これからもお願いします
今回はちょっと難しかった・・・。
16Labから届いた通信機は5機しかなかった。ブリッツたちに回せる機材はこれだけだったようだ。
通信機を二部隊に分配して作戦に当たる。という選択肢もあるにはあった。が、今回は敵地への潜入任務。人数は少ない方がいい。
よって、5つの通信機は今回作戦に当たる5人で持っていくことに。
─────そして現在。予定通りにルートを進行し、部隊は鉄血のジャミングエリア手前まで到達。
「ねえ、これホントに効くの?」
先頭を歩くブリッツの横で、マイクロウージーが提供された通信機であるヘッドセットを煩わしそうに触りながらぼやく。
普段はイヤホンタイプの無線機を使う彼女にしてみれば、ヘッドセットというのは慣れていない分据わりが悪いのだろう。
OTs-12は任務でヘッドセットを着けているし、RFBはFPSゲームでよくボイスチャットでヘッドセットを使っている。ワルサーは特に気にした様子はない。
つまり、今この場で文句を言っているのはウージーだけなのだ。
とはいえ、彼女の言い分も理解できる。
いくら耳障りのいい新装備でも、実際試してみるまでは信用は出来ない。普段は第二部隊でポイントマンを務める彼女だ。得体の知れない装備に命を預けろというのは無理がある。
「大丈夫かどうかの確認をしに来たんだ。いざとなれば何時も通りの通信方法に切り替えればいい。30m以内なら確実に通信出来る」
「新しい通信機の性能評価で敵拠点に侵入しろって、ふざけてるとしか思えないけどね」
WA2000の言に、ブリッツ以外の全員が同意とばかりにため息を溢した。どうにも士気が低い。
しかし、事が始まればすぐにスイッチは入る。それが戦術人形の良いところであり、ブリッツもそう出来るよう彼女たちに訓練を施していた。何も問題はない。
「意思の疎通は済んだな?行くぞ」
ブリッツがいつものHK417を構えながら前進すれば、他の4人もそれに合わせて進む。
ジャミングの有効範囲に入った途端、ブリッツのスマートグラスに投影される様々な情報が少しだけ歪む。スマートグラスは通信機とも連動している。それが
通信以外の使用に問題はない。ないが、少し鬱陶しい。
ヘッドセットにも、耳障りなノイズが混じるようになった。
「全員、通信機を切り替えろ」
通信プロトコルを通常から新しいものへと切り替える。その瞬間、ノイズの走っていたヘッドセットは静寂が訪れ、ARの歪みは治まった。
「通信チェック」
『聞こえてるわ』
『聞こえるよー』
『問題なし』
『良好よ』
WA2000、RFB、ティス、ウージーが順番に応答する。
隊員同士の通信には問題なさそうだ。
「ゲート、聞こえるか。コントロール、応答できるか」
基地のナビゲーターと
対策のしていないナビゲーターはともかく、本部に通信が取れないのはどう言うことか。
こういった装備の性能評価を通達してくるなら、当然本部も同様の対応をとっている筈だ。
「使えるんだか使えないんだか分かんないわね、これじゃあ」
「大した新装備ね」
ブリッツからの呼び掛けに応じないのを見て、ウージーとWA2000は悪態を吐く。司令部との通信途絶は下手をしなくとも部隊壊滅に直結する由々しき事態だ。
このまま作戦を継続するのはハッキリ言って危険だ。だからといって撤退すれば指揮官とヘリアンに何かしらのペナルティがつく。減給や降格で済むならいいが、怪しい行動を取っている幹部連中がいる中での作戦失敗は付け入る隙を与えることになる。一体どうなることか、想像もしたくない。
進むも地獄。退くも地獄だ。
どうしたものか。ブリッツは悩む。
『はい、こちらコントロール』
突然、無線機に女性の気だるげな声色の言葉が飛び込んできた。
それを聞いた全員が集まり、お互いの背中を庇い合うように周囲を警戒する。
「誰だ」
『どうもどうも。私は16Labのペルシカ。あなたが今使ってる通信機の開発者よ』
ペルシカ、という名前にブリッツは聞き覚えがあった。
大分前だが、何かの資料にその名が記載されていた。
「Dr.ペルシカリア。16Labの首席研究員?」
『予習はしているようだね。感心感心。キミの任務をサポートさせてもらうようヘリアンに頼んだのよ。今回はよろしくね、ブリッツ指揮官』
「それはありがたいですが、何故自分に協力を?」
『開発者にとって、現場の意見というのは貴重なんだよ。どうせなら直に聞きたくてね。通信リンクの感度チェックも出来るから、一石二鳥ということよ。それにヘリアンからキミの事は聞いていた。話してみたくてね。どんな人間なのかと』
「・・・そんな面白い人間ではありませんよ。自分は」
『そう自分を無下にするものじゃないわ。あなたは任務に忠実で、信頼に値する兵士だとヘリアンから聞いてる』
複雑に渦巻く心境に、ブリッツは眉を八の字に曲げた。
真っ直ぐ称賛されるのはどうにも慣れない。
返す言葉に迷っていると、通信機の向こうからパンッと高く乾いた音が聞こえた。銃声ではない。仕切り直し、といわんばかりにペルシカが手を叩いたのだろう。
『さて、自己紹介は一旦ここまで。無駄に出来る時間もないし、元より無駄にする気もないわ。シェルターに向かって。そのためのバックアップもつれてきた』
「バックアップ?」
訝しげにしていると、通信機から甲高い電子音が鳴る。どこかと繋がったらしい。
『指揮官。こちらナビゲーターです。通信リンクの構築を確認しました』
「ゲートか?」
『はい。Dr.ペルシカリアの協力で、16Labの通信モジュールを間借りさせていただきました。これでバックアップ出来ます』
「頼もしい限りだ。よろしく頼む」
『はいっ』
『それにしても、キミ凄いモノ使ってるんだね。量子コンピューターを使った戦術支援AIなんてオーパーツ。大戦以前の骨董品だ。どこで手に入れたんだい?』
興味津々、といった風にペルシカが尋ねてくるが、ハッキリ言ってそれほどドラマチックなものは無い。
というよりも、通信リンクを接続しただけでナビゲーターの正体を突き止められた事に驚きだ。
量子コンピューターはペルシカの言った通り、大戦前まで研究開発がされていた代物だ。その後の大戦で用いられた大量の核兵器によるEMPによってほぼ全ての電子機器がダウン。またはロスト。
が、一部はファラデーケージによって機能を損なう事無く稼働を続けていた。
ブリッツの使うナビゲーターも、その一つだったとされている。
理由がハッキリせず仮定なのは、入手経路が強盗集団から押収したものであるからだ。おそらくどこかで入手した量子コンピューターを金銭に変えようとしていたのだろう。その強盗集団も、全てを伝える前に全員死亡してしまった。
ナビゲーターの現状は「とりあえず稼働させてみたら予想以上に使えるから使っている」といういい加減なものだが、それで今の今まで上手くいっていた。性能面は申し分なしということだ。
「それについては追々説明しますよ。今は仕事に集中しましょう」
『ああ、了解』
「では、前進します」
隊列を整え、再度前進。通信機のお陰か、スマートグラスに投影されている
いざとなったらアナログなやり方で進もうと決めていたが、便利な機能が生きているなら活用するのが道理だ。
クリアリングしながら慎重に進むと、やがて建造物が木々の隙間から見えた。シェルターではない。
シェルターへはまだ300メートルほど距離がある。
ということは、可能性は一つしかない。
ゆっくりと気取られぬよう建造物に近付き、それを確認する。
そこは少し開けた場所だった。その中央に長方形の貨物用コンテナの上に、鉄骨で出来た小さい電波塔のようなものが乗っている。イメージとしては、そういった感じだ。
そして、コンテナの側面には「SANGVIS FERRI」の文字にあのロゴマーク。
「報告。鉄血のジャミング施設を発見。見張りも複数」
偶然にも、鉄血が仕掛けた複数あるジャミング装置の一つに辿り着いてしまった。
予定にはない事態だ。そもそも、鉄血のジャミング装置がどこに設置されているのかでさえ、グリフィン本部は把握していなかった。なのでこの作戦では、ジャミング装置の存在は一旦無視して、シェルターに直行する予定だった。
どこにあるかも分からない装置を探して森の中を歩き回るのは、効率的とはとても言えない。そういう任務であるならば話は別だが、その場合装備を見直す必要がある。
装置だけならまだしも、見張りの鉄血兵。ヴェスピドが装置を守るように動いている。数は8。それぞれ二人一組で装置を囲むようにして動いている。厄介だ。
ここはやり過ごすが吉だ。
そこに待ったをかける存在がいた。
『ちょうどいい。ジャミング装置を調べてくれないかな』
『ペルシカリア博士!?』
突拍子もない事を言い出す首席研究員に、ナビゲーターも思わずその名を悲鳴のごとく叫んでしまう。
無理もない。わざわざ冒す必要の無いリスクを背負えと気軽に言ってのけたのだから。ブリッツも、これには眉をひそめた。
「理由を聞いても?」
『ジャミング装置の解析が出来れば無線機の性能を上げられる。今回の任務には、通信機の
「・・・なるほど」
『納得しないでくださいよブリッツ!』
普段は冷静なナビゲーターが声を荒げて抗議する。それだけ非合理的な選択をしようとしている、という事なのだろう。
「いいかゲート。Dr.ペルシカリアの言う通り、俺たちは今回通信機の性能評価を任されている。つまり、
『しかし!』
「3人でやる。RFB、ワルサー。お前たちが仕留めろ。ティスは二人の援護だ。ウージー、俺と来い」
埒が明かない。そう判断したブリッツは指示を出す。彼女たちも思うところはあったが、それを否定する理由もなかった。戦術人形は基本的に指揮官の命令に忠実だ。ブリッツがそう決めたのならば、それを遂行する。
全員が「了解」と告げ、配置につく。
見付からぬよう姿勢を低く、木や茂みに身を潜め、ヴェスピドの横顔が見える位置に陣取る。
「合図したら撃て」
HK417を構える。サプレッサーが装着された銃口を辺りを見ながら歩くヴェスピドに向ける。RFBもWA2000も、同様に構え何時でも撃てるようスタンバイ。
ブリッツの背後にはウージーが、万一の為に何時でも飛び出せるよう銃を構えている。
OTs-12も、RFBの傍に付き援護できるよう構えている。
『準備よし』
『同じく』
RFBとWA2000が告げる。何時でもいいぞと言わんばかりにその声は冷たく、残酷だった。
「────撃て」
3つの銃口から弾丸が飛び出した。
強力な弾丸はヴェスピドの頭部に命中。電脳を破壊した。
隣を歩くペアも同様に撃ち抜く。
間髪入れず、残りの2体に照準を合わせる。
攻撃を受けたことにすぐに気付き、ヴェスピドは撃たれた仲間を一瞥する。が、その一瞬が命取りであった。
残りを狙えるのはブリッツだけだ。研ぎ澄まされた感覚は体感時間の経過を遅らせ、自分以外の全てがスローモーションに見える。ホロサイトのレティクルは即座にヴェスピドの側頭部を捉え、即座に発砲。7.62mm弾が電脳に致命的損傷を負わせる。
その隣にいるヴェスピドも同様。例外無しだ。残り2体も同じ末路を辿る。
8体全てが、ほぼ同時に機能停止。救援要請を行う事はおろか、敵を認識する間も無く地に倒れ伏した。
2秒足らずの出来事であった。
「敵ダウン」
冷酷に告げる。それを合図にして、全員が木の影や茂みから身を乗りだし、クリアリングしながら鉄血のジャミング装置の前に集結する。
「
『お見事。惚れ惚れするくらいスマートな制圧だったわ』
ブリッツのスマートグラスに仕込んだカメラから、今の攻撃を見ていたのだろう。ペルシカが拍手しながら称賛する。ナビゲーターは、「ああもう良かった・・・」と安堵の声を溢している。
しかし、それらを全く意に介さずブリッツは装置の操作パネルを繁々と見る。
「ドクター、見えてますか?」
『お陰さまでね。なるほど、そういう感じか』
「ドクター?」
『うん、もう十分。どうやって稼働してるのかわかった。多分今止めると、シェルターにいる鉄血に気付かれる。このまま放置した方がいいわ。コレ、シェルターからの電力供給で動いてるから』
「了解。では引き続きシェルターに向かい前進します」
通信を終える。
全員銃を構え直し、周囲を警戒しながら前進を再開。
この先の、目標のシェルターに到着する。
初登場ペルシカさんです。(声のみ)
個人的にはこのキャラ使いづらい・・・
あとお気付きでしょうが本作品の指揮官はグリフィンの人間としてはそこそこ強いですが、全体で見れば単なるモブ指揮官ですので原作主要キャラとの絡みは現状ヘリアンとカリーナ以外にはいない状態です。
なのでこの任務が終わったらペルシカさん次以降出てくるかわかりませんし、クルーガー社長なんて名前しか出ない可能性もあるわけで。
この指揮官、縦横の繋がりがほとんどない。誰か助けてあげて
執筆のモチベーション維持にも繋がりますので感想お願いします!
読者の反応が見たいんじゃ