レオリオという者だが、質問あるか?【再連載】 作:義藤菊輝@惰眠を貪るの回?
もう駄目だ笑。
「巣を守り続けるか、巣を壊すか……」
開いた
この世界に転生してから19年。始まりから原作が崩壊していたこの世界で、俺は思考を停止するままに言われるがままのレールを走る人生を送ってきていた。
胸元に入れた刺青が、この世界での俺を縛り付けている。まったく、なぜこうなったのか。
まだファイルを開いていないメールの差出人は幼馴染み。兄であり姉であり、弟であり妹であり、さらには悪友のような数奇な運命共同体たち。
「シズクからのメールが一番多いな……。次はシャルか。げっ、それにパクまで……」
件名の殆どは『どうする?』と尋ねる質問。
「どうしようかねぇ」
カブトムシの形をした携帯。機種名をビートル07型の羽根を閉じることでモニター消してポケットにしまう。
自らの道は自らの力で切り開く。家族のような仲間にはそう伝え、俺は今、嵐で揺れる船にいる。
「確かこの後でけぇ嵐が来るんだったよな……。酔い止めでも飲んでエロ本でも読むとするか」
黒と赤の特徴的なデザインをしたアタッシュケースから酔い止めとペットボトルに入った水を取り出すと、二錠だけ口に放り込み喉の奥へと水とともに流す。
「ねぇねぇおじさん」
「あ? 誰がおじさんだ」
サングラスの位置を整えてエロ本をアタッシュケースから取り出そうとした瞬間、隣から子供特有の高い声が聞こえてきた。失礼な言葉のせいで意識を引かれ振り向くと、そこに居たのは、緑色の服を着たツンツン頭の少年。
「さっき飲んでた薬って酔い止めだよね? 予備があったら皆にあげたいだけど」
「なんでだ? ここに居る奴はハンターになりたくて会場へ最寄りとなる港に行く船に乗ってんだ。ここの船に乗る乗組員に航海ルートを聞けば教えてくれたし、そこを調べれば一般的には使われない天候の変わりやすい場所を通ることも分かっていた。酔い止めすら準備してねぇ奴を助ける必要はねぇと思うがな」
ハンターって言う富も名声も手に入れることが出来るハイリスクハイリターンの就活をしてる上で対策ぐらいしてくるべきだろう。それすら出来ないなら、端っからやめさせれば良い。
「え~! どうしても駄目なの!?」
「あのなぁ……。そもそも、それが人にものを頼む態度とは思えねぇがな」
「ご、ご免なさい」
自分の非を直ぐに素直に謝れることは美徳だ。良いことではあるが、優しさが首を絞めることにもなる。
「俺の持ってる酔い止めは強力だが遅効性だ。大体は薬を飲んでから30分前後に効き始める。」
そう言って俺は、少年に向かって人差し指を立てる。
「さらに、俺が持ってる酔い止めの総数は50粒。お前さんの言い方だと、使える数全部使うつもりだろう? なら25人に使えるが、軽く100人は居るこの船全員のハンター志望には使えない」
人差し指に続づけて中指も立てる。すると、少年はウグッと言葉を詰まらせる。
「そして何よりもな理由だが、俺は医者として最低限の準備は必要だと思っているんでな。酔い止めや頭痛薬。痛み止め。それに便秘薬に下痢止め。たった一回分だけでもかさばらねぇものを持っておけば、何日かかるか分からねぇ長旅でどんな体調変化が起きたときでも対応できる。人としてするべきことができてねぇ」
受験生なら特にな。とそう言って薬指まで俺は立てた。
「以上三つが理由で、俺はお前の提案を却下する。何か質問や反論は?」
「ないっ!」
「潔いじゃねえか」
スーツをピシッと整え、ネクタイを首の位置まで締め上げる。サングラスは少しだけ下ろして鼻にかけた状態にする。
「お前さん。名前は?」
「俺? 俺の名前はゴン! ゴン=フリークス!」
そうか、と俺はゴンのツンツンした頭を撫でる。抑えつけたときの反発力と髪型が面白い。だが、こう言うことになれていないのか少し恥ずかしそうにしている顔は、年相応に思える。
「俺は、レオリオという者だが、質問あるか?」
こうして俺の原作が始まった。