「あなたは……浮上艦について、どう考えていますか?」
僕の問いかけに対し、目の前の男性……
あるいは、浮上艦に対して多少は複雑な思いを抱えているのか。階級は中将だったハズだし、彼の意見は大本営以下他の鎮守府の浮上艦に対する考え方を知るきっかけになると思うんだけど……どうだろうか。
「うーん……表現に困るんだが。……そうだな、残念、ってのがしっくりくるかな」
「残念?」
予想外すぎて反応に困る。浮上艦が残念? どういう意味だ……? 大本営やら他所の提督が抱いているであろう「残念」とはニュアンスが違ったように聞こえるけど、具体的にどう違うのかは想像がつかない。
「ほら、君は最近、大本営の用意した艦隊と演習しただろ? 編成した艦娘は全員浮上艦だった。練度で言えば建造艦にも劣らない……というか勝ったんだからな。大多数の鎮守府がむざむざ戦力を捨ててるってのは頭が痛い話だ」
……なるほど。艦娘を純粋に、深海棲艦に対する武器と捉えての発想か。お世話になった大淀ノートを思い出しても建造は確実に艦娘を増やす手段ではないようだし、確かに浮上艦という理由で戦力を手放すのは惜しいだろう。
でも……それこそ、僕にはその回答が残念だった。考え方としては想定通りとも言えたけどね。
浮上艦についての資料を見る限り、大本営を始めとしてほとんどの提督は浮上艦に対して悪感情を持っている。この男もそうなのかと思ったけど、どうやら彼は実利を取る人間だったらしい。
わざわざこちらに足を運ぶくらいだし、もしかしたら浮上艦に対して友好的な提督なのかと考えたんだけど、そうでは無いようだ。
まぁ、利があると分かれば浮上艦と言えど受け入れる提督はいる。それも、新人ではなくそれなりに場数を踏んだ提督が、だ。これが分かったのは個人的に前進といえた。
「そうですか。なんとなく考えは分かりました。うちは浮上艦が多いので、空山提督のように差別的な考えでない方が居ると分かったのは嬉しく思います」
これ以上は聞くことも無いので、話を終わらせようと僕が言うと。彼は窓の外に目をやりながら素っ気なく口を開いた。
「差別的、ねぇ……。まぁ、そういう連中の気持ちも分からんでは無いけどね。俺が直接何かされた訳じゃないからさ。使えるものは使うべきだと思ってるよ」
その言葉に、僕は思わず身体を強張らせた。
――そうだ、なんで今まで考えなかったんだろう。
浮上艦は……どうしてこうも煙たがられる? その出自を思えば多少は想像もつく。深海棲艦を
その因果関係を考えれば、深海棲艦から生み出されていると言っても過言ではない。もしもそれを自分の鎮守府に招き入れて、内部で反乱でも起こされたら――そう考えるのも仕方ないことだろう。
それでも、だ。あまりにも浮上艦の扱いが悪すぎる。本当に深海棲艦側の存在なのだとすれば、暁光鎮守府がこうも戦果を挙げているのがおかしいじゃないか。何故こうまで、浮上艦と言うだけで虐げられなければならないのか。
例えば――そう。実際に、
目の前の男は言った。『自分が直接被害に遭った訳じゃないから、浮上艦も使えるなら使うべきだと思っている』と。
つまり……直接、浮上艦から何かしらの被害に遭った提督、あるいは鎮守府が存在したんじゃないか? 以前大本営から送られてきた指令書、そこにあった『浮上艦は提督に攻撃的な態度をとる』とかそういうモノじゃない。
もっと――提督という存在全てに影響を与えるような、そんな事件が、あったんじゃないだろうか?
「……空山、
「……なんだ?」
居住まいを正して視線を向けると、彼も神妙な表情で僕に倣った。
「もう一つ聞かせてください。……中将が知っている中で……浮上艦が関与した、最も損害が大きかった事故、あるいは事件はなんですか?」
僕の言葉に、空山中将は一瞬きょとんとした表情を浮かべたけど……すぐにニヤリとし、面白そうに言葉を続けた。
「そうか……そうだったな。君は新人だし、
勿体ぶるような物言いに、やはり僕の知らない
「なるほど、君が浮上艦に忌避感が無い理由も。他の提督がなんで浮上艦を
どこか悪戯を楽しむ子供のように声を弾ませつつ、彼は前のめりになって口を開く。いいか? と前置きして続けられた言葉は、僕には到底見過ごせない内容だった。
「昔、ある鎮守府で実際に起こったのさ。浮上艦が、