妖精さんの勧めで提督になりました   作:TrueLight

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54.一騎討ち―SIDE島風―

 今回の任務が元帥から下されたとき、思ったことは『面倒くさいなぁ』だった。深海棲艦を沈めるための出撃任務ならともかく、他所との演習艦隊に加われだなんて。

 

 私は他の艦娘とはちょっと違う。建造艦でも浮上艦でもなく、気づいた時には海を航行し(はしっ)ていて。五人の仲間と共に深海棲艦を屠っていた。

 

 私が生まれた瞬間は、イコール艦娘と深海棲艦がこの世に現れた瞬間。もっと言えば、人類と深海棲艦の戦いの歴史の始まりだった。

 

 どの駆逐艦よりも早く戦い始めた私は、当然どの駆逐艦よりも強いし、速い。同程度の艦隊同士の演習に私が加わったら、それだけで勝敗が決まっちゃうくらい。

 

 と言っても、乗り気じゃないのは勝ち戦だと分かっているから、というだけが理由じゃない。参加を命じられた演習は、どうやら対立している元帥同士の代理戦争のようなモノらしいからだ。

 

 一方は最近大本営に配属された新進気鋭のエリート提督。士官学校を主席で卒業した優秀な新人で、場数を踏めばすぐにでも第一線で指揮を取れるだろうと言われている。

 

 片や民間上がりの素人提督。妖精から異常に好かれている、なんて理由で提督に抜擢された憐れな人身御供。最初に着任した鎮守府での活躍ぶりから、最低限の運用と時間稼ぎは出来るだろうと提督不在の最前線に放り出されたとか。

 

 この両人の上司が派閥争いをしていて、私はそれに巻き込まれたのだ。くだらなーい。海から化け物が襲ってきてるのに、人間同士で争うなんてバカバカしい。出来れば断りたいけど……そうも言ってられない。

 

 私と五人の仲間たちは、強すぎる故に慎重に扱われすぎているのだ。あんまりワガママばかり言っていると、討伐任務に呼んでもらえなくなる。

 

 大本営の最終兵器みたいな扱いでちやほやされるのも悪くないけど、私たち艦娘は提督の指揮が無いと満足に戦えない。できるだけ要請には従って手軽さをアピールしなきゃいけない。

 

 艦娘である以上、生を実感できるのは戦場。けれど直属の提督が居らず、大本営つきとなっている私たちは、各提督からの協力要請がないと出撃すらままならないのである。

 

 まぁ、自分で提督を指名することも出来るけど……これと言った人はなかなか見付からないもので。結局は大本営の指示に従うくらいしかやることが無い。

 

 つまるところ断るなんて選択肢は無くて、私は新人エリート提督の指揮下に入った。元帥同士の折衝の結果、装備は酸素魚雷のみ。昼戦中心で魚雷だけって言うのはそれなりのハンデだけど、これは仕方ないかな。

 

 何せ相手は私のような助っ人を呼ばなかったのだ。よほど自分の艦隊に自信があるんだろう。……まぁ、元は民間人らしいし、私のような存在を認識していない可能性もあるんだけど。

 

 ともあれ、私はやる気が無いまま魚雷のみを携えて演習に臨むことになった。

 そして、いざ交戦が始まれば……。

 

『きゃあああああああっ!?」』

 

『そんなっ……!? 飛龍ーーーーっ!!』

 

『長良まで!? くっ……被害報告よ! 飛龍、長良が大破! 蒼龍は……っ』

『うぅ……飛龍が庇ってくれたけど、甲板に被弾して中破っ。もう艦載機攻撃は……っ!』

 

『くそっ……。蒼龍、悪いが隊列には加わっていてくれ。判定に関わるうえ、こちらの航空戦力を落としたと気取られるのは拙い』

 

 開幕の航空戦から圧倒的な窮地に立たされてしまった。編成を見る限り地力は劣っていなかったし、その上私も配属されている。あまりにも予想外の展開だった。

 

(おもしろい……!)

 

 艦隊の皆には悪いけど、わくわくして仕方が無い。未だ艦隊同士が邂逅してすらいないのにこの惨状なのだ。直接交戦に入れば、もっと心躍る戦場になるだろう。

 

(にひっ、ラッキー♪)

 

 どこからか観戦しているだろう仲間たちは、きっと私に嫉妬するだろう。何故自分がこの演習に加われなかったのかと。

 

(……ううん、こんなのは序の口だよね?)

 

 もしかすれば、相手の奇策はこれで終わりかもしれない。過度な期待は禁物だ。それに、油断も。まだ私は、敵艦隊を視認してすらいないのだから。

 

 私が気を引き締めてしばらく、ついに敵が視界に映った。想定より相手は速く……というか、こちらの航行が遅かった。そのせいで、交戦形態は丁字不利。単縦陣で進んでいた私たちは頭を抑えられ、一方的に旗艦を狙われる状況に陥る。

 

『速い艦娘のみで先行したのかっ……!』

『すぐに追いつくからっ! 耐えるのよ、長門……っ!』

 

 私もうかうかしてられない。この調子だと、魚雷の一発も放つ前に終わってしまうかも。艦隊を指揮する提督からの事前打ち合わせでは想定されていなかった状況だし、いちいち指示を仰いでいる暇もなさそう。

 

 全速力で疾走、すぐに旗艦の長門さんに追いついた。けれど、敵の攻撃が直撃したらしく、彼女は煙に包まれている。……ん?

 

『長門無事っ!?』

『……あぁ、なんとかな』

 

「意見具申。三時方向から偵察機と思しき艦載機が飛来。陸奥さん、対処できる?」

 

 視界に映った影の正体に思い至ると、私はすぐに通信を飛ばした。高角砲……いや、主砲の一つも持っていれば私が落とすんだけど、さすがに魚雷じゃどうしようもない。

 

『えっ!? っ、私も確認したわ。撃ち落とす!』

 

「おねがーい。じゃ、私出るから」

『承知した。左舷から回り込んでくれ』

 

「りょうかー……いっ!」

 

 長門さんの了承を得た私は、霧を引き裂いて加速する。旗艦を追い越し、指示通り左舷から敵艦隊に接近を開始……対応が素早い。すぐに艦隊から一人、駆逐艦がこちらへ向かってきた。朝潮かぁ……。

 

 今現在、交戦している敵艦隊の艦娘は四人、こちらも四人。数字だけ見れば拮抗しているけど、あちらは二人合流予定だし、こちらは蒼龍さんが中破でまともに参戦できない。実質六対三だ。

 

 こちらに勝機があるとすれば、敵艦隊に肉薄して乱戦に持ち込むこと。それを相手はしっかり理解している。だからこそ、すぐに朝潮をこちらに向かわせたんだ。偵察機でこっちの状況を監視していたんだろう。鳳翔さんなら絶対見逃さないだろうなー。

 

 考えつつも海面を切り裂き、ついに一騎討ち。朝潮は淀みない動作で主砲を放ってきた。私の進路へ先に牽制射撃、足を止めたところを狙うように連撃を繰り出す。経験に裏打ちされた戦い方。

 

「はやーい。それに自信家だね」

 でもそれは、それでどうにかなる敵にしか通用しない。錬度の足らない艦娘……まともな思考回路を持たない深海棲艦。私は、そのどちらでもない。

 

 避ける、避ける、避ける。……さて、そろそろオーバーヒートするんじゃない? 軍艦サイズならともかく、私たち艦娘の主砲は高速連射が可能。けれど、その弊害として加熱による動作不良を起こすことがある。ここまで撃ちっぱなしだと、私の経験上いつ起こっても不思議じゃない。

 

 避ける、避ける、避ける……あれ? うそっ?

「わっ、わわっ? これはっ、予想外かもっ!」

 

 全然止まらない! どころか、私の動きに適応して先読みで連射してくるっ! なんとか避けられてるけど、このままじゃジリ貧! これはっ……。

 

「これは、ちょっと楽しめそうかも?」

 

 手札を切ろう。この朝潮は、それを使うに値する艦娘だ。というか、使わないとそのまま負けちゃう。

 

 ――集中する。身体中の感覚が鋭敏になるのが自覚できる。視界でキラキラと陽光を反射する、飛沫の一つ一つすら知覚できるまで。思考を加速させ、四肢からは余分な力を取り払う。

 

 集中して、集中して、集中して――その先で、ほんの僅かな瞬間。時間が止まる。タイミングは合わせた……ここっ!

 

 朝潮の放った弾丸を、身体を捻って避ける。向こうからは捻っているどころか、足を滑らせて転倒しているようにすら見えるだろう。上半身――腰が海面すれすれを通って……。

 

 回避行動によって起こる遠心力が、魚雷の針路調整に干渉しない角度。高速着水による衝撃がジャイロスコープに不調を来たさない射出位置。脚部の航行装置が飛沫を上げる音に発射音を紛れさせ、射出機構が朝潮からは死角になる、その刹那――。私は魚雷を射出した。

 

 鋭敏になった身体機能に別れを告げて、出し惜しみせず同時に放った複数の弾頭を見送る。さぁ、これでやっと一人……っ!。

 

 瞬間、私に向いていたはずの朝潮が構える主砲が、海面へと弾丸を叩き込み……魚雷を爆発させた。

 

(お見事!)

 

 湧き上がる賞賛と歓喜に背中を押されるように。私は眼前の水柱を左から回りこみ、朝潮に肉薄する。一瞬前まで私が居た空間を、何発もの弾丸が穿っていった。良い判断だけど、私の挙動には追いつけていない。

 

 さらさらと水飛沫が風に流れる中、私は朝潮の姿を捉えた。

 

「おっそーい」

 

 からかう様に零してしまったのは、驚く彼女の顔が見たかったからかも。でも、良くも悪くもそれは裏切られる。

 

 こちらを視認するより先に、薙ぎ払うように朝潮の主砲が火を噴いた。

 

「やるね」

 

 再び避ける。それぞれは真っ直ぐに、しかし空中に弧を画くような弾丸の群れを、限界まで身体を捻って見送る。どちらにとっても好機。ここで体勢を崩せば被弾は免れない私を、朝潮は見逃すまいと畳み掛ける。そして私は、もう一度魚雷を放った(・・・・・・・・・・)

 

 今度は死角からとはいかないけど、状況を打破するには十分なタイミングだった。先ほどと同様に水中で爆破させるにしても、間違いなく彼女を巻き込める。

 

 私の行動は予想外だったのだろう、朝潮は顔を驚愕に染めた。しかし……それを無視してこちらを撃ち続ける。苦し紛れのブラフに見えたのかな、ざーんねん。でも……。

 

「使い切っちゃった。引き分けかなー」

 

 鈍い爆発音。朝潮を中心に巻き起こるいくつかの水柱を見て、私はそうごちた。唯一搭載していた武器を、たった一人の駆逐艦に使わされてしまった。互いを無力化したという意味では一騎討ちこそ引き分けだけど、艦隊戦としては完全敗北だ。私の目から見て、ここから長門さんたちが敵艦隊に勝利する可能性は万に一つもないだろう。敵艦隊の朝潮を除いた五人が、彼女と同程度の錬度を誇るのなら尚更。

 

「でも、何もせずにってワケにもいかないよねー」

 

 主砲はなく、魚雷を撃ち尽くしたといっても私は無傷。敵の懐に潜り込んで撹乱することくらいは出来る。艦娘たるもの、どんな状況でも諦めないことが大切だ。

 

 水柱が収まり、凪いだ水面に浮かぶ朝潮にチラリと視線をやる。

 ……大破。再起の目はないだろう。

 

「よーし、行きますかー」

 

 交戦しているはずの両艦隊は随分遠い。まずは戦況が把握できる距離まで近づかないと……。そう考えて航行を開始した直後。

 

 ぞわり、と。

 

 背筋が粟立つような錯覚に陥り。

 思わず振り返ると――。

 

 ――シャッ。

「勝ったつもり……?」

 

 こちらへ飛び掛る朝潮の姿。もう動けないはず、だとか。私を押し倒したところで、どうしようもないだろう、だとか。そんな考えが浮かんだけれど、すぐに彼女の狙いに思い至った。

 

 私に突進する直前、彼女は何かを射出した。

 考えるまでもない――魚雷だ(・・・)

 

 完全に不意を突かれた私は避けることも出来ず、朝潮は躊躇なく私に覆いかぶさり。

 

「うっそー……」

 

 遅れてやってきた魚雷。私たちは、二人まとめて水柱に飲み込まれた。

 


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