やはり一色いろはが俺の許嫁なのはまちがっている。   作:白大河

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本年も「やはり一色いろはが俺の許嫁なのはまちがっている。」をよろしくお願いいたします。


第44話 シン・文化祭 -急-

 急に暇になった。

 

 妹と“ほぼ”妹とはいえ、女子二人との文化祭を夢見ていた俺としてはガッカリもガッカリである。

 まあ一色は後で連絡来るらしいし、今日はバイトもあるから帰る前には合流できるだろうが……小町ちゃんは何してるの?

 ちょっと前までは「お兄ちゃんの側を離れないでいい子にしてなさいね?」って言われたらギュッと力強く俺の手を握って離さなかった子なのに。全く……お兄ちゃんのここ、空いてますよ?

 

 これが兄離れという奴なんだろうか? こうやっていつか俺の手を離れて見知らぬ男と……。

 いやいや、駄目だ駄目だ……はっ!? まさか急用って男か!?

 お兄ちゃん絶対許しませんからね!

 

 とはいえ、小町にしても一色にしても行き先の心当たりは全く無い。

 この現状を誰かが聞けば『自分の学校だというのに情けない』と思われるかもしれないが、自分の学校だからこそ、アイツらにどんな用があるのかが分からないのだ。

 まぁ、下手に探し回ってもストーカー呼ばわりされるのが目に見えているし、そもそも面倒くさいから探す気もないけど。

 結論、今日もぼっち行動である。

 

 はぁ……文化祭でドタキャンとか新手の罰ゲームかよ。

 いや、ドタキャンではないのか? 一応一回合流したからなぁ。

 ……どうでもいいか、変に考えるよりさっさと切り替えてしまおう。

 とりあえず、さっき川崎から貰った券でも使って昼飯にするか……。どうせ一人分だ。

 

 そうして俺は、目標をカレー屋に定め歩き始めた。

 道中、昔話に花を咲かせる私服と制服の入り混じった集団や、楽しげに腕を組んで歩くカップルとすれ違い、ここが俺の学校ではないかのような錯覚を覚えながら、廊下の端へ端へと追いやられていく。

 なんと言うか……アミューズメントパークとか、デートスポットに一人できてしまったかのような感覚だな。

 おっと、ぶつかった、すいませ……って……え? なんで俺が睨まれてるの? おかしいだろ。俺めちゃくちゃ避けたじゃん? そっちは二人で横並びのまま歩いてくるから、俺が廊下の壁に体をほぼ水平にくっつけてたんだぞ? これ以上どうしろと?

 全く、ちょっと体がぶつかっただけであんな睨まれるとか世紀末かよ。

 さっさと文化祭、終わればいいのに。

 

*

 

「ここを俺のベストプレイスと認定しよう」

 

 人混みを避け、出店の少ない方角へと歩いていると、思わず声に出してしまうほど素晴らしいロケーションを発見してしまった。

 

 そこは特別棟の一階で保健室横、購買の斜め後ろの屋外にあるデッドスペース。

 校舎と屋外にある段差を埋めるために僅か数段の石段が用意されており、一度座ればそこはさながらオープンテラスのカフェ……いや、流石にそれは言い過ぎか。

 まあとにかく、一人になるにはうってつけの場所だった。

 何故こんな場所がある事に今まで気が付かなかったのか。

 文化祭というこの状況下でも人が居ない正に穴場と言えるこの場所に、俺は感動しながら「来週からは昼飯はここで食うことにしよう」と決意し、石段へと腰掛ける。

 うん、風も心地良いな。

 

 顔を上げれば、テニスコートを一望できるというのも素晴らしい。

 どうやら今、テニスコート上ではウサ耳を付けた女子生徒が男子生徒に囲まれて何やら演劇を行っているようだ。そう言えばテニス部はミュージカルをやってるとか言ってたな。

 さすがにセリフまでは聞きとれないが……。

 女子が一人という事は、女子テニス部と男子テニス部の合同演目なのだろうか?

 それか、女子マネージャーが主役か……まあ、それはどちらでもいいか。

 ミュージカル自体はそれなりに人気らしく、観客席は満席のようだった。

 

 一応言っておくが決してテニスをしている女子を眺めたいとか、そういう下心があってここを選んだわけではないぞ?

 そもそも、ここからではそこまでハッキリと顔が見える訳でもないからな。

 もしかしたら今コートの中央でポーズを決めているあのウサ耳女子も一見女子に見えるが実は男子なのかもしれないし……。

 

 なんてな。

 バカらしい、誰に言い訳してんだ俺……。

 今のポーズでミュージカルも終わりという事なのか。ウサ耳達が礼をして、観客が拍手を送り、帰り支度を始める。当然誰も俺の事など気にも止めていない。

 なんだか、観客席に一人見覚えのあるロングコートの男が混じっている気がするが……。

 うん、やはりそれなりに距離もあるし、今後誰かがあそこで練習していたとしても流石に変な勘ぐりをされる事はないだろう。

 コレ以上の冤罪は御免だ。

 

 俺はテニスコートから視線をはずすと、購入しておいた拳二つ分程の大きさの容器とドリンクを膝の上へと置いた。

 容器はまだ暖かく、カレーの良い匂いが漂ってきている。

 そう、コレが今回の文化祭でそこら中にカレー臭を撒き散らしている原因であり、川崎からもらった券で錬成した千葉一番屋のカレーだ。

 そして、そこと提携しているという隣のクラスのBLstand提供のドリンク。

 

 ドリンクの中身は先程貰ったバナナジュース──ではなく今回はもう一つあったドリンク、レモネードにした。

 まずかった訳ではないが、もう一杯アレを飲む気にはなれなかったからな。

 紙コップの側面には店の名前らしきBLstandの文字と店のマークっぽいイラスト。

 斜めに置かれたバナナの左右に一個づつレモンが描かれている。

 なるほど、つまりBananaとLemonのStand──屋台でBLStand。

 どうやら店名に変な意味はないらしい、完全に俺の誤解のようだ。よかった、怪しい店はなかったんだ。総武高の文化祭は至って健全です。

 

 よし、食うか。

 疑問が解消しスッキリした俺は。そのまま勢いよく使い捨てのスプーンの先をカレーに浸す、だがその瞬間、男の声が足元の方から聞こえた。

 

「八幡? こんな場所で何をしているのだ?」

 

 その男は相変わらずのロングコートと指ぬきグローブを纏った姿で、メガネをキラリと輝かせている。

 見間違えるはずもない、材木座だ。

 やっぱさっき観客席に見えたのお前かよ……。

 

「見て分かるだろ、飯食ってるんだよ」

「ふむ、そういう事なら丁度よい、我も同席させてもらうとしよう」

 

 材木座はそう言うとどこに持っていたのか、フランクフルトを数本取り出し、石階段を上り、俺の許可も求めず真横に腰掛けた。

 さらば、俺のベストプレイス。

 

「……ミュージカルとか見るんだな?」

「意外か? 我は創作には少し煩いほうだぞ、将来は女性声優さんと結婚する大御所ラノベ作家になる身だからな」

「……お、おう、そうか」

 

 ……なんだろう、凄くどうでもいい事を聞いてしまった気がする。聞かなかったことにしておこう。

 

*

 

「ふむ、それは恐らく国際教養科の雪ノ下嬢であろうな」

 

 それから少し話題が変わり、材木座が昨日の冤罪事件について触れてきたので、俺が弁明すると材木座は食べ終わったフランクフルトの串を握った拳の指の間に挟み、爪のように見せかけながらそう言った。

 MA○VEL? それともバル○グのつもりだろうか? お前はバ○ログってキャラじゃないだろう。

 

「雪ノ下? 何? エド○ンド、お前知り合い?」

「エ○モンド……? 知り合いな訳なかろう。我だぞ?」

 

 材木座は一瞬怪訝そうな表情を浮かべたが、すぐに俺の問を否定する。

 なるほど、分からん。

 なんで知らないのに自慢気なんだよ。

 

「容姿端麗、成績学年トップ、孤高の才女。雪ノ下雪乃といえば総武でも知らぬものはいない有名人だぞ」

「へぇ……」

 

 そういうものなのか。

 あれか、所謂誰もが知る学園のアイドルってやつ? 少なくとも俺は知らなかったが。

 総武にもそういう手合が居るのか。

 まぁ、こいつがただのストーカーという説も否定しきれないが……。

 

「でも、俺が見たのがその女子だって事にはならんだろ」

「いや、特別棟の教室に一人でいる所を見たのだろう? 実は我もよく見かけるのだ、たまに平塚教諭と二人でいる事もあるようなのだが、空き教室で物憂げにこう……なんというか儀式めいた……陰謀のようなものを感じないか? 感じるだろう!?」

「全然」

 

 一体何を感じるというのだろう。

 それが男女ならともかく……女二人だろ? いや、女二人だからこそという事なのだろうか?

 百合的なあれか? でも相手が平塚先生だしなぁ……。

 やはり何も感じようがない。

 「悪しきオーラが」とか「組織の魔の手が」と一人妄想語りを始める材木座を横目に俺は残ったカレーを口に運ぶ。

 

 なんか……こういうのどこかで見たことあるな。

 デジャブというかなんというか……ああ、そうだ恋愛ゲームに出てくる『何故か女子の情報に詳しい主人公の友人』キャラとのワンシーンみたいだ。 

 主人公に攻略途中の女子の好感度を教えてくれる、そんなお助けキャラクター材木座。そんな感じ。

 まあそもそも友人じゃないし俺も主人公って柄じゃないけどな。

 

 どちらかと言えば、さっき会った葉山とかいう奴の方が主人公らしいと言えるだろう。

 もしかしたら来年あたり、こいつと葉山が同じクラスになって意気投合する所から始まる『やはり俺がイケメンと呼ばれるのは間違っている』とかいうイケメンならではの苦悩を描いたハーレム系ラブコメが始まるのかもしれない。

 俺は絶対見ないけど。

 

「……ああ、名前で思い出した。そういえば材木座。お前なんで俺の名前も知ってたの?」

 

 名前、というワードでふと俺はそんな疑問を口にする。

 それは俺の心の中でずっと引っかかっていた事でもあった。

 

 体育で初めて材木座と遭ったあの日。こいつ、俺の名前を既に知っていたっぽかったんだよな。

 いや、漢字までは確証がなかったようだが、少なくともその断片のような情報は掴んでいたように思う。

 単純に交通事故の話題で知っているだけという可能性が高いが、それならそれでここらでハッキリさせておきたい。

 

「そんなもの、貴様の魂を見れば分か……」

「そういうのいいから、何? マジでストーカーなの? 好きな相手になら何してもいいって思っちゃうタイプ? まあ他人に迷惑かけない範囲ならいいと思うが、俺は普通に女子が好きなんでごめんなさい」

「ま、待て! 勘違いをするな。一学期の終わりに平塚教諭と話していただろう? あの時にその……」

 

 ああ、あの時か、そういや廊下中に聞こえるような大声で呼ばれたし、変な視線も感じたな。

 って、あの視線お前かよ!

 なるほど、つまりこいつはあの時、俺の名前からインスピレーションを得て、そこから夏休みに設定を練り上げ、俺と接触するタイミングを図っていたという事か。

 

「よくそれだけで、話しかけようと思えたな。俺が陽キャのパリピだったらとか考えなかったの?」

「ふ……その辺りは抜かり無い、貴様が休み時間に一人でラノベを読む同族である事は確認したからな」

「いや、ラノベかどうかはわからんだろ……俺ブックカバーしてるし」

「笑止! その程度の結界を破れぬ我ではないわぁ! 挿絵の絵柄から絵師、作品まで特定済みよぉ!」

 

 俺がちょうど最後の一口を口に入れた所で、材木座は徐に立ち上がりバサバサとコートを靡かせながら得意げにそう言った。

 やっぱストーカーじゃねぇか。おー怖。 

 

「まあ、そういう事なら話は分かった。ストーカーも程々にしとけよ?」

「分かっとらんではないか!!」

 

 せっかく傷つかないように優しくフォローしてやったというのに、何が不満なのか。

 俺が食い終わった空の容器とコップを捨てるため一番近くのゴミ箱へ歩いていくと、材木座もソレに続き、フランクフルトの串を捨てた。

 あれ? もしかして俺この後こいつと一緒に行動する事になってる?

 いつの間にかフラグが立っていたのだろうか?

 となるとこのまま材木座ルート?

 それだけは勘弁願いたいが……この後はどうすればいいんだ?

 

 十五時からは閉会式が始まり、その後は簡単に教室の片付けをして帰宅。俺が関わっているのはクラスのみだから、バイト──一色の家庭教師の時間には十分間に合うだろうが……。

 一色の用事って結構時間がかかるんだろうか? 一回確認してみてもいいか?

 そんな事を考えながらスマホをイジっていると、タイミング良くLIKEの呼び出し音が鳴り響いた。一色だ。

 

「センパーイ、今どこですか?」

「あー、今は特別棟の方にいるが、そっちは? 用事は済んだの?」

「あ、ソッチは無事終わりましたので大丈夫です。えっとここは……」

 

*

 

「あ、いたいた! センパーイ!」

「……お、おう」

 

 少しだけ戸惑う俺に、一色はまるで今日初めて出会ったかのように大きく手を振りながら駆け寄って来た。

 

「なんですかー、その反応? ようやく合流出来たんだからもっと喜んでくれてもよくないですか? あれ? そういえばお米ちゃんは? 一緒じゃないんですか?」

「お米? 小町ならお前と一緒で急用とやらでどっか行ったけど」

「ははーん、なるほど……」

 

 一瞬答えに迷う俺がそう告げると、一色は何故か納得したようにウンウンと頷いていた。

 どうやらお米というのは小町の事らしいが……。

 その言い方だとまるで小町の行き先に心当たりでもあるみたいだな。

 それだけ仲が良くなったという事なのだろうか?

 生まれてからずっと一緒だった俺でも分からないというのに……。

 とりあえず小町の行き先について詳しく、もし男との約束だったらその男の情報も……。

 

「それで……えっと、こちらは……?」

 

 だが、そんな俺の気など知らず、一色は俺の横へと手のひらを伸ばしそう聞いてくる。

 くっ、小町の事などどうでも良いというのか。 

 第一コチラってなんだ。

 

「我は剣豪将軍、材木座義輝だぁ!」

「将軍……?」

 

 ああ、そうか、材木座か、そういえば俺が「人を待ってる」って言っても何故かずっと俺の後ろで仁王立ちしてたんだよな。

 やっぱり今日の俺は材木座ルートなんだろうか?

 他キャラとのイベントにまで割り込んでくるとか強キャラ過ぎるだろ。

 

「ああ……こいつは気にしなくていい……」

「気にしないでって言われたって気にしますよ! えっと……センパイのお友達……で良いんですか?」

「……友達じゃない、体育でペア組んだだけの中二だ」

「左様、我に友など居らぬ」

「ちゅうに……? ……まぁでもいいや男の人なら、寧ろ好都合かも……」

 

 俺の説明に納得いったのか、言っていないのか一色はそう呟くと、表情を一変させた。

 この顔は知っている。ゆるふわビッチモードだ。

 

「初めましてぇ将軍さん? 私一色いろはっていいます、センパイにはいつもお世話になってます。良かったら今度学校でのセンパイの話とか聞かせて下さいね♪」

「はひゃっ!? わ、我はけん、けん……ざい」

「建材?」

 

 微妙に惜しい、確かに建材には材木も含まれるが、そいつは材木座だ。

 だが、材木座はその間違いを訂正も出来ず、一色に距離を詰められ挙動不審になっている。

 女子が苦手なのか、中二あるあるだな。

 こいつの場合女子とか以前に対人そのものが苦手とも言えるが。

 

「センパーイ? この人全然目合わせてくれないんですけど……?」

「辞めて差し上げなさい、もうちょっと距離保ってあげて」

「はぁ……?」

 

 材木座をどんどん壁際に追い込んでいく一色を窘め、被害者を救出する。

 こんな事してるから材木座ルートに入ってしまうんじゃなかろうか?

 全く、勘弁してもらいたいものだ。

 

「それで、どうするの? まだ時間あるし、どっか行きたい所とかあるなら案内するけど?」

「あ! そうでした」

 

 俺の問に、一色はパンと手を叩き振り返る。どうやらヘイトを取れたようだ。

 視界の端でほっと胸をなでおろす材木座が見える。

 次は助けないからな。

 そんな事を考えながら俺は再び一色と視線を交わす。

 その瞳には何か決意のようなものが込められており、どこか行きたい場所があるのは用意に想像が出来た。

 どうやら、今度こそ俺の文化祭が始まるようだ。

 さらば材木座ルート!

 

「センパイごめんなさい! 私、どうしても外せない用事が出来ちゃったので一緒に回れなくなっちゃいました……」

「へ?」

 

 嘘でした。始まりませんでした。

 あれぇ??

 

「用事終わったんじゃないの? どっか具合悪い?」

「体調は問題ありません。用事……終わったは終わったんですけど、それとはまた別というか、むしろそれが終わったから別の用事が出来たというか……」

 

 意味がわからないよ?

 用事が終わったから用事ができた?

 どういう事?

 

「……私、決めたんです!」

「決めた? って何を?」

「それは……まだ秘密です」

「全く意味わかんないんだけど?」

 

 もう俺の頭の中はずっとクエスチョンマークだらけだ。

 思わず材木座に救援を求め視線を送ってしまう。

 だが、材木座は何故か意味ありげに腕を組んでうんうんと頷いているだけだった。

 え? 何? どういう事?

 

「とにかく私決めたので! 今日はこのまま帰らせて下さい! それと……お願いがあるんですけど」

「いや、帰るのは構わないけど……お願い?」

「今日のカテキョもお休みにして下さい」

「は?」

 

 カテキョも休み?

 まだ閉会式も始まっていないという時間なのに?

 ってことは相当時間が掛かる用事が出来たってことか?

 

「いや、本当に意味わからん」

「分からなくていいんですよ、私の問題なので。とにかく今日はこの後丸々お休みさせて下さい」

「ってもなぁ……それならそれで一回おっさんに連絡いれないと……」

「大丈夫です、お爺ちゃんの家に行くのが私の予定なので、直接伝えます」

 

 なんでこのタイミングでおっさんの家に?

 もしかして……。

 

「おっさんに何かあった? なんなら送ってくか?」

 

 まさかとは思うが、そういう事なら急用というのも納得が出来る。

 それならとりあえずチャリで一色を駅まで送って……いや、寧ろ一緒に行くという選択肢もありそうだ。

 出費は痛いがタクシー呼ぶか? 

 

「その提案はひっじょーに魅力的ですけど、別にお爺ちゃんに何かあったとかじゃないので大丈夫です、さっきも言った通り、私の問題なんです。でも全部解決したらちゃんとお話するので来週はちゃーんと来て下さいね?」

 

 だが、一色は俺のシリアスな空気をあっさりと吹き飛ばし、いつもの調子でそう言ってウインクを投げ、言葉を続ける。

 

「だから、今日はこちらのお友達と一緒に回ってて下さい。あ、変な虫が寄ってくると危ないのでお米ちゃんも呼び戻しましょう」

 

 自分の言いたい事を言うと、この話は終わりだとばかりに一色は手早くスマホを手に取り高速で指を動かし始めた。

 どうやら冗談とかではなく本気で帰るらしい。

 とりあえずおっさんが病気とかではなさそうだが……。

 そうなると余計に今からおっさんの家に行く理由が分からない。

 

 所謂家族の問題という奴だろうか?

 だとすれば俺がこれ以上介入すべきではないのは分かる。

 しかし、その用事がこの文化祭での急用がきっかけで出来たというのはどういう事だ?

 そこがわからない。

 一体、この小一時間ほどで一色の身に何が起きたというのか。

 それを知りたいと思っている自分に少しだけ戸惑いながら、俺は一色の背中を見つめるが、一色は相変わらず高速で指を動かしているだけだった。

 

「正直どれぐらい時間が掛かるか分からないですけど、今日中には絶対終わらせますから。あ、でも、もしセンパイが寂しかったら来週と言わず、カテキョ明日にズラしてくれても良いですよ?」

「嫌だよ……明日は一日寝てる」

 

 その返答には自分でも分かるほどの苛立ちが込められていた。

 だが、それがただの八つ当たりでしかない事も分かっている。

 大人になれ、比企谷八幡。

 一色がおっさんと会う事に何もおかしな事はない。

 二人は祖父と孫、血の繋がった家族だ。

 だから、俺がその間に入れないのは当然の事。

 なのになんで……なんで俺は疎外感を感じているんだ。

 

「はぁ……まぁそう言うんじゃないかと思ってましたけど……じゃあ、私急ぐのでお先に失礼しますね、あ、お友達もセンパイの事よろしくお願いします」

「ああ、気をつけて行けよ。おっさんに宜しくな」

「う、うむ……任された」

 

 なんとも言えないモヤモヤを俺の中に残し、一色は大きく手を振りながら去っていく。

 そんな一色の姿を目で追いながら、俺と材木座も並んで手を挙げた。

 残ったのは男二人、材木座もどうしたら良いか分からないという感じだ。

 ああ、そういや材木座は残るのか。

 え? 材木座ルート続行?

 はぁ……。

 さっさと文化祭、終わればいいのに……。




というわけで44話でした。
その年の最初の投稿には材木座が出るというジンクスにならない事を祈って。
こ、今回はちゃんとヒロインも出てるから……。

では、細かいあれやこれやは活動報告へ!



あれ……?
そこのあなた……もしかして騎空士様ではありませんか?
 古 戦 場 始 ま っ て ま す よ ? <●><●>
(2021/01/15~2021/01/22)

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