やはり一色いろはが俺の許嫁なのはまちがっている。   作:白大河

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今回は思っていたより筆が進んだので、予定を早めて、二日連続投稿とさせていただきました!楽しんでいただけると嬉しいです。


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第24話 八幡の夏休み

 夏休みに入ると、いや、夏休みに入る前から、連日三十五度を超すという猛暑日が続いた。

 もはやエアコンは生命維持装置だ。

 天気予報では、『外で運動をしてはいけません』なんていう注意喚起すらなされている始末。

 もう地球終わるんじゃないの? と若干心配になってしまう。

 もしかしたら、エアコン機能付き防護服を着ないと外に出られないという、小説や漫画でよくある世界がもう近くまで来ているのかもしれない。

 実際そうなったら大変だとは思いながらも、ちょっとだけ興味を唆られてしまうのは、やはり俺が元中二病患者だからだろうか?

 

 まあ、外がどんなに暑かろうと、運動禁止だろうと、俺自身には元々外で運動なんてする予定はないから関係ないんだけどな。

 賢い八幡は『夏休みを家で快適に過ごそう計画』を立て、着実に実行にうつしているのだ。

 

 『夏休みを家で快適に過ごそう計画』

 まず一つ目は『高校の授業で分からない所をすべて抑える問題集』

 学生の本分は勉強だ。

 本年度はいきなり入院生活を強いられたということもあり、一ヶ月分、他の連中と比べると遅れを取っている。

 その遅れを取り戻す為に購入したのがこの問題集。

 一色の家庭教師をやっているというのもあるしな、俺自身の成績が下がるのも頂けない。

 実をいうと、夏期講習を受けに行こうかとも思ったが。受講料が高いので、断念したのは内緒だ。

 

 次にこれ、旬が過ぎて少し安くなったゲームソフト。

 これは昔からある人気シリーズで、高難易度を謳って、何度も死にながら進むことを前提に作られたダークな世界観が売りのソウルなゲーム。

 頼れるのは己の実力のみ、人生ソロプレイな俺にまさにうってつけのゲームだ。

 前々からやってみたかったんだよなコレ。

 なんなら動画にとってアップしてみるのも面白いかもしれない。

 そしてジワジワと世界に謎のボッチ配信者の存在が知れ渡っていく。

 広告収入もバンバン入ってきて、チャンネル登録者数はあっという間に十万人を越し、自社のゲームを宣伝してくれと多数のメーカーが俺の所に殺到するのだ、うん、悪くない。

 さあ、ここからソロプレイヤーHachiman伝説の始まりだ……!

 

 *

 

 *

 

 *

 

 あー、無理無理、何これ。クリアとかできないわ。っていうかクリア出来るようにできてないわ。

 クソゲー。クソゲーだね。

 いやおかしいだろ、行く場所行く場所、初見殺しの罠って。しかも今度はドラゴンでてきたんですけど? 明らかに届かない所から火吐いてくるんですけど? こっちは地べた転がるのにも、スタミナゲージが必要というハンデ背負いながら戦ってるんだから、もうちょっと空気読んで欲しい。

 熱っ! ここにも火届くのかよ! やば、回復間に合わん! あー! また死んだー!

 何? 『上手に焼けましたー』って? メーカーが違うんだよなぁ……。

 もしかして俺が買ったのは、モンスターをハントする国民的協力ゲームだった?

 協力する友達なんていねーから、ソロプレイがメインのこっち買ったんだよ。察しろ。

 もうこのゲーム中古屋に売ってやろうか。

 でも、楽しいからもう一回コンティニューしちゃう……悔しい、ビクンビクン。

 きっとどこかに突破口があるはずなのだ、絶対倒してやるからな……!

 あ、なんだ普通に道あるじゃん、あのドラゴン倒さなくていいのかよ……。

 

「お兄ちゃん、またゲームしてるの……?」

 

 そんな風に、一人でゲームに勤しんでいると、小町が声をかけてきた。

 夏らしく露出の多い洋服に身を包み、キャップを被っている、まるで外に行くみたいな格好だ。

 

「ん? この暑いのにどっか行くの?」

「うん、これからちょっとい──」

 

 ちょっとい?

 何?

 ちょっと一騎当千してくるの?

 小町は無双する系武将だったのか……お兄ちゃんびっくり。

 レベルマックスまで育てなきゃ、使命感。

 

「いー……い、今話題のタピオカガム探しに行ってくるー?」

 

 しかし、そんな一騎当千な小町は、棒立ちの敵キャラ一人倒せるかどうかも怪しいほどに動揺し、狼狽えた様子でそう答えた。

 なんで疑問形なんだよ。

 

「タピオカガム? 何それ?」

 

 タピオカってあれだろ? この間飲まされた黒いつぶつぶ。

 そもそもアレは飲む物なの? 食い物なんじゃないの?

 どう考えてもストローで飲むには適してない形をしていると思うのだが……。

 それをガムにしたの……? どういうこと?

 食感的にグミならまだわからなくもないが、ガムて……。

 そもそもアレそのものに味あったっけ……?

 ほとんどミルクティの味しか覚えてないんだが。

 

「話題のお菓子だよ。どこ行っても売り切れなんだって。ほら、これ」

 

 そう言って小町はスマホの画面を見せてくる。

 ソコには確かに『JKに人気! 売り切れ続出! タピオカガム!』という記事が表示されていた。

 なんというかフェイクニュースっぽい。そんな物が売れているとは正直信じがたいし、マスコミの印象操作の気がしないでもないが。世の中何が流行るかわからんからな……。うん、よくわからん。

 

「美味しくなさそう」

「美味しいって話題なの! JKの間で大流行って書いてあるでしょ!」

 

 どうやらウチの小町はいつの間にやらタピオカ教に洗脳されてしまっているようだ。なんなら手遅れかもしれない。

 そのうち「あなたはタピオカを信じますか?」とか言ってくるのだろうか。せめて他所様に迷惑かけませんように。

 

「別に小町はJKじゃないだろ、そんなつまらん流行に流されて無駄遣いすんのはやめとけ」

「失礼な! 小町だってJKだよ! ジャイアント小町だよ!」

 

 何それ、リングネーム?

 いつから小町ちゃんはプロレスラーに転向したの?

 『小さな体に大きな心、ジャイアントーこまーちー』とかコールされて入場してくるの?

 お兄ちゃん妹が殴られたり、投げられたりする所は見たくないなぁ……。

 あと一応言っておくとジャイアントのスペルは「J」じゃなくて「G」な。

 この子、来年受験なんだけど大丈夫かしら……?

 

「あと、マカロンガムもあるんだって」

 

 マカロンガム……マカロンってなんかやたらカラフルな丸い奴だよな?

 それをガムに……? 元の食感を殺そうっていうコンセプトか?

 どうやら世の中には、俺の想像を遥かに超えたアイディアマンがいるらしい。

 そんな商品を企画した奴とGOサインを出した責任者とは仲良くなれる自信がない。まあ俺、誰かと仲良くなったことなんて無いんだけど。

 

「ってお兄ちゃんに構ってる暇ないんだった、早くでないと! んじゃ小町は出掛けてくるから、お留守番よろしくねー!」

 

 どうやら俺は構ってもらってた立場だったらしい。

 小町はそう言って俺との会話を無理矢理切り上げ、逃げるようにそそくさと玄関へと向かっていった。

 

「暑いから水分補給忘れるなよ」 

「分かってるよ、お兄ちゃんこそ。たまには外でないと、体鈍るよ」

 

 失礼な、俺もちゃんと外にはでているだろう、毎週末には一色の家に行っているんだぞ。

 いつからこんな社畜に成り下がってしまったのかと自問するほどだ。

 そもそも俺は働きたくない。

 出来れば。将来も働くのは誰かに任せて、家の中でゴロゴロしていたい。

 具体的にいうなら専業主夫。

 専業主夫万歳。

 

 そんな風に、夏休みの序盤は毎日凝りもせず眩しい太陽の下へ駆け出す小町を見送り、俺自身はエアコンの効いた家の中でゴロゴロしながら、週末には一色の家に行くという日々を送っていた。

 

***

 

**

 

*

 

 八月に入ると、『夏休みを家で快適に過ごそう計画』の第三弾として

 動画見放題サービスというのに加入した。

 毎月千円未満で、動画・アニメが見放題。

 しかも初月無料。つまり、この夏休みの間は無料で動画、アニメが見放題なのだ。

 これはこの夏休みという時間を有意義に過ごすのにうってつけのサービスだと思い、即加入。

 そして俺は驚愕した。

 

 信じられないかもしれないが、プリキュアシリーズが全話見れるのだ。

 なんだこれは……? 一体どういうことだ?

 毎週毎週、楽しみにしていたあのプリキュアが、連続でディスクの入れ替えも、CMカットの必要もなく全話見れてしまう。

 こんな事があっていいのだろうか。

 俺は生まれて初めて神に感謝した。

 これで、今年はこれまでに無いほど充実した夏休みを送れる。

 そうか、俺がこの夏なにか起こるかもと感じていた予感はこれだったのだ!

 うおお、しかも劇場版まである!

 さすがに劇場まで見に行く勇気がなかったからなぁ。

 小町がもうちょっと小さければ良かったのに……。

 もう現実の小町と言ったら……。

 

「お兄ちゃん、そろそろバイトの時間じゃないの?」

 

 あ、はい。そうですね。

 これが今の……現実の小町だ。キッチンに牛乳を取りに来た小町は、俺にそう言うと、行儀悪くコップも使わず、そのまま牛乳パックを傾け、グビグビと飲み干している。

 現実とは非情なものである。

 とはいえ、そろそろ準備をしたほうが良い時間か、夏休みとはいえバイトには行かないといけない、今日のプリキュアはここまでにしておこう。

 

 今日は八月の初週。おそらくバイト代がもらえる日。

 先月までと違い、今月のバイト代は満額貰っても問題ないだろう。

 期末対策に、模試対策、割としっかりやったからな。

 おっさんの邪魔も入らなかったし……そういえばここの所おっさんと会ってないな?

 最後にあったのは、六月の給料日か?

 いや、別に会いたいとかそういうのではないが、あれだけ騒がしかった人からの連絡がなくなると、なんとなく気になる。

 元気ならそれでいいのだが……そろそろ俺の方からも連絡してみるか。

 

 まあ、向こうは俺と違って大人で、忙しいのかもしれないし、今日一色の家に行ったら意外とひょっこり顔を出すかもしれない、気が向いたらでいいか。

 とりあえず今は、今日のバイトをどうするか考えなくては。

 先週までで期末の復習も終わったし、今日も模試対策でいいか……? そういえばもう週明けに模試か。たしか八月八日だったよな。

 一色と模試の話をしている時、「俺の誕生日だ」と言いそうになったのを堪えたので間違ってはいないはずだ。

 いや、『その日俺の誕生日だ』なんて言ったら何か催促してるみたいに聞こえるのが嫌だったんだよな。言った所で何かかわるわけでもない、誕生日を祝ってもらえるなんて自意識過剰も良い所だ。

 まぁ模試の直前にそんな事言われても困るだろうしな。

 

 俺はただの家庭教師で、優先すべきは一色の模試であり受験。

 俺の誕生日なんて些事でしかない。

 だからこそ、一色の成績を上げるために、家庭教師の時間を有意義に使える何かがあるといいのだが……、どうにも良い案が浮かばない。

 過去問でもあればなぁ……って過去問?

 

 そういえば俺が去年受けた問題がそのまま使えるかもしれない。

 当然そっくりそのまま今年も出題されるなんていう事はないだろうが、テスト形式で試せるというのは大きいのではないだろうか?

 

 俺はそう思い立ち、急いで自室に戻ると、数ヶ月前に仕舞った、中三までに使った勉強道具の詰まった段ボール箱をベッドの下から発掘した。

 エロい本は断じて入っていない。

 よく漫画なんかにある「友達が勝手に置いていったんだ!」なんていう言い訳が通用しないからな……。そのうえ妹という存在が居る環境で一冊でも持っているのがバレると俺の家庭内カーストがやばくなる。まあ今でもそれほど上位というわけではないが、進んで危険を冒すつもりはない。

 じゃあ、そういった物を一つも持っていないのかと聞かれれば……企業秘密だ。

 ただ一つ言えることは、決してパソコン内の隠しフォルダを探してはいけない。仮に見つけたとしてもパスワードを探ろうとしてはいけない。

 家族共用のパソコンでもあるから、履歴を消すのも忘れずに。

 俺が言えるのはこれだけだ。

 

 話が逸れた。とりあずこの段ボールを開けなければ。

 一応伝説の傭兵が入っていないか軽く叩いて確認をしておく。

 よし、誰も入っていないな。

 まぁ人が入れるサイズの段ボールではない上に、仮に入っていても対処しようがないんだけどな。俺はCQCを習ったことがない。

 

 少しホコリの溜まった段ボールを部屋の中央へ移動させ、テープを剥がす。

 中にはほんの半年程前には現役で使われていた、だが確かな懐かしさを感じる中学時代の教科書とノートがギッチリと詰められていた。

 俺、ちゃんと勉強してんなぁ。

 真っ黒になるまで書き込まれたノートをペラペラとめくり、ちょっとだけ自画自賛。

 誰も褒めてくれないんだからこれぐらい許して欲しい。

 

 さて、模試の問題は……。

 あった、多分これだ。

 手にとったのは、紙の束が入ったアニメ柄のクリアファイル。

 確かコンビニでお菓子を買うと貰える奴だった気がする。俺はそのクリアファイルの中から複数のプリントを取り出し、一枚ずつ内容を確認していく。

 これは……中三、最後の期末だな。今の一色には必要ないものだろう。

 これは、夏期講習で貰ったプリントか……。こっちは塾の申込用紙、これは捨てていいな。こっちは……冬の模試か。

 夏の模試は……あった、これだ。

 クリップ止めされたその紙束には解答と、俺自身の志望校判定結果がくっついていた。

 

 『総武高校……B判定』

 

 実際、この時はかなりショックだった、まあBといっても別紙の参加者全体の成績順位を見る限りでは、Bの中でも上位の方なので、厳密に言えば『Bプラス』といった所だろうが。

 この時ほど自分の数学の成績の悪さを呪ったことはなかったな。

 あれから死ぬ気で勉強したんだったか……。

 その頑張りもあってか、冬の模試ではA判定を取れたし、やはり模試を受けたのは正解だったと今更ながらに痛感する。

 とはいえ、数学についてはもう徐々に下がってきてるんだよなぁ……。

 そもそも数学は俺に向いていない学問なのだ。

 今は一色の勉強をみるついでに自分自身の復習が出来ているので、辛うじて赤点は免れているが。高校の数学マジやばい、ちょっと油断するとついていけない。来年あたりは赤点必至な気がする。

 

 まぁ、逆に国語の成績は上がっているから、なんとかなるだろう。こっちはそのうち学年一位とかを狙ってみるのもいいかもしれない。

 国語で学年一位とったら、数学のテスト免除とかにならないだろうか……。ならないか。

 

 とりあえず、今大事なのはこの模試の過去問だ。

 段ボールの中には、他にも受験で使った過去問集なんかもあったが、まあこれは今は必要ないだろう。

 

 俺は取り出した教科書類を再び段ボールに詰め込み、ガムテープで封をして、ベッドの下へと戻す。

 でもこれ、一体いつまで取っておくんだろうか?

 思い出というほどの思い出があるわけでもないし、去年までの過去問を今後もう一度やるというビジョンが見えない。年末の大掃除でゴミとして処分してしまってもいい気がする……。まあそこらへんは帰ってきてから考えよう。

 

「んじゃ行ってくるぞ」

「はーい、いってらっしゃーい」

 

 そんな事を考えながら、俺は家を出て一色の家へと向かう。

 玄関先では小町が元気よく手を振って見送ってくれた。

 どうやら今日の小町は自宅待機モードらしい。

 アイツここの所ずっと出掛けてたからな。どこへ行ってるのかは絶対教えてくれないので、何か変な遊びに嵌ってるんじゃないかと、ちょっと不安だったりするんだが……。

 

 おっと、もう電車が来ている。

 思いの外ゆっくり歩きすぎたようで、駅のホームに向かう途中で電車の発車ベルが鳴り、俺は慌てて駆け込んだ。

 ふぅ、危ない危ない。

 まあ一本位遅らせても文句は言われないだろうが、今日は給料日。

 出来ればケチがつくような事はしたくない。

 

 週明けには俺の誕生日もある。どうせ、家族にも大したお祝いはしてもらえないだろうし、バイト代で自分へのご褒美を買うのもいいだろう。

 自分へのご褒美とか……都会で働き疲れたOLみたいだな俺。今が『大人になった時の予行演習』とかじゃなければいいけど……。

 

 でも、何を買おう?

 なんだかんだ、ここ数ヶ月は金があって欲しい本も片っ端から買ってしまったから、特に欲しい物ってないんだよな……。ゲームもまだクリアしてないし……。

 俺はそんな事を考えながら電車に揺られ、スマホで大手ウェブショップAmazingのトップページを開いた。

 ん? なんだこれ?

 

 『タピオカガム──三~四ヶ月後にお届け』

 入荷に四ヶ月待ち……だと? フェイクニュースじゃなかったのか……。

 恐るべしタピオカガム。




※この作品はフィクションです、実在する人物、団体。食品・ガムとはなんら関係ありません。(多分ないと思うけど)

恐らく一ヶ月ほど遅い情報だと思うのですが
俺ガイル14巻の発売日決まっていたんですね。
情弱なもので先程知りました。

2019年11月19日発売だそうで。
早く読みたいような、最終巻なので読んでしまうのが寂しいような、今はそんな心境です。でも絶対買います!

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