妖精さんの勧めで提督になりました   作:TrueLight

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49.金剛と扶桑

「扶桑と一緒に戦いたい?」

 

 大本営との演習に参加して欲しいと、先日僕はとある艦娘の部屋を訪れていた。金剛型戦艦一番艦、金剛。そしてその姉妹たちが過ごしている艦娘寮の一室だ。

 

 金剛はこの暁光鎮守府の戦艦の中で最古参であり、錬度が最も高い。戦艦は金剛と、彼女が推薦する金剛型戦艦一人の計二人を編成しようと思っていたんだけど……。

 

 そのことを伝えると、彼女は扶桑型戦艦一番艦、扶桑と共に編成して欲しいと言い出した。

 

「YES.提督はワタシに気を遣ってくれたんだと思いマスが、それなら扶桑を旗艦に推薦したいネ」

 

 扶桑も金剛と同じく、この鎮守府で長らく活躍している。実は彼女にお願いしようかなとも考えたんだけど、姉妹一緒に編成した方が士気向上に繋がるんじゃないかと思い、今回は金剛型二人を想定していた。

 

 扶桑型姉妹ではいけないという訳じゃない。単純に、暁光鎮守府には扶桑の妹、山城が着任していないんだ。なので一旦想定から外していた。

 

「扶桑では不満デスか?」

 

 スッ、と。金剛の眼差しが冷たい色を帯びた気がする。何か思うところがあるんだろうかと考えつつも、思ったままを口にした。

 

「そんなことないよ。ただ、妹と一緒のほうがやり易いのかなと思ってたから。君が扶桑を旗艦に推すなら、それを基準に編成を考えるよ。本人に確認してからになるけどね」

 

「……そうデスか。それは良かったネ! ちょっと謙虚過ぎるところはありマスが、扶桑はここの戦艦で一番旗艦に向いてると思いマース!」

 

「そうなんだ? ……たしかに航空戦艦は色んな装備を扱えるし、どんな敵編成でも活躍できそうだね」

 

「そう思ってくれマスかっ!?」

「わぁっ!?」

 

 扶桑の艦種に思いを馳せつつこぼすと、金剛は予想外の食い付きを見せた。

 

「あっ、失礼しまシタ。……実は、扶桑とは前の鎮守府からの付き合いなのデース」

「前って……暁光鎮守府に来る前の?」

 

 頷きつつ、彼女は言葉を続ける。

 

「扶桑はその鎮守府で、最初に着任した戦艦デシタ。浮上艦とは言え、運営を始めたばかりの鎮守府では、戦艦は貴重な戦力デース。扶桑はそれなりの時間、そこで旗艦を務めたネ」

 

「そうだったんだ。それで旗艦に推薦を?」

 

 僕の問いかけにゆっくり首を振り、金剛は記憶を探るように、窓の外に視線を向けた。

 

「もちろんそれもありマスが……結果から言うと、扶桑はそこで戦力外通告を受けたのデス」

「……どうして?」

 

「理由はいくつか考えられマス。まず、扶桑が一時改装に成功して……航空戦艦に改造されたこと。次に、その鎮守府で戦艦の建造に成功したこと。そして……多分、扶桑が浮上艦であったことデース」

 

「……たしか扶桑は、航空戦艦に改造すると主砲の火力が下がった筈だね。それを嫌ったのか……」

 

「YES.以前なら一撃で倒せていた筈の深海棲艦に手こずる扶桑を、そこの提督は毎日罵るようになりマシタ。それまでは扶桑が旗艦、ワタシが二番艦として出撃することが多かったのデスが……ワタシを旗艦に、建造した戦艦を二番艦にすることが増えたネ」

 

「じゃあ……ここに来たのは」

 

「二人目の戦艦建造に成功したからデス。その頃には一人目も十分戦力に数えられマシタし、ワタシと扶桑はお払い箱になってしまいマシタ。……第二艦隊として活動する機会は、ワタシにも……当然、扶桑にも与えられなかったネ。浮上艦を手放す良いタイミングだと思ったのかも知れないデス」

 

 予備戦力として数えることもせず、最低限の編成を建造艦のみで行えるようになったらすぐ、用済みと手放した訳だ。反吐が出る。

 

「ここに来てからは、一緒に出撃することは?」

 

「一切無かったネ。最前線デスから、多方面に同時出撃することが多くて……戦艦はだいたい一艦隊に一人だったヨ。鎮守府の防衛もあるからネ。だから、いつかまた……また一緒の艦隊で、扶桑の傍で戦いたいと思ってたんデース」

 

 そう締めくくった金剛の瞳は、どこか挑戦的に見えた。自分と戦友を、下らない理由で手放した人間に。大本営を下すことで、その力を見せ付けてやろうと、そう言っているように感じられた。

 

「……分かったよ。僕も扶桑の様子は気になってたし、この機会に腹を割って話してみるよ。それで旗艦を頼めることになったらよろしくね、金剛」

 

「嫌デスネー提督ぅー。それとこれとは話が別デース! 扶桑が旗艦なのは前提条件ネ! その上でワタシにも出撃を求めるなら、相応のリターンを要求しマース!」

 

 うわぁ、急にテンションがおかしくなった。左手を腰に当て、右手の人差し指を『チッチッチッ』と揺らす彼女に、どこか既視感を覚える。

 

 ……あっ、あれだ。僕が普段のお礼にと妖精さんにお菓子を贈った時だ。一瞬でぺろりと平らげた後、『もっとあるんでそ? はやくくだち』と(のたま)った時のふてぶてしさに似てる。

 

「……まぁ、聞くだけ聞いてみようか」

 

 ちょっと呆れはしたものの、僕も艦娘の要求に応じることはやぶさかじゃない。いつもお世話になってるしね。

 

「普段からティータイムが取れるよう便宜を図って欲しいデース!」

「……ティータイム、ねぇ……」

 

 僕が思わず腑抜けた声を漏らすと、金剛は心外だとばかりに声を荒げた。嫌味に聞こえてしまったみたいだ。

 

「馬鹿にしてはNOデース! モチベーションに関わるネ!!」

 

 史実において金剛はイギリスで建造されたらしいし、その辺が関係してるのかな? イギリスに詳しいわけじゃないけど。イギリス=紅茶って発想がもう安直というか。

 

「……何か失礼なこと考えてるネ?」

 

 鋭い!

 

「そ、そんなことないよ。えーと、あれだ。ティータイムに必要なものって色々あるなーと思ってさ」

 

 僕の弁解などまるで信じていないと言うように、金剛はジトっとした目で徐々に顔を寄せてくる。

 

「まずは紅茶だよね! あとティーカップに……金剛は四人姉妹だから、四人で囲めるテーブルと椅子が要るかな? お茶菓子もあると良いよね! 妖精さんも甘いもの好きなんだよ!?」

 

 鼻と鼻が触れそうな距離、僕がそこまで言ってようやく金剛は離れた。

 

「Wow! そこまでは望んで無かったのに、提督は太っ腹デース!」

「……ちゃっかりしてるなぁ」

 

 いや、僕の自爆か。この喜びようを見るに、ホントに紅茶さえ用意すれば良かったって感じだ。いいんだけどね、実はもらった給金が手付かずだし。

 こういう機会に使わないと、宝の持ち腐れだ。

 

「分かった。次に食材とか備品を送ってもらう時、一緒に頼んでおくから。テーブルとか椅子のサイズ、まとめて提出してね。茶葉とか拘りがあったらそれもね」

 

「……ホントに良いんデスカー?」

 

 おや、さっきまでのテンションとは打って変わって、少しばつが悪そうにしている。まさか僕がそこまで散財することになるとは、本人も思ってなかったんだろうね。

 

「良いよ、お金の使い道が無いんだ。趣味も無いし友達は妖精さんだけだから。知ってるでしょ? 僕のお金で君たちが笑ってくれるなら、僕も嬉しいよ」

 

「…………」

 

 あれ、金剛が俯いてしまった。どうしたんだろうと思い、顔を覗き込もうとした、その瞬間。

 

「……Burning Looooooove!!」

「どわぁっ!?」

 

 急に飛び掛ってきた金剛に押し倒され、床に頭をぶつけてしまった。

 

「提督ぅーー! 愛してるネーー!!」

「現金な愛だなぁっ!!」

 

 なんだなんだと近くを通った艦娘の注目を集める中、こうして演習艦隊の一人目が決まったのだった。

 

 そして実は、金剛の後はトントン拍子に決まった。そもそも艦娘は、提督の僕が頼めばよほどのことが無い限り首を横には振らない。それは件の扶桑にしてもそうだった。

 

 金剛からの推薦があったこと、僕自身も扶桑に旗艦を頼みたいこと。それを伝えてすぐ、扶桑は一言口を開いたのだ。

 

『……承りました』

 

 最初は断られると思っていたし、その場合はきちんと話し合おうと思っていた。しかし思いのほか簡単に決まってしまったので、金剛に言ったように『腹を割って話す』という機会は逸してしまったように思う。

 

 どこかそれを不安に思いながらも、演習に向けてすべきことは山積みだった。

 結局、扶桑としっかり言葉を交わすことは出来ず。演習メンバーの六人に作戦を伝えてからも慌しく日々は過ぎて行き、あっという間に大本営との演習、その当日を迎えるのだった。

 


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