と言われていた。

 

 艦娘に休暇を与えても、やることが無くて困ってしまうという話は僕も聞いていたので、むしろその申し出は有り難かった。提督である僕にそういった要求を直接してくれるのは、良い環境が作れていると実感できるしね。

 

「もちろん構わないよ。僕の裁量で用意できる範囲にはなるけど」

「YES! その言葉が聞きたかったデース!!」

 

 嬉しそうに跳ねる金剛を尻目に、他のメンバーにも目を向けてみる。

「どうかな、何か気になることは?」

 

「……じゃあ、うちもええかな?」

「どうぞ、龍驤」

 

 おずおずと進み出たのは龍驤だ。金剛とは対照的に、不安げな表情を浮かべている。

 

「やっぱり、うちより加賀とかに頼んだ方がええんちゃうの? 単純な戦力としてもそうやけど……うち、搭載数に偏りあるし、使いづらいと思うで?」

 

 自嘲するような笑みで頬を掻く龍驤に、少しやるせない気持ちになる。

 艦載機の運用が他の空母に比べて難しいのは事実だろう。しかし、その運用は結局提督の指揮に委ねられる。艦娘達が、自分の性能にコンプレックスを抱くのはおかしな話だ。

 

 なら、何故そうなってしまったのか? 簡単な話だ。龍驤が、今までの提督にそう言われ続けたからだろう。他の空母に比べて使いづらい、戦力にならない、と。

 

「心配ないよ。龍驤にしか頼めないことだと思ったから頼んだ。それだけだから」

「で、でもなぁ……。……せめて一つ、理由を教えてくれへん? そしたらうちも、自信もって出撃できるっちゅうか……」

 

 尻すぼみになっていく言葉は、紡がれるたび龍驤の顔色を悪くする。もし、確固たる理由なく選ばれていたら。同情で編成され、最初から期待なんてされていなかったら。

 そんな風に考えているのが分かる。分かってしまう。

 

「……作戦概要として、これから話すつもりだけど。最初にこれだけ説明しておこうかな。

 今回編成したメンバーは客観的に見て、大本営の編成に比べると一目で『弱い』と感じられる編成だ」

 

 六人の顔を見回すと、僕の発言に対して否定の色は見えない。当然、その面持ちは明るいとは言えないけれど。

 

「件の演習は、それなりに人目を集めると思う。大本営自体、人の出入りが多いからね。イベントとして宣伝しなくても、見学しに来る提督や艦娘は決して少なくないはずだ。

 ……そんな注目を集める中で、このメンバーが大本営の艦隊を倒す。そのことに意味がある」

 

「どういうこっちゃ……?」

「浮上艦の汚名返上ってことさ」

 

「「「!!」」」

 

 僕の言葉に、その場の六人は明らかに動揺した。

 

「大本営や他の鎮守府から蔑まれている浮上艦が、大本営の用意した艦隊に。

 それも明らかに不利な編成で勝利する。それを見て、集まった提督や艦娘はどう思うだろうね? 少なくとも、大本営がこの鎮守府の艦娘に難癖付けることは出来なくなる」

 

「っ、でもそれは、勝てたらの話やろっ!? 今キミが言ったやないか! この面子は大本営の艦隊より弱いって!!」

 

「客観的に見て、って言ったはずだ。僕はこの編成で、間違いなく勝てると信じているよ」

「んなっ……っ!? ……せめて、根拠を聞かせてぇな。作戦がどーの言うのはそれからや……!」

 

 降って湧いた、信じられないような夢物語。龍驤からすれば、今の僕はペテン師にも等しいだろう。恨みがましい瞳で、僕を正面から見据えている。

 だけど、僕の言葉は全て本心だ。淀みなく、彼女が求める根拠を口にした。

 

「第一に、君たちの練度だ。明石からも聞いているけど、この鎮守府には今まで、妖精さんがほとんど存在しなかった。妖精さんのサポートも無く、最前線の鎮守府を守り続けた君たちの練度は、間違いなく全鎮守府の中で頂点だと思う」

 

 考える素振りも見せず、滔々と語る僕に対し。龍驤以外の五人も唖然とした様子で聞き入っていた。

 

「第二に、妖精さんの存在だ。妖精さんが居なくても十全に深海棲艦を撃退してきた君たちに、その上サポートが付く。艦娘単体の性能からして、他の鎮守府とは比べ物にならないよ」

 

「妖精のサポートが付いとんのは大本営も一緒やろ?」

 

「その妖精さんが言ってたのさ。『ほんきだせる』ってね。妖精さんは艦娘をサポートするけど、お遊びの範疇らしいんだよ。本気で手助けすると、艦娘がそれに対応できなくて逆に危険だって。でも、この鎮守府の艦娘なら、本気でサポートできる。そう聞いたんだ。

 ……これに関しては、僕の言葉を信用してもらうしかないけどね」

 

「……ははっ。それがホンマなら、悪い気はせぇへんな……」

 

 気の抜けた様子で息を漏らす龍驤。少しくらいは、この編成で勝てるかも、と思ってもらえただろうか。

 まだ根拠という面では、話すことがあるけどね。

 

「第三に、兵装だね。調べた限りは大本営を始めとして、他の鎮守府ではほとんど装備の開発を行わない。使用するのは、いわゆる持参装備。艦娘の建造時、初めから君たちが装備しているものだね。何故かわかるかい?」

 

「……開発に失敗することの方が多いからや。その点、建造は同時に装備も手に入る。装備の開発は非推奨とさえ言われとるしな。開発するくらいなら建造しろっちゅうのはよく聞く話やで」

 

「その通り。……実はね、君たちにはまだ言ってなかったけど。今回の演習に向けて装備の開発にも手を付けていたんだよ」

 

「はぁ!? 資材をドブに捨てる気かいな!!」

 

「まさか、艦娘(きみたち)が命懸けで集めてくれたものだ。欠片も無駄にする気はないよ。

 そもそも、装備の開発はなんで失敗する? 原因はなんだろうね?」

 

「そら、開発は妖精に任せるしか……っ!」

 

 僕の問いに考えを巡らせた龍驤は、一瞬で答えに辿り着いたようだ。

 

「うん、そういうこと。実際に装備の開発をする妖精さんと、言葉を交わせる人間が居なかったから。人間が妖精さんの言葉を聞きとれないように、妖精さんもきちんと聞きとれている訳じゃない。良かれと思って作った装備を解体させられたり、時には(なじ)られたりする。開発に失敗するのは、妖精さんが手を抜いてるからなんだ」

 

「じゃあ……キミは……」

「欲しい兵装を、必要な資材だけを消費して、確実に開発できる。作ってくれるのは妖精さんだけどね」

 

「ハハハ……何やソレ。無茶苦茶やんか……」

 

「君たちが演習で扱う兵装は、間違いなく大本営が用意したものより強力だ。

 ただでさえ熟練の艦娘である君たちを、妖精さんが全力でサポートして、振るう装備は敵の上位互換。そのうえ敵編成を把握していて、それを織り込んだ作戦を遂行する。どうかな、根拠としては十分じゃないかな?」

 

「……ええで、十分や。うちにしか出来ない仕事ってのも、きちんと説明してくれるんやろ? それならキミのこと、信じるわ」

「もちろん。君にしか頼めない仕事と、その理由をきちんと話すよ。他に、聞きたいことは?」

 

「大丈夫デース! それより、早く作戦を聞きたいネー!」

 

 僕の説明に高揚してくれたのか、金剛が前のめりで口を開き。他の四人も、戦意に満ちた表情で頷いてくれた。

 

「……じゃあ、改めて。作戦概要を説明させてもらうよ」

 

 ただ一人。入室してから今まで、瞳を伏せたまま。

 微動だにしない扶桑だけが気がかりだった。

 


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