「うわぁ……」
呆然と口から漏れる声を他人事のように聞きながら、僕は工廠内に立ち尽くしていた。
目の前には火炎放射器で建造ドックを燃やしている妖精さんの姿がある。
建造が始まったとき、一瞬で作業着に着替えたのは別に気にならない。いつものことだった。水辺に近づくと、いつの間にか水着で泳いでたりするし。
でもこの奇行は予想できなかった。ほんと何してるんだろ、これ。
瞬く間に工具やらを手に取ったかと思うと、トンテンカンと冗談のような速度で何やら作業を始め、建造ドックの蓋を閉じ。しまいには室内炎上である。
「妖精さん、ほんとに大丈夫……? 疑ってる訳じゃないんだけど、さすがに意味が分からないというか……まずくない?」
「だいじょぶだいじょぶー」
「これはほのおにあってほのおにあらず」
「そにともすはげんしょのほむらなりー」
「もーえあがーれー、けだーかくまえー♪」
大丈夫らしい。
ふとコンソールに目を向けると、残り時間と表示された場所の、その数字がみるみる減っていっている。元がどれくらいから始まったのか確認しそびれたけど、もう0になってしまった。
建造完了の文字と共に、ドック開錠の案内が表示される。
ひとまずはそれを選択しようとすると、端末と僕の顔の間に妖精さんが一人割り込んできた。
「ん、どうしたの?」
「これー」
「これは……ネジ?」
妖精さんに手渡されたのは、一本のネジだった。形は普通のネジだけど、異様に大きい。実際に触ったことがあるものだと間違いなく最大だ。
片手でぎりぎり包み込めるくらいのサイズ。ただ、見た目に反してかなり軽い。なにでできてるんだろう。
「これをどうするの?」
「きてきてー」
妖精さんに袖を引かれるままついていくと、今まで炎に包まれていた建造ドックに連れていかれた。熱を警戒したけど、近づいても全然熱くない。
「ここにいれてしめてー」
指さしで示された方では、ドックから引き出しのようなものが飛び出していた。
大きさは……ちょうど、手の中のネジがすっぽり収まるくらいだろうか。
「ここに入れるの?」
改めて確認すると、妖精さんはこくこくと頷いた。ならばとネジを放り込み、叩くようにしてドックに押し込んだ。恐れていた熱は、やっぱり感じられなかった。
「これでドックを開ければ良いのかな?」
にっこり笑顔でこくこく頷く妖精さんに頷き返し、僕は改めてコンソールに向き直った。
「それじゃ。ドック開錠、っと」
端末を操作すると、ガコンッ、と何かが外れるような音が響き、蓋が自動で持ち上がる。
コンソールからドックに体を向けて注視すると、さっきまで空だったはずのドックの中に一人の少女が横たわっていた。
金の長髪を黒いリボンで留めたその艦娘は、ゆっくりと瞳を開いて僕を見つめる。
翠(みどり)がかった目を輝かせると、彼女は勢いよくドックから立ち上がり。
屈託のない笑顔で口を開いた。
「こんにちは、白露型駆逐艦 夕立よ。よろしくね、提督さん!」