レオリオという者だが、質問あるか?【再連載】 作:義藤菊輝@惰眠を貪るの回?
(=゜ω゜)つポイッ
蒼白い月明かりだけが俺達の足もとを照らしていた。
ザッザッザッ。と一定のリズムで獣道を進み、かれこれ2時間は歩み続けただろう。クイズのババァがいた街は、例え日中であっても見えないほど離れた。
「そろそろ一本杉だな」
「もう大分近いね!!」
体力オバケのゴンやクラピカに続いて進む俺は、先ほどから嫌な汗を浮かべている。それも偏に、ポケット中にしまっている携帯のせいだ。
「てかレオリオは電話出ないで良いの?」
「んぁ? あぁ……。いい」
さっきからずっと震えてる音がしてる! と元気よく指摘してくるゴンに、俺は頭を抱えた。
なぜなら、俺の携帯にはもちろんバイブ機能が着いているのだが、改造を施し可能な限り音が鳴らないようにしてもらっているから。手術中や他の用事中でも集中力が切れたり邪魔にならないようにと考えた結果のことで、耳に〝凝〟でもしないと分からないレベルにしてるはず。
「それよかよく気づいたな」
「まあね。虫の鳴き声かと思ったけど、電気系統の音は耳に付くし」
「よく分かったなゴン。私には分からなかったが」
少しばかり得意気に指を二本立てたゴンは、テテテテと小走りに先を行く。
「誰からの電話なんだ?」
「いや……、まあ兄弟だよ。電子機器に強ぇから、いくら電話番号変えても探知される」
「仲は悪いのか?」
「比較的常識人だし、家族からもパシリにされるような奴だよ。ただなぁ……」
俺達の関係性はとても歪だ。なにより、血が繋がっていないのにもかかわらず、その繋がりは血よりも濃く深い。
「めんどくせぇんだよ……。依頼でもねぇなんでもねぇくだらねぇ話ばっかりだからな」
どうせ電話の内容も、ウボーの飯の食い方が汚い。とか。パクノダの小言が辛い。とか。団長が本の場所を探させてくる。とか。中身のないことばかりだろう。
「まあ、その内諦めんだろ。出る気は全くねぇしな。ハハッ」
家族の居ない私には羨ましい悩みだ。苦笑いを浮かべながらそう言うクラピカに、俺は顔を合わせることも出来ず、先を行くゴンに着いていく。
「ついたよー!」
大きな一本杉は、夜のせいもあり黒く、恐ろしさを感じさせる。それにしても、
「静かだ」
「そうだな。他に受験者がいないのかも知れない。案外、私たちが一番乗りだったとか」
丸太で組まれたログハウス。六人ほどであれば十二分に住めそうな程大きな家からは、全くもって音がしていなかった。
「取り敢えず入ろうよ」
「そうだな……っと。邪魔するぜ?」
ドアノブに手をかけてゆっくりと扉を開いていく。扉は意外と重く、軋むような音を立ててゆっくりと奥へと押されていく。
「っ!」
驚いたのは全員。
荒らされたログハウス。椅子や机は無残に壊され、男は血まみれで床に倒れている。何より、男が手を伸ばす先には女性が魔獣によって拘束されている。
「男の方は多分見てくれの怪我だろう。暗くて見辛いが、血が渇き始めてる」
女性も女性で、右腕一本で首を絞められて持ち上げているように見えるが、腕を掴む女性の手がちゃんと透き間を作り、頸動脈を締められていない。
「キルキルキルキル……」
喉奥から絞りだすような鳴き声と共に睨まれ、俺達三人は得物を取り出そうと動き、
パリンッ!
俺達はログハウスの外へと弾き出された。
「女性は恐らく軽傷だが気をつけてくれ!!」
「レオリオは男の方を頼む!」
任せろ!!
そう言えば、クラピカとゴンは暗闇に消えた魔獣を追いかけ始める。
妻を頼む。と手を伸ばす男の方に違和感は一つもない。塞ぎかけている傷口以外は。
「妻は、つ、妻は大丈夫ですか……」
「安心しろ。あの二人は柔じゃねぇ。案外決着が着くのは速いだろさ。それより傷口診せろ。違和感しかねぇ」
「そ、それは?」
体の上に乗っている壊れた家具をあえてどかさず、そのまま男の体を診れば、予想通り血は渇き始め、傷口からの出血は止まっている。
「あの魔獣とグルだな……」
こんなにもヒントがあって原作の
「よく分かりましたね……。そうです」
頭の形は何も変えず、そのまま目と鼻が異様な形に、狐のような顔に変化していく。そう、先ほど俺達の目の前に姿を見せたあの魔獣のように。
「仲間……いや、親だな。あいつは」
親指を扉の方へ向けて答えを示すと、お見通しなのかと賛辞を受け取る。
まあ、分かるだろ。そろそろクラピカたちも謎に気づく頃。壊された扉から夜空を眺める。風の音。草木が揺れる音。カサカサと葉っぱの壁を通り抜ける異音。そして、ゴトゴトと何かが暴れている音。
「……。あの、助けて?」
「しゃ~ねぇな」
俺は床を軽く足で叩き能力を発動させる。
「ったく、今までで一番無駄な能力の使い方したわボケ」
「くそっ」
頭をガシガシと掻いていると、男のキリコは吹き飛ばされた家具のしたから這い上がった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「いやー参った参った」
そう言う魔獣キリコの家族を見て、どうやらゴン達は上手くやったのだと知る。
瓦礫の下敷きにされていたマヌケを救い出したと思われる俺は、最初のヤツの息子だというチビキリコに案内され、森の中の少し開けた場所に移動していた。
そこには既に姿形の似た2体の魔獣とあの女性らしい面影のある狐顔のメス個体。そしてゴンとクラピカ。
姿がかなり似通った夫婦のキリコ。その見分けが着いている稀な存在だと気に入られたゴン。
僅かに出されたヒントを己の知識を使い、魔獣の子どもが夫婦ではないという答えを出したクラピカ。
「正確な医療知識に技術。何よりその洞察力はプロのハンターと比べて勝るとも劣らない」
息子の方にそう言われれば、ゴン達は驚いた顔でこちらを見つめる。
「なんだよ……」
「いや、何て言うか……」
「ちゃんと医者なんだな」
「あぁ!? 医師免許見してやろうかこの野郎」
船の上で治療したろと小さく呟けば、二人が声を揃えて、診断しただけだと俺に返してきた。ふざけるな。あれも治療だ。誰が何を言おうとも。
「コホン。それじゃあ早速」
バサバサッとその腕、もとい翼を広げた魔獣は、自分たちの体につかまれと指示をする。顔をつきあわせて頷いた俺達は、戸惑うことなく彼らのお世話になった。
ゴンは魔獣の子ども二人の足を片腕ずつで掴み、クラピカと俺は足を抱きかかえる体勢。そしてそのまま俺達は、満月をバックに少しばかりの夜空を楽しんだ。
つもりだった。
夜景を見始めてから一時間ほど。ついに言われてしまった。
「レオリオ、だったか? 申し訳ないが電話に出てくれ。俺達の耳にはその音はうるさすぎる」
「流石だな」
そう、俺はやはり、携帯が震えるのを無視し続けていた。それはもう盛大に。一番最初にコールがかかってきてから3時間は過ぎているかも知れない。途中十数回途切れたが、その都度電話がかかっている。
もうそろそろ自分自身も辟易していた。良い頃合いだとコールを取ると、聞こえてきたのは
《あなた、今何してるの》
「ゲッ!? パクッ!?」
《出た途端にゲッとは良い度胸ね? レオリオ》
「ねぇ、どうしたのレオリオ? 汗が凄いことになってるよ?」
な、なな、なんでもねぇよ!? と口が回らず動揺した素振りをしてしまえば、それは答えを言っていることと同義。クラピカにはその猫のような目を細めて見つめられ、終いにはキリコ父にはベタついた手で触られると毛並みが。と言われてしまう始末。
「姉貴だよ。口喧しい」
《誰が口喧しいよ。あなたが自立するまで育てて上げたのは誰よ?》
「あーあーあー! 本題もねぇならホントに切っちまうぞ!? いいのか!?」
《良くないわよ。団長からの命令よ。今やってることが終わったら、暇なヤツと巣は集まるようにって、メールも送ってるから場所はそっちで確認しなさい》
何て悪いタイミングだと辟易する。ここには耳の良いキリコにゴンまでいる。恐らくクラピカにも何かしら聞こえているだろう。緋の目をその体に宿している彼は、
「とりあえず分かった。用事もあるから終わったら連絡する」
《ちゃんとするのよ? 団長に怒られるの私なんだから》
ヘイヘイと受け流すように返事をすれば、携帯の向こう側からため息が聞こえてくる。
「他に連絡は? 今良い景色を見てんだよ。切るぞ?」
《良い景色? あなたが? 前に私やシズクが誘ったときは、何時でも見れるもんより 》
「 ったく……。話が長いったらありゃしねぇ……」
これ以上は面倒になると判断し、無理やりに切った電話。
「すまねぇなお前達」
「レオリオ、家族とは仲良くしないとダメだよ!!」
まぁ、俺のこと知らなきゃ、ゴンはそう言うわな。
俺の方を見て、大きな声で注意をしたゴンを見て、俺は思わずそんなことを思ってしまった。