やはり一色いろはが俺の許嫁なのはまちがっている。   作:白大河

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タイトルの
:||
の読み方は多分リピートです(多分)(恐らく)(きっと)


第45話 シン・文化祭 :||

「私ちょっと急用を思い出しちゃいました! すみませんけど先に行ってて下さい。あ、終わったら連絡するんで!」

「は? どっか行きたいとこあるなら案内するけど? って……おい!」

 

 ポカンとした表情のセンパイを残し、一人、人混みを掻き分けていく。

 センパイには申し訳ないとは思うけれど、少しだけ兄妹水入らずで過ごして貰おう。 

 正直な所、自分でもなんて勿体ない事をしているんだろうとは思う。

 折角センパイと合流できて、これから一緒に御飯食べて、一緒に遊ぶ楽しい文化祭デートが始まる予定だったのに……。

 今からでも遅くない、やっぱり用事なんてありませんでしたって言って戻る事だって出来る。

 でも、どんなに後ろ髪を引かれても、私の不安を煽る“あの言葉”が耳にこびり付いて離れてはくれなかった。

 

 来た道を戻り、ついさっき出てきたばかりのセンパイの教室でその人を探す。

 居た。 

 お昼時ということも合ってか、教室内にはほとんど人が居らず、その人はすぐに見つかった。

 センパイよりも長身で目立つその人は、お友達と楽しげに話をしながら、Tシャツを物色している。

 

「すみません」

「ん? 何か忘れ物かい?」

「なになに? もしかして何か買ってくれちゃう感じ?」

 

 私が声をかけると、その人は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに笑顔を向けてくる。

 女子慣れしている感じだなぁ。

 まあ、もう一人の方は、とりあえず営業スマイルで躱しておこう。

 私が用があるのは……この人だけだ。

 

「ええ、ちょっと重要な事を聞き忘れてまして、少しお話させていただけないですか? 葉山さん」

 

 私の言葉に、葉山さんは驚いたような表情でパチパチとまばたきを繰り返すばかり。

 まあ、それもそうか。

 さっきが初対面なのにいきなりこんな事言われても意味がわからないよね。

 でも、アナタが悪いんですよ? あんな事さえ言わなければ今頃はアナタも私も平和にこの文化祭を送れていたんですから。

 むしろ被害者はコッチです。

 こんな所センパイに見られるわけにもいかないんですから。

 だから……。

  

「出来れば二人きりになれるところでお願いします♪」

 

 一瞬教室の空気がざわついたのが分かった。

 戸部さんはどうしたら良いか分からないって感じで私と葉山さんの顔を見比べて、葉山さんも「あー……えっと……」と少し困り気味に首の後ろを掻いている。

 だけど私はそんな空気を無視して、葉山さんの制服を引っ張り、教室を後にした。

 

*

 

「えっと……一色さん? どこまで行くのか聞いてもいいかな?」

「あ、すみません!」

 

 葉山さんにそう言われ、私は慌てて握っていた制服を離す。

 振り返ればすでにセンパイの教室は見えなくなっているし、当然センパイの姿もない。

 はぁ……やっと会えたのになぁ……。

 さっさと聞くことを聞いて、センパイと合流しよう。

 そう思って、葉山さんの顔を見る。

 なるほど、こうして見れば確かにイケメンだ。

 この人を狙う女子はさぞ多い事だろう。

 少し前の私だったらツバつけてたかも……。

 

「ええっと……すみません、どこか人気のない場所とかありませんか?」

「人気のない? ハハハ……なんだか告白でもされるみたいだな」

 

 一瞬ビクリとした。

 これまでの私の経験からすれば今のは告白を期待した『軽口』。

 でも、葉山さんの瞳の奥が笑っていないように見えたのだ。それはほんの一瞬の事。

 次の瞬間には葉山さんは先程までと同じ笑顔を向けていた。

 気のせい?

 ううん、あれは気のせいじゃなかった。 

 もしかして警戒されている? そりゃ初対面でいきなりこんな事されたら誰だって警戒はするだろうけど……。でもこの感じ、警戒というよりは……。

 

 牽制?

 そう、今のは牽制だ。

 『まさか告白じゃないよね?』

 この人は今そう言って私を牽制したのだ。

 

 付き合っている人がいて、その人に今の状況を見られると困るとかそういう事だろうか?

 でも、それならそれで、私に対して脈アリとか変な勘違いはされなそうだから助かるかな。

 

「まさか。……少し聞きたい事があるだけですよ。でもプライベートな事なので、出来れば他の人に聞かれたくないんです」

 

 お互いを値踏みするように、一瞬視線を交わした後、私は笑い飛ばすようにそう告げた。

 

「……わかった。人気のない場所か……そうだな……」

 

 すると 葉山さんは一瞬考えるような仕草をして。

 私の先を歩き出す。

 どうやら、人気のない場所に心当たりがあるらしい。助かった。

 さて、お話聞かせて貰いましょうか。

 

*

 

「ここなら、あまり人は来ないと思うけど」

「ありがとうございます」

 

 連れてこられたのは学校の屋上だった。

 へぇ、総武高って屋上入れるんだ。

 文化祭の時だけ開放とか?

 でも出店とかがあるわけでもないし、やっぱり常時開放?

 風も気持ちいいし、この話が終わったらセンパイとここでお昼を食べるのも悪くないかもしれない。

 

「それで話って?」

 

 葉山さんが屋上のフェンスに背中を預けながら聞いてくる。

 どうやら、この人も早めに切り上げたいと思っているみたい。

 よく考えたら……いや、よく考えなくても他に予定があったかもしれないんだよね。

 それでも愚痴の一つも言わず、私の要望に応えてくれたという事はそれなりにいい人なのだろう。

 なら、せめてその優しさに応えなくちゃいけない。

 私は一度大きく息を吸い込んで、一気に言葉を吐き出した。

 

「……単刀直入に聞きます、さっきセンパイに紹介しようとしてた人って誰ですか?」

 

 小細工も、回りくどい言い回しも一切なし。

 私が一番聞きたかったこと、確認したかったことをストレートに。

 

 そう、この人はさっきセンパイに言ったのだ。

 「君に会ってもらいたい子がいる」と。

 センパイとの面識もそれほどなさそうだったのに、あの瞬間にそう言ったのだ。

 私は刑事や探偵じゃない。

 推理に自信があるなんて一度も思ったことはない……だけど……。

 

「誰って……。友達だよ普通のクラスメイト。比企谷くんに会いたがってるみたいでね」

「女の人、ですよね?」

 

 それが女の人だという確信だけはあった。

 

「まあ、うん、そうだね」

 

 そもそも“子”と表現している時点で大抵は女の子だろう。

 いや、もしかしたら文字通り子供。という意味だったのかもしれないけれど。

 その時の私にはそんな考えは浮かばなかったし、実際今葉山さんも肯定した。

 つまり、私の推理は外れていなかった訳だ。

 となると、気になるのはもう一つ。

 

「どういう人ですか?」

 

 葉山さんがセンパイと会うのはさっきが初めてみたいだった。

 なのに、センパイに会いたいと思っている。という事はセンパイの事を前から知っていて、なんらかの感情を抱いている可能性が高い。

 

「いい子だよ、明るくて、周りに気を使える、そうだな……一言で言うと優しい子かな?」

 

 その答えに、私はなんと返したらいいか分からず、無言でいると、葉山さんは言葉を続けた。 

「……その子がね、彼に会いたがっているのを思い出したんだ」

「会いたがってる?」

「ああ、なんでも彼に助けてもらったことがあるらしくてね」

 

 一体どういう事だろう?

 そういえばあの時、事故の話をしていたっけ……? センパイの事故の相手……とか?

 だからなのか、ほんの少しだけ胸の奥に焦げるような衝動が走るのも分かった。

 

「俺は第三者だから、何があったか詳しくは省かせてもらうけど。ただ『会うタイミングを逃してしまったから“誤解”されてるかも』って不安がっていてね、だから今日折角比企谷君と知り合えたんだし、ちょっとお節介のつもりで二人を引き合わせてみようとしたんだけど……」

 

 そしてその衝動はあっという間に私の中を広がっていく。

 それは、今日の……ついさっき占いをしてもらった時の言葉とも繋がってどんどんと大きくなっていった。

『疑心暗鬼』『誤解』「それが解決すれば恋人が出来る」

 あの占いはあくまでセンパイを主体にしたもので、私の事を占ったわけじゃない。

 つまり……その相手は私じゃなくて……その人?

 いや、違う。あんなのそれっぽい事を並べただけのデタラメ、こんな考えも馬鹿げた妄想だ。

 占いなんて当てにならないものばっかりなんだから。

 何度も頭でそう否定しても、一度生まれた不安はなかなか消えてはくれなかった。

 

「……どうやら、一色さんのお気に召さなかったみたいだね」

 

 そんな私の心情を見抜いてか、葉山さんはそう言って両手を広げたオーバーなアクションで息を吐く。

 お気に召さない……。

 そう、お気に召すわけがないのだ。

 なら、どうする?

 そんなの決まってる。

 

「ええ、そうですね……。葉山さんの事情はわかりました。教えてくれてありがとうございます。でも……」

 

 だから、私は行動を起こす。

 ここまで来たら、もう今更だ、取り繕う必要もない。

 だって、そうならないためにセンパイとの文化祭デートを切り上げてきたのだから。

 

「その人、センパイに紹介しないで下さい」

「一応、理由を聞かせて貰ってもいいかな?」

 

 そんなのは単純だ。「私が嫌だから」葉山さんの言葉を借りるなら「お気に召さないから」

 そう言えばこの人は納得してくれるだろうか?

 いや、多分納得してくれないだろうなぁ……。

 

「フェアじゃ……ないから」

「フェア……? 俺には君の行動の方がアンフェアに見えるけれど……?」

 

 あまりにも幼稚な私の言い分に、葉山さんは容赦なくストレートで返してくる。

 もっともだとは思う。

 これがもし逆の立場だったなら、私は確実に相手を糾弾するだろう。

 先回りして、関係の無い所で相手のチャンスを奪うなんて、嫌な女の最低な手口だ。

 

「ええ、そうですね、でも……でも別にずっと紹介するなっていう訳じゃないんです! せめてあと半年! 私が高校に入学するまで待ってもらえませんか?」

「入学って……君は海浜総合に行くんじゃ?」

「……」

 

 正直、このままだとお爺ちゃんの言う通り別々の高校──海浜総合に行かざるを得ないのかもしれないと思っていた。

 だけど、それじゃぁ駄目だ。

 それが今日、総武に来て分かってしまった。

 絶対に覆らない一年という年の差。

 好きな人と別々の高校に通うという危険性。

 センパイの近くにいる大人びた女の人。

 そして……センパイに近づこうとする女性の影。

 もし、私がここで折れたら、私の付け入る隙のないような関係が生まれてしまうんじゃないだろうか? そんな不安が足元から這い上がってくる。

 そうか……だからか。だからあの時お祖父ちゃんは私に「焦れ」って言ったのか。

 

「違うのかな?」

 

 その問に私は無言のまま一度頷く。

 もう、迷わない。

 私はセンパイが好きだから、センパイの側に居たいから。どうしても、この学校に通う必要があるのだ。高校に行ってやりたい事とか、成績とか、将来とかそんな事はどうでもいい。

 いや、違う……。私のやりたい事は『センパイと同じ学校に通う事』。

 それは、センパイとの未来を繋ぐためにどうしても必要な事なのだ。

 だから、ここに通う。何が何でも。お爺ちゃんだって説得してみせる。

 もうずっと前からそのつもりでいたけれど、今日ようやくその覚悟が形になった気がした。

 

「違います! 私の第一志望は総武です。他は受けません!」

 

 葉山さんの……いや、葉山先輩の目を見て私はそう告げる。

 言った。

 言ってしまった。

 お爺ちゃんでも、センパイでもない。よく知らない人に宣言してしまった。

 でも、だからこそ、もう後に引けない。

 だって、これで落ちたりしたら、いくらなんでも格好悪すぎる。

 そう思った瞬間、同時に別の不安も押し寄せて来た。

 本当に入れるの? お爺ちゃんを説得出来るの?

 今日は何月だっけ? 来週はもう十月?

 焦れ、もっと焦れ、時間がないぞと私の心が叫び始め、文化祭デートなんてしている場合なの? それよりも優先するべき事があるんじゃないの? と私の中の私が責め立て、そうじゃないとセンパイとの未来が消えてしまうぞと、そんな恐怖と焦燥感が私の奥から湧き上がって来ていた。

 

「そうか……君の言い分は分かった、でも僕が手を貸さなくても、その子の方から会いに行く事もあると思うよ? 君は……その、比企谷君と付き合ってるわけじゃないんだろう? 彼女のその思いを止める権利はないと思うんだ。だからどうだろう? いっそ一度みんなで……」

「……権利なら、あります」

「え?」

 

 葉山先輩の言葉を遮って、私はカードを切る。

 それは私の切り札であり、私が持っている唯一のカード。

 焦りばかりが前にでていて、それを出すことが正しい事かもわからなくなっている。

 この人の人となりもよく知らない。

 最悪周りにバラされるかもしれない。

 ましてやここはセンパイの学校。

 だから本当はこのカードをこんな所で使っちゃいけない。

 それは分かっているけれど。

 

「私、センパイの……比企谷八幡の許嫁ですから」

 

 ここでこれを出す以外の方法を、私は知らなかった。

 

「許嫁……?」

 

 私の言葉に、葉山先輩が目を丸くする。

 ああ、そういえば麻子ちゃんもこんな感じだったなぁ……。

 これで二人目。

 私、いつからこんなに口が軽くなったんだろう?

 センパイに口止めをしていたのが、随分昔の事みたいだ。

 

「今時そんな関係ありえないって思いますか?」

「いや、そんな事はないけど……本当に?」

「ええ、今ここで証明……は出来ないですけど私の家族に聞けば分かるはずです。電話でもしましょうか?」

 

 私はそういってスマホを葉山先輩に向かって差し出した。

 お爺ちゃん、お婆ちゃん、パパ、ママにお米ちゃん。センパイ……にお願いするのは流石に迷惑かな……。でも誰でもいい、最悪誰か一人ぐらい捕まえて証言してもらおう。

 

「いや、そこまでは……。でも、それは……君も、彼も納得の上で?」

「はい」

 

 現状『一年間だけ』という条件付きだが。センパイも納得してくれている。

 そこに嘘は無い。だから私は葉山先輩の真っ直ぐな目を逸らさず、見つめ返すことが出来た。

 

「そうか……」

 

 それからほんの数秒、葉山先輩は顎に手をやり、少しだけ考える素振りをみせると、スマホをしまうように促してくる。どうやら、信じてくれたようだ、証明の必要はなくなったらしい。

 ふぅ……。

 

「……一つだけ聞かせてもらってもいいかな?」

「なんですか?」

「誰かに決められた道より、自分で選んだ道を歩く方が意味があるとは思わないか?」

 

 そう聞いてくる葉山先輩の顔は真剣そのもの。

 誰かに決められた道……?

 つまり、許嫁なんて馬鹿げてるという事だろうか?

 そう思う事は別に否定しない。

 私だって最初はそう思っていたし、自分がセンパイの事を好きになるなんて夢にも思っていなかった。

 でも……。

 

「どっちに意味があるかとか難しいことはわかりません。でも……きっかけが何であれ、自分で歩くことに変わりはないんじゃないですか?」

 

 そう、結局お爺ちゃんがくれたのはきっかけに過ぎない。

 そもそも、お爺ちゃんの言う通りにしていたら私は海浜総合行きだし、私がセンパイを好きになった事と、お爺ちゃんは関係ない。

 別の形で出会ったとしても、きっと、ううん、絶対に私はセンパイに惹かれていただろう。

 それだけは確信を持って言える。

 ただ、その場合、あの捻デレで面倒くさい人とどうやって接点を持ったのかと問われれば。私の中に良いシチュエーションが思い浮かばないのも本当の所なんだけど……。

 

「……そうか……うん、わかった、さっきの話は撤回しておくよ」

「いいんですか!?」

「元々俺のお節介だからね。これも君が作った“きっかけ”だ」

 

 その言葉で、私はほっと胸をなでおろす。

 私が今やったことは褒められたものではないし、ただの自己満足でしかない、

 でも、何もせずただ指を咥えて見ている事しか出来なかった、なんて後悔はしたくなかったから。

 今はこれで良しとしよう。 

 

「そもそも、比企谷君が彼女が探しているヒーローかどうかもわからないんだ。もしかしたら別人かもしれないからね」

 

 葉山先輩がその場を和まそうと言ったその言葉が本心でないことはスグに理解できた。

 入学式に事故にあう人間はそう何人もいないだろう。

 でも……ヒーロー?

 

「あの……。その人の探し人がセンパイだった場合……その人に恋愛感情があると思いますか?」

「それは俺にはわからないな。少し話をしたいだけかもしれないし、君が想像している通りなのかもしれない」

 

 前者なら。むしろそうであって欲しいと思うし。後者なら今日の事が無駄ではなかったと思うことが出来る。

 結局、本当の所はわからない。

 

「でも本当にそうだとしたら、俺のお節介なんてなくても遅かれ早かれ比企谷君に接触するんじゃないかな?」

「それは……仕方ないと思います。でも目の前で『女の子を紹介する』なんて言われて……はいそうですか、ってただ見ているなんて私には出来無かったので……」

「少なくとも俺の方から余計な口は出さない。それでいいんだろ?」

「はい、それで十分です。よろしくお願いします」

 

 そう、私がしたのはあくまで最低限の牽制。

 ほんの少しセンパイとその人の接触を遅らせただけ。

 もしこの先、センパイがその人に直接会って……仲良くなって……二人の間に私が入る隙がなくなってしまうのが怖いから……。今の私に出来る精一杯の悪あがきをしたにすぎない。

 ああ、なんだか全部終わったと思ったら、自己嫌悪に陥ってきた。

 それも今更か……。いっそここで落ち込むぐらいなら……。 

 

「あの、最後にもう一つだけいいですか?」

 

 話が終わったと油断している葉山先輩にもう一度だけ問いかけると、葉山先輩は「ん?」と首を傾げる。

 

「その……葉山先輩が紹介しようとした女性の事って聞いてもいいですか? 名前とか……」

「それは辞めておくよ……一方的に知られているっていうのは、それこそフェアじゃないだろう?」

 

 葉山先輩は最後のその問いを笑顔のまま、そう言って受け流した。

 良い人かと思ったけど、意外と食えない人なのかもしれない……。

 

「しかし、こんなに思われてる比企谷君は幸せものだな」

「そう……ですかね?」

 

 センパイは私に想われて幸せですか?

 そうだったらいいなぁ……。

 

「それじゃ、そろそろ戻ろうか。俺もこの後予定があるし、君も比企谷君と文化祭回るんだろう?」

「あ、はい、そうですね」

 

 そうだ、急いでセンパイの所に戻らなければ。

 そして……伝えなきゃ。

 今、この熱が冷めないうちに。伝えなきゃいけない事を伝えなきゃいけない人がいるって。 

 もうコレ以上時間をかけていられない。大丈夫、センパイならきっと分かってくれる。

 なんてったって私の許嫁なのだから。

 

*

 

「センパーイ、今どこですか?」

 

 屋上を出てすぐに、私はセンパイに電話をかけた。

 気が付いたら結構時間が経っているけど。

 センパイ、どこにいるんだろう?

 まさか、もう噂の事故の人と会ったりしてないよね? とりあえず急いで合流しちゃおう。

 

「あー、今は特別棟の方にいるが、そっちは? 用事は済んだの?」

「あ、ソッチは無事終わりましたので大丈夫です。えっとここは……葉山先輩、特別棟ってどこですか?」

「特別棟はここだよ」

 

 スマホのマイク部分を手で隠し、屋上の扉を閉めようとしている葉山先輩に現在地を確認すると、そう教えてくれた。

 なるほど、ここが特別棟。来年から通う学校の事だし、しっかり覚えておこう。

 

「ならすぐ合流できそうですね! センパイ今何階ですか?」

「一階の……保健室の横ってか外だけど……え? 葉山……?」

「えっと保健室の……外?」

「それなら、階段を降りてあっち側だね」

 

 階段を降りながらセンパイと話していると、葉山先輩が行き方を指で示してくれる。

 どうやら割と近くにいるようだ。

 良かった、今度は探し回らなくて済みそう。

 

「あ、じゃあすぐ降りていきますね! 待っててください」

「え? あ、ちょっ」

「それじゃ葉山先輩、色々ありがとうございました、失礼します」

「ああ、気をつけてね。来年君が後輩として入ってくるのを楽しみにしてるよ」

 

 私はセンパイとの通話を切ると、そのまま足を止めず葉山先輩に別れを告げる。

 軽く手を上げ、別れを告げる葉山先輩は最後まで爽やかだった。

 

*

 

 センパイと合流した私は、センパイのお友達と少しだけ挨拶をしてから帰宅を告げる。

 お米ちゃんがいないのは少し予想外だったけど、あの子の事だ、きっと余計な気を回したのだろう。でも本当に余計な事なのでスグに呼び戻そう。

 私がいない間の虫除けになってもらわないといけないからね。

 センパイ一人きりだとまた狙われちゃうかもしれないし。まあもう一人変な……もとい個性的なセンパイのお友達もいるみたいだからきっと大丈夫だとは思うけど念の為。

 よし、お米ちゃんからの返事も来たし、これで準備は万端。

 

 あまりにも衝動的すぎるとは自分でも思う。

 でも、ここでのんびり遊んでから行ったんじゃ、お爺ちゃんは納得してくれない気もするから。

 この焦りが消えないうちに。

 私の本気を伝えるならやっぱり今しかない。

 

 待っててくださいねセンパイ!

 例え何時間掛かっても今日中にお爺ちゃんを説得して、必ず来年総武に……ココに通ってみせますから!




これで文化祭編四部作は終了となりますので
今日の活動報告は文化祭編の総括となります(多分)
興味がある方はご一読頂ければ幸いです。

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