落ちた先は少女達の前線 作:Fくんさん
今回書くにあたって自分も走り直したり動画をみたりしましたが、やっぱりTF2楽しいですね。
視点移動が多くなっています。読みにくければ申し訳ありません。
へリアンさんに連れられて、俺はVGに搭乗し一緒にただ案内に従う。さらに後ろにはドラグノフを欠いた人形部隊。ガバメント、B.A.R、スオミ、M14の4人もまた、へリアンさんに言われて行き先不明のまま追従していた。
(しかし…広いなグリフィン)
広大な敷地をただ歩く。グリフィンという会社は民間軍事会社というカテゴリであるものの、その業務内容は非常に多岐にわたり、必要な施設や設備を複合して運営しているらしい。
「ここだ。着いたぞ」
VGの歩みを止め到着したのは、ヘリや車輛が押し込められた格納庫だ。いや、”押し込められていた”というのが適切だろうか。言われるままにVGのシャーシをその中にくぐらせると、車輛の類は見受けられず代わりに大勢の人がこちらを見上げていた。作業着だったりラフな私服だったり、何人かはグリフィンの制服を身に着けている。スキャンをすれば人形も沢山居るのが分かった。
「ディキンソン」
「はい?」
へリアンさんは手元のタブレット端末に目線を落としたまま、これから行うことの説明を始める。
「今から頼みたいのは、君の能力の提示だ。具体的には、応接室で言っていた三次元機動戦闘とはどういうものか…それをやって見せてほしい」
(…そんな事も言ったな)
一瞬、武装を開示しろという意味かと思って身構えたが、そういうことなら一向に構わない。口頭での説明が苦手な俺からすれば、直接見せていいというのは有難い話だ。
「了解しました。…ガバメント」
「アランさん?」
マイク越しに、後方のガバメントへ呼びかけた。
「戦闘スタイルを見せる時が来たようだ。存外早かったな」
「あっ…そうですね!頑張ってください!」
それだけ言って、ガバメント含む4人はへリアンさんに誘導され人の海に混ざって行った。代わりにやってきたのはクルーガーさん。
「ディキンソン、お前の力を示してみろ」
「了解。訓練プログラムの映像を投影すればいいですか?」
「うむ」
「VG、俺の映像データを壁面に投影してくれ」
「プログラムを起動、投影開始します」
格納庫内の壁に、俺の目に映る高い景色が薄く投影される。前もって設置していたのだろう、スタッフが暗幕で日の光を遮断すれば、それはより鮮明に映し出された。同時に俺は手動でVRシステムの中から”ガントレットモード”を実行。俺はコックピットが暗転する寸前、格納庫内を一瞥した。
(………)
(…居ないみたいだな)
「VRモード、オンライン」
―――意識が沈む。
再び目を開けた時、視界に飛び込んでくるのは操縦席ではなく巨大なモニターだった。ランタイムや最高速、標的数などが空欄になっており右隣の壁には数種類の銃火器と軍需品が吊られている。左手には俺の名前がポツンと浮かぶタイムスコアボードと、奥にガントレットコースのスタートライン。
「VG、聞こえるか?」
「肯定。外部からの音声入力を有効にします」
『あーあー、テス。応答してくれ』
「へリアンさん。聞こえてます」
『こちらも問題無い。これは…シミュレーションか』
「はい。これから、ホロターゲットの撃破とコースの走破を行います。これで大体は分かってもらえるかと」
『分かった、いいだろう』
武器の方へと歩み寄り、少し悩んで”ウィングマン”と”フラググレネード”を2つ「ずつ」手に取る。
「武器システム、軍需品システム、戦術グラップル、ジャンプキット、ガントレットメーターオンライン」
「了解。各システム問題ありません」
「ありがとうVG。さて…」
ウィングマン2丁を両方とも左右のレッグホルスターに差し込み、グレネードを引っ掛ける。壁からフラググレネードを取り、被害の及ばない後方に投げ近くにあったハモンドP2016で射撃する。炸裂したグレネードは爆風で俺の背中を押した。
(流石に、フラググレネードの加速はやめとくか)
『ディキンソン、今のは』
「すいません、気にしないでください。ただのテストです」
『…そうか』
「それと、少し集中するのでそちらの音声を遮断しても構いませんか?」
『あ、あぁ。承知した…期待している』
「ありがとうございます」
今回の目標は機動戦闘を見てもらうのであってタイムを縮めるのではない。息を吐いて気分を切り替え、P2016を手放した。言わばこれは自己PR、アピールポイントとして魅せる立ち回りが求められる。
(なら存分に釘付けにしてやろうじゃないか)
「よし。VG、計測よろしく」
「はい。いつでもどうぞ」
その返事を受け、つま先をコンコンと鳴らす。
しっかりと力を込めたら、俺は地面に別れを告げ壁を踏む。
ジャンプキットの音と計測開始のブザーは同時だった。
──────────────────────────へリアントス
謎の客人”アラン・ディキンソン”の行動は、格納庫内をザワつかせた。隣のクルーガーさんは「ほう…」と声を漏らすのみだが、私は仮想空間の彼に尋ねる。
「ディキンソン、今のは」
これでもし、得意気に語り出すのであれば可愛いものだったが、現実は素っ気なく平坦な返事。
『すいません、気にしないでください。ただのテストです』
「…そうか」
『それと、少し集中するのでそちらの音声を遮断しても構いませんか?』
次にこの上映会場に走ったのは、動揺と興奮が半分ずつだった。それもそうだろう。なんせ彼は先程、後ろに投げたグレネードを適当に掴んだハンドガンで
「あ、あぁ。承知した…期待している」
『ありがとうございます』
なんだかドッと疲れたような気がするが、彼の弁が真実なら本番はこれからということになる。私は多分油断していたのだと思う。緊張こそあったが話してみれば実直で誠実な青年という印象を持っていた為に、初めて見る兵士としての彼の姿に僅かに気圧された。
(それだけ真剣に取り組んでくれていると言うわけか…いかんな、こちらも集中しよう)
何度かまばたきしてから、画面にしっかりと意識を向け直す。
彼は垂直な「壁」に手と脚を着き、しっかりと走行していた。
「…えっ」
ブザーはまだ、鳴ったばかりだ。
──────────────────────────アラン・ディキンソン
壁面で助走をつけスタートと同時に対面の壁へ跳び移る。手を着いた瞬間にまた次の、宙に浮かぶドーナツ状の壁に、さらに元の続いた壁へ。
視界に収めた3つの固まったターゲットに向けて、視えるフラグの軌道を合わせて投げる。放物線のラインを描くフラグの起爆を待つ時間は無く、引き抜いたウィングマンで撃ち強引に炸裂させた。
(残弾左5、フラグ1、残標的12)
スピードを殺さぬよう着地と同時にスライディングで狭い隙間に滑り込み、即座に右のウィングマンにも指を掛ける。左手前と右側の標的を左右1発ずつで仕留め、両手に1丁ずつ握ったまま右側面へと思い切り跳躍。
(残弾左4、右5、残標的10)
真下と少し先の障害物に隠れた標的を見逃すことなくしっかりと処理し、続く直線コースのターゲット3つを岩陰に確認した。ジャンプキットを噴かし両端の壁を交互に蹴り移りながら、タイミングを見極め銃のグリップで吊っていたフラググレネードを叩き落とす。空中に身を躍らせ視界の端に捉えたフラグを弾丸で起爆、再び前を向く。標的を消し飛ばす音が聞こえればそれで充分だった。
(左2、右4、残り5体…)
曲がり角を抜けた先には高くなった脇の道に左が1体と左右奥にそれぞれ1体。手早く右のウィングマンで手前の1体を撃破、左手首に装備したグラップルを壁の高所へ射出し、中央の溝になっている道を振り子のような軌道で地面に触れないギリギリで抜ける。前方に高く投げ出された俺のガントレットメーターはとうに振り切れていた。
勢いをそのままに、スピンして通り過ぎた2体を忘れずに撃ち抜く。
(左1、右2、あと2体っ)
壁に足を着いて最後の詰めに差し掛かった俺は、左手に持つウィングマンを力の限りゴールの方へ「投げた」。
間髪入れずに中央に立つ柱のオブジェ、その天辺にグラップルを掛けジャンプキットで大きく飛び越える。
すれ違いざまに真上から1発、これで残す標的はあと一つだ。
完璧なタイミングで目の前に落ちてくる片翼を掴み、抱き込むようにそのまま世界を逆転させる。上に地が伸び下に空が広がるその一瞬のなかで、俺はただ両手の照準を一点にポイントした。
(これで、ラストだ!)
左右共に残弾0、空っぽになった羽をホルスターにしまい込む。ようやく着地しゴールテープを切る頃には、最後のターゲットも霧散していた。
ービィィィィーーーー‼
「ふぅ…VG。ブザーの音量を下げてくれ」
「了解。おめでとうございますパイロット。平均を大きく上回るタイムです」
次々表示される成績は確かに悪くない、アピールとしては十分ではないだろうか。そう思い切っていた通信を繋ぎ、へリアンさんに話しかけた。
──────────────────────────ヘリアントス
格納庫は大いに沸いていた。ディキンソンはたったの20秒足らずで、人間離れしたパフォーマンスを存分に見せつける。一歩兵として有り余るほどの機動力と、それを活かした高速戦闘を成立させる空間認知能力に壁面・空中での姿勢制御。最後に見せた遠投は投擲スキルの高さを証明し、終始二丁拳銃を完璧に扱う卓越した射撃技術は戦術人形と同等かそれ以上だ。
「へリアン」
「はい、何でしょうか」
「俺は戻る。あいつが降りてきたら応接室に来るよう、伝えておいてくれ」
「分かりました、クルーガーさん」
1人格納庫を後にするクルーガーさんからの指令を頭に刻み、未だ収まらない盛り上がりの中で私は静かに嘆息する。
(凄まじいな…これは)
「わ、私と同じ二丁拳銃…人形じゃないのにすごい…」
「これが戦闘スタイルの違い、というわけですね」
「わぁー、速かったですー!」
「頑張りますねぇ~、適当にできないって大変そう」
『へリアンさん終わりました。大体こんな感じなんですけど…』
「…うむ、ご苦労。正直想定以上だ」
突然流れた彼の声に少し遅れて言葉を返した。いざという時の為の情報共有として人を呼んでおいたが、見世物にしてしまったようで何となく申し訳ない。
『そうですか、ならよかったです。えーと、どうしましょう。降りてもいいですか?』
「ちょっと待ってくれ。人を退かせる」
『あ、分かりました』
マイクを切って、一度手を叩けばスタッフが暗幕を外し始める。
「聞いていたな!解散して各自持ち場に戻ってくれ、以上だ!」
その一言で皆行動を開始し、口々に感想や興奮を零しながらゾロゾロと出て行った。残ったのはもとより車輛に携わる者とM1911一行だけだけ。私は顎に手を当て、待機している4人を呼ぶ。
「これからディキンソンは少しこちらで預かる。特別な要件が無いのなら、割り当てられた部屋か他所で時間を潰せ」
「わっかりました~。適当に過ごしま~す」
「はーい!」
「了解しました。11、行きましょう」
「えぇ⁉ちょ、あ、アランさぁ~ん!」
未練がましく手を伸ばすM1911をM14とM1918が連行していった。
「すまない、待たせた」
『いえ。それでどうすればいいんでしょう』
「とりあえず降りてもらって構わない」
『はい。VG』
コックピットが音を立てて開き、ディキンソンが飛び降りる。その動きは身軽で、今更疑う事でもないが先ほどの映像も作り物などでは無いのだろう。
「こちらの無茶に付き合わせたことと、それを見世物のように扱ってしまったことを詫びよう。すまなかった」
「えっ?いや…別に気にしてませんよ。いいアピールの機会だと思ってましたし」
「そう言ってもらえると助かる。それとだな…また申し訳ないんだが、応接室に行ってほしい」
首を傾げる彼に「クルーガーさんからだ」と付け加えると、大きく頷き承諾してくれた。
「そういう事なら。今から向かえばいいですか?」
「すまないな…」
「いえ、お気になさらず。ただその、VGには触れないように言っていただけると」
「それは勿論だ。クルーガーさんから通達されているから心配しなくていい」
「ありがとうございます。では応接室ですね…VG、ちょっと行ってくる」
「パイロット。許可を貰っているのであれば、CARサブマシンガンの携帯を提案します」
「あー…いや、大丈夫だ。そんなに警戒することも無い」
「了解。周囲に危険物の反応無し、待機します」
そんなやり取りが終わり、最後に一礼だけして去っていく姿を見届ける。クルーガーさんの思惑は分からないが、できるのなら是非招き入れたいものだ。そう思いながら私は次のタスクの為に格納庫を出た。
──────────────────────────アラン・ディキンソン
グリフィン社内の廊下を一人歩く。窓から夕日が差し込み、ふと俺は足を止めた。
(地球の時間の経過は綺麗だな…)
日が落ちれば、月が昇る。その月もまた沈み行き、やがて朝の光が地を照らす。映像資料で見たことはあるが、地球の日没を実際に目の当たりにしてみると柔らかな熱が感じられる。太陽がその光を抱いて沈んでも、次に訪れるのは闇ではなく月明かりがまた街や人を映すのだ。
宇宙へ進出しきった人類にとってこんなモノは、前時代の古ぼけた記憶でしかないだろう。俺も特別この星に思い入れはなく、母星の知識として知っているに過ぎなかったが…「おい」
「ぅわっ」
唐突に背後から呼ばれて変な声が出た。振り返ると、呆れ顔を隠そうともせず肩を竦めるドラグノフがいる。
「お、驚かさないでくれ…」
「別に忍び寄ったわけじゃない。不審者みたいだったから声を掛けただけだ。何だ、そこから面白いものでも見えるのか?」
隣に立ち外を眺めるドラグノフだが、少しして「何もないじゃない…」と壁に背を預けて腕を組んだ。
「そうだ、タイムアタック見てたぞ。ウィングマンは伊達じゃないな。まさか本当に飛べるとは」
そう言って乾いた笑いを漏らす彼女に、俺はある疑問が浮かぶ。
「それって、途中からか?」
「ん?まぁな。それでもスタートしてすぐくらいだったけど…何?」
「いや、上から探した時に居なかったから。そういうことなら納得だ」
「………探した、私を」
「?…あぁ」
そっぽを向いて、「そうか」とだけ返すドラグノフ。何となく手持ち無沙汰になった俺は再び視線を斜陽に戻す。妙な雰囲気のまま少し時間は過ぎ、沈黙していた彼女が口を開いた。
「ところで、こんな所で油を売るほど暇があるの?」
「んー、いや…そろそろ行かないとだ。クルーガーさんに応接室まで呼ばれてる」
オレンジに染まる景色を見収め、窓から身を離す。それに合わせてドラグノフもスカートを軽くポンポンとはたいて、廊下を一歩先んじた。
「奇遇だな、丁度私も彼に話があるんだ。ほら行くぞ」
「え?あっ、そうなのか」
さっさと先に行ってしまう彼女に、駆け足で隣へ並ぶ俺。ふと横を盗み見れば銀糸を束ねたような長い髪が、陽の温もりに縁取られて煌めきながら揺れている。
(…綺麗なもんだ)
「うん?」
内心で呟いたつもりだったが、どうやら声に出ていたらしい。こちらを見上げてヘルメット越しにドラグノフと視線がかち合う。その後彼女は反対の外を見て、納得したように言った。
「なるほどな、さっきも風景を見てたのか。私には何でもない夕焼けだが、綺麗な事には違いない」
「いや、そういうわけじゃないが…」
そこまで口にして冷静に思いとどまる。このまま「君のことを言ったんだ」なんて続ければ、まるで口説いているようじゃないだろうか。想像して鳥肌が立った何だ俺は気持ち悪いな。
(危ない、自爆するところだった…)
「まぁ、好きにとってくれていい」
「なんだそれ?フフッ、変な奴だな」
そんな取り留めのない話をしながら、二人分の靴音は静かな廊下をゆったりと進んでいた。
──────────────────────────ドラグノフ
(はぁ…。急に言うものだから、少し驚いたぞ。全く…)
(しかしそうか、アランは私を探したのか)
(…やれやれ、私が居ないとダメみたいだな)
──────────────────────────アラン・ディキンソン
(やけに生き生きしてるな…いいことでもあったのか)
笑みを浮かべニコニコしているというより、どことなく満足気なドラグノフを横目に俺達は応接室前に到着した。一先ず呼ばれている俺がノックし、名を告げるとクルーガーさんの入室許可が返ってくる。
「失礼します。それと、ドラグノフが一緒に居るんですが…」
「SVDか…いいだろう。都合もいいからな」
「私の事だ、アラン。どっちでも好きに呼んで」
聞きなれない単語を即座に補足する彼女は、臆することなくスルリと部屋に踏み入りソファへと腰を下ろし、俺も一礼して着席する。全員が席に着き、クルーガーさんが俺に目を合わせて話を切り出した。
「さて、アラン・ディキンソン。さっきのお前の動きを見て、俺なりに考えた事がある」
「はい」
「お前、独立するか?」
「…独立、ですか」
驚きはしない。俺の中でもその選択肢は、割と最初の方から持っていたものだ。
「そうだ。お前の能力はこちらの想定を大きく上回った。そして戦闘スタイルの違いというのも理解した。当初俺は特殊作戦用の部隊として起用しようと思っていたが、正直に言うと…恐らく俺ではお前を持て余すだろう」
目を瞑り、一つ息を吐くクルーガーさん。買い被りのような気もしなくはないが、俺は謙遜より先に俺の考える独立のメリットを提示してみることにした。
「私としては、タイタンの存在も大きいと思います。少し資料を見た限りでは、今の情勢はかなり奇妙なバランスで成り立っている印象を受けました。仮にグリフィンに所属した場合、”軍”にこの会社そのものが睨まれてしまう気がします」
「それも考えられん話では無い。だがな…」
そう言ってソファに凭れるクルーガーさんの考える事が俺には分かった。きっとこの人は、俺達を厄介払いのようにすることが気になるのだ。クルーガーさんと話した時間は決して長いものではないが、それでもどうしようもないお人好しだと俺は知っている。
「なので、私としても起業?というのは考えていました。クルーガーさんがよければ、外部からの作戦能力として私を使いませんか?それなら余計な火種を背負いこまずにすみますし、現状私自身ココ以外からの依頼を受ける気はありませんから」
というか、これが俺の理想形だった。グリフィンやクルーガーさんを信用していない訳では無いが、まだこの世界を知り足りない俺にとって自分の意思で動ける立場の方が望ましい。
「…うむ…」
暫しの沈黙ののちにクルーガーさんは何故か目を逸らす、というよりはドラグノフへと視線を移した。
「決まりだな。どうだ?私の言った通りになっただろう」
一人静観していたドラグノフが示し合わせたかのように、立ち上がってそう言い放つ。溜息をつくクルーガーさんに俺だけが急に置いてけぼりになった。
「え、え?どういうこと…なんの話だ?」
「なに、簡単な話だよアラン。私はこうなることを解っていて、すでに手配を終えている。ただそれだけさ」
「…いや、いまいち理解が追い付かない。そもそも手配って…」
「俺から説明しよう、ディキンソン」
クルーガーさんも腰を上げ、俺だけ座っているのもおかしいので二人に倣う。
「SVDは、I.O.Pから戻るなり早々に俺のもとに来た。そしてお前がウチに入らないことを言い当て、お前とタイタンが離れずに済む物件をピックアップし、さらにSVD自身もグリフィンに加入することを保留している」
「あぁ…???ん、ドラグノフ」
「どうした」
「なぜ君は保留なんだ?」
「フッ」
鼻で笑われた。辛い。
「愚問だな。あんたについていくためだ」
トンッと指で俺の胸を軽く突き、顔を寄せて正面からヘルメットの奥を覗き込まれる。
「いいか?私はあんたに興味がある。そして可能性を感じているんだ」
「あんたはここに収まる器じゃない。何かを成す予感がしてるんだよ」
「それにこの放り込まれたばかりの世界で、事情を知る存在が近くに居た方がいいだろう?」
「そもそも、私が助けられたのはあんたであってグリフィンじゃないしな」
堂々と自分の思考を列挙する彼女の主張は、感覚的な部分が多くて完全に納得できるものでは無かった。というか最後の一言をクルーガーさんの前で言うのは肝が冷えるので勘弁してほしい。
「ちょ、待ってくれ」
「なんだ、まさか不満なのか?」
「いや、そうじゃないが…仮に言う通りついてきたとして、それでどうする?ここに居た方が君の能力を十分に活かせるだろ」
「…ほう。まぁ、言いたい事は分かるぞ。だが聞けよアラン」
俺の胸倉を掴み、声のトーンを落とすドラグノフ。
「…あまり私をなめてもらっては困る」
本気で怒ったのでは無いんだろう。パッと手を離して上機嫌に反論を述べ始めた。
「素晴らしい機動戦闘だったが、私も駆け回って狙撃するタイプだ。戦術人形を人間の規格で考えるなよ?あんたが思ってる以上に、私は優秀だぞ」
「書類等の業務や家事くらいなら、丸投げはダメだが手伝いくらいはしてやろう」
「アラン。私のことは今気にする必要なんて無い。私があんたにとって必要かそうじゃないのか、ただそれだけの二者択一だ」
「さぁ、選択しろ。チャンスは一度だラッキーマン」
ジッと俺を見つめ時を待つドラグノフの目は、どこまでも真剣で真摯な光を感じさせる。クルーガーさんも口を挟むことなく、委ねるかのように俺達を見ていた。
「…わ、分かった。よろしく頼む」
「当然だな、いいだろう。私が協力する」
そこまで言われては仕方あるまい。そもそもドラグノフのプレゼンは魅力的なものが多くあるし、俺に不利益な提案でもないのだ。少し遠慮がちに差し出した手を、彼女はしっかりと握り返してくれた。
「話は纏まったようだな」
「クルーガーさん…はい。折角の勧誘でしたが、すいません」
「いや、気にするな。だが今すぐここを出るわけでもないだろう?」
「そうですね、起業とは言いましたが手順とかも調べないといけませんし」
「ならそれまではここに居ればいい。お前たちそれぞれの部屋も空けているから、暫く好きに使え。俺はへリアンに連絡を取る」
「ありがとうございます」
離れて通信を始めるクルーガーさんに頭を下げる。俺はその間、ドラグノフに幾つかの質問をして時間を潰していた。
「そうだ、君はグリフィンへの加入を保留してたが、それってアリなのか?」
「アリも何も、私は別会社のはぐれだぞ?ココの他の司令部が攻撃を受けてそこから彷徨っていれば、そのまま回収されたところで再編成されるだろうがな」
「へぇー…じゃあ今は客扱いか」
「知らん、どうでもいい」
「おう…でもガバメントやB.A.R達は君の仲間なんだし、待遇とか気になるだろ?」
俺の言葉に、ドラグノフは大きく嘆息した。何かおかしなことを言ったみたいだ。
「アラン、あいつらは無能じゃない。へリアンを通じて部隊長権限を11に移行したから、解散なり何なり身の振り方は自分たちで決めるさ。というかやはり接触したんだな」
「あぁ、わざわざお礼を言いに来てくれた」
「…聞こうか。あの中の誰かに懐かれたり、言い寄られたりはしてないか?」
「言い寄るって…」
苦笑しながら彼女達とのやり取りを思い返す。そもそもあまり話していないし、そんな様子は無かったと思う。
「いや特に。強いて言うならガバメントは急にテンションが高くなったくらいだぞ」
「む…11か、なるほどな。うん…むぅ」
腕組んで唸りながら何かを考え込むドラグノフ。邪魔するのも悪いので、俺はクルーガーさんから声が掛かるまで適当に装備品を弄る。
(…流石に腹が減ったな。長い一日だ…ふぅ)
──────────────────────────クルーガー
へリアンにコールしながら、チラリと二人を見る。何か会話しながら、ディキンソンの方は分からないがSVDはご機嫌でどこか誇らしげだ。
(…存外、いいコンビかもしれんな)
流れている空気に硬さは無く、気安さはないが十分に打ち解けているような印象を受けた。
(しかし、SVDがこれほど饒舌な人形というのは知らなかったな)
そんな事を思いながら、俺はこれからの段取りを頭の中で組み立てていた。
次回の更新は遅くなると思います。深層映写は完走したいので…すみません。イベント終了くらいに書き上げたいとは思っていますが…次話はゆったり街歩きの予定。
ウィングマンの片手撃ち腕痛めそう。空中での姿勢制御は多分その反動を使ってるんですね(適当)