レオリオという者だが、質問あるか?【再連載】 作:義藤菊輝@惰眠を貪るの回?
この作品にお付き合い頂きありがとうございます。行方不明にならない程度に頑張って投稿しますので、今後とも応援の程よろしくお願いいたします。
義藤菊輝
始めに言おう。俺は料理が苦手だ。
そもそも旅団として行動するときはパクノダやマチが料理をするし、男衆で行動することになっても目に入った飯屋に入る。なんならフィンクスやウボォーなんかと一緒に居れば、気がつけば無銭飲食状態になっている。
自分でも何度か挑戦してみたが、特に美味しくもなく不味くもない。そんな料理ができあがるだけなので諦めた。
まあ、サプリメント飯。なんてほどクソみたいな飯は逆に作れないが。
「ラッキーだったね!」
「ああ。知らない料理なんかより断然良い」
2次試験は前半と後半で別れていた。理由は試験官が男女二人が担当していたから。
試験前に響いていた異様な唸り声のような音は、明らかに体型が肥大した男の腹の音だったらしく、彼 ブハラと言うらしい から出されたお題は豚の丸焼き。
2次試験会場付近に生息している豚は一種類しかないらしく、弱点を守るために成長した鼻を使い攻撃する凶暴な豚。たいした強さでもなく、ゴンが釣り竿を使って殴った額が弱点だったために、それに続いて続々と受験生達も豚を殺していった。
料理のことは分からないので木の棒に足をくくりつけ、そのまま起こした火の上でくるくると回しながら焼いていく。
この前半の試験はとても採点基準が甘く、「美味しい」と言わせれば合格なのだが、料理を作れたほぼ全員の者が合格をもらっていた。
「さて、飛び降りるか」
こんな発言をすることになったのにも理由がある。問題は後半のメンチという女性の試験だった。
お題はスシ。米酢を米混ぜたシャリに海鮮を四角く切ったネタを乗せた日本の、この世界ではジャポンの郷土料理というか民族料理というか。
流石に作り方は知っている。そしてこの後の展開も知っている。努力して作ったところで、本気の審査をされる以上それが美味しいという判定が下されないことも知っている。
だからこそ、クラピカの溢した言葉をゴンが拾い、めざとく盗み聞きをしていた他の受験生までが淡水魚を探して行く中、俺も流れに合わせた。
やるけれど失敗する。と、やらなくても失敗する。
似ていることだが、少しだけ違う。やった側はやっただけ事実が残る。言い方を変えれば、言い訳ができる。
淡水魚で、マグロやサーモンと言った王道のネタを再現できるとは思っていないし、そもそも魚のおろし方すら知らない。
テキトーに捕まえた魚をテキトーに捌き、身を取り出してテキトーにそれらしく切る。調理台にはお酢も用意されているが、酢飯の割合なんて分からないので、ベチャベチャしない程度に少なく投入。
もちろんテキトーづくしで作った寿司が認められるわけもなく、禿げよりましという講評を貰うに終わった。
合格者0。それが2次試験の本来の形だった。
「それにしても、飛び降りしてでも手にするほどのタマゴってどんなんだよ……」
「グルメハンターのお墨付きだから、凄く美味しいんじゃないの?」
「まあ、餅は餅屋か」
合格者0の判定を受けぶち切れたデブのレスラーは、調理台をぶん殴り破壊、抗議の声を上げると共にブハラの張り手一発で文字通り吹っ飛んだ。
だか、ハンター試験を運営するハンター協会の会長ネテロの一声で再試験が決められる。
「いい? やり方は分かった?」
やり方は二つ。まずは山を二分する溝に飛び降り、クモワシと言う取りが作るタマゴを守るための綱に捕まる。そしてタマゴを一つ手に入れたところで別れる。
「一つは壁をよじ登る。二つは、そこから更に飛び降り、強烈な上昇気流を使ってここまで上がる」
「おいおい……。嘘だろ!?」
「怖じ気づくならそこまでよ。私はやり方を示した。これでもまだ文句を言うなら、運が無かったわね。来年また受けなさい」
レスラーに言い放った言葉を聞き届けた俺達は、四人一斉に飛び降りた。位置を合わせて体を整えると、眼前に来た綱を掴む。
溝の壁面に縫うようにかけられた粘性の糸は、結構な強度があるようで、俺達が四人一斉に飛びついたところで外れることは無かった。
「ほいっと。はいレオリオ」
タマゴに近かったゴンが俺にタマゴを渡してくれると、タマゴを挟んで向こうにいたクラピカがキルアにも渡していた。
「ここからどう戻る?」
「俺はよじ登るぜ、荷物があるが、まあ行けるだろ」
「とかいって、また飛び降りんのにビビってんだろ」
キルアの軽口を受けながすと、そのまま壁へと近づいていく。
「私もレオリオと行こう。一人より二人の方が、いざというときに良いだろう」
「それじゃあ俺達二人は、もうちょっとここで待つね」
「また上で」
チビ二人の返事を聞いたクラピカも、綱を渡り俺のところへと来る。
「なんでついてきた」
「特に理由はないさ。強いて言うなら、こっちの方が確実だと考えたからかな」
いつ来るか分からない上昇気流よりかは、自力で上る方が確実。そう考える者達は、俺達同様壁を上っている。腕力が足りずに落ちている者もチラホラと見えるが、メンチが言うには、少し先の場所まで続いている川がこの下を流れていると言うことなので、ハンター協会の奴らがそこにいるだろう。
「ゴンとキルアはやはりこどもだな。少し遊んでいるように見える」
「17~8のお前が言うな。俺からしちゃお前も子供だ」
壁上りは順調に進む。左手に持つアタッシュケースが煩わしいが、取っ手に無理矢理手を突っ込み自由を作る。
「その鞄はやはり仕事道具が入ってるのか?」
「まあな。メスやら注射器やら薬やらがたんまりとな。入ってる物が物だからなぁ。誰にも触らせる気もねえが、っと……来たな」
したから吹き上げる猛烈な風上昇気流。
体をそこから押し上げるような唸る風にやられてバランスを崩し落ちていく受験生たちがいる中、俺は頭だけを動かして上がっていく受験生達の中に、緑と白を見つける。
「お~い!!」
「先に行ってるぜ」
とても楽しそうに笑顔で飛んでいく二人が、その姿を小さくさせながら叫んでいる。
「ゴン達に負けてられないな。レオリオ」
「おいおい、これは勝ち負けじゃねぇだろ?」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
事後報告だが伝えておこう。
クモワシのタマゴを使ったゆで卵は、非常にうまかった。濃厚なコクだった。今まで食べたゆで卵の中で断トツに上手かった。餅は餅屋。グルメハンターの知識には感服した。
「取り敢えず、どうにか2次試験はパスしたわけだが……」
乗り込んだ飛行船は既に離陸し、窓の外は真っ暗でなにも見えない寂しい夜景が映っている。
「離陸してしばらく……。そろそろ休憩しよう。ここからは自由行動で良いか?」
「うん! キルア、探検しようよ」
「おおいいぜ」
先を見据える二人に対し、あいもかわらず気楽に居る二人。もう大半の受験生が寝たのか、どこかの部屋で待機しているのか、人気の無い通路に集まった俺達は今後の方針を軽く固めた。
自由に取れる食事も済んでいる。腕時計を見れば、時刻はもう20時を過ぎていた。
「俺はもう寝るわ。多分ここに居る間は試験もねぇだろうしな」
「目的地に向けて飛行しているとアナウンスもあったからな。休息を取るなら今のうちだぞ二人とも」
「は~い!」
「わかってるさ」
先先進むゴンに付き添うように背を向けたキルア。そんな二人に深いため息を溢す。
「全くあの二人は……」
「緊張感があるのかねぇのか。まあ良いか、落ちるなら落ちるで自己責任だな」
俺はコツコツと革靴を鳴らしながら、受験生に与えられている自由スペースへと向かう。翌朝に来るであろう三つ目の試験に向けて休息を取るために。
また来年!
(=゜ω゜)ノシ ヨイオトシオ~