人を殺すのは怪物でも神でもなく、いつだって人であるのは間違っているのだろうか   作:くるりくる
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くっ、殺せ!(エロフが言った)

 ダンジョン18階層はモンスターが生まれない安全階層(セーフティー・ゾーン)だ。

 

 各階層ではモンスターが日々新たに生まれ先を進む冒険者たちへ命の危険を感じさせるダンジョンにおいて、命の危険がさほどない稀有な階層とされている。

 

 その性質を利用して冒険者たちは街を作り上げた。

 

 リヴィラの街、と呼ばれる冒険者たちが作り上げた宿場街には19階層以降の下層や未到達階層への踏破を目標とした遠征を行い帰還してきた冒険者たちが休憩するのに御用達だ。

 

 冒険者たちの生き汚なさと相反するような18階層の天井を覆う美しい水晶群の輝きをもってして『世界で最も美しいならず者達の街(ローグタウン)』と呼ばれている。

 

 18階層へ足を踏み入れた冒険者は喜びを胸にリヴィラの街へと向かうだろうが、17階層でのジャガーノートの戦闘を行ったユーと図らずとも全てを見てしまったリュー・リオンはリヴィラの街へと向かわずに18階層に存在する森へと足を踏み入れ、そしてある場所にたどり着いた。

 

 鬱蒼とした森の中、人工的に手を加えられ開けた場所の地面に突き刺さった古ぼけた剣や槍に破損した鎧や籠手。

 

 風と土にまみれ汚れている部分が目立つが丁寧に磨かれた形跡。

 

 乱雑に揃えられた物のようで、何者かが意図をもって地面に突き刺し埋めている物の数々を数メドル離れた場所からそれらを見下ろし、古ぼけた武具や防具を前にして片膝をつき黙って祈りを捧げるリューがポツリと言葉を紡ぐ。

 

 

「かつて、私が所属していたファミリアの仲間達です」

 

「で、その果てか?」

 

「えぇ……闇派閥(イヴィルス)と呼ばれる者達の悪意と……先程貴方が戦った災厄に呑み込まれ、敵味方問わず私以外死んでしまった」

 

 

 死んでしまった大切な誰かに捧げる祈り、というものはユーも理解できる行いだ。

 

 だから、リュー・リオンを殺すのはこの後でもいいと今までとは違うらしくない考えで彼女の行動を見守ってしまった。

 

 『幻想逃避(オール・フィクション)』のスキルは相手に都合の良い現実を見せるスキルだが、それはユーが相手を認識して、相手もユーを見ていると言う条件が成立して初めて効果を発揮するスキルなのである。

 

 それ故に、ユーの意識が全てジャガーノートに向けられ、その戦闘に際して発動した吸精や魔眼についてユーがリューを把握できていなかったため隠すことができないのだ。

 

 今からの行いは騙せても、すでに知ってしまっている事実については誤魔化すことができない。

 

 それによってユーがとるべき最善の行動は、迅速にリュー・リオンを殺害して事実を隠蔽することである。

 

 

「……見た感じそれなりに時間が経ってるみたいだが……あぁ、別に無理に答えなくてもいいぞ」

 

 

 ジッとリューの背中を見つめるユーだがその瞳に殺意といった物は宿ってはいない。

 

 それはリューも気づいておりだからこそ不思議であった。

 

 彼女自身、今なお生きていることが。

 

 

「四年前です。事が起きたのは」

 

「ギルドは……いや、中立を気取る奴等が何かする筈もないな」

 

「その通り。私が所属しているファミリアは私を残して主神だけ。もはや事実上の崩壊で街の治安を守るため、正義のために剣を取ることなど……現実問題無理だった。そしてギルドは手を引けといった。これ以上闇派閥に関わるなと言って問題を放置した」

 

「そもそもギルドの主神であるウラノスに眷属は……まぁ居ないと仮定しても中立が表立って動けるはずもないしその闇派閥(イヴィルス)とやらと取引するくらいだろうな。まぁ、仲間を殺されたアンタとしてはそんなもん納得出来ない、って感じか?」

 

「……怖いくらい当たりますね。予知能力でもあるのですか?」

 

「無い。仮にあったとしても(クソ)と同じような能力なんぞオレは使わないしいらない」

 

「貴方も何かしらあるようですね」

 

「勝手に思ってろ」

 

 

 遂にユーは17階層でリューと出会ってから一度としてその手に持って離さなかったショートソードを鞘に収め、休むように近場の木の幹へと背中を預けて息を吐く。

 

 濁りきった瞳は今は年相応の少年のようなあどけなさを宿していた。

 

 リューは初めてその姿を目にした豊穣の女主人での、周囲全てが他人と言う態度のユーと、気を抜き年相応の少年の雰囲気の態度こそユー本来の姿なのではとリューは感じ取ったがまだ自分の話が終わっていないと思い逡巡を覚えながらも最後まで話すことにした。

 

 この話は闇と血に染まったリューを日の光へと当たる場所に救い上げてくれた恩人であるシルにも全てを話したことがないのにとエルフの潔癖さ故に戸惑いを覚えながら。

 

 

「私は主神アストレア様をオラリオの外に逃しました。そして、私の仲間達を殺した闇派閥の生き残り……ルドラ・ファミリア所属の者や関係者を一人残らず殺した。女であっても、子供であっても……全員殺した」

 

「で、アンタは目出度くクソ神を天界に送還して、目的失って燃え尽きて、色々あってあの店で働いて今も生き恥晒してると……今日、オレと会ったのは怪物祭前で忙しくなるからその前に墓参り、か?」

 

「詳細は省きますが概ね貴方の予想通りです。そして……私一人ではどうあがいてもあの災厄を倒せない。単独でアレを倒せる貴方を前に逃げれるとは思っていません」

 

「逃げに徹しれば、とは思ってるだろうが自分が身柄がどこにあるのか相手に知られてるから下手に周りに被害が出ないように死ぬなら仲間の墓の前であるココで。まぁ、最後にしては悪くはないだろ」

 

「それで……殺しますか? もし、貴方が私の遺言を聞いてくれると言うのであれば……私を殺してもあの店には一切手を出さないでほしい」

 

 

 リューはどこかで聞いた年貢の納め時という言葉を思い出して、亡骸のカケラさえ見つからなかった仲間達の形見である武具や防具達を見つめたまま黙って動かずユーの動きを待った。

 

 ベル・クラネルというシルが目をかける存在とほぼ同時期に、同じファミリアに所属した冒険者がたかだか一週間足らずで18階層に到達し、レベル5以上で当たるべき存在を難なく倒すなどリューは一度として聞いたことがない。

 

 弱き者は強き者に淘汰され、そして強き者もまたより強き者に淘汰される。

 

 オラリオの常識、ダンジョンの摂理に従って死ぬ。

 

 だが、ユーがあの店に、シルに害なすのであればリューは死んでも死ぬわけにはいかないのだ。

 

 そんな決意をリューが心に潜ませ、愛用の木刀を握り込んだ瞬間にユーの言葉がリューの耳に届いた。

 

 

「別に、アンタを殺す気ないけど」

 

 

 見られた直後は殺す気だったが、そう言ってからユーは驚きの表情で振り返ったリューへと背中を向け、ロクに手入れされておらず汚れと皮脂のせいでゴワゴワの髪をガシガシと掻きながら面倒そうにリューから離れていく。

 

 

「アンタには待ってる奴が居るんだろ? なら這ってでも帰れバカ女」

 

 

 リューの耳に届いた声は誰が言ったか、それともリューが紡いだ都合の良い幻聴か。

 

 『死ぬ前に墓参りをさせてくれ』と、首に刃を突きつけられた時に咄嗟にそう言って、明らかに動揺した彼ならあるいはと、リューは思いその幻聴を信じることにした。

 

 

「皆……また来ます」

 

 

 リューもまた立ち上がり仲間達の形見に深々と頭を下げて去っていく。

 

 また訪れる時はいつになるか、少なくとも近日中は訪れる者はいないだろう。

 

 森の中でひっそりと、彼らは眠りにつく。

 



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