やはり一色いろはが俺の許嫁なのはまちがっている。   作:白大河

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前回予約投稿忘れて慌てていたせいで
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第18話 危険な組み合わせ

 小町と食事を済ませた後、俺たちは数件の店を周り、四千円の黒いショルダーバッグを買った。

 そのバッグは黒地に二本の白ラインが入ったシンプルなデザインながら。ラインが右下の方でクロスしており、一見すると時計の針のようにも、十字架のようにも見える、俺の中二心を大いに擽るものだった。

 『これならちょっと欲しいなぁ』と、つい手にとってしまった所で。

 「まぁ、これならお兄ちゃんの服にも合うし、いいんじゃない?」と小町のお墨付きを貰ったのでそのまま購入。

 よし、今日からお前を『クロノクロス』と名付けよう。おっと、こういうのは卒業したんだった、危ない危ない。

 

「まあ、一気に色々買っちゃうとお金なくなっちゃうからね、来月からも少しずつお兄ちゃんに必要なものを買っていこうね……? 次はお財布かなぁ」

「財布? なんで財布?」

 

 別に俺の財布は壊れたりしていないし、中学の頃から使っている物なのだが……。

 あれか、財布はこまめに買い換えないと金が逃げるとかそういうやつか。

 いや、そもそも短期間で財布買い替えてたらソッチのほうが金が逃げてかない?

 

「まぁ、お兄ちゃんにはわからないか……とりあえず見るだけでも見に行こう?」

 

 不服そうな俺の表情を察したのか、小町はちょっと呆れ気味にそういったが、今日の小町はご機嫌だった。胸につかえていた何かが取れた。そんな風にも見える。

 それはただ単に俺にとってそうであって欲しいという願望が込められているだけなのかもしれないが……。まぁ、深く考えるのはやめるとするか。

 とりあえず見るだけならタダだ、今は小町の思うようにさせてやろう。来月になれば忘れているだろうしな。

 

 そんな事を考えながら、下りのエスカレーターを目指し小町の後ろを歩いていると、ふと反対の上りのエスカレーターから上がってくる一人の人物の姿が目に入った。

 徐々にせり上がってくる頭部、顔、肩、全てに覚えがある。

 あれは……一色?

 そう、それは間違いなく一色いろはその人であった。

 こんな偶然もあるものだろうか。

 っていうかアイツこんな所で何してんだ?

 

 しかしまずい。

 このままでは小町と一色が鉢合わせてしまう。

 何度も言うが、この二人は会わせてはいけない、絶対面倒くさいことになる、そんな予感がしているのだ。とにかくこの場はやり過ごさなければ。

 とにかく、一度下の階に向かうのは諦めて、この場を離れよう。

 俺は素早く小町の肩を掴み、無理矢理方向転換させると、エスカレーターから離れるように、だが決して不自然さが出ないように早足で歩く。

 

「ちょ、ちょっと、ドコ行くの?」

 

 小町が抗議の声を上げるが、今はこの場を乗り切るのが先決。

 嫌がる小町を抑え込み、無理矢理肩を抱く。

 なんかこういう言い方だと卑猥に聞こえるが、決してそういった意図はない。ないったらない。

 

「あれー? センパイじゃないですかぁ、こんな所で何やってるんですかぁ?」

 

 だが、そうして小町と共に歩いて数歩の所で、耳元で声がした。一瞬、背筋に冷たいものが走る。

 馬鹿な……この俺が背後を取られるだと……?

 どういうことだ? 俺は一色から離れるように動いた、そのはずだ、だが振り向くと、わずか半歩未満の距離に笑顔の一色が立っていた。何をいってるかわからねぇと思うが俺も 何をされたのか わからなかった。

 早い、いろはす早い、いろはす怖い。

 

「センパーイ♪ どうしたんですぅ? あ! 遊んでるんですかぁ?」

 

 いつも以上に間延びしたあざとい声色で、その大きな瞳をキラキラと輝かせる一色だったが。その笑顔はどこか作り物めいていて思わず一歩たじろいでしまう。

 その言葉の裏には『お前LIKEの返信もしないで、女の子と遊んでるなんていい度胸だな?』みたいな意味を孕んでいそうだ。怖い。

 

「あれ……? そっちの子、どこかで……?」

 

 しかし、一色は俺の陰に隠れる、小町に視線を移すと。その笑顔の仮面を剥ぎ取り、表情を一変させた。

 

「もしかして、いろはさんですか?」

「もしかして、センパイの妹さん?」

 

 お互いの顔を指差し、そう確認しあう。

 それは出会ってはいけない二人が、ついに出会ってしまった瞬間だった……。

 

「あ、私の事も知ってくれてるんだ?」

「ええ、それはもう。あ、初めまして。比企谷小町です。いつも兄がお世話になってます」

「一色いろはです、こちらこそお世話に……なってるんですかね?」

「そこはお世話になっとけよ、一応俺家庭教師だぞ」

 

 俺がそう返すと、一色はクスっと笑い「冗談ですよ」と一言付け加え、小町に向き直った。

 さらば俺の平穏……。

 

*

 

 やはり、というかなんというのか。この二人は波長があうのだろう。

 一色と小町は秒で打ち解け、LIKEの交換を済ませると。

 やいやいと俺を挟んで女子トークを始めた。

 

「あの、良かったらどこかゆっくり座って話しませんか?」

「あ、いいねー」

「いや、お前受験生だろ……帰って勉強しとけよ」

「えー、ちょっとぐらい息抜きしたっていいじゃないですかー? 今日だってマーカー切れちゃったから買いに来ただけなんですよ? ……あと少し夏服も見ておきたいしー……」

 

 こいつの場合息抜きが多いんだよなぁ……。

 マーカー程度なら家の近くのコンビニでも買えるだろ、なんでこんな所まで来てんだよ。……って今夏服って言わなかった?

 俺自身、昨日おっさんとも色々話し、バイト代を貰った直後で家庭教師ももう少し頑張ろうと思っている矢先なのだ。もっと真面目に取り組んで欲しい。

 

「ちょっとだけ、ちょっとだけだから、ね? お願い!」

「お願いしますよセンパイ、帰ったらちゃんとしますから」

 

 二人が俺に両手を合わせ、そう懇願してくる。

 とりあえずセクハラ親父みたいだからその言い方はやめなさい。

 

「三十分だけだぞ……」

 

 なんだか妹と生徒というより、もう一人妹が出来たような気分だ。

 俺の言葉を聞くなり「やったぁ」とハイタッチを決め、並んで歩き出す二人を追い、俺は溜息を吐いた。やっぱこの二人、会わせちゃいけなかった気がする……。

 

*

 

「こことかどうですか? この間出来たばっかりの話題のお店なんですよ」

 

 そう言って小町と一色が入ったのは。女子がわんさかいる妙にトロピカルカラーな看板が目を引くカフェだった。

 え? ここ。男子禁制とかなの?

 敷地内は一見すると某有名コーヒーショップのような、やたら高い椅子とテーブルが並んでいるが、俺以外の男が見当たらない。何の店だココ。怖い。

 レジに並び、メニューを眺めるが黒いブツブツしたものが沢山描かれていて何だかよくわからない。何? 蓮コラ? 集合体恐怖症の人お断りなの?

 

「お兄ちゃんはどれにする?」

「マッカン」

「そういうのは置いてないの、小町こっち飲んでみたいから、お兄ちゃんは無難にこっちね。半分こしよ」

 

 あれ? 俺今何が飲みたいか聞かれたんじゃなかったっけ?

 なのに俺のオーダーが勝手に決められている。

 俺に選択肢があるようで全くなかった。不思議。

 

「じゃあ私はこれにしようかな」

 

 一色がそう言って、財布を取り出すのを見て。

 小町が慌てて一色を制した。

 

「あ、ここは小町が払いますよ」

「いやいや、小町ちゃん私より一個下なんだよね? 初対面で年下の子に奢ってもらうわけにはいかないよ。それなら私が」

「いえいえ、いつも兄がお世話になってますから」

 

「いえいえ」「いやいや」と押し問答をする二人を前に俺は再びため息をつく。

 

「俺が払う、恥ずかしいからレジ前で揉めるな」

 

 俺はそう言うと、有無を言わさず二人の間に割って入り、それ以上の二人の遠慮合戦を封じた。

 その言葉に小町は「は?」と驚き。

 一色は「え?」と目を丸くし、はっと何かに気付いたように、お辞儀をする。

 

「なんですか、もしかして口説いてるんですか? スマートに奢ってもらうのは少し乙女心を擽られますけど、一回奢ってもらったぐらいで靡く安い女だとか思われたくないので無理です、ごめんなさい」

 

 はい、いつもの。

 ほら、他のお客さんの迷惑だからどいてなさい……。小町も固まっちゃってるだろ……。

 

「先週サイゼで奢ってもらった礼だよ……。他意はない」

 

 まあ少しだけ格好つけたかったという気持ちがなかったといえば嘘になるが……。さすがにそれを言う勇気はない。

 

「本当にいいんですか?」

「お兄ちゃん……? 奢ってもらったってどういう事? 小町お金渡したよね?」

 

 きょとんとした表情の一色とは裏腹に、小町の視線が冷たくて怖かったので、目線を合わせないようにしながら、そのまま財布を取り出し、店員に会計を促した。

 

「千六百八十円になります」

 

 高っ!

 嘘!? ドリンク三つで千六百円? あれ一つ五百円以上もすんの?

 マッカン何本買えると思ってるんだろう。

 しかし今更拒否もできない。

 バリバリバリバリ。

 それは張り裂けそうな俺の心中を表現する、財布のマジックテープが剥がれる音。まさに断末魔の叫びと言えよう。

 大きく口を開けた財布から断腸の思いで野口さんと小銭を取り出し、店員に渡す。

 さらば野口。お前のことは忘れない。

 あれ? なんで小町は頭抱えてんの? 体調悪いなら帰る?

 お釣りを受け取り、レシートを備え付けの屑籠に放りながら、小町を心配していると。やがて黒いつぶつぶが沢山入ったちょっとグロそうな飲み物が運ばれてきた。

 

「……何これ……」

「はぁ……。えっと、お兄ちゃんのはシンプルにタピオカミルクティー。小町のはジャスミンミルクティー」

「私のは豆乳です」

 

 何故かため息をつく小町と、楽しそうな一色から説明を受けながら、俺達はテーブルへと向かう。

 これを? 食うの? 飲むの?

 俺がその謎のドリンクの底を覗き込んでいると。二人は既に窓際のテーブルに陣取り。手早く妙に太いストローを突き刺したかと思えば、今度はパシャパシャと写真を取り始めていた。

 

「ほら、お兄ちゃんも早く入って」

「え……あ……ん?」

 

 誘われるまま、よく分からないアングルで写真を撮られたかと思うと、二人はまたキャイキャイと話を始めていた。

 なんだかずっと蚊帳の外だ。まあいいけどね。

 今の写真がネットにアップされたりしませんように……。

 俺はそう祈りながら、目の前の謎の飲み物に口をつけた。

 ズゴゴ……うっ!!!

 喉に思いっきりダイレクトアタックを食らってしまった。効果は抜群だ!

 なんだこれ、飲みにく……。

 これなら普通のミルクティーでも良かったんじゃないの……?

 

***

 

「えー? 本当ですか?」

「そうなの、それでその時なんていったと思う?」

「『焼肉なんて腹に入っちまえば全部一緒だろ』って」

「うわぁ……お兄ちゃん、蛇々庵って高級店なんだよ? 分かってる?」

「わかってるよ……ってかそろそろ出ないか? もう十分話しただろ」

 

 脈絡なく話が飛ぶ女子二人のトークに入るきっかけがやっと訪れたので、なんとかこの場を脱出しようと解散を提案した。

 すでに店に入って一時間は経過している。三十分の約束はどうした。

 

「あー、もうこんな時間だ。いろはさんお時間大丈夫ですか?」

「うーん……そうだね、そろそろお開きにしようか」

 

 渋々、という感じで、小町が椅子からぴょんと飛び降りる。その一瞬、小町がコップを離した隙をつき、一色は空のコップをまとめると、俺の分もまとめて処分しに動いた。こういうのを女子力というのだろうか。

 

「センパイ、ごちそうさまでした」

「ごちそうさまでしたぁ!」

 

 店を出ると、一色と小町が俺に頭を下げてきた。そうだ、あれ俺が払ったんだった。あまりにも高額すぎる買い物にショックを受けたせいか、すっかり忘れていた。

 

「おう、末代まで感謝しとけよ」

「なんでこの人はそうやって折角上げたポイントを自分で下げちゃうかなぁ……」

 

 呆れたように肩を落とす小町を、一色がクスクスと笑う。

 

「本当に仲が良いんですね」

「そうか? まあ千葉の兄弟なら普通じゃね?」

「千葉の……?」

 

 そこは深く突っ込まないでもらいたい。分からないなら分からないでいいのだ。

 変に理解を示そうとしてくれる方が辛い時だってある。

 

「じゃぁ、私はこれで……。あ、センパイ。さっきのLIKEの返事、今聞いちゃっていいですか?」

 

 LIKE?

 ああ、そういえばそうだった、朝になんか通知が来てたな。すっかり忘れていた。

 

「すまん、まだ見てない」

「お兄ちゃん……?」

 

 小町にジト目で睨まれる。

 どうやらまた小町ポイントを下げてしまったらしい。

 小町が急に出かけようとかいうから見る暇なかったんだが……。

 

「もう、しょうがないセンパイですね……健史君から伝言です」

「伝言?」

 

 健史から? なんだろう?

 

「『再来週、部長として初めての試合があるので良かったら見に来てください』って」

 

 わざわざ伝言なんてしなくても健史が直接LIKEで伝えればよくない?

 間に一色を通す意味がわからない。 

 

「一応私、部活の方は引退なので、行かないつもりだったんですけど。センパイが行くなら私も行ったほうがいいのかなって思ってて……。どうしま」

「行かない」

 

 「どうします?」と言おうとする一色に食い気味で返答する。

 仕事でもないのに、そんな面倒くさい事していられるか。

 そもそもサッカーに然程興味もない。

 

「センパイならそう言うかなって思ってました」

 

 だが一色は俺の返答に渋るでもなく、笑ってそう言うと、一歩跳ねるように距離をとって、振り返る。

 

「それじゃ、センパイ今日はごちそうさまでした。小町ちゃんはまたあとでLIKEするね!」

「はーい、お待ちしてまーす!」

「ちゃんと勉強しとけよ?」

「わかってますよ!」

 

 一色は『ベー』と舌を出し、そのまま走り去っていった。

 なんてはしたない……小町ちゃん、真似しちゃだめよ?

 

「それじゃ、俺らも帰るか……」

 

 一色が見えなくなった所で 俺は小町にそう告げ歩き出す。

 はぁ、今日も疲れた。とりあえず帰ったらシャワーを浴びたい。

 そう思い、歩き出そうとした瞬間俺の腕に妖怪小町がまとわりついてきた。

 これでは歩けない。

 なに? トイレ? 早く行ってらっしゃい?  

 

「もうちょっと遊んで行こうよ、まだ五時前だよ?」

 

 そう言って小町がブンブンと俺の腕を振り回す。

 痛い痛い、そっちには曲がらない! 曲がらないから!

 ギブギブ!!

 

「今日はもういい帰ろうぜ……どうせ来月も来るつもりなんだろ?」

 

 小町曰く色々買わないといけないらしいので、まあどうせ来月は欲しい本もあるしどうせ来るなら小町と一緒でも構わないだろう。

 でも高いもの買わされるのは嫌だなぁ。

 服買うにしても九百八十円のTシャツとかで許して貰えないだろうか?

 

「え? 何? 来月も小町とデートしたいってこと? お兄ちゃんの事は嫌いじゃないけど、さすがに兄妹でそういうのは駄目だと思うの、だからごめんなさい」

 

 だが、小町はさも心外と言わんばかりにそう言葉を並べ、九十度頭を下げた。

 おい、もう悪影響でてるじゃねーか。

 

「何してるの小町ちゃん? 一色のマネはやめなさい?」

「えへへ、似てた?」

 

 似てるか似てないかでいえば似てはいなかったが、小町はそれで満足したのか、ゆっくりと俺の前を歩き出す。

 

「というか、小町よりいろはさんと一緒にお買い物した方がいいじゃない?」

「それはない、ってかあいつ受験生だぞ、そんな暇ないだろ」

 

 ないはずなのだが。

 今日の事を考えると、割と遊び回ったりしてそうで怖いな。

 本当、そろそろ受験生の自覚持って欲しい。

 

「そっか……じゃあしょうがないから、寂しいお兄ちゃんのためにもうしばらくは小町が相手してあげるからね」

 

 小町は手を後ろで組んだポーズのまま、そんな事をいいだす。

 いや、別に、付き合ってくれなくても全然構わないのだが。

 

「あ、今の小町的にポイント高い」

 

 だが小町は、そんな俺の心情を知ってか知らずか。そう言って人差し指を立て、ウインクを決めた。

 その口調はいつもの小町のそれだが、その仕草は妙に一色めいていて、やはりこの二人を会わせたのは失敗だった。そう感じながら、俺達は帰りの電車の待つホームへと向かった。

 

***

 

 帰りの電車に揺られている間、小町はずっとスマホをいじっていた。きっと相手は一色なのだろう。近くの兄より遠くの一色。お兄ちゃんちょっと寂しい。

 

「今日の晩飯なんだろうなぁ」

「オソバって言ってたよ」

 

 それとなく会話を振っても、視線はスマホに落としたまま、そっけない返答が帰ってくるだけ。これが現代っ子の闇……!

 蕎麦かぁ……嫌いではないが、なんだか今日はガッツリ行きたい気分だったのでちょっとだけ残念でもある。

 

「小町、帰る前にコンビニよってなんかデザートでも買ってくか?」

 

 今日は大分散財したと思ったのだが、やはり財布に大金が入って気が大きくなっているのだろうか。俺は思わずそんな事を口走っていた。単にスマホをいじってばかりの小町の気を引きたかったというのもあるのかもしれない。大事に使えとも言われてるし、少し気をつけよう。

 だが、俺の問いかけに対する小町からの反応がない。

 どうしたんだろう、もしかして寝ちゃった?

 完全に無視は流石にお兄ちゃん傷つくんだが……。

 

「小町?」

「お兄ちゃん、大変……」

 

 俺が小町の方を向くと。小町はまるでこの世の終わりのような顔で、呆然と俺の方を見ていた。

 なんだろう、もしかして漏らしちゃったんだろうか?

 さすがに中二にもなって漏らされるのは困る。

 だが、相変わらず小町はじっとこちらを見つめたまま動かない。

 電車の揺れる音だけが俺たちの間に響き渡り、何かとてつもない事をしてしまったのかもしれないと、俺も思わずゴクリと喉を鳴らした。

 

「ケーキ買うの忘れてる」

「あ」

 

 小町の口からでた衝撃の言葉『ケーキ買うの忘れてる』

 そうだ、そもそもそれでココまで来たんじゃん。

 

「戻ろう? すぐ戻ろう!」

「もういいだろ……コンビニのケーキで」

「ええー! 戻るー! 戻ろうよ! ケーキー!」

 

 俺の肩袖を引っ張り、小町が小声で抗議をしてくる。

 ああもう、電車の中で暴れるんじゃありません。

 

「もう今日は無理だ、諦めろ」

 

 「誰かに認められる人になる」という高い志はどこへ行ったのか。

 まあしょせん、目標は目標だよなぁ……。

 俺がため息をつくと、小町はようやく諦めたのか。再びスマホをいじり始める。

 

 だが次の瞬間、ブルブルと俺のスマホが震えた。

 メッセージの相手は小町。

 そこには怒りマークを付けた猫のスタンプと 

 

『毛ーキーー!!!』

 

 という、謎の暗号が残されていた。




というわけで二人の初対面でした。

実は前回で感想100件ともう一つ
総文字数が10万文字超えをしていました
あれぇ……?
その割には進んでませんよね……
やっぱりペースアップしないと……がんばります!

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