感想とか評価もらえたらもちろん嬉しいけど、自分の作品を読んでくれる人がいるって時点でもうほぼほぼ満足
走る。走る。
時刻はとうに日付の変わった深夜。暗い暗い森の中。道と呼ぶにはあまりにも整っていなさすぎる道を。
走る。走る。
着ている服は既に擦りきれたり穴が空いたりとボロボロ。生体パーツの皮膚からは疑似血液が流れる。
機動力特化の外骨格も、ここまで度重なる追手との戦闘でアクチュエーターが破損しワイヤーが切れている。使い物にならない有り様だ。
それでも彼女は走る。走らなくてはいけない理由がある。
微かに後ろから物音がした。反射的に振り返り左右それぞれの手に持った銃。Vz61もそちらに向ける。
誰もいない。獣かなにかだったのだろうか。
とにかく今、ここで敵に追い付かれたらヤバイ。対処が出来ない。
だから一刻も早く。速く。助けを呼びにいかなくてはならない。
交戦している時間も、装備も無ければ弾薬だって余裕が無い。
ここまで来る途中で無線機が壊れてしまったのも手痛く、憎らしい。助けを呼ぶことも救援信号を送ることも出来ない。
だから走るしかない。走って行って直接助けを頼むしかない。
困ったときにはどうすれば良いか。彼女が考えたのは頼れる存在。
真っ先に浮かんだのは一人の男性指揮官。彼を頼ればいい。彼の部隊を頼ればいい。本人も、その仲間もそう言っていた。
「お願いだから、助けてよ・・・・・・ブリッツ」
すがるような、懇願するような。悲壮な顔で彼女。戦術人形Vz61スコーピオンは両足に力を込めて走り続ける。
太陽が上がったばかりの早朝。清々しい青空と心地よいそよ風が吹くS10地区居住区、その外周部を見回る5体の戦術人形。S10地区司令基地の第一部隊に所属するVectorを隊長とした哨戒部隊が、居住区周辺をパトロールしていた。
そのメンバーには新入りの戦術人形であるステアーTMPとUSPコンパクトの姿も。キルハウスやシューティングレンジを使った訓練を繰り返していた彼女たちだが、数日前からいよいよ実践的な任務に参加することとなった。とはいえ、いきなり銃弾飛び交う戦場へ実戦投入は無茶が過ぎるので、まずはこうして哨戒任務を通じて実戦の空気に慣れさせる。
サポートとして第二部隊のCZ-805とAR70もいるため、余程の事がなければ対応できないという事態にはならない。
ちなみにMGの新入り達は現在、LWMMGによってハードな訓練を受けている。
今回は制限時間内に機関銃を担いで特定のポイントへ移動し、射撃体勢に移行するという訓練内容となっている。
シェルター防衛戦の後、S10地区司令基地にはこれといって作戦任務は与えられなかった。
というのも、軍事施設を占拠した鉄血を排除して以来、当地区における鉄血製戦術人形の出没及び目撃情報は殆ど無くなったのが要因だ。
時々情報が上がっても隣のS09地区かS11地区から紛れ込んできた小規模な部隊のみで、脅威として見るには些か不足感の否めないものばかりだ。しかし脅威じゃないからと放っておくわけにも行かない。
そんな感じで、今現在の基地の主な業務は居住区の治安維持。外敵からの防衛、撃滅という、普段の内容から考えれば随分と平穏な日々を送ることとなったわけである。
Vectorがパトロールをピクニックと称するくらいには平穏な毎日なのである。
新入り二人も、出歩くだけでなにも起きない哨戒任務に安堵している。
はじめは緊張し、よく言えばクール。悪く言えば無愛想なVectorと一緒に哨戒するのは怖かった二人。だがVectorから飴を貰ってからは苦手意識も無くなり、任務に集中出来るようになった。
「見回りは敵を探すだけじゃなくて、敵がいた痕跡を探すのも仕事だよ。周囲と一緒に足元にも注意を配って。時々トラップとかあるから」
「ト、トラップがあるんですか!?」
Vectorのアドバイスに新入り二名が肩を震わせて驚き慄く。
それを見たVectorはちょっぴり悪戯心が芽生える。
「あるよ。随分前に、今日みたいに
その時、Vectorの表情に影が差した。どこか悲しげに俯く彼女に、TMPとUSPも悲しそうに表情を暗くしてしまう。
「騒がしいけど勇敢で、仲間思いの人形だったよね」
「惜しい
いつもは明るいCZ-805とAR70も揃って俯き、瞳に涙を滲ませる。
その姿を見て、新入り二人は「きっといい人だったんだろうな」と思い、会ったこともない人形の姿をぼんやりと思い浮かべてせめて安らかにと胸中で祈りを捧げるのだった。
人形はバックアップがあるのだから、厳密には死なないという自律人形の間では常識的な知識も、3人が醸し出す雰囲気に引き込まれてしまって思い付かない。
新入りの初々しい反応に先輩三名は顔を伏せ、ニヤついた笑みを見られないようにするのがやっとだった。
しかしこれ以上は流石に悪い冗談だ。さっさとネタばらしをしよう。
「まあいないって言っても、ただ別の基地に────止まって」
右手の拳を掲げ、Vectorはピタリと止まる。CZ-805もAR70も、ニヤけた笑みを瞬時に引っ込め、警戒態勢に移る。
あっという間に空気が張り詰めていき、USPもTMPも突然の事に状況が飲み込めずに狼狽えるばかりだ。
「どこから」
「11時方向。誰か走ってくる」
CZ-805の問いに即座に答え、Vectorは銃口をその方向に向ける。
指定した方向には森林地帯。
HGの人形であるUSPもそちらを見るが、特になにも見えない。
「見えた。先頭に1名。後方に7名」
「戦ってるみたいですね」
ARの二名も存在に感付く。USPはまだ視認できないが、確かに銃声のような音は微かだが聞き取れた。
TMPも先輩三名に習って銃を構えているが、手が震えてしまっている。それはUSPも同じだ。
訓練の時とは違う緊張感。敵がいるかもしれない恐怖。
そして、ドロップとなってしまった当時の記憶がフラッシュバックする。
頼れる仲間は全員やられてしまった。指揮官からの指示もこなくなった。
残弾も心許なく、鉄血人形に見つからぬようにやり過ごすばかり。戦おうなんて、とても思えなかった。
またあの時のような事になるのでは?今度こそ殺されてしまうのではないか?今すぐ逃げ出したい。何処に逃げる。では戦うか?戦えるのか?その為に訓練してきた。だが上手く出来るのか?
様々な思いが電脳内で交錯し、次第に冷静な思考が出来なくなる。
「大丈夫ですよ」
そっと、頭を撫でられた。
視線を向ければ、穏やかな顔でこちらを見るAR70がいた。
「指揮官は、あなたなら問題なくこの任務をこなせると判断したんです。それに、いざとなったら指揮官が助けに来てくれますから」
「そうだね~。私のときもそうだったし、きっと大丈夫だよ~」
励ましとしては何とも曖昧で、安心できるのかと問われればきっと不安なままだろう。
だけど、言葉を送ってくれた二人に不安は一切ない。大丈夫だと信じているから。
AR70もCZ-805も、きっと自分のような経験があったのだろう。だからこその安心。だからこその信頼。
USPもそれを察したのだろう。不安に揺れていた瞳からは負の色が抜け落ち、真っ直ぐ銃を構えている。それに触発されたというのもあるのだろう。TMPの銃から震えが無くなった。
大丈夫。そんな無根拠な確信が、彼女から震えを消し去った。
「来るよ。
Vectorの一声に反応し、いつでも迎撃出来るよう備える。
次の瞬間、茂みが揺れてすぐに人影が飛び出す。
「ああクソッ!」
飛び出した人影は悪態を吐き捨てると同時に、森に向かって銃を向けている。
距離があるせいか、ハッキリとした正体はわからないが、体躯は小柄であることと薄らと聞こえた声から察するに少女である事は間違いない。
「
「鉄血じゃない。待って」
引き金を引こうとするAR70をVectorは止める。敵かどうかの判別をせずに射殺して、もしも敵じゃなかったら問題だ。人形の解体処分。もしくは初期化。それだけならばまだマシな方だ。
最悪なのは、人形の管理責任者である指揮官のブリッツに累が及ぶ事だ。指揮官としての資格剥奪もあり得る。
そうなったら今の司令基地は消える。それは困る。
だから、
最初に飛び出してきた人影に続いて、更に複数の人影が森から飛び出しくる。
鉄血の戦術人形、リッパーが4体。ヴェスピドが3体。計7体。見慣れた分、今度はハッキリと視認できた。
鉄血に追われているという事は、最初に飛び出した人影は敵である可能性は低い。
これで決まった。
「目標、後方の鉄血兵7体。攻撃開始」
隊長の合図と共に5つの銃口が火を吹いた。
最初に飛び出した少女をすり抜けるようにして無数の弾丸が鉄血兵に降り掛かる。少女は咄嗟に地面に這いつくばるように伏せ、いきなり飛んできた弾丸に当たらぬよう対処する。
リッパーとヴェスピドは予期せぬ攻撃を食らって足が止まる。
その隙に近寄り、更に銃撃を加える。頑丈さが売りの鉄血製戦術人形。やり過ぎるなんて事はない。
やがて少女のすぐ近くまで歩みを進めつつ銃撃は継続。
硝煙と薬莢を撒き散らしながら腕を破壊し、足を破壊し、電脳を破壊し、コアを破壊し。破壊の限りを尽くした蹂躙劇は、7体全てが機能を停止し、倒れ伏せるまで続いた。
耳をつんざく幾重にも折り重なった銃声は一気に鳴りを潜め、今度は水に沈めたような静寂が訪れる。
CZ-805とAR70が倒れている鉄血人形に近付き機能停止を確認。Vectorに親指を立てる。
「周辺に敵影無し。オールクリア。ダメージは無いね。おつかれ」
淡々とタクティカルリロードを行うVectorの発言に、USPとTMPは深く安堵の息をついた。
今すぐにでも座り込みたかったが、そうもいかない。
何せ、最初に現れた少女の正体がまだ分からないのだから。
鉄血に襲われていたからと言って、敵ではないという証明にはならないのだから。
Vectorがハンドサインで新入り二人にその場で動かず、自分の援護をするよう指示。隊長自らが正体不明の少女に銃口を向けながら慎重に近づく。
CZ-805もAR70も頭を覆って倒れ伏している少女に警戒。引き金に指をかけ、あと数百グラム力を加えれば撃てるという状態。
Vectorが一歩一歩近付くにつれて緊張感が増していく。それに対し、とうのVector本人は妙な既視感を覚えていた。
例えるなら、これまで音沙汰のなかった数年ぶりの友人にでも出会ったかのような。そんな曖昧な感覚だ。
近付くにつれて容姿について詳細がわかってくる。
所々で乱れている金髪のツインテールにボロボロの黒いジャケット。穴だらけの左右で長さの違うソックスに泥だらけの赤いバスケットシューズ。極めつけは、彼女が両手に持っている2丁の銃。Vz61。
ここまで情報が揃ったことで、Vectorはこの少女の正体に感付く。
「もしかして・・・・・・サソリ?」
サソリと呼ばれた少女はピクリと反応する。
「その声と呼び方・・・・・・。もしかして・・・・・・ベクター?」
おそるおそる。そしてほんの少しの期待を込めてといった様子で、伏せたまま見上げる。
顔が露になり、互いが互いの顔を認識できるようになる。
「やっぱりサソリだった」
「ああ!やっぱりベクターだ!」
サソリがバッと素早く立ち上がり、押さえきれぬ歓喜と興奮をそのままにVectorに飛び付いた抱き締める。
新入り二人はどういう事なのか理解が及ばず、対してCZ-805とAR70は事態を把握。警戒を解いた。
「久しぶりだね~、スコーピオン」
「CZ!あとナオちゃんも!・・・・・・ってことは、ここってS10地区?」
「そうですよ」
サソリこと、I.O.P社製戦術人形。Vz61スコーピオンの問いに、AR70改めナオちゃんが肯定する。
すると、Vectorを抱き締めるスコーピオンの力が強まる。銃を持ったままなので、ゴツゴツとした固い感触がVectorの背中を刺激する。地味に痛い。
「よかった・・・・・・!よかったよぉ・・・・・・!」
しかし、眼帯で封じられていない右目から溢れる大粒の涙を見てしまったら、いかにVectorといえども文句は言えなかった。
彼女は見るからにボロボロだ。何かあったのはまず間違いない。
「何があったの?」
銃を腰のホルスターに納めて、スコーピオンの背中をさすってやりながらVectorは出来る限り柔らかな口調で問いかける。当の本人以外はいつもと変わらぬように聞こえていたが。
「お願い・・・・・・!みんなを助けて・・・・・・!お願いだから・・・・・・!」
絞り出すように告げられた懇願。どういうことかと再度尋ねようとした次の瞬間には、スコーピオンはVectorに体を預けてスリープモードに入ってしまった。
よほど消耗していたのだろう事が窺える。
Vector含め、その場にいる全員が困惑するばかり。何が起きているのか。どういう状況なのか理解が出来ない。
ただ、あまりよろしくない状況が起きている事は確信出来た。
Vectorは基地へと通信を飛ばす。
「指揮官。こちらVector。哨戒任務中敵と遭遇し排除した。なお同時に戦術人形を一体保護」
『こちら指揮官。了解した。丁重にエスコートしてやれ』
「・・・・・・指揮官。保護した人形はあのスコーピオンだよ」
通信機越しにブリッツが息を飲んだのがわかった。
驚きを隠せないようだ。無理もないだろうし、それはこちらも同じだ。まだ状況を飲み込みきれていないのだから。
『・・・・・・わかった。ともかく、無事に帰ってきてくれ』
「了解。アウト」
通信を終わらせ、背中に回されたスコーピオンの腕を解き、体勢を変える。
スコーピオンの小柄な体を肩に担ぐ。いわゆるファイヤーマンズキャリーと呼ばれる運搬方法。
これならば、背負ったり抱えたりするより効率的に人間を運べる上、片手がフリーになるので万が一の時銃が使える。
「さあ、ピクニックは終わり。急いで帰るよ」
冷静に努めて、Vectorは部隊に撤退命令を下す。それに意見を言う者はいない。
一抹の不安と漠然とした嫌な予感。それを少しでも紛らわすように棒つきキャンディを口に咥えて走り出した。
みんな大好きスコピッピが登場です。ゲームのほうでも彼女には随分お世話になっております。スキン欲しかった(金欠)
そしてコラボイベントが始まりましたね。
ブレイブルーの時もそうだったんですが、自分ヴァルハラについて知らんので「どういうことだってばよ」状態がずっと続いております。完走できるんかコレもうわかんねぇなぁ。
おまけにシナリオ読んでたらタブレットの電池切れました(逆ギレ)
それにしてもこの作品、どこ読んでも硝煙の香りが漂ってるんだよな。ほのぼのとか書きたい(願望)
だれか書き方教えて(切実)