ふんいき(何故か変換できる)で書いたので!
メルタの街にある冒険者ギルドは今日も賑わいを見せていた。
ぼろいと、味わいがあるの境目ほどの古びた依頼ボード。
その前に立つ小柄な影は倭人の娘であった。
雪のように白い肌に兎のように赤い瞳。
額には二本、角が生えている。
だが、その姿に異なことはない、倭人とはそういう者たちだから。
見た目の年は両手の指よりは多く、足の指を足すには少々幼いといったところだろうか。
前あわせの民族衣装……着物を着けており、裾は股座が見えそうなほど短い。
倭人の娘に下穿きを履く習慣はなく、普通、年が上がれば纏う着物の裾も長くなるものだ。
当然である、痴女でもない限り、自分の秘部を晒したいとおもう娘はいないのだから。
そのような物を着るのは、年がら年中、外を走り回る性の曖昧な童子くらいのもので、それ故に娘の正確な年齢を余計に把握しずらくしていた。
表情の薄い娘……だが、美童である。
卵型の輪郭、その顔に描かれているのは、ともすれば浅いと言える目鼻と小さな唇。
しかし、その配置は恐ろしいほどに絶妙で、儚げなのに同時に凛とした美しさを持っていた。
濡れ羽色の黒髪は、おかっぱという、やはり倭人の童子がするような髪型。
二本の倭人角と、ちんまい両手で抱きかかえる大きな刀が無ければ、メルタの冒険者ギルドの中でも乱暴者たちが怖い顔を作って追いだしていただろう。
やがて娘は、望みの依頼を発見したのかそれを取ろうとした。
手を伸ばす、だが背が足りない。
絶望的に足りなく、爪先立ちになり、一生懸命に手で伸ばしても届かなかった。
刀を片手に抱きかかえたまま、跳ねて頑張ったが、無理だった。
薄かった娘の表情に初めて感情が、焦りのようなものが浮かんだ……寸動いた、微量に動いたといった感じだったが。
娘はくるりと振り向く。
後ろには、依頼ボードを見ていた中年の男がいた。
鍛え上げられた筋肉には年による劣化はまったく見られない。
男は中堅の冒険者であり、そして乱暴者だ。
西大陸に多い人種である男の顔は彫りが深くて鼻が高く、倭人の童子らが見れば恐ろしさに泣きだすものであった。
しかし、娘は物おじする様子もなく彼の服を引っ張ると、刀の鞘の先で依頼ボードを指さした。
「届かんのか?」
その問いかけに娘はうなずく。
男は娘の望む依頼書を取ってやることにした。
聞くまでもなく、娘の状況は後ろから見ていた男には分かっていた。
だがまあ、無言で取ってやるのも何だか空気読めないようで嫌だし、かと言って、これが欲しいのかと聞いて取ってあげるのも恩の押しつけみたいで格好が悪い。
あと、カエルみたいにぴょんぴょん跳ねる娘が微笑ましかったのだ。
そんな中年冒険者の繊細な男心が発した言葉がそれである。
正直どうでもいい。
男から皮紙製の依頼書を受け取ると、無表情だった娘がニヒルに微笑み親指を立てた。
いわゆる西大陸のサムズアップサイン。
男もニヒルに笑うとサムズアップを返した。
その頬が少し染まっていたのが、中年男の照れを感じさせて、何ともまあである。
そして、娘が受付カウンターにトテトテ走って行くのを見送って、男は自分の望む依頼を探すことにしたのだ。
男はメルタの冒険者ギルドに数多くいる、子供好きでお節介焼きな乱暴者の冒険者であった。