妖精さんの勧めで提督になりました   作:TrueLight

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62.提督の休日③

 なんとはなしに明石の工廠へ足を向けていたけど、今も作業に取り掛かっているであろう彼女の邪魔をする気はなく、機械音が漏れるそこは素通りした。

 

「おはよう司令官!」

「Доброе утро.」

 

 そうして並木の間を道なりに進めば、運動用の白いシャツと紺の短パンに身を包んだ雷と響が通りかかった。どうやら二人ともジョギングしていたらしい。そこそこ走り込んだ後なのか、うっすらと額に汗がにじんでいた。

 

「おはよう、二人とも。自主トレかな?」

「Да.早く追いつかないとね」

 

 響がそう言って拳を握ると、雷は苦笑しつつも頷く。二人とも目標は今でも同じってことかな。

 

 この暁光鎮守府には響と雷の姉妹……暁と電が着任している。僕たちがここに異動してくる以前からだ。もちろん他の艦娘の例にもれず、それなりの期間を妖精さんのサポート無しで戦い抜いてきていた。

 

 はっきり言って、僕と共に着任した響や雷、時雨、五十鈴に瑞鶴の五人は、この鎮守府の艦娘と比べると実力で劣っているんだ。夕立は改二ということもあってか付いていけているけど。

 

 艦娘間の地力に大きく差があると、同じ艦隊で運用するのは少し難しい。響と雷はいずれ暁と電に追いついて、第六駆逐隊として戦うことを目指し、日々訓練に励んでいるようだ。今日は二人とも非番の筈なのに、朝から走り込みをしていることからも情熱は窺える。

 

 艦娘に人間がするようなトレーニングは必要なのかなと疑問に思わなくもないんだけど、彼女たちに言わせれば重要なことだそう。人の形をしている以上、人体に有益な事象は艦娘にとっても同様らしい。

 

 思えば天龍なんかは演習の際、水上で行うには明らかに無理がある攻撃方法を実行していた。あそこまで体幹や三半規管を鍛えるには、確かに海の上の訓練だけでは足りないだろうね。

 

 閑話休題。

 

「僕が言うのもなんだけど、せっかくの休日なんだしほどほどにね?」

「はーい! ちゃんと休憩するから大丈夫よっ!」

 

 僕の言葉に対して両手を腰に当てて胸を張る雷。一方響は答えず、とことこ僕のもとへ歩いてきて……何故か腰に抱き着いてきた。

 

「……響さん?」

 

 どういう行動なのか見当がつかずに雷に視線を送ってみると、片手を口に当ててニマニマしている。手を当ててるのに上がった口角が見えるって相当楽しんでるね、雷さん。

 

「…………他の女の臭いがする」

「何でそんな不穏な言い方するの……。夕立とベンチで話したからじゃないかな?」

 

「むぅ……まぁいいさ。うん、充電完了だ。これでもっと頑張れるよ」

 

 夕立も似たようなこと言ってたけど、そんなんで良いのか君らは。僕は恥ずかしいんだけども。

 

「ふふっ。じゃあ行こっか、響!」

「Да.それじゃあ司令官、またね」

 

「うん。二人とも頑張って」

 

 僕の言葉に溌溂と返事を残し、二人は再び駆けていった。すると例の如く、話の邪魔をしないようにと木陰や草むらに潜んでいた妖精さんが戻ってくる。

 

 ……なぜか目につかなかったけど、超小型の段ボールらしい箱から出てきた妖精さんもいた。その眼帯とハチマキ何なの? ……ちょっとカッコイイかも知れない。

 

 そんなこんなありつつ妖精さんと散歩を再開すると……潮風に乗って、どこか覚えのある匂いが鼻についた。……アルコールかな?

 

 匂いの元をたどる様に散策していくと、島の一角、岩場が突き出たような崖に到着。立地的に岩場というのが近いだけで、足元には背の低い草花が小さな草原を作り出している。

 

 崖下にはすぐ海が広がるような、そんな場所に一人座り込み。お猪口を傾ける後姿が目に入った。

 

「……隼鷹? 何してるの、こんなとこで」

「ん~? おー提督じゃーん。どしたのこんなとこで」

 

 いや、僕が聞いてるんだけど。

 

「ただの散歩だよ。お酒の匂いがしたからさ」

「かーっ、この前んで味を占めちゃったかぁ~!? そぇなら一緒に乾杯だぁっ!」

 

 結構回ってるっぽいな……隼鷹の周りには空の酒瓶がいくつも転がっていた。未開封のもまだまだ残ってるけど。どれだけ飲むつもりなんだ……。

 

「……一杯だけもらおうかな」

 

 まぁ、これも付き合いだよね。それに内心、ちょっと悪いことしたさもある。鎮守府内で僕が飲酒したところで咎める人はそう居ないけど、普通は僕の年齢じゃ飲めないし。せっかくだからいただこう。

 

「おっ、話がわかぅねぇっ! ほらぐぃっとお!」

 

 僕が隣に腰を下ろすと、隼鷹は自分が使っていたお猪口にお酒を注いで渡してきた。

 

「乾杯はどうしたのさ」

 

 まだ封が空いていない酒瓶の隣には、まだお猪口が一つ転がっている。……よく見たら、そこに浅く注がれているようだけど。そっちを使わせてくれたらいいのに。

 

 そう思ってお猪口と隼鷹を交互に見てみると、彼女はどこかばつが悪そうに頭を掻き、眉で八の字を描きつつ笑った。

 

「あ~、だぇだめっ。これはぁ~……洗ってないやつらから! 隼鷹さんぁ良いから、ほら乾杯!」

 

 誤魔化すように空瓶を掲げ、隼鷹は無理やり僕の手のお猪口にぶつけて笑う。……それでまぁ、何となく察しがついてしまった。触れて欲しくはなさそうだし、僕は水平線に目を移してお酒を胃に落とす。

 

 ………………ちょ、ちょっと僕には強かったかもっ……!

 

 空けた本数が多いから隼鷹は酔ってたのかと思ってたけど、そもそも強いお酒だったらしい。僕が目頭を押さえて黙り込むと、隼鷹は隣でからからと笑っていた。

 

「無理すんな~? 残しても隼鷹さんがもらうからさぁ~」

 

 それは何か悔しい。僕にだって意地くらいあるんだ。ぐいっと一息にお猪口を傾け、三分の二ほど残っていたそれを全て口に流し込む……あ"ぁぁああ喉が熱いぃ……!!

 

「だぁーっはっはっは!! いいねぇ~男だねぇ!」

 

 お腹の酒気を逃がすように真上を向いて深呼吸を繰り返す僕からお猪口を取り返すと、隼鷹は再び酒を注いでぐびぐび飲み始める。

 

 いつまでも火照りが引かない僕を肴に、隼鷹はげらげらと楽しそうな声で笑い続け。結局正午を跨ぐまで、僕は彼女の隣で空を仰ぎ続けていた。

 




 そろそろ加賀改二来ますね……楽しみ! 傑作駆逐の改二は見当がつかないけど、育成済みの艦かつ改装設計図を使わないことを祈りたい……。

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