GOD EATER 『施しの英雄』   作:へいよーかるでらっくす

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大変お待たせしました!
前回の投稿時には既に7割近くが完成していたのですが誤ってデータを消してしまい、完全にモチベーションがダウンしていたのですが、この度どうにか投稿することが出来ました!

ただ…大体5000字で終わる筈が10000字オーバーの無駄に長い内容になってしまいました(ドウシテコウナッタ…)

ヘッタクソな文章が長々と続きますが、楽しんで頂けたら幸いです。それではどうぞ!



あ、今回は戦闘シーンありです。
 


第4話

あれからユノにいくつか質問した結果、ここは関東、それも極東エリアだって事が判明した。ただし極東支部の正確な方向や距離は流石にわからなかった。これに対してユノは申し訳なさそうな顔をしていたが、現在地が分かっただけでも十分な収穫だったので、その事を伝えてお礼を言ったら『お役に立てて良かったです!』と笑顔で返してくれた。(君は天使か!?)

 

それとこの拠点の名前は『ネモス・ディアナ』というらしい。

なんでも、ここは極東支部に入れず路頭に迷った人達が暮らしているんだとか。つまり、

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

まあ当然だね。必死になってアラガミから逃げてきてやっと支部に辿り着いたかと思ったら、神機使いの適正がないからって理由で追い返されたんだ。逃げてきた人達にとっては堪ったもんじゃない。俺だって同じ立場だったら絶対に恨む。三代先まで祟ってやるね。

 

ただユノ本人は恨んではいないようで寧ろアラガミと戦っている極東支部の人達には感謝しているとのこと。(君は聖女か!?)

 

とまあ以上のことを教えて貰い、質問を終えた俺は今何をしているかというと。

 

 

〜〜〜〜♪

 

 

ユノの歌を聴いていた。

 

質問の後、俺がユノの歌声についての話題を振り、そのまま話し込んでいく中で1曲歌ってくれないかと頼んだところ、彼女は喜んで引き受けてくれた。

 

こうして歌を聴いている訳だけど、さっき聴いた歌とは印象がかなり違う。話を聞くにあの時の歌は亡くなった人達に向けて歌っていたらしい。つまりは鎮魂歌(レクイエム)だ。

道理であの歌を聴いた時、声は綺麗なのに歌詞の内容が寂しいなって思った訳だ。

 

 

 

 

さて、どうやら歌い終わったみたいだね。

 

「…あのーカルナさん。ど、どうでしたか?」

 

「素晴らしい歌だ…素晴らしい歌だ!」

 

「わ、わざわざ二回も言わなくても…」

 

いやいや、大事なことだから二回言ったのさ。

 

「それだけ見事だったということだ。お前の歌は実に心地良かったぞ」

 

「うぅ、そう言ってくれるのは嬉しいですが……は、恥ずかしいです」

 

嘘でも何でもなくユノの歌は本当に綺麗だった。

正直に言うと俺はもともと歌に強い関心はもっていなかった。

そんな俺でも最初に歌を聞いた時、純粋に『もっと聴いてみたい』と思う程だ。

 

理屈はわからないけど、もしかしたらユノの歌には人を魅了する力があるのかもしれないね。

 

「恥ずがしがる必要はない。お前の天使のような美声を聴いて心が癒された」

 

「て、天使!?流石に大袈裟すぎる気がしますが…でも、そう言ってもらえてホッとしました。いつもと違って緊張していたので上手く歌えているか正直心配だったんです」

 

「ん?それはどういうことだ?」

 

「実は私、外出は控えるように父から言われていて、普段は自室で1人で歌っているんです」

 

「つまり、人前で歌ったことがないということか?」

 

「全くないわけではないんですが、それでも数えられる程度しかありませんね。だから人前で歌とどうしても緊張してしまうんです」

 

成る程ね。おそらくユノのお父さんはアラガミに襲われるリスクを下げる為に外出は控えるように言ったんだね。

だから人前で歌う機会が殆どなかったと…うーん、勿体無いなぁ。

 

ん?ということはこんな時間にここにいるのはもしかして…。

 

「念の為に聞くが、ここにいることはお前の父は知っているのか?」

 

「うっ…じ、実は…その…父は今仕事の関係で留守にしていて…今日はこっそり部屋を抜けだして来たんです」

 

やっぱりそうか。意外とお転婆なところがあるんだね。

気持ちは分かるけどそれはあまり良くないぞ。

 

「…それはあまり褒められたものではないな」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

いや俺じゃなくて君のお父さんに謝らないと。

 

「で、でも早く部屋に戻れば大丈…あ!」

 

「どうした?」

 

「早く戻らないと部屋の様子を見に来た家政婦さんにバレちゃう!!」

 

え、ちょっ家政婦さん!?もしかしてユノってお嬢様だったの!?

ってそんなこと気にしてる場合じゃない!

 

「ここからの距離は?今から間に合うのか?」

 

「部屋はあの塔の上層部にあって、ここからよく見るとベランダが見えますよね?あそこに私の部屋があるんですが………正直…ダメだと思います…」

 

あのベランダね。でも今からじゃ間に合わない…か。

 

そもそもこうなったのは俺がここにユノを引き止めちゃったのが原因だ。だったらその責任は俺が取るべきだし、いい案なら既に思いついている。でもそれを実行するということはこの身体の力の一端を見せるということになる。

 

でも………そんなことは知ったことか!!恐らく詮索されるだろうけどその時は上手いこと誤魔化せばいい。兎に角今は彼女のことを優先するべきだ。

 

「間に合うかもしれないぞ」

 

「…え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゃあーーーー!!!どうなっているんですか!!カルナさーーーんっ!!!!!」

 

「叫ばない方がいい、周囲にバレてしまうぞ?」

 

「無茶言わないで下さーーーーーいっ!!!!!!」

 

というわけで今俺はユノをお姫様抱っこして塔の壁を登っています。

この身体のスペックをもってすれば垂直の壁を登ることなんて造作もない。……まあ、本音を言うと一度でもいいからやってみたかったんだよね、これ。

 

「口を閉じろ、舌を噛むぞ」

 

「は、はいぃぃーーっ!!!!」

 

 

 

 

 

 

よーし!ベランダに到着だ!時間にして一分も経ってないね。

やったなユノ、無事に間に合ったぞ!

 

「…………」

 

あっまずい、完全に放心状態だ。

 

「ユノ、大丈夫か?」

 

「ハッ!は、はい…何とか……大丈夫です」

 

いやホントにごめん。

ユノにとっては絶叫アトラクションを安全ベルトなしで乗ったようなものだもんね。でも間に合わせるにはこれしか方法がなかったんだ。

 

「すまない、お前には刺激が強すぎたな。謝罪しよう」

 

「あ、謝らないで下さい。カルナさんのおかげで間に合ったんですから」

 

「いや、今にして思えば事前に伝えておくべきだった。そうすれば多少は違った筈だ。本当にすまない…」

 

「あのー、登ることを伝えても大して変わらなかった思いますし、そんなに気にしなくても…」

 

「すまない…」

 

「い、いえあの…ですから……」

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

「(なんて綺麗な人なんだろう…)」

 

それは葦原ユノがカルナを見て最初に感じた印象だった。

 

透き通るような白さをもつ髪と肌。胸元は剥き出しになっているとはいえ埋め込まれた赤い宝石と相まって独特な妖しさを曝け出していた。

そして何よりも目を引く彼が纏う黄金の鎧。雲1つない夜空に浮かぶ月の光を浴びて輝くその鎧は不思議とも何とも形容できない神秘的な雰囲気を帯びていた。

 

これらを統合している彼の姿は正に完成された1つの美と言っても良いだろう。

 

だが如何に美しいとはいえカルナの姿はこの世界の住人からすれば明らかに異質に映るだろう。さらには研ぎ澄まされた剣のような鋭さをもつ眼光と他人を寄せ付けない雰囲気を無自覚だが曝け出しているため、余計にその異質さを加速させてしまっていた。

 

人は異質なものや未知なものに恐怖感を覚える。

故に彼に怯えたり、警戒する者が殆どだろう。

 

だがユノは怯えることもなければ、警戒することもなく、ただただ彼の姿に見惚れてしまっていた。

これについてはカルナも気になっていたので質問の後にユノに聞いた。

『何故警戒すらしなかったのか?』と。

 

すると彼女は

『うーん…そうですね。強いて言うなら、カルナさんから危険な感じを全くしなかったから…ですかね。それに、表情には出ていませんけど何処か困っているような様子だったので、できることなら力になりたいなって思ったんです』

 

もともと勘の鋭いユノはカルナから発する独特な雰囲気に驚きこそはしたが、彼に敵意はなく自分を脅かすような存在ではないことを何となくではあるが感じ取ったのだ。

 

これを聞いたカルナは表情こそは変わらなかったが、内心ではユノの人柄のよさに改めて感動し涙を流していたのだが、それについては割愛しよう。

 

話を戻すが、ユノは最初に出会った時からカルナがただの人間ではないことも薄々ではあるが勘付いていた。

 

「(やっぱり、カルナさんは…)」

 

そして今、人1人を抱え垂直の壁を高速で走るという人間離れした身体能力を見て確信へと変わった。

 

「それにしても、歌以外であんなに声を出したのは初めてですよ。

昔あった遊園地という場所にはきっとあんな体験ができるアトラクションが沢山あったんでしょうね。フフッ…私は直ぐにバテちゃうと思いますけど」

 

だが、彼女は何も言わなかった。

これには普段は無表情のカルナも僅かだが目を見開いた。

 

「…なにも聞かないのだな」

 

「え?」

 

「隠す必要はない、お前は気付いた筈だ。オレが普通の人間ではないことをな。いや…恐らくは最初から気付いていたのだろう」

 

「……」

 

「お前の気遣いには感謝している。そんなお前にこのようなことを問うのは、すじ違いだということは理解している。だが答えて欲しい、何故お前は──」

 

態度が一切変わらず、何も詮索してこないことがどうしても気になってしまったカルナはユノに疑問をぶつけた。

だが、言い終わる前に彼女はカルナの目を真っ直ぐ見据え口を開く。

 

「初めてだったんです」

 

「何?」

 

「身内以外で誰かとあんなに話したのは初めてだったんです。私言いましたよね?父から外出は控えるように言われているって。だから、気軽に話せる相手も同年代の友達もいないんです」

 

そう、ユノは所謂箱入り娘であった。

彼女の父親の方針により外どころか部屋からも殆ど出してもらえず閉鎖的な生活を送っていた。話す相手はいつも父親か彼女の身の回りの世話をする使用人ぐらい。しかし、ユノは父親のことをあまり快く思っていないため二人の会話は殆どなく、使用人は話しても畏まった態度を取るため対等に話すができなかった。

 

しかし彼女とて十代の少女だ。そんな生活をしていれば気軽に話せる相手や友達を求めるのは当然と言えるだろう。

 

「私、凄く嬉しいかったんです。カルナさんにとっては何気ない会話だったかもしれないですけど、私にとっては、まるで願いが叶ったような気がして…」

 

「……」

 

「カルナさんは疑問に思うかもしれませんが、楽しい時間をくれたあなたが例え人間ではなかったとしても、私は気にしません。だって……会話をするあなたの姿は間違いなく()()()()()()()()()()()?」

 

「ッ!」

 

「と言っても今までロクに人と話したことがない私が何を言っているんだって思うかもしれないですけど…あ、あはは…」

 

自分で言っておきながら羞恥心を覚え、頬を掻きながら目を晒す。

そんなユノにカルナは、

 

「…この世界で最初に会えた人間がお前でよかった。お前と出会えたことに幾千もの感謝を…」

 

ユノの前で片膝を付き、頭を下げて感謝の言葉を伝える。

その光景はまるで御伽話にある、一人の少女に忠誠を誓う騎士のようであった。

 

「え?え!?ちょ、ちょっとカルナさん!?頭を上げて下さい!」

 

「む?お前に感謝の念を伝えるためのオレなりの表現なのだが…」

 

「大袈裟すぎです!!兎に角その体勢はやめて下さい!こっちが混乱しちゃいます」

 

「…………そうか…」

 

「なんで残念そうなんですか…」

 

ユノに言われ姿勢を戻すが、その顔は心無しかしょんぼりしているように見えた。

 

 

 

 

 

「(そういえば…)」

 

するとここで、彼女はあることに気が付いた。

 

「(彼は確かに言った『この世界で最初に会えた人間は』って。それじゃあまるで…)」

 

()()()()…か」

 

「──え?」

 

カルナが先程言っていた言葉の意味について考え込んでいたが、彼の声に遮られ中断する。

一方で時間切れと呟いた彼の視線はユノの部屋の出入り口に向けられていた。

 

「この部屋に何者かが近づいてくる。恐らくお前が先程言っていた使用人だろう。ならば頃合いだ、オレは早々に立ち去るとしよう」

 

「ッ……お別れ…なんですね…」

 

「(そうだ。カルナさんがここに来た目的は極東支部の場所を知るため。ならばもう…ここにいる必要はない)」

 

「ああ、名残惜しいが別れの時だ」

 

「………」

 

別れの時間という現実を突きつけられたユノは顔を伏せて悲痛な表情を浮かべた。それだけ彼女は人とのコミュニケーションに飢えており、カルナとの会話を心の底から楽しんでいたのだ。

 

「ユノ」

 

酷く落ち込んでしまった彼女にカルナは優しく語り掛ける。

 

「そう悲しむことはない。何も今生の別れというわけではないのだからな」

 

「─ッ!」

 

カルナの言葉にハッと顔を上げるとカルナは穏やかな表情を浮かべ、いつもの鋭い目つきではなく、自分の心を優しく理解するような目をして見つめていた。

 

「……また…会えますか?」

 

「会えるとも。いつになるのか、それはわからない。だが必ずその時が来る。再会を果たした時は、またお前の歌を聴かせて欲しいのだが…頼めるか?」

 

再会の約束、自分の歌をまた聴かせて欲しいという言葉。それだけでユノの心は喜びで一杯になり、彼女の顔に先程まであった影は嘘のように消えていた。

 

「…はい……はいっ!その時にはもっと上手く歌えるように頑張ります!」

 

ユノの様子にカルナはどこか安心したような顔をし、ゆっくりと歩みを進め、ベランダの端まで移動したところで彼女の方に向き直る。

 

「ではさらばだ、ユノ。…いや、()()

 

「ッ!」

 

「お前が歩むこれからの未来に、太陽神スーリヤの加護があらんことを…!」

 

そう告げた瞬間、カルナはベランダの柵を飛び越え

 

 

─────────()()()()()()()()

 

 

 

「─へ?───カ、カルナさんっ!?」

 

自分のことを"友"と呼んでくれたことに唖然としていたユノだったが、カルナの投身自殺紛いの行動に我に返り、直ぐ様柵に駆け寄って下を見下ろすが、

 

「あれ?」

 

カルナの姿は何処にもなかった。

 

「……………全く、脅かさないで下さいよ…」

 

「お嬢様っ!!どうされたのですか!?」

 

するとそこへユノの様子を見に来た使用人が彼女の声を聞き、慌てて部屋に入って来た。

 

「な、何でもないです!ただちょっと歌の練習を…」

 

「……そうでしたか。ですが今日はもうお休みになって下さい。こんな時間に起きていては明日に響きますよ?」

 

「ホッ……はい、御免なさい」

 

何とか誤魔化せたことにホッとしながら使用人に促されベッドの方へ歩き出すが、一度足を止めベランダに視線を向けた。

 

「(絶対に約束ですからね。それから……友達になってくれてありがとう…)」

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

ネモス・ディアナが建設されたこの土地は、"アラガミの出現率が極めて低い"という極東エリアでは非常に珍しい場所だった。植物が生い茂り、巨大な森が今も尚残っているのがその証拠と言っていいだろう。

 

だが、あくまで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。故にアラガミが侵入し大勢の住人が犠牲になったことは過去に何度もあった。

ユノが鎮魂歌を歌っていた場所にあった大量の花束。その殆どがアラガミの襲撃で犠牲になった人達への手向けとして置かれたものだった。

 

そして今夜はその低確率を引いてしまった。

 

 

 

『──◾️◾️◾️!!!』

 

 

 

凛とした静けさが広がる大地に、身の毛もよだつような雄叫びが響く。

雄叫びの元凶はゆっくりとした足取りで真っ直ぐとネモス・ディアナへと進行していた。

 

その正体は、筋肉質で猿人のような体格をし、上顎から顔全体にかけて仮面で覆われ、背中には四つのパイプの様な器官がある"コンゴウ"と呼ばれるアラガミだった。

彼等は単独で活動もするが、基本的に数体の群れを作って行動する。しかし今回は運が悪いことに──

 

『『『『『──◾️◾️◾️◾️◾️!!!!!!!』』』』』

 

"二十体以上"もの巨大な群れとなって行動していた。

 

コンゴウ達は咆哮と同時にネモス・ディアナを囲う森に向かって一斉に走り出す。森の先にある居住区に住む人達、否──"餌"を捕食するために。

 

 

 

 

 

しかし──()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

「──覚悟」

 

 

 

 

 

突如、一番先頭を走っていたコンゴウの頭上から"黄金の閃光"が飛来し爆発音と同時に地面を揺らした。辺りは衝撃で岩石が飛び散り、土埃に包まれた。

 

突然の出来事に進行していたコンゴウ達は一度後退し、前方を睨みつけ警戒していると、

 

コツ…コツ…

 

ゆっくりとした足音が聞こえ始め、薄っすらと人影が映り、

 

「……」

 

右手に黄金の槍を持ち、刺し貫くような冷たい眼差しをしたカルナが姿を現す。

同時に土埃も治り始め、視界が晴れてくると彼の背後では、頭部から上半身にかけてが見るも無残に潰れたコンゴウが地面に大きくめり込んでいた。

 

「………………」

 

『◾️◾️◾️……』

 

足を止めたカルナはその鋭い眼光でジッと前方を睨み付ける。

コンゴウ達も同族を一瞬で殺したカルナを警戒しているのか、攻撃はせず唸り声を上げながら睨み返す。

 

 

 

数十秒の間睨み合いが続き

 

 

 

『◾️◾️◾️!!』

 

痺れを切らした一体のコンゴウが背中のパイプ器官で空気を取り込み、圧縮した空気砲を放った。

 

人間の二倍近くもある空気砲は、周囲の砂や小石を巻き上げ、岩石を砕きながら一直線に進み、目前まで迫る。

 

カルナは流れる様な動作で右手を前に出しながら槍に魔力を纏わせ、石突きを地面に突き立てる。

 

キーーーーンッ!!

 

空気砲が槍と接触した瞬間、耳を劈くような甲高い音が周囲に鳴り響き、槍に纏わせた高密度の魔力が盾の役割を果し空気砲を打ち消した。

 

「さて…」

 

カルナは何食わぬ顔で槍を回し、コンゴウ達に穂先を向ける。そして、アラガミですら戦慄してしまう程の濃密な殺気を放ちながら告げた。

 

「悪いがここから先へは行かせん。掛かってくるがいい、愚かな怪物よ」

 

それが開戦の合図となった。

 

カルナの殺気に一度は怯むが、直ぐに本能に従い攻撃を開始した。

三体のコンゴウは身体を丸めてローリングアタックを仕掛けるが、カルナは防御も回避もせずに槍を構え、地面を蹴って正面から突っ込む。

そして紙一重で躱した瞬間、

 

「遅い」

 

コンゴウ達に()()()()()()()が襲った。

カルナは躱す際、目にも溜まらぬ速さで相手を何度も切り裂いたのだ。

斬撃を受けた身体は、まるでバターの様にバラバラに切断され、地面には大量の鮮血と肉片が飛び散る。

 

『『『『──◾️◾️◾️!!!』』』』

 

コンゴウ達は怯むことなく周囲の空気を取り込み、次々とカルナに向けて空気砲を放った。

 

「虚仮威しだな…!」

 

槍を両手に持ち刀身に魔力を纏わせると斜めに振りかぶり、目前まで迫ったタイミングで勢いよく振り下ろした。すると魔力で出来た巨大な斬撃が発生し無数の空気砲を一撃で切り裂いた。しかし、

 

「─ッ!?」

 

突如、足元を中心に発生した"竜巻"がカルナを襲う。

コンゴウは取り込んだ空気を使って相手がいる地点に任意のタイミングで竜巻を発生させる能力もあり、数体のコンゴウが空気砲を放つと見せかけて彼が油断した瞬間に攻撃を仕掛けたのだ。

 

「──フッ!」

 

竜巻によって吹き飛ばされる中、空中で素早く受け身を取りスライディングしながら着地するが、

 

『─◾️◾️!!』

 

背後に回り込んだ一体のコンゴウが丸太の様に太い豪腕でカルナを殴り付ける。カルナは直ぐ様反応し、両手に持った槍で受け流すと素早く左手に持ち替る。そして空いた右手を強く握り締めると、

 

「ハァッ!!」

 

その細腕で()()()()()()()()()()()()()()()()

 

一見無意味な攻撃に見えるが、カルナの筋力はステータスで表すとBランク。一番低いEランクでさえ人間の約十倍、Bランクだと約四十倍の筋力がある。

 

『◾️◾️◾️!!!???』

 

拳は見事に命中した。顔面を覆う仮面部分が粉々に破壊され、コンゴウは身体を大きくのけ反らせる。無論この隙を彼が見逃す筈がない。

 

「─フンッ!!」

 

そのまま身体を回転させ無防備なコンゴウの腹部に向かって強烈な回し蹴りを放つ。

コンゴウの身体はくの字に曲がり、人間の数倍もある巨体が凄まじい速度で吹き飛び、戦線から大きく離れていった。

 

だが、追撃は終わらない。

 

カルナは魔力放出を使い、吹き飛んでいくコンゴウに追い付くと脚に炎を纏わせ、腹部にもう一度回し蹴りをして地面に叩き付ける。

ドゴォンッ!という重量のある音と共に地面が大きく陥没した。

 

 

『……◾️◾️…◾️…』

 

丸みのある腹部は大きく凹み、皮膚は焼き爛れ、虫の息となったコンゴウはビクビクと小刻みに身体を震わせながら口から大量の血と"握り拳大程の球体"を吐き出す。

すると、まるで電池が切れた様にピクリとも動かなくなった。

 

「…ん?」

 

吐き出された球体が気になり、手に取ってみるとその球体は微かに蒼く光っていた。

 

「これは……」

 

『──◾️◾️!!』

 

球体に気を取られている間に背後から彼を追い掛けて来た別のコンゴウが鋭い牙を覗かせながら頭に喰らい付こうと迫る。しかし、

 

『─◾️◾️!!??』

 

「少し待て」

 

なんとカルナは背後を一切見向きもせず、槍先をコンゴウの口の中に突っ込んだのだ。コンゴウは必死になって噛み砕こうするが、ギチギチと音が鳴るだけでまるで歯が通らなかった。

 

「ふむ、奴が生命機能を停止したタイミングから推測すると……おそらく"コア"か。こうして見るのは初めてだな」

 

"コア"とはアラガミを構成する無数のオラクル細胞を制御し、様々な命令伝達を司る──言わば『司令塔』の様な役割を担っている細胞だ。

コンゴウの動きが停止したのはその司令塔であるコアを吐き出してしまったからだ。

 

もっとも既に瀕死だったため、吐き出さなかったとしても結果は変わらなかったのだが…。

 

「さて、では続きだ」

 

コアを炎で跡形もなく燃やし、コンゴウに視線を移しながら槍先に魔力を集中させ、

 

『─◾️◾️!!??』

 

「待たせた謝礼だ。受け取れ…」

 

槍先から極太の熱線を空へ向けて放った。当然口内で放たれたためコンゴウの頭部、更には上半身が一瞬にして消滅し、残された下半身は焦げ臭い匂いを漂わせながらゆっくりと倒れた。

 

 

 

 

 

「残りの敵は……」

 

『『『『──◾️◾️◾️◾️◾️!!!!!』』』』

 

追い掛けて来たコンゴウ達は十数メートルの距離を取り、既に戦闘態勢に入っていた。

 

「よし、全てこちらに来ているな。これでオレも戦い易くなる」

 

戦線から離れたのは追撃のためだけではない。

あの場所はネモス・ディアナを囲う森の近くだったため、自分の攻撃で森に被害が出てしまう可能性があった。故に自分も追撃のついでにあの場所から離れた。更に自分を見失った個体がいても確実にこちら側へ誘導するためにわざと目立つように熱線を空へ放ったのだ。

 

「ここからは手加減なしだ。貴様達は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。その罪は死をもって償ってもらう」

 

宣言した瞬間、まるで彼の怒りを表すように緋色の炎が激しい勢いで溢れ出し、漆黒が広がる夜空を紅く染め上げた。荒ぶる猛火を前にコンゴウ達はたじろぐがカルナに容赦の二文字はない。

槍に炎を纏わせ、姿勢をやや低して構えをとる。

 

「行くぞ…」

 

地面が割れる程の力で蹴り、一体のコンゴウに目掛けて疾風の如き速さで突貫する。その様は炎で形成された一つの巨大な槍そのものだった。ターゲットにされたコンゴウは左にステップして躱そうとするが反応が余りにも遅すぎた。

巨大な炎槍は容赦なく胴体を貫通し一撃で息の根を止める。

 

だがカルナの攻撃は終わらない。

 

彼はそのまま華麗な槍捌きで別のコンゴウの胴体を貫き、或いは両断し次々と命を刈り取っていく。相手もパンチや空気砲で反撃を試みるが悉く躱され、パンチに至ってはカウンター技で返されてしまい逆に反撃を受ける始末だった。

 

カルナの攻戦は更に続き、怒涛の勢いで群れの半数近くを狩っていくその光景は最早戦闘ではなく"蹂躙"に等しかった。

 

しかし、ここでカルナにとって予想外のことが起きた。

 

「ッ!?」

 

なんと腹部を貫かれたコンゴウが両手で槍を掴んだのだ。これによって動きを止めてしまい、その隙に別のコンゴウが助走しながらカルナに向かって強烈なラリアットを叩きつけた。

 

「ぐっ…!」

 

ラリアットにより吹き飛ばされたカルナは地面を数回バウンドしながら近くの岩壁に激突した。

すると周囲のコンゴウ達がしめたと言わんばかりに次々と空気砲で追い討ちを掛けていった。

 

『『『──◾️◾️◾️◾️!!!!!』』』

 

空気砲の衝撃で大量の土埃が舞う中、コンゴウ達が最後の止めを刺すために全速力で走り、カルナに目掛けて飛び掛かった。

 

 

 

この時、もし彼等が人間の言葉を喋れたのならこう言っただろう。

『この戦い、我々の勝利だっ!!』と。

 

 

 

だが彼等は知らない。この状況(油断して集まって来たこと)が彼にとって好都合な展開だということに…

 

 

 

「───火神(アグニ)よ」

 

インド神話で語られる『炎を司る神』の名を唱えた瞬間、カルナを中心にまるで火山が噴火した様な勢いで巨大な火柱が発生した。

その規模と熱量は今までの比ではなく、近付いて来たコンゴウを呑み込み、悲鳴を上げる間もなく瞬時に蒸発させていくその様は、最早炎ではなく火山から溢れる溶岩そのものだった。

 

火柱が消えると中心地では鎧の効果により一切のダメージを負っていないカルナが石突きを地面に突き立て、仁王立ちしていた。

 

『──◾️◾️』

 

対して相手の数は先程の火柱によって一網打尽したため、残ったのは奇跡的に難を逃れた一体のコンゴウのみ。

 

「…後は貴様だけだ」

 

仲間が全て殺られたこの状況でコンゴウがとった行動は…

 

『─◾️◾️!!』

 

"逃走"だった。

 

本来の"喰らう"という本能よりも生物であれば誰もが持つ"生存本能"が勝ったのだ。

『自分ではあれに勝てない、このままでは自分も狩られる』

そう察したコンゴウはカルナに背を向け一目散に走り出した。

 

だが、

 

『──◾️◾️!!???』

 

「何処へ行くつもりだ?」

 

カルナがそれを許す筈がない。

彼は素早く前に回り込むとコンゴウの顎にアッパーカットを繰り出し、怯んでいる隙に脚を炎を纏わせる。

 

「─ハァッ!!」

 

魔力放出の爆発力を利用してコンゴウの腹部を渾身の力で蹴り上げた。

足は腹部に深くめり込み、生体から鳴ってはいけないグロテスクな音を出しながら砲弾の如き速度で空高く吹き飛んでいった。

 

そして右目に魔力を集中させ、最後の一撃を放つ。

 

「とく消え去るがいい、『梵天よ、地を覆え(ブラフマーストラ)!!』

 

放たれた光線の威力は以前よりも格段に抑えられているが、それでも一撃必殺の奥義であることに変わりはない。

光線は瞬時にコンゴウを貫き、爆発と共に跡形もなく消し去った。

 

爆発が治まると先程まで続いていた戦闘音は無くなり、いつもの静寂な夜を取り戻していた。

 

 

 

 

 

こうして極東に造られた小さな楽園『女神の森(ネモス・ディアナ)』に迫っていた最大級の脅威は無事に去った。

 

見捨てられても尚、必死に生きる人々のために。そして──()()()()()()()()()()()()()に奮闘した一人の青年の手によって…

 




コンゴウは犠牲になったのだ。古く(無印ピルグリム)から続く因縁……その犠牲にな…。

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