妖精さんの勧めで提督になりました   作:TrueLight

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55.切り拓くモノ―SIDE天龍―

 

「一人で行かせるなんて間違ってマス!」

「敵駆逐艦一に対し駆逐艦一。道理だと思うけれど」

 

「数の利はあるのデスから、島風を迎え撃っても良かったはずネ!」

「それは島風を短時間で落とせるという希望的観測に過ぎません。対処に長引けば挟撃は必至。万難を排して避けるべきだわ」

 

 朝潮が単騎で離脱するのを見送ったオレは、内心焦っていた。あいつは演習が始まる直前まで、緊張っつーか……気負いすぎてるように見えたからだ。

 

 出来ればオレもついていきたかったが、旗艦の扶桑が金剛と言い争ってやがる。何のために朝潮一人で行かせたんだって話だ。ここでオレも朝潮につくとなりゃあ口論が激化するだけだろう。

 

 扶桑の言い分からすれば、朝潮は島風に対する足止めだ。なら、朝潮が島風に落とされて挟撃される危険を考えて、とっとと敵旗艦を落とすべきだ。

 

 それは金剛の考えでも同じこと。朝潮一人に任せるのが危険だっつっても、もう命令は下って、朝潮は了解した。なら朝潮がやられる前に敵を殲滅するべきだろ。

 

 精神的に不安定なまま敵の足止めに向かった朝潮。その行動の意味をどんどん無駄な口喧嘩で削っていく主力戦艦ども。いい加減腹が立ってくるってモンだ。単騎で攻撃を凌いでいた長門に、既に陸奥も合流してやがる。オレの牽制も、もう意味を成さなくなってんだぞ。

 

「チッ。オイ扶桑、いいか?」

「……何かしら?」

 

 オレのぶっきらぼうな口調に、扶桑は気にした様子もなく視線を向けてきた。

 

「長門の硬さが異常なのは通信で聞いてたろ。オレが単騎で突っ込んで活路を開く。ネタくらいは割れるハズだ」

 

「何をいってるんデスカ!? 一人で戦艦二人を相手取るなんて無謀ネ!」

「これは金剛に同意するわ。むざむざ戦力を一人潰すだけよ。制空権は確保しているとは言え、接近すれば蒼龍の艦載機攻撃も有り得ます」

 

「内輪揉めで敵のマトになるよりゃあマシだろうが。それに龍驤の攻撃が二度通ってんだ。蒼龍がカカシなのは間違いねぇ。近づけさえすればどうにでもなる」

 

「……良いでしょう。ただし近接戦に入ったら、逐一状況を報告しなさい」

「無駄死には許さねぇってか? 上等だ……行くぜっ!」

 

「天龍っ、待――っ!」

 

 金剛の制止が聞えるが、オレは無視して敵艦隊に突撃する。こういう場合、アタマを一人に絞るのが得策だ。仲間とはいえ、別の主張をする二人の指示なんざ聞いてられねぇ。既に朝潮に扶桑の命令が下っていて、それは遂行中だ。この際金剛の意見は黙殺するのが最善。反省会は全部終わってからすりゃあいい。まずは目先の戦艦(長門)――!!

 

「どうしたっ!? 弾幕薄いんじゃねぇのかぁっ!?」

 

 陸奥が放つ主砲を難なく躱しながら、オレは叫びつつ接近する。防盾を構える長門の背後からオレを狙う陸奥の砲撃は、砲塔の向きから弾道を予測するより遥かに避けやすい。

 

 今の今まで長門はまともに砲撃戦に参加しちゃいない。どういう狙いなのか……なんにせよ、近づいてみりゃあ分かることだ。

 

 陸奥の射線に常に長門が入るよう、ジグザグに疾走。そうかからねぇうちにオレは長門に肉薄した。

 

「よぉっ!! ご自慢の主砲はどうしたっ!?」

 

 挑発しつつ主砲を発射っ!! 当然ヤツの防盾に弾かれるが、反撃の様子はねぇ。……なるほどな、そういうことか。近くでよくよく見てみりゃあ、意外ではあってもそう難しいことじゃあなかった。

 

 増設バルジ(・・・・・)。火力を捨てて守りに特化したってワケだ。通常の艦船におけるバルジってのは船体側面を強化するモンだが、艦娘が装備するとその限りじゃねぇ。個々人でその性能や強化される部位ってのは変わってくるが、長門の場合は防盾ってことだな。

 

 背中から腰を覆うように展開している艤装、その上をさらに防盾で覆うことで金剛と龍驤の攻撃を防いだんだろう。……と、直前までは思っていた。

 

 こいつ……主砲を積んでねぇ(・・・・・・・・)。防盾の内側に攻撃艤装が見えない。完全にバルジで固めてやがるんだ……!

 

「っ――はははっ!!」

 

 こりゃあお笑い草だ!! 天下の超弩級戦艦長門を、主砲を載せず壁扱いしてやがるワケだ!! 向こうの提督は慎重通り越してとんだ臆病者らしいっ!!

 

『長門の艤装について分かったの?』

 

 オレの笑い声から感づいたんだろう、扶桑が通信を寄越してくる。

 

「バルジで固めてるだけだ。大したタネじゃなかったな」

『対処は可能なの?』

 

「当然だ。……すぐに楽にしてやる……っ!!」

 

 ひとしきり笑って、次いで湧き上がるのは……怒りだ(・・・)。日本の誇るビッグセブン、かつての海軍主力戦艦、長門だぞ? その誇りを踏みにじりやがって……!

 

 オレは砲塔を主とした艤装を折り畳み、腰に下げた刀剣に手を伸ばした。その様子に長門は眼を剥く。そして……牙を剥きながら初めて言葉を放った。

 

「馬鹿なことを……! 主砲で駄目なら白兵戦か? 重巡洋艦級以下ならいざ知らず……っ!!」

「馬鹿はどっちだ……?」

 

 一息に抜き放ったソレの切っ先を向けながら、オレは問いかける。

 

「何を……」

 

「アンタがその盾で必至に守ってんのはなんだ? 仲間か? ……ちげぇだろ。そっちの提督が臆病風に吹かれて、万が一にも旗艦が落とされねぇように。たった一度の演習の、ちっぽけな勝敗のために牙を抜かれやがったんだ。なぁ……悔しくねぇのかよ?」

 

 慢心と警戒心。一見相反する二つの感情が、向こうの提督の中で綯い交ぜになっていたことが良くわかる。正規空母二人に、長門型戦艦二人。素人提督の浮上艦隊殲滅には過剰だと考えた。だが流れ弾で万が一があるかも知れねぇ。だから旗艦は戦力から外して、勝敗判定で不利にならねぇよう守りを固めた。

 

 もし……もし敵の提督が、長門をもっと信じていれば。流れ弾になんざ落とされず、敵を迎撃できると……主砲を積むことが出来ていたなら。砲撃戦で金剛と龍驤の合わせ技を狙う余裕なんざなく、もっと苦戦を強いられていたはずだ。

 

「……私たちは艦娘だ。提督の指示に従い、勝利を持ち帰る。そのことに異論などあろう筈も無い……!」

「……そうだな」

 

 正論だ。正しすぎて涙が出てくる。……だから。

 

「だからこそ、だ。オレがそのナメた脂肪(考え)を引っぺがしてやるよ」

 

 もう交わす言葉はねぇ。オレのために、朝潮のために、提督のために、仲間のために。そして……長門のために(・・・・・・)。あの醜い盾を切って捨てる。

 

 陸奥のことを考える必要は無い。金剛や扶桑への牽制に移ってるし、ここでオレを撃てば長門諸共、だからな。

 

「行くぞっ……!!」

 

 脚部の航行艤装が飛沫を爆発させ、オレは全速力で突進した。左手を前に伸ばし、距離感を測る。柄を握った右手は交差するように左の腰へ。間合いに入ればいつでも振りぬける……!

 

 二歩、一歩!

 

「喰らいやがれ!!」

 

 左から右へ。右足を軸に上体を捻り、一閃!! 甲高い金属音が響き、俺の刀が防盾の肌を撫でる。結果は……浅く一筋。分厚い鉄の盾に線を描いた程度だった。

 

 ふっ……と。身構えた防盾が僅かに下がり、長門の体が弛緩したのが分かった。……この程度か。そう思ってんだろ?

 

「まだだっ……!!」

 

 軸足は動かさず、左脚部の艤装を爆発させる!! 刹那に回転したオレは、一瞬前と全く同じ姿勢を取っていた。当然、やることは一つ……!

 

「オラァ!!」

 

 再び一閃!! ほぼ同じ軌道、違うのは長門が動いた姿勢分のみ。浅く抉った一筋を、ただただ深くするためだけに同じ動作を繰り返す……!!

 

 振りぬいた腕を弛緩させ、左足を爆発。回転する上半身に空中の右腕は連れられて、自重に従いつつ左の腰に落ちる。その瞬間再び右腕に力を込め、眼前の鉄塊に一の文字。

 

 一閃、一閃、一閃、一閃、一閃!!

 

「ぐぅっ……!!」

 

 幾重にも重なった耳障りな金属音に混じって、長門が苦しそうに声を上げる。

 オイオイどうした? たかだか軽巡洋艦の一太刀だぜ。提督の指示に絶対の信頼があんなら、もっと涼しい顔で受けて見せろ……!!

 

「ラァアアアアアアアッッ!!」

 

 もういちいち動きを意識することもねぇ。回り続ける視界の中で、右眼だけが切り拓くべき活路を捉え続ける!

 

 十を超え、百を超え。雨垂れ石を穿つが如く、深く刻んでは重くなっていく一太刀がその手応えを感じた。

 

「これでっ、終わりだァ!!」

 

 ギャリギャリと防盾を抉る音がついに途切れ、その時は訪れた。……チッ、オレの刀諸共だ。互いに運があるのか無いのか……。

 

 横一文字に裂けた防盾、艤装と連なっていない上部がオレの刀の刀身と共に飛び去った。さぁ、あとは主砲の一発もお見舞いしてやれば……っ!?

 

 引き伸ばされていたように感じる時間の中、急激に感覚は元に戻る。その最中、盾を破られた長門が口を開くのが見えた。

 

「――見事だ」

 

 ――クソが。

 

 盾が意味を無くした瞬間。オレの刀が折れたその刹那。長門は拳を振りかぶって、一歩を踏み出していた。迫り来るのは硬く握られた拳。――まともに受けるわけにはいかねぇ。

 

 先ほどまでの推進は見せちゃくれないが、それでも慣性に従って、左足の艤装はオレの体を半分ほど回転させてくれた。ヤツの拳はオレの左腰、主砲を畳んでいる艤装を捉えて――砲身ごと破壊した。

 

「ガッ!!」

 

 艤装がクッションになったとはいえ衝撃をモロに喰らい、吹き飛ばされる。長門からは大きく遠ざかっちまった。

 

 ……ヘッ。なんだよ、ナメてたのはオレのほうか? ……だがまぁ、残念ながら演習はオレ達の勝ちだろう。

 

「扶桑!!」

『分かっています』

 

 飛沫を上げて海面を滑り、制止。濡れた髪をかきあげながら長門に眼を向けた直後……長門に砲弾が着弾。扶桑と金剛だ。背後に飛んでいった艦載機は龍驤が陸奥を狙ってのものだろうな。

 

 轟音、爆発。十数秒が経ち、硝煙交じりの飛沫に霧が収まったときには……陸奥に折り重なって倒れ付した、長門の姿があった。

 


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