やはり一色いろはが俺の許嫁なのはまちがっている。   作:白大河

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前回長かったのも有り、今回ちょっと短めです。


第103話 コスプレ会議

「小町くん。すまないが少しいいかな?」

 

 三浦にボールを返したことで、少しだけダレてしまった俺が一度川辺へと上がろうとずぶ濡れの体を引きずっていると、不意に平塚先生がそう言って小町を呼びつける声が聞こえてきた。

 突然自分の担任でもない教師に呼ばれた小町は「ほへ?」と間抜け顔で一度首を傾げた後、その場に居る全員と視線を交わしてから一人バッシャバッシャと水を掻き分け、川から上がっていくので、俺達も何事が起きたのかと疑問に思い、誰かが何を言うでもなく後を追いかけていく。一応、この場では俺が小町の保護者だからな。

 アイツが何かしでかしたのだとしたら、俺にも知る権利ぐらいはあるだろう。

 頼むから何か面倒事じゃありませんように。

 

 そう願いながら川辺へとたどり着くと、そこにいたのはいつもの白衣ではなく、アラサーと言っても通用しそうな見事なプロポーションで大胆な水着を晒す平塚先生の姿。

 もしここが千葉の海岸であったなら、ワンチャン狙いのチャラ男が列を連ねて声をかけてきたことだろう。実際平塚先生の水着姿にはソレぐらいの破壊力はあった。

 いや、本当に驚いた。何故この人に彼氏がいないのか不思議で仕方がないほどだ。早く誰か貰ってあげればいいのに。

 とはいえ、今は呑気に水着の感想を述べている場面ではない、俺は平塚先生の前に立った小町の背後にスタンドのように立ちながら、後方保護者ヅラで小町の両肩に手を置きその時を待つ。

 

「えっと、何か御用でしょうか? 小町何かやっちゃいましたか?」

 

 すると小町は虫を払うかのように俺の手を振りほどき、まるでなろう系主人公のようなセリフを吐いた。

 その言葉がツボに入ったのか平塚先生は一瞬だけクスリと笑うと「違う違う」と顔の前で手を振って、自らの背後に視線を向けながらゆっくりと自分の立ち位置をずらすように移動していく。

 そこから現れたのは、俺達とは幾分年の離れた少女だった。

  

「あれ? ルミちゃん?」

「ルミルミ?」

 

 少女の正体は鶴見留美。

 目下俺達の悩みのタネとなっている例の少女だ。

 一体何故彼女がここに? 小町もそう思ったのか、兄妹揃って思わず同じ方向に首を傾げていく。

 

「どうして彼女がここに?」

 

 そんな中、一番最初にその疑問を口にしたのは雪ノ下だった。

 気が付けば一色も由比ヶ浜もルミルミを囲むように視線を向けている。

 

「どうやら、我々の──小町くんの後をつけてきていたらしい」

「付いてきたって……こんなところ一人で来て迷子にでもなったら……」

「子ども扱いしないで……ちゃんと地図も持ってるし迷子になんてならないから……」

 

 平塚先生の説明に、俺達がギョッと目を見開くと、怒られるとでも思ったのかルミルミが平塚先生の陰に隠れるように半歩だけ体を横にずらし俺を睨んで来た。

 いや、別に怒るつもりはなかったのだが……事実としてここは子供が一人で来ていいような場所ではないのだ。そもそもここは千葉村の敷地外だからな。

 他の教員とかだってまさかこんなところまで来るとは思っていないだろう。

 っていうか、向こうは大丈夫なのか? 今頃捜索隊とか組まれていない?

 

「君達の心配も分かる。自由行動時間中とはいえ流石に少し距離があるからな……。一応担任には連絡して、昼には私が連れて帰ることになっているので、しばらくの間面倒を見るように」

「さいですか……」

「それじゃ、後よろしく」

「え、ちょっと!?」

 

 そんな俺の心配を察知したのか、平塚先生はそう言ってルミルミの事を俺達に丸投げすると、戸塚の作った休憩スペースへと移動し、まるで海外のリゾート地にでも来ているかのようにくつろぎ始めた。

 残されたのは無言で立ち尽くすルミルミとそれを囲む俺達。

 

「じゃあ折角来たんだし、ルミちゃんも一緒に遊ぼうか?」

 

 そのある意味地獄のような状況で、最初にルミルミに声をかけたのは由比ヶ浜だった。

 腰を落とし、視線の高さを合わせながら優しくそう語りかける姿はまるで保母さんのようですらある。流石俺の友達だ。

 しかし、そんな由比ヶ浜の人懐っこい笑顔を持ってしても、ルミルミは心を開こうとはしなかった。

 フルフルと首を振り、由比ヶ浜から逃げるように小町の後ろへと隠れてしまう。

 小町の後を追ってここまできたという点から考えても、どうやら小町は昨日の一件でかなり懐かれているようだ。

 或いは、昨日会ったばかりのよく知らない中学生、高校生に頼らなければならないほど追い詰められているか……。

 後者の可能性が捨てきれないのがなんともいえないところだな。まるで縋るような瞳で小町を見上げている。

 一方で、小町もそのことを理解しているからか、純粋に懐かれたと喜ぶことが出来ず複雑顔だ。

 

 とはいえ、一緒に遊ぶという誘いにも乗らず、小町の方に近づいていったということは……ここは小町に任せるのが得策か……。

 何か新しい情報が手に入るかもしれない。

 そう考えた俺はとりあえずその場を小町に任せようと、頭をポンと叩く。

 

「なあ小町、少し相手してやったらどうだ」

「え? あ、うん、それはいいんだけど……」

「ルミルミも何か言いたいことがあるんだろ?」

「へ? 言いたいこと?」

「……!?」

 

 俺がそう言うと、ルミルミが驚いたように俺を見上げてくる。

 

「何か、お話したいことあるの?」

 

 その反応を見た由比ヶ浜が続けてそう言うと、ルミルミは少しだけ戸惑ったような表情を浮かべた後、小さくコクリう頷いた。

 どうやら、俺の読み通りだったらしい。

 なんとなくルミルミの態度が昔の、それこそ小町が小学生ぐらいの頃、俺に何かしてほしいことがあるのを我慢している時に似ていた気がしたんだよな。

 まぁ、今じゃ遠慮なくズケズケ言うようになっちゃったけど……あの頃の小町は可愛かったなぁ……。

 

「……あ、あのね小町」

 

 だからあの頃の小町とルミルミを重ねるように、俺達はじっとルミルミの言葉を待った。

 その間10秒か、20秒ぐらいだろうか?

 やがてルミルミは絞り出すように言葉を紡ぎ始める。

 

「うん?」

「小町は、さ……今中学生なんでしょ? 小学校の頃からの友達っている? 中学ってどんな感じ?」

 

 ソレは恐らく、この中で唯一中学生である小町にしか聞けないことだったのだろう。

 やはり彼女なりにこのままの生活が続くかどうかというのが気がかりになっているのだと思う。

 ただ、それを聞く相手として小町を選んだのは唯一の不正解だったかもしれない。

 

「そうだなぁ……うーん、居る……かな。なんだかんだ中学の半分は同じ小学校の子達だし……」

 

 俺が言うのもなんだが、小町は割と要領が良いタイプだ。

 由比ヶ浜のように全方向に気を使うというタイプでもないが、それなりにそつなくこなしているため、ルミルミが求めているような回答は返ってこなかった。

 

「そっか……やっぱりそうなんだ……」

「あ、でもね。高校に入ったら分からないよ? 多分結構バラけるんじゃないかな、お兄ちゃんなんて同じ中学の人がいない高校狙ってたぐらいだし、ね? お兄ちゃん?」

「まぁ、そうだな……小学校からの知り合いなんて一人もいないぞ。大体そんなもんだろ」

「ふーん……」

 

 慌ててフォローをいれる小町だったが、既に手遅れとしか言いようがない。

 ルミルミは落胆の表情を浮かべ、誰が見ても分かるほどに肩を落としていく。

 

「高校か……長いなぁ……飛び級とかできたらいいのに……」

 

 実際、俺は自分を知ってる人間が誰もいない高校として総武を選んだという過去があるが、それは小学生のルミルミにしてみれば気休めにもならない言葉だったのだろう。

 言ってしまえば“あと三年は同じ状況が続くぞ”という死刑宣告にも近く、その事実を知ったルミルミの顔は晴れるどころかますます絶望の色を深めていくばかりだった。

 

「……なんとかしてあげられないんですか?」

 

 そんなルミルミを見て哀れに思ったのか、こっそりと背伸びをし俺に耳打ちをしてきたのは一色だ。

 水に濡れ、冷たい肌をピトリと俺の二の腕に当て、「センパイ……」と耳元に息を吹きかけて来る。

 しかも、今はいつもとは違いお互い水着姿。

 ほとんど裸といってもよい状態でのこの距離感……本当に、コイツは俺のことを男だと思っていないんじゃないだろうか? 少々俺のことを舐めすぎなのでは?

 ここにいるのが俺じゃなかったら勘違いじゃ済まないし、襲われたって文句言えないぞ……。

 

「ねぇ、センパイってば!」

 

 俺の反応の鈍さから、自分の声が聞こえていないと判断したのか、一色が再度声を大きくして耳元で叫んでくるので、俺は出来るだけ視線を動かさず、半歩横にずれてから一色の問いに答えていく。

 

「聞こえてるよ……。なんとかって言われてもなぁ……自分の経験談とか心構えとか話してやればいいんじゃないの?」

「でも、私のやり方じゃ駄目なんですよね?」

「駄目ってことはないが……。ただ、ルミルミにお前のやり方があうかどうかは別問題ってだけだ。最初からソレが出来る性格ならこんな状況にはなってないだろうしな」

 

 本人のやる気の問題もそうだが、誰かに言われたやり方で一時しのぎをしたところで、その後その方法を続けていくことが出来るのかという問題もある。

 だからこそ、この問題は非常に難しいのだ。

 その事を理解したのか。一色は『なるほど』と漸く合点が言ったとでも言いたげにアゴに手を置いたあと、考えるのを放棄したのかトテテっとルミルミの方へと駆け寄っていた。

 

「っていうか雪ノ下は? ……何か良い案ないの?」

「私?」

 

 そうして一色を交えた小町、由比ヶ浜がなんとかルミルミを楽しませようとする一方、さっきから黙って俺達のか会話を聴いていた雪ノ下に俺はそう尋ねる。

 なんとなく、俺ばかり頼られるのはフェアじゃない気がしたのだ。

 そもそも俺、奉仕部じゃないしな。依頼とか言われてもよく分からんし。

 

「奉仕部の部長なんだろ?」

「……正直、難しいわね。相手を黙らせるだけならともかく、そうではないなら──私自身上手く解決できた試しがないから」

「……そっか」

 

 しかし、雪ノ下から返ってきたのはそんな、どこか諦めたような答え。

 ただ、勘違いしてほしくないのだが、俺はそのことで雪ノ下を責めるつもりはなかった。

 実際、いじめ──あえてそう表現するが──に対する絶対的な解決方法というのはこの世に存在しないのだ。

 そんな物があればこの世からぼっちは一人もいなくなっているだろうし。誰も悩んだりはしないだろう。

 ましてや、昨日今日事情を知らされただけの、一介の学生に過ぎない俺達が解決策を提示できると考えるほうがどうかしているのだ。

 結論、平塚先生が悪い。

 だから、雪ノ下がギブアップ宣言をしたところで、まあそうだよな──程度の感想しか浮かばなかったのだが──。 

 

「例えばなのだけれど、共通の敵を作るというのはどうかしら?」

 

 驚いたことに、そんなアイディアを俺に提示してきたのだった。

 雪ノ下はどうやら諦めたわけではなかったらしい、そのことに俺は思わず「ほぅ」と息を漏らす。

 

「共通の敵?」

「ええ、彼女たちが自然と共闘してしまうような共通の敵を設定することが出来れば、鶴見さん一人を無視している場合じゃ無くなるのではないかしら?」

 

 なるほど、それは正直手としては悪くない。

 共通の敵の登場で、ライバル同士が手を取り合うというのは王道の展開の一つでもある。むしろ俺好みのシチュエーションだ。 

 ただ、一つ問題があるとすれば……。

 

「具体的には?」

 

 そう、問題があるとすればその具体性と実現性。

 現在は林間学校の二日目、午前中。

 明日になれば林間学校も終わり、俺達も千葉へ帰ることになっているということを踏まえると、残り時間はおよそ二十四時間。もし動くとすれば今日しかないという状況だ。

 これだけの縛りプレイの中でどれほどの敵を作り出し、どう協力させるのかという問題だ。

 加えて現在のルミルミの状況は五人グループ中の四対一。

 四人では対抗できず、ルミルミ一人が協力することで対抗可能という状況を作るのは非常に難しいと言わざるをえないだろう。

 

「それは……例えば……比企谷くんが彼女たちを襲う、振りをする──というのは?」

 

 実際雪ノ下もその作戦の危うさには気づいているらしく、続く言葉はそれまでより一段トーンが下がっていた。

 少し申し訳無さそうに俺を見るその視線もどこか自信なさげだ。

 

「却下だ却下。俺が社会的に死ぬじゃねぇか」

 

 当然、俺としてもそんな危ない橋は渡るつもりはないのでその案を却下すると、雪ノ下は「そうよね……流石にこんなことは頼めないわよね」と肩を落とし、あきらめムードを漂わせていく。

 

 だが、そのアイディアを聞けたことは俺にとっては非常に大きかった。

 少しだけ俺の中で雪ノ下という少女が理解できたような気がしたのだ。

 というのも、雪ノ下のアイディアが俺が考えた案に非常に近いものだった。

 俺が当初考えていたのは、彼女たちの関係性の破壊。

 あいつらの関係に外部からストレスを与えることで、その関係性を壊してしまおうというものだったのだが。

 雪ノ下が考えたのは同じ手法を持ってしても、その真逆の結果を生み出すもの。

 性善説と性悪説──と言うと少し大げさだが。

 そこには大きな隔たりがあり、俺と雪ノ下の違いが明確にでていた。

 

 つまり、雪ノ下は彼女たちが団結し、脅威に立ち向かうことを前提とし、俺は誰も協力せず彼女たちの関係が壊れることを前提に考えたことの違いである。

 まあ、どちらに転んでも損はないという意味ではやってみる価値はあるのかもしれないが、結果によって俺のその後が決まるというのは非常に問題だ。

 だってよく考えてみて欲しい。

 もし俺の案──関係性を破壊する事ができた場合、それぞれが孤立するのでわざわざそのことを親や教師に告げようとは思わないだろうが。

 雪ノ下の案の場合、全員が協力した結果、脅威から開放されたアイツラが教師や然るべき機関に俺を通報する可能性が非常に高いのだ。

 そんなリスクは犯せないし、犯したくはない。

 

「頼むから、俺に風評被害が起こらない方法で頼む」

「あら、もともと女たらしな貴方なら、それほど風評被害にはならないと思ったのだけれど?」

「なにそれ? 女たらしとか……人生で初めて言われたんですけど?」

「自覚がないっていうのが一番厄介なのよね……」

 

 一体コイツの中の俺のイメージはどうなっているのだろう?

 もしかしたら一色が何か余計なことを吹き込んでいるのかもしれないが……まぁそれはそれとして……そういうやり方が有りなのであれば、もう少し違うアプローチもできるのではないだろうか?

 

「まぁ、貴方が嫌だというなら無理にとは言わないわ……別の方法を考えましょう……」

「いや、待て。そういうのも有りならちょっと良い案を思いついたかもしれない」

「良い案?」

 

 首を傾げる雪ノ下の前で、俺は考え込む。

 もし、雪ノ下のように考えるのも有りなら、もう少しだけ確率を上げ作戦が立てられるかもしれない。

 それにさっきのルミルミの言葉──ふむ……ここは一つ試してみるか?

 

「ちょっと、比企谷君?」

「なぁルミルミ、いくつか質問があるんだが……よかったら答えてくれないか?」

「……?」

 

 そう考えた俺は、自分を呼び止める雪ノ下を無視して、小町達に囲まれているルミルミの方へと近づくと、腰を落としそう尋ねた。

 

***

 

***

 

***

 

「悪い、遅れた」

「遅いですよセンパイ! どこ行ってたんですか?」

「ああ、ちょっとな。ってなんだその格好」

「へへ、どうです? 似合いますか?」

 

 それから、俺達は千葉村に戻り昼食を済ませた後、肝試しの準備のためコスプレ衣装やら小道具がしまわれている倉庫へと集まっていた。

 諸事情があり、俺は少し遅れての合流となったのだが、いざ到着してみればそこは既にお化け屋敷──いや、パーティー会場。

 雪ノ下は白い浴衣を着た雪女に、由比ヶ浜は角の生えた良く分からんやたら胸元を強調したデザインのレースクイーンのような衣装に、小町はもこもこの茶色い衣装をみにまとい狼男──ならぬ狼女、戸塚は三角帽を被った魔法使い、海老名は魔法少女っぽい巫女に身を包み、それぞれ楽しそうにワイワイと騒いでいた。

 因みに戸部、葉山、三浦はまだ着替えていないのか、それとも役割が違うのか私服のママである。

 そして最後に残された一色はといえば──チャイナ?

 

「センパイってこういうの好きかなー? って思ったんですけどどうですか?」

「いや……好きも何も……っていうかなんでチャイナ?」

「何でって……そこにあったから?」

 

 一色は何故か胸元が大きく開いている、ミニスカチャイナ姿で俺の前に飛び出してきていた。

 いや、本当誰だよこんな衣装持ち込んだの、絶対おっさんだろ。

 最早肝試しというより完全にハロウィンだ。

 ああ、でも別にこの部屋の衣装は始めから肝試し用として集められてるわけじゃないのか……?

 それこそ本当にハロウィンで何かイベントをやった残りなのかもしれない。

 でもそれにしたって、今は肝試しなんだから着るにしてももっと他にあるだろ……ジャックオーランタンとかさ……。

 

「ほらほら、センパイどうですか? 可愛いですか?」

 

 俺が呆れていると一色は前かがみになりながら俺にその衣装を見せつけてくる。

 なんとなく既視感。

 今日午前中にも同じようなことを聞かれたはずなんだがな、まさか同じ日に二度同じ事を聞かれるとは思わなかった。

 今回はさっきより露出度は格段に低いはずなのに、大きく開いた胸元が俺の視線を釘付けにしていく。

 視線を下げないようにするだけで一苦労だ。くそぅ、本能が憎い。

 

「ま、まぁ似合ってるんじゃないの?」

「可愛いなら可愛いって言ってくださいよー」

「あー、カワイイカワイイ」

 

 実際可愛いから困る。

 でもそのスカートどう考えてもおかしいだろ、ミニってレベルじゃないし。今朝の水着といい、なんなの? 誘ってるの? だとしたら大成功だよ。ぶっちゃけ目が離せないわ。

 旅行に来て開放的な気分にでもなっているのかなんなのか知らんが、色々心配になるし、心臓に悪いから本当にやめて欲しい。お前に何かあったら後で怒られるの俺なんだからな……。

 

「あれ? センパイもしかして照れてます?」

「は、はぁ!? 照れてないが!? はぁ!? ただ、その、なんだ……肝試しでチャイナとか意味不明すぎると思っただけですけど!?」

「そうですか? こういう妖怪っていませんでしたっけ?」

 

 俺が慌ててそう言うと一色はピョンっとその場で謎のジャンプをした。

 恐らくキョンシー的なことを言いたかったのだろうが、俺の記憶ではそんな派手なチャイナ服を着たキョンシーはいない。いや、まぁキョンシー自体見たことはないんだが……ああ、ほら、そんな跳ねたらミニスカートがヒラヒラして目の毒だから、飛ぶのやめなさい!

 最早キョンシーっていうか小悪魔だな。

 男の視線を釘付けにするサキュバスだ。

 おい何鼻の下伸ばしてるんだ戸部! こっち見てニヤニヤするな!

 全く……油断も隙もあったものじゃない。

 

「……とりあえず、お前はその格好で外出るの禁止な……」

「ええー!? なんでですか!?」

 

 なんか色々見えてやばそうだからだよ……。

 とはいえ、本人に直接そんな事を言えるはずもなく、それ以上この話を広げたくなかった俺は最後にそう言って、文句を言う一色を無視し部屋の奥へと足を踏み入れていった。

 逃げたわけではない、今は一色と漫才をしている場合ではないのだ。

 断じて逃げたわけじゃないんだからね!

 

「ほらほらお兄ちゃん見て、がおー!」

「じゃじゃーん! ヒッキー似合ってる?」

「あー、ニアッテルニアッテル」

 

 そうして俺は、俺の前に現れた小町と由比ヶ浜を適当にあしらい、ズンズンと部屋の奥へと入っていく。

 いや、よくよく考えれば別に奥に行く必要は全くもってなかったのだが、目的の人物がそこにいたのだから仕方がないのだ。

 

「えー、なにそれ! いろはちゃんのときとずいぶん対応違くない?」

「そーだそーだー! 贔屓反対!!」

 

 ええいウルサイ、俺は早いところ例の作戦概要についての話し合いを始めなければいけないのだから、邪魔をするな。

 贔屓とかそういうのでは断じてない。

 俺はブーブーと文句を言う二人の横を抜けると、部屋の奥で一人窓の外を見ていた雪ノ下の下へと駆け寄っていく。

 

「……必要なものは揃ったのかしら?」

「ああ、とりあえずな」

 

 既に作戦の概要を伝えてある雪ノ下は俺の言葉を聞くと「……そうね」と一言だけ言うと、スゥっと息を吸い、パンパンと手を叩いた。

 それは好き勝手に会話を続けている全員の注目を集めさせるための合図。

 その雪ノ下の目的は達成され、皆が何事かとこちらに一斉に視線を向けて来る。

 なんだか、発表会のようで少しだけ緊張するな……。ふぅ……。

 

「少しいいかしら? 例の鶴見さんの件について話しておきたいことがあるのだけれど……」

「何? 何か進展あったん?」

「進展ってほどじゃないんだけどな、アイツの現状を打開するために一つ試してみたいと思っていることがある」

「試したいこと?」

「センパイ、やっぱり何か思いついたんですか?」

 

 俺の発言に目をキラキラと輝かせてくる一色を横目に、俺は言葉を続けていく。

 

「ああ、ただ俺一人じゃどうにもならないんでな、一応皆の意見も聞かせてもらいたい」

「元々協力はするつもりだけれど……具体的に何をするつもりなんだ?」

 

 まあ、当然そこが気になるところだろう。

 葉山の言葉を聞いた皆が一斉に俺の方へと視線を向けるので、俺は一度隣りにいる雪ノ下の方へと目配せをし、コクリと頷いたのを確認してから口を開いたのだった。




今回のいろはさんの衣装は
「一色いろは チャイナ」で検索すると出てくる
公式発のものをモデルとしています。
全くけしからん。

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