やはり一色いろはが俺の許嫁なのはまちがっている。   作:白大河

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 初めまして、白大河と申します。
 俺ガイル、原作も勿論なんですが。二次創作、特に八色作品が好きすぎて色々読み漁っているうちにとうとう自分で書きたいという衝動にかられ、勢いで書いてしまいました。
 拙い部分も多いと思いますが読んでいただけると幸いです。
 感想、コメント頂けると死ぬほど喜びます。




序章
第1話 始まりの季節に始まるプロローグ


 4月。総武高校の入学式。

 

 これから始まる新生活に浮かれてしまった俺こと比企谷八幡は一時間も早く家を出た結果、道中で轢かれそうになっている犬を助けようと道路に飛び出し事故にあった。合掌。

 そのまま異世界転生でもすれば話が盛り上がるのかもしれないが、現実は甘くない。気がつけば真っ白い天井、真っ白い壁、開かない大きな窓のある部屋で入院三週間を告げられた。しかも体中を走る激痛のおまけつきだ。

 

 部屋は個室。なんでも相部屋は部屋代が無料だが、ベッドが空いていない場合、有料の個室になるのだそうだ。場合によっては無料になるらしいが、慌てた両親が同意書にサインした時点で有料が確定。一刻も早く退院しろと圧を掛けられている。俺だって早く退院したい。

 一応、部屋が空き次第相部屋に移るということなのだが、両親は見舞いに来るたびに「まだここか……」とこれ見よがしに溜息をついてくる。もういっそ退院するまで空かなければいいのに。

 

 そんなストレスに晒されながらも痛む身体に鞭打って積んでいたラノベを読み、時々「知らない天井だ……」とシ○ジ君ごっこをしながらダラダラと過ごしていた入院生活三日目、味気ない昼飯を食べ終え、一息ついていると、突然扉が開く音がした。

 こんな時間に巡回だろうか?検温は終わっている。今日って何か検査入ってたっけ?小町はまだ学校のはずだし、一体誰だろうと体を起こし、扉の方を見ると。そこにはパジャマ姿でロマンスグレーの髪をした渋い初老のおっさんが点滴スタンド片手に立っていた。

 

「誰だ貴様!!」

 

 ええ……。いきなり怒鳴られたでござる。

 あんたが誰だよ。

 

「ここは儂の部屋だ! 人の部屋に入り込んで何してる! 泥棒か!」

 

 あまりの剣幕に一瞬、俺が悪いのかと部屋を見渡してしまった。

 しかし、そこにあるのは俺の私物、そして小町が持ってきた花が刺さった花瓶とその横には小さなサボテン。小町ちゃん? 入院してる人にサボテンはお兄ちゃんどうかと思うの。

 

「いや、ここ俺の部屋なんで……」

「何を言う! この……ゲホッゲホ!!」

 

 興奮しすぎたのかおっさんが突然咳き込んだ。こういう時は変に話しをするより早々に第三者を呼ぶに限る、鳴り響け! ナースコール!!

 俺はベッドに備え付けられているコードにつながったボタンを押す。

 

「どうしました?」

「あー、なんか、知らない人が来て、すごい咳き込んでるんで急いで来てもらえます?」

「貴様……! 早く出て行け! ゲホッ! ……ゲホ!」

 

 え? 吐血とかしてないよね? 本当に大丈夫? これで何かあったら俺の責任になるの? ベッド譲ったほうがいいのかしら。

 どうにも興奮しているようでこちらの話を聞いてくれる感じではないし、救助は要請した、他にやるべきことはないかと思案しているとバタバタという足音とともにナースがやってくる。この病院のナースは優秀なようだ。

 

「ちょっと! なにやってるんですか!」

 

 咳き込みながら蹲るおっさんに慌てて駆け寄るナースに睨まれた。俺が。

 えぇぇ……俺何もしてませんよ……? 八幡悪くない。

 

「一色さん? 大丈夫ですか? 今車椅子持ってきますからね?」

「うるさい! 儂を病人扱いするなと……ゲホッゲホッ!」

 

 『一色さん』とよばれたおっさんは尚も抵抗する。頑固オヤジさんなんだろうか?

 ぎゃーぎゃーという喚き声が周囲に響き、気がつけば野次馬もできている。ナースに囲まれる一色さんは咳き込みながらも尚「ここは儂の部屋だ」と譲らない。

 少々騒がしいが、まあ後はナースが対処してくれるだろうと俺は我関せずを決め込み、テーブルの上のラノベに手を伸ばした所で、新たな闖入者の影に気がついた。

 

「あなた? 何してるの?」

 

 今度は着物姿の女性が入ってきた、年の頃はおっさんと同じか、それより少し若いぐらいだろうか? 女性はゆっくりと上品な所作で一度俺に目配せをすると軽く頭を下げ、にこりと笑う。思わずどきりとしてしまった。

 いやいや、俺に熟女属性はないはずだ。落ち着け比企谷八幡。深呼吸だ。ヒッヒッフーヒッヒーフー。あ、産まれちゃう。

 

「楓、こいつらをなんとかしてくれ!」

「なんとかするのはあなたですよ。あなたの部屋は一つ上の階です。なかなか帰ってこないと思ったら案の定迷子になって全く……怒鳴り声が上まで聞こえましたよ」

「こ、ここの病院が複雑なのが悪いんだ!」

 

 おっさんに『楓』と呼ばれた着物女性は、はぁと溜息をつきながらおっさんを嗜めている。

 『あなた』という呼称から恐らく二人は夫婦なのだろうと推測はできた。そしてこのおっさんが迷子だという事も。まあ確かにこの病院の入院病棟は階層ごとの構造が似ているというか案内図を見る限りはほぼ同じなので間違えるということもあるだろう。加えるとドラマみたいに部屋の前に名前が書かれてもいないので、部屋番号を忘れるとアウトだ。

ナースに「俺の部屋どこですか?」と聞いてクスクス笑われた日のことはもう思い出したくない。

 

「お騒がせして、すみませんでした」

 

 気がつけば着物姿の女性がまた俺に頭を下げていた。

 

「あ、いえ、べつに」

 

 女性は再びニコリと笑うとおっさんとナースを引き連れ部屋を出ていく。

 真昼の嵐が去った。俺は再びラノベに手を伸ばし黙々とページをめくる。俺の退屈な入院生活が取り戻された。

 

 

 と思ったら、その嵐はまたすぐにやってきた。

 迷い込んできたおっさんとおばさんは翌日、昨日のお詫びだと桃を携え、またやってきたのだ。

 俺が「別に何もしてないから」と遠慮していると。おばさんは笑って桃を剥いてくれた。

 

「どうだ、いい女だろう?」とおっさんが得意気に言ったのをよく覚えている。

 

 おっさんの名前は一色縁継(むねつぐ)

 入院生活を始めたのは俺より一週間ほど前かららしく、早く帰りたいと愚痴を聞かされた。

 おばさんの名前は一色楓。おっさんより若いと思っていたがおっさんとは一つしか違わないらしい。いや、まじで俺のお袋と同じぐらいかと思ったらお孫さんもいるらしく本気で驚いた。

 最初はお詫びに、という事だったが、話し相手がほしかったのか、懐かれてしまったのか、それから二人は毎日のようにやってきた。

 

 時にはおっさんが1人でやってきて、将棋をしたり、昔の話を聞かされたり、おっさんがラノベに興味を示したので、何冊か渡したりもした。異世界転生ものがお好みらしく、凄いスピードで読み漁っている。

 また時にはおばさんが1人で、花や果物や羊羹を手土産に見舞いに来てくれた、最初は「おばさん」と呼んでいたのだが、「楓」と呼んでくれと言われ、「楓さん」と呼ぶことになった。同じく見舞いにきた小町とも意気投合し何やら女子トークに花を咲かせたりもしている。

 

 そして三週間後。

 おっさんより一足先に退院することになった俺はおっさんのところへ挨拶に行った。

 

「今日退院する事になった」

「そうか……」

 

 心なしかおっさんは少し寂しそうだ、友達がいないんだろうか? 俺もいないけど。

 

「退院おめでとう八幡くん、身体に気をつけてね」

「はい、ありがとうございます。楓さんもお元気で」

「おい、俺にはないのかよ」

「いや、入院してる人に『元気で』っておかしいだろ……おっさんはお大事に」

 

 そういえば、おっさんがなんで入院してるのかは聞いてなかったな。しかしおっさんも近々退院するらしいからそこまで悪い病気ではないのだろう。

 まあいいか、と俺はおっさんが気に入っていたラノベの最新刊をベッドテーブルの上に置く。

 

「これ、見舞いの品ってことで」

 

 そう言うとおっさんはニカッと笑う。

 

「一冊じゃすぐ読み終わっちまうよ、退院したら他のおすすめ教えろよな、一気読みしてやるからよ」

「好きそうなの見繕っとくよ」

 

 軽い雑談を済ませ「それじゃあ」と俺はおっさんの病室から出ていく。

 

「おい、決めたぞ」

「そう言うかなって思ってましたよ」

 

 閉じた扉から二人の会話と笑い声が漏れ聞こえた、何の話かはわからないが何やら楽しそうだ。

 俺もいつかあんな風に笑い会える相手と巡り会えるだろうか?

 そんな事を考えながら、病院を後にした。




 お読みいただきありがとうございます。
 入院してる方へのお見舞い品として鉢植え等は敬遠されるようですが。元気サボテンという「両手を上げているようにみえるサボテン」だったら見舞い品としても有りという考えもあるみたいですね、私はつい最近知りました。
 さて、とうとう始まってしまいました私の初八色作品……。まだいろはは出てきていないのですが、今後うまくかけるかな……。
 プロット段階では3年で完結を予定しているのですが……実際どうなるかは正直わかりませんw
 生暖かい目で見守っていただければ幸いです。何卒よろしくお願いいたします。


※2019/03/16 指摘いただいた誤字を修正しました。
※2019/03/25 一部表現の修正

あなたの考える一色いろははどちらですか?

  • ピアス有り(原作準拠
  • ピアス無し(アニメ準拠

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