妖精さんの勧めで提督になりました   作:TrueLight

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51.航空戦―SIDE扶桑―

「さぁ始めるで! 艦載機のみんな、お仕事お仕事ー! 偵察隊、発進!!」

 

 大本営艦隊との演習が始まった。単縦陣で航行を開始すると同時、艦隊を率いて先行する私の背後で龍驤が艦載機を発艦する。

 

 本演習において提督から下された作戦、その第一段階。偵察機による触接を行い、敵艦隊の動向を先んじて把握すること。

 

 この戦い、おそらく敵艦隊は艦上偵察機を利用してはいない。なぜなら、交戦ポイントが大本営によって指定されているからだ。

 

 互いの出撃地点は、沖に向けて極端に突き出た高い崖を隔てていて、しばらく航行しないと敵を視認できない状況にある。交戦ポイントは崖の先端部だ。

 

 通常、艦上偵察機を用いるのは敵を発見したり、交戦が予想される地点の気象状況や地形を把握して作戦方針を定めるため。それらが事前に通達されている以上、偵察機を飛ばす必要性は低いと言っていい。

 

 演習では敵編成の偵察を始めとした情報戦は開始前に行われるものであり、始まれば艦隊同士が全力でぶつかり合うだけ、というのがセオリーだ。

 

 しかし、提督はそれを良しとはしなかった。艦娘個々人の地力が敵編成に劣るとされている以上、常に相手の情報を把握し、臨機応変に立ち回るべきだと。

 

 そして、その指揮を私に委ねると。作戦説明の席で、そう仰った。

 

「……空はあんなに青いのに……」

 

 思わず漏らしてしまう。しばらくすれば夕方に差し掛かる時間だというのに、抜けるような快晴の蒼穹。浜辺に腰を落ち着けて、頬を撫でる風に髪をそよがせて。きらきら光る水平線を日が落ちるまでゆっくり眺めていられたら、どんなに心地良いだろう。

 

 そんな考えが脳裏を過りつつも、心底からそんな感傷に浸ることは出来ない。艦隊のメンバーから入る報告を吟味し、常に最適だと思われる指示を下す。それが旗艦としての役割なのだから。

 

 今しがた綺麗だと感じたような気がする青空を、すでに何とも思っていない自分に意外感を覚えることもなく、続く龍驤の言葉に耳を傾けた。

 

「っ、触接成功や! 気取られた様子もないで! 単縦陣既定路線!」

「了解。二人とも、予定通りに」

 

「よーし、戦闘隊! 発艦しちゃってー!!」

「一気に決めるで……攻撃隊、発進!」

 

 敵艦隊の行動が想定通りであることを確認すると、龍驤と隼鷹に一言指示を出す。二人は迷うことなく艦載機を発艦した。

 

 先行して飛ばされた少数の偵察機とは違い、渡り鳥の群れが一息に飛び立つように、無数の艦載機が交戦ポイントへ飛翔する。

 

「敵艦隊の艦載機発艦を確認や! これも想定通り! こっからやでぇ……!!」

 

 艦上偵察機によって敵艦隊の動きを補足し続けている龍驤が、苦しそうに呟いた。……提督から下された、彼女の役割を果たしているのだ。空母ではない私には、艦載機の運用がどのような感覚で行われるのか理解できない。

 それでも、聞いているだけで目が回るような難しい任務を、彼女は遂行している。

 

「航空戦に突入したよぉ! ふふん。ここで全力で叩くのさぁ……いっけぇ!!」

「敵攻撃機、確認できとるな!? しっかり落とすんやで……もうちょい下や! 早めに!!」

「はいよぉ!!」

 

 隼鷹の発艦した艦載機が敵艦載機と交戦に入ったらしい。ここでどちらの艦隊に制空権が渡るかが決まる。これで予定通りに行かなければ、作戦は水泡に帰すと言っても過言ではないけれど……。

 

「いけるいけるぅ! 敵艦載機、ほぼ撃墜してる! 八割以上いってるんじゃね? どうよ龍驤!?」

「あのさぁ、うちはまだ集中してんねん……! ……よし……抜けたで……っ!」

 

 龍驤の独白に、仲間がみんな固唾を飲んでいるのが分かる。……私も、心のどこかが焦れるような感覚を自覚した。どうなったの……? 作戦は、上手く行っているの……?

 

「……っ! やった……」

「!」

 

 一言漏れた、気の抜けたような呟き。それを聞いた私は、すぐに問いを返す。

「龍驤。報告は正確に。作戦の成否は?」

 

「大成功や! 蒼龍をかばった飛龍、及び長良に直撃! たぶん大破しとるで! かばわれた蒼龍も目算で小破以上! 甲板の具合によっては中破見てもええで!」

 

「Wow! Congratulations!」

 

 龍驤の言葉に金剛が声を上げ、黙って報告を待っていた各艦が息を漏らすのが通信で伝わった。……正直、私も安堵している。

 

「龍驤、あたしの戦果は!?」

「手応えどおりや、九割は落ちとる! 制空確保!! 一応、撃ち漏らしは警戒するんやで!?」

 

「ひゃっはー! 帰ったら乾杯だぁー!!」

「聞いとんのかいな!!」

 

 狂喜する隼鷹に返す龍驤も、声音は喜びに満ちていた。

 

 今回の作戦、航空戦が一番のネックだった。それも当然で、敵艦隊には正規空母が二隻、こちらには軽空母が二隻。艦載機の搭載数が劣る以上、同じような運用をすればほぼ競り負けるのだから。

 

 しかし逆に、提督はそれを好機と捉えた。演習における艦隊の編成や装備には一定のセオリーがあり、有利な立場にある者はそこから外れた行動はとらない。基本であり、作戦として盤石とされるからセオリーと呼ばれるのだから。

 

 敵空母の艦載機運用予測は……空母一隻につき、艦上攻撃機が二枠、艦上戦闘機が二枠。敵艦隊に比べてこちらの艦娘の装甲が薄い以上、比較的耐久力のある私と金剛を攻撃機の雷撃で一掃し、残存勢力を砲撃戦によって沈める速攻を仕掛けるだろうと提督は予想した。観戦の目もあり、その方が演習の結果として分かりやすくもある。

 

 それに対抗するため、提督は……。

 

「思ったより上手く行ったねぇ! ……しっかし、艦載機を全部戦闘機にするなんて、最初は何言ってんのかと思ったけど……。いやー、気持ちよかったぁ~!」

 

 そう、隼鷹に艦上戦闘機四枠の搭載を指示した。敵二隻の戦闘機各二、合計四枠に対して。敵艦隊への攻撃を一切放棄する代わりに、隼鷹が敵艦載機を全て排除する作戦。そして。

 

「おかげでうちの攻撃隊もしっかり届いたで! ……よし、飛龍と長良が艦隊から外れた。大破確定や! 航行にまだ加わっとる蒼龍は一応警戒やね!!」

 

 龍驤が操った艦載機。はじめに発艦した艦上偵察機のほかに……攻撃機、爆撃機、戦闘機を各一枠ずつ。いわゆる戦爆連合を行うための運用方法だった。

 

 戦爆連合は戦闘機によって制空権を確保したのち、攻撃機の雷撃と爆撃機の急降下爆撃によって大きなダメージが期待できる。けれどこれは、最低でも制空状態を優勢以上にする必要がある。敵の戦闘機が多く残っていれば、攻撃機も爆撃機も諸共撃墜されてしまうだけ。

 

 正規空母二隻と軽空母二隻の航空戦では、軽空母側がまず行うまいと断じて良い作戦。仮に同じことを他の鎮守府がやっても、成功する確率は絶望的だと思う。

 

 なら、何がこの作戦を成功に導いたのか。……提督から告げられた言葉通りだった。

 

「烈風の撃墜力は爽快だね! 妖精のサポートのせいか、発艦も指示もスムーズだし!!」

「せやなぁ……。良い装備もそうだけど、妖精の手伝いはホンマありがたいで。いつもみたいに一人やったら、こんな複雑に飛ばせへんもん」

 

 開発によって用意された新しい装備と……提督が連れてきた妖精の力。龍驤は今回、四種類もの艦載機を同時に操って見せた。

 

 偵察機による索敵と、触接を維持しての動向把握。次に、戦闘機を……攻撃機と爆撃機の補助に使った。制空争いには極力参加せず、他の戦闘機に落とされないよう遮蔽し、空路に敵艦載機があれば撃墜して道を作る。隼鷹の戦闘機をカモフラージュにしつつ、触接していた偵察機の誘導により敵に肉薄。

 

 最後には作戦通り……攻撃機の雷撃と、爆撃機の急降下爆撃によって敵艦隊の半分にダメージを与えた。

 

 龍驤が搭載できる艦載機の四枠は、搭載数の偏りが激しいそうだ。一枠だけが一般的な軽空母の最大搭載数に迫り、他三枠が極端に少ないのだという。

 提督はこれを利用して、今回の戦爆連合を指示した。もし普通の扱いやすい(・・・・・)とされる空母でこれを狙っていれば、偵察機を用いずとも発見され、航空戦で集中砲火を受けていただろう。

 

 攻撃機の存在を気取られないように。大雑把な運用に見える大量の戦闘機と、ごく少数の偵察機で丁寧に敵艦隊へ運んだのだ。

 

 これは装備や妖精の力だけでなく。……それらが無くとも戦ってきた艦娘としての練度が決定打となったのだろう。何もかも、提督の作戦の……言葉の通りだった。私が旗艦である必要なんて、欠片も無いほどに。

 

「そろそろ交戦ポイントや! 敵単縦陣のまま、到達予想時間に若干のずれ! 被弾した蒼龍の航行速度に合わせとるな……チャンスやで!」

 

 龍驤からの報告で、作戦は全て順調に進んでいることが分かった。一番の懸案事項が杞憂に終わった以上、あとは想定から外れないよう行動するのみ。

 

「そのまま単縦陣にて航行。金剛、天龍、朝潮、龍驤は先行し、可能ならば頭を押さえて。丁字戦に持ち込めれば盤石です」

 

「Yes! 私たちの出番ネ! 油断せず行きマース!!」

「うっしゃぁっ! 戦艦だろうがぶっ飛ばしてやるぜ!!」

 

 私が指示すると同時、金剛と天龍が脇を一直線に抜けていき、朝潮がすれ違いざまに会釈。最後に龍驤が虚空を見つめながら追従していく。……きっと今も、偵察機で敵艦隊の動きを監視しているのね。

 

「か~っ、やっぱ高速艦はあたしらに合わせなきゃ速いねぇ~!」

 

 役目をほとんど終えた隼鷹が、私に並走しつつ楽し気に口を開いた。……その緊張感のない様子が、少し憎らしくなる。

 

「まだ戦闘は終わっていないわ。敵戦艦が弾着観測射撃を狙って水上偵察機を寄こさないとも限らないのだから。制空権の確保を厳として」

 

「あいよ~。ま、いざとなりゃああたしが盾になるし、扶桑はどーんと構えてなってぇ!」

「……頼りにしてるわ」

 

 隼鷹には何を言っても無駄そうだと割り切り、先行した仲間の動向に集中する。……敵には超弩級戦艦、長門型が二隻健在。制空権を確保し、艦隊単位で優位に立ったとはいえ、一発の砲撃が戦況を引っ繰り返す可能性は零じゃない。

 

「……夜戦に入る前に、終わらせたいところね」

 

 思ったよりも赤みを帯びてきた空を視界に収めつつ、私は誰にともなく呟いた。

 




航空戦仕様や各艦載機の挙動についてはwikiを参照しました。
間違ってたらすみません。

艦載機についてご指摘いただいたので、一部表現を修正しました。助言ありがとうございます!

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