魔剣使いとポンコツ生活 異聞《ROGUES》   作:無花果紋目

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「この都市にはいろんな奴がいます」

      『鼠』






幕間その3
幕間 暗黒都市観光録 ②


惨劇が起きてから日が浅いが、誰も彼も変わらずに生活をしてますなぁ。

そしてそれはあっしも同じくですわ。

どうも、しばらく。

あっしは、鼠。

この糞ったれな街でけちな案内人をしていやす。

 

■●■●■●

 

久しぶりですなぁ、旦那。

顔を見るにそこそこ慣れてきましたかね、このくそったれな町に。

どうです、どっかの組織には入れましたか。

旦那程の腕ならまぁストリートギャングどもにはならずにすむでしょうや。

やつらの中でもでかいチームはありますが大体のやつらはその日暮らしの三一ですんで。

そうですか、レストランの護衛ですか。

エルドラドに近い場所ですから給金もいいでしょうな。

それで、あっしに今回は何の用で。

・・・なるほど、強くなる方法ですかい。

この都市には合法非合法問わず色々ありますが、順を追って説明しましょうか。

ついてきてくだせぇ。

 

 

■●■●■●

 

 

毎度の事ですが離れないでくださいね。

今日の第三区画は予報では黒雨は降らないはずですがもしもがあるんで。

ギャングどもはこの前の事変の影響で場所取りの為に暴れてますし、それと同時にいい腕のシャドウランナー達が行動してる。

まあそんな場所だからいろんな強くなる手法があるんですがね。

このビルから見下ろしてくだせぇ。

近すぎるとばれますし、旦那が逃げる時間があっしが稼げないんで。

大丈夫です、遠見用の魔具はお貸ししますんで。

 

さて、まずは銀髪の兄ちゃんを見てください。

身体中にタトゥー入れてるでしょ。

あれが強化方法の一つでさぁ。

肉体の神経に沿って属性石や特殊な魔薬を材料に作った奴を刻むんでさぁ。

タトゥーの紋様によって肉体強化、魔力強化など様々な効果が得られるます。

手軽に入れられますし、強化される幅も一定で、なにより結構安全です。

そこそこ腕のいい医者ならね。

やぶに当たったら悲惨ですよ。

属性が合わない材料を使って骨が砕ける、脆くなる、骨と肉が異常にくっつく。

魔薬の量を間違って肉がとろける、皮膚がゆがむ、強化されすぎて歩くことすらできなくなる。

まぁ、他にもいろいろありますがタトゥーは失敗すりゃあこのデメリットと一生付き合うことになりまさぁ。

あっしも入れてますがちゃんと腕のいいところでやりました。

他にこのタトゥーには所属している組織を示す役割もあります。

ギャングやマフィア、ヤクザ者も似たようなタトゥーを入れることが組織に入る条件になってます。

裏切り者を一目で見分けられますし、何より同じものを共有しているということで信頼関係が生まれますしね。

だからこの街でも主流な強化方法です。

 

次はあれです、あのマスク野郎を見て下さい。

奴はケミカリストです。

薬物によって肉体を強化するのはこの街じゃあありふれてますが、その中でもケミカリストのやつらは断トツのいかれです。

肉体、精神、魔力、全てを魔薬を使って強化するやつらです。

医者よりも薬に詳しく、そしてジャンキーどもより薬物中毒者な人間、それが奴らです。

なるには学が必要で、あり続けるには鋼鉄の精神が必要で、なによりも金が必要な存在。

それがケミカリストという存在でさぁ

 

あとは、そうですねぇあの継ぎ接ぎの姉ちゃんを見て下せぇ。

旦那も知ってるでしょう獣甲ってやつです。

失敗率も少なくないんですが、それだけに強力ですよ。

人間じゃ得られない力を持つことが出来ます。

あの姉ちゃんは多いですね。

四肢全部取り換えてますよ。

運がいいのか、金を持ってるのか、それともその両方か。

まあ、旦那よりも強いでしょうな。

獣甲以外にも昆虫の能力を持ったバケモンみたいなやつも出てきたって聞きます。

まだ実験段階ってところでしょうな。

 

 

最後にあの大男を見て下せぇ。サムライです。

改造手術で戦闘特化に強化された奴らです。

人工的に埋め込まれた機械やら生体魔具で小経口の銃弾じゃあ弾いちまう。

大口径のやつでも武装してたら、軽傷ですんじまうバケモン連中でさぁ。

まあそんなだから生活するにも金がかかるし、長い調整が必要なんですよ。

このノアだと商人やら、娼館などのガードマンですわな。

普通の人間には振り回せない武装を振るう姿は威圧感がありますから馬鹿やらかす奴が減りますんで。

問題は維持費とか以外には女が抱けなくなるんですよ。

ぐちゃりって女を潰すサムライの話はよく聞きます。

旦那もなるのはいいですが気を付けてくださいよ。

 

 

さてここから見て解る強化方法はこのぐらいですかね。

ついてきてくだせぇ、別のやつらを見せてあげます。

 

 

■●■●■●

 

 

さぁ、どうぞお入りください。

埃くせぇですが我慢してくださいよ。

よしっ、電気は生きてますね。

さてさて改めてようこそ、あっしの副業の武器屋に。

色々そろえてやすよ。

銃も剣も、薬もね。

さぁて、まずはこちらを。

アデプトの奴らが使う武器収束具です。

剣だから旦那にもいいでしょう。

アデプトの奴らは普通の魔法使いとは違って徹底した自己強化をする奴らです。

なるのは大変ですが強い奴らが多いですよ。

最上位の奴らは弾丸よけるのも油断をしなければ出来る人間も多いですから。

 

次はこいつですかね。

魔銃と特殊弾薬です。

構造とかあっしは知りませんが特異な能力や、段違いの威力を持ってます。

ガンスリンガーの奴らとサムライの奴らのイタチごっこの原因の一つですかね。

まあ超凄腕の奴らは眼球内とか口腔で跳弾起こしてサムライ殺しますがね。

これが悪いってんじゃありませんよ、ただ高いし威力がありすぎて扱いにくい部分もあるのは確かです。

 

他には共感覚を調整する薬剤とか、改造用の寄生虫とかですが---あん?

 

 

■●■●■●

 

 

それは突然の出来事であった。

半地下の崩れた建造物の中にあるネズミの武器屋の扉がひどく乱暴に開け放たれたのだ。

乱暴の開け方と同様に乱暴にがしゃり、と音が鳴る。

開け離れた入り口から獣の如く入ってきたのは機械の獣のような巨体の男。

 

「血、血ぃ~ッ!」

 

唸り声の如く喉から絞り出したのは鮮血への渇望。

薬物中毒者が麻薬を求める様に血を求めていた。

腕には刃が、型には銃器が、脚にはミサイルポッドが。

機械仕掛けのいかれ(サイバーサイコ)】【フル・サイボーグ】【サムライ】

全身兵器という言葉がこれ程似あう存在はそうはいないだろう。

 

機械仕掛けのいかれ(サイバーサイコ)か」

 

ひどく冷徹な声がする。

和気藹々と元冒険者の少年と喋っていった男からその声は出ていた、

男、鼠はにっこりと少年を見て口を開く。

ひょろりとした腕はとても重いものを持つようには見えず。

頬もこけており、栄養をちゃんととっているのかもわかりはしない。

人相も糸目だけが特徴的な男、それが鼠だった。

 

「旦那」

 

先程までと同じ調子で鼠は言う。

 

「あれが、強化しすぎた奴の末路です」

 

かちゃり、と机の上に置いてある魔銃を手に取る。

 

「この街じゃあ強化しすぎて狂ったやつらも少なくはない」

 

並べた魔弾をもう一方の手に取る。

 

「こいつみたいな奴らはボンボンがバカやったか、どっかのいかれや学者の実験に失敗した奴のどっちかです」

 

魔弾を、装填する。

 

「まぁやりすぎは禁物ってことですわ」

 

鼠は笑った、先ほどまでと同様に。

そして。

 

「血ィッ」

 

狂人が咆哮する。

乾いた肉体に浸す血を求めて。

機械化された肉体は純真の肉体を持つ少年が行動するよりも早く肩に装備された銃器を動かした。

自動で敵を狙い、打ち殺す凶器が高速で動く。

【マニピュレーター】【オートターゲッティング】

それが機能通り、敵を打ち殺すよりも速く、銃器は破壊された。

【溝鼠の矜持】【クイックショット】『魔弾・衝撃弾』

鉄が破壊された事で起こる轟音による驚愕よりも元冒険者の少年はあることに驚愕していた。

鼠が撃った。

そして巨大な銃器を破壊した。

たったそれだけの事に少年は驚愕していた。

元少年にとって鼠という男は強者ではない。

卑屈な性格をしているが周到な準備を利用する人間であると思っていた。

その驚愕が収まるよりも速く、事態は急変する。

銃器が破壊された事実に臆することなく獣は行動する。

人間などひき肉にして余りある怪力でもって己が腕に内蔵された刃を振るう。

【怪力】【ブレードオプション】

風を切り裂き、二人の人間を切り裂かんと向かっていく。

その瞬間、鼠は消えた。

【溝鼠の矜持】【フィジカル・アデプト】『閃狼の刺青』

こつり、と音がする。

それは鋼鉄の肉体に拳が当てられた音であった。

 

「おせえよド三一」

 

どすの利いた声を鼠が放つ。

そして。

 

「死ねや」

 

死を宣告した。

その言葉と同時に衝撃が発生した。

【魔力撃・殺戮の手】【釘打ち】

金属の塊である獣がまるでボールの様に吹き飛ぶ。

入り口だった場所が粉砕され、獣で埋まった。

 

「頑丈ですなぁ」

 

和気藹々とした声がする。

鼠の声だ。

それに返事するように獣が瓦礫の下でもがいている。

【頑強】

 

「だが死ねや」

 

冷徹な声がする。

鼠の声だ。

それに返事をするように悲鳴がなった。

 

「aaaaaaaーッ!」

 

【鉄鼠の錆】

不格好にぱたぱたと腕を動かし、獣は死んだ。

その理由は先程の拳の一撃と鼠の固有魔法にある。

鼠の固有魔法は金属の酸化操作。

肉体をほぼ機会に置き換えている人間の天敵である。

確かに死んだことを確認して鼠は振り返る。

 

「いやー大丈夫でしたか旦那」

 

先程までの声色の鼠だった。

こくり、と少年は腰を抜かしながら頷いた。

 

 

■●■●■●

 

 

いやあ、お恥ずかしい。

手を汚すところを見られちまいましたね。

なんですかい、なぜそんなに強いのにいつも闘わないのかって?。

今のはあっしが不意を打ったから勝ったんですよ。

正気の奴との正面戦闘じゃあああはいきやせん。

この街で強そうにしてるのはただの馬鹿かそれとも本当の強者かどっちかです。

あっしは本当の強者じゃないんですよ。

だからね、徹底的に相手をだますし、情報も集めます。

そうやってようやく勝負の舞台に出てくる臆病者なんですよ、あっしは。

なんですって、かっこいいですって。

・・・照れるだろ、やめろ。

赤くなってなんかいない、キラキラした瞳で近寄るな、やめろ。

チィッ、誰にもいうなよガキ。

したら殺すからな。

酒、奢ってやるよ、お前の店でな。

何青くなってやがる。

姉さん方に揶揄われてるってそりゃあいいこと聞いたぜ。

これでチャラだ、朝まで飲んでやる。




>鼠だが猫を被っていた鼠
罠張ってフィジカルアデプトで強化して魔力撃をぶち込むスタイル
ボバ君たちには逆立ちしても勝てないが超一流手前の男
以外と子供に慕われている、大体死んでるけど

>図らずも助けられた少年
何とか生き残ってる少年、改造手術よりもアデプトになると決めたようす
お姉さん方からは弟が出来たみたいとからかわれている
煽情的な衣装にたじたじな様子

>《タトゥー(魔紋)》
神経などにそって刻まれた刺青。
ノアにおいて普及している人体強化手法の一つ。
奏護の敵対部族から接収したのを都市の人々で実験している。

>《ケミカリスト》
薬物の専門家、作用も副作用も知り尽くしている。
魔薬にて強化し、魔薬にて相手を弱体化させる。
味方を強化することも可能。

>《サムライ》
機械や獣甲で肉体を大幅に置換したものを指す。
非常に頑強であり、ノアにおける戦闘の花。
由来は大陸に桜皇が入って来た時に生まれたとか魔導文明時代の強化兵の名前だったとかいろいろ。

>《アデプト》
自己強化魔術師、徹底した自己強化魔法の使い手であり最上位は弾丸すら見切る。
鼠はアデプトであり、タトゥーと併用して加速した。
なるのは難しく、師となる存在が不可欠である。


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