今年初めての投稿なので初投稿です
太陽が沈み、夜の帳が落ちる。
そんな暗闇の中を、五つの人影が息を殺して気配を最小最低限に留めながら、ゆっくりと前進している。
視界には木々が乱雑に立ち並び、伸び放題の鬱蒼とした雑草や茂みのみ。ここは森の中だ。
今夜は新月。月明かりなどない。天体観測には絶好のシチュエーションだろう。
しかし木々の枝についた無数の木の葉が宛ら天井のように広がり、見上げても星空は一切見えない。
そのせいか、視覚的により一層の暗さと閉塞感を醸し出している。
光量不足だけでなく、不規則な並びの木々や茂みが邪魔で死角も多く、遠くまで見通せない。
それだけ隠れる場所もあるという事でもあるが、それは敵も同じこと。どうしてもクリアリングに手間取る。
こういった所で
アンブッシュの場合、見落として背後を取られれば即死に繋がりかねない。文字通り、終わりだ。
『ブリッツ指揮官。もうじき鉄血のジャミングエリアに入ります。注意してください』
「了解」
ナビゲーターから忠告が入る。
スマートグラスによるHUD上に表示された簡易マップには、数メートル先からの地形情報が無い。
ここから暫く、頼れるナビゲーターからのバックアップは期待出来ない。
全くもって、気が滅入る。
だがやらなければならない。
「これよりジャミングエリアに
───────約8時間前。
S10地区司令基地に通信が入った。発信元はグリフィン本部。発信者はヘリアントス上級代行官だ。
ヘリアンは普段から鋭い眼光を更に鋭くさせ、モニター越しにブリッツを見ている。
副官のLWMMGと暇潰しに司令室にいたRFBはヘリアンのいつになく厳しい表情に「あれ、怒ってる?」と、慌てて過去のログを洗いだし該当しそうな情報を幾つかピックアップ。が、そのどれもこれもがヘリアンに関係しない事柄ばかりだった。
ブリッツも同様なのだろう。応答した矢先に飛び込んできたヘリアンの表情から何かあったと察し、藪蛇にならぬよう無言で彼女の次の動きを待つ。
一〇〇式も、「触らぬ神に祟りなし」と言っていた。
軍役時代には、作戦開始の許可が下りるまでの三日間を暗く狭い地下室で待機していた事もある。それに比べれば、この
「あの~ヘリアンさん?何かあったの?」
ほらやっぱり。自称戦術人形一のゲーマーにこの時間は耐えられなかったようだ。
ブリッツは内心でため息をつき、だから他所の基地にいるKSGに勝てないんだぞと心の中で言っておく。
『いや、うむ・・・・・・大した事はない。昨日の夜、ちょっとな』
この瞬間、三人同時に「あ、合コンダメだったんだな」と同じ結論に至った。連敗記録更新が発覚した瞬間である。
いい加減好い人が見付かって欲しいと願うばかりだ。
「任務ですか」
ブリッツが無理矢理空気を変える。途端に司令室内に厳格な雰囲気が満ち始める。
ヘリアンもすぐに切り替え、上司らしい厳格そうな姿勢となる。
『ああ、任務だ』
今回貴官にやってもらいたい任務は、16Labが開発した新装備の
以前より厄介な問題として取り上げられてきた鉄血によるジャミング装置だが、この存在が我がグリフィンの人形部隊の出撃及び展開を妨げ、結果として甚大な損害を被っている。
指揮官であり兵士でもある貴官ならよく分かるだろう。戦場での連絡途絶は、即部隊の壊滅に直結する。
前線にいる人形に安全な位置から指揮官が指示を出す、というグリフィンのやり方では致命的なほどに効果的だ。
そういう意味では、貴官のやり方は合理的かつ効率的ではあるのだが、全員が全員そう出来る訳ではない。
そこで16Labが、前に貴官の部隊が収集した鉄血人形のサンプルを解析し、従来と違う暗号化プロトコルを組み込んだ通信機のプロトタイプを開発した。
鉄血の使う周波帯を使うことで、敵のジャミングの影響を受けずに部隊の展開が出来るという代物らしい。
ただし、あくまでこれは理屈的にはという話だ。上手く行くかという保証もなく、敵と同じ周波帯で傍受されないのかという懸念もある。そのチェックを貴官に確認してもらいたい。
"シェルター"は覚えているな。前に貴官とR09地区のメリー・ウォーカー指揮官が協力して、防衛戦を行った施設だ。
あの施設は今、鉄血に占領され前線基地として利用されている。
貴官の部隊には、鉄血が司令部として使っているこの施設に侵入。そこにあるという機密データを回収してもらいたい。
しかし施設の周囲は鉄血の強力なジャミング装置が設置されており、一度
そこで例の通信機を使って性能を評価してもらいたい。
ハッキリ言って、これはかなり危険な任務だ。
それでも遂行してもらいたい。
『こんな事を頼めるのは貴官しかいない』
苦渋の顔でヘリアンは告げる。
要するにこういうことだ。
「新しい通信機試すついでに敵の拠点一個潰してこい」と、そう言っているのだ。
確かに、新しく開発された兵器や装備を特殊部隊がお試しで使い、性能評価を求めるのはよく聞く話だ。正規軍時代にもそういった事はあった。
ジャミング装置を無効化する装備作ったからジャミング装置のある場所に言って試してくるというのは、まあ納得が出来る。それを確かめ、有効であるならこれほど頼りになる装備は無い。
が、ついでとばかりに敵拠点に侵入しろというのは正直理解がしがたい。おまけに主目標は機密データの回収。性能評価のために遂行する任務ではない。
─────だが、いくら考えたところで下された任務を反故にはできない。
上からの指示だ。兵士はそれに従うしかない
「回収する機密データとやらは、どのような」
『貴官が知る必要はない。とにかく、重要なデータだ』
「それでは任務の遂行に支障が出る恐れがあります。詳細を要求します」
『・・・すまない』
苦虫を噛み潰したようなヘリアンの苦悶の表情に、ブリッツは何も言えなくなる。
おそらく、ヘリアンも機密データとやらの詳細を知らない。もしくは
ヘリアンは上級代行官という肩書きこそもっているが、立場で言えば中間管理だ。それよりも上の人間からの指示。もとい圧力があったのか。
上層部と繋がる
とはいえ、今の自分に出来ることなどない。どう足掻いたところで、今の自分はただの
やるしかない。
「任務了解しました。ただし、準備はこちらに一任して頂きたい」
『ああ、もちろんだ。────これは私の独り言。というより、愚痴だ』
わざとらしいため息を溢し、ヘリアンは視線を外してから"独り言"を語り始める。
『どうやら一部の幹部が、私に対して不満を持っているらしい。経歴不明瞭の若い男性指揮官に地区を一つ担当させるよう手配し、その若い指揮官が公にはされない作戦で功績を上げているのが気に入らんらしい。事実無根のガセを流されては敵わん。この任務も、そんな私や指揮官が気に入らない人間の嫌がらせだろう。失敗すれば指揮官の評価は下がり風当たりが強くなる。私にも責が問われるだろう。頭が痛い話だ。それ以上に腹立たしくもある。内部で足の引っ張り合いに巻き込まれるなんてな。
噂によると、過去にシェルターで
一瞬、ヘリアンの口角が妖しく歪んだのを、ブリッツは見逃さなかった。というよりむしろ、わざとそれを見せつけたようにも見えた。
さらにわざとらしく「おっと」と喋りすぎたとばかりに口元を隠して見せ、これまたわざとらしく咳払いを溢す。
『まあとにかくだ。貴官にはジャミング範囲内での通信機の作動チェック。及びシェルターに侵入し機密データを奪取してくれ』
「了解。しかし、機密データの詳細がわからないとなると、データが複数あった場合選別も必要になります。その際
『ああ、それは仕方ない。今回はデータ奪取が主任務であり、見るなとは言われていない』
「わかりました。準備が出来次第、出撃します。・・・ところで、その新装備とやらはいつ────」
届くのでしょうか?そう尋ねようとした瞬間、外から何かが落ちるような音と微かな衝撃が司令室に響いた。
その反応はすぐにきた。
『指揮官』
「ダネル、何があった」
『たった今飛来してきた
通信機に飛び込んできたダネルNTW-20からの報告に、ブリッツはなんとも形容しがたい怠さを伴った脱力感を覚えた。
「ああなるほど・・・。了解した。それについてはこちらの方で確認が取れている。危険は無いはずだ。コンテナ内の荷物を司令室まで持ってきてくれ」
『了解した。ダミーに持っていかせる。アウト』
通信が終わり、ジロリとヘリアンを見る。
『・・・すまない。これはこちらの管理ミスだ。犯人には私の方から言っておく』
「厳重にお願いします」
『ああ。では、頼んだぞ』
通信が終わり、モニターは元の待機画面に切り替わる。
なんとも締まりが悪いがとりあえず、やることは決まった。気を取り直して、ブリッツはLWMMGに向き直り指示を出す。
「ライト、召集だ。ウージーとティス、そしてワルサーだ」
「了解」
「指揮官!私は~?」
RFBが声を上げる。
おそらく、今回の任務に連れていけと主張しているのだろう。
少し悩んで、そして決める。
「いいだろう。今回はお前にも頑張ってもらう」
「ヤッター!最近出番無かったから張り切っちゃうよ!」
両手をあげて喜ぶRFBに、LWMMGは大丈夫だろうかと不安の眼差しを送った。
────この後、16Labから届いた通信機を司令室に持ってきたメイド姿のダネル(ダミー)に驚かされることになるが、それはまた別の話である。
今回ちょっと無理のある話の切り出し方しててアレかな?って思ったけど強行しました。考えるな感じろ。
ちなみに自分はダネルの水着スキンはあってもメイドスキンは持ってないです。ほしい
それと、各パートの最初に作戦名(そのまま)を明記することにしました。数字だけってなんか寂しいなって・・・
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