S10地区司令基地作戦記録   作:[SPEC]

39 / 110
大体こんな感じでブリッツはドロップ人形を仲間に引き込んでるって話


6-5

 

ヘリがS10地区司令基地に到着する頃には、夜が明けて朝になっていた。

朝陽を浴びながら、ヘリは基地屋上のヘリポートに着陸した。ハッチを開けて、ブリッツはヘリから地上へと降り立った。

 

「おかえりなさい!指揮官!」

 

ヘリポートにて出迎えてくれたのは、基地に待機していた人形たち。それらを代表して、SV-98が敬礼と共にブリッツに声をかけた。ヘリの駆動音にも負けずに張り上げた声はブリッツだけでなく、その後ろの人形にもハッキリと聞こえた。

他の人形たちも、同時に敬礼してくれた。ブリッツ自身が任務に赴き、そして基地に帰投する度に見られるS10基地特有の光景だ。

 

ブリッツ自身、こうして部下たちが出迎えてくれる度に安堵し暖かい気持ちになり、無事に生きて帰れた事を実感する。

 

「ああ、今戻った。みんなも出迎えありがとう。SV、彼女たちをメンテナンスルームへ。その後宿舎に案内し、休ませてやってくれ」

 

「わかりました!任せてください!」

 

満面の笑みで了承してくれたSV-98に「ありがとう」とだけ告げて、ブリッツは同行した人形を引き連れて基地内部へと足を進める。

 

その様子を、S07地区の部隊は唖然とした顔で見ていた。

どうにも見慣れない光景ばかりだった。完全武装した指揮官に、それを出迎える戦術人形。しかも、出迎えた人形全員が命令や義務からではなく嬉々として、自らが進んでそうしている。

 

ふと、自分の指揮官と比較する。彼はどうだったろうかと。

彼は自ら戦わないし、帰投した部隊をヘリポートで出迎えるような事もしない。労う事もしなかった。

グリフィンの指揮官としては優秀だったが、それでもS10の人形たちのように慕う気にはなれなかった。

こうしてS10基地に救出されたのも、元を辿ればあの指揮官の無謀な指示のせいなのだから。

 

もしシェルターの奪還を自分たちの指揮官ではなくブリッツがしていたら。そんな"たられば"を思考してしまう。

 

案内を頼まれたSV-98に声を掛けられるまでの間、S07部隊の全員が少しずつ小さくなる男の背中と、その背中に着いていく人形たちの後ろ姿を終始見つめていた。

 

──────────────────

────────────

────────

─────

───

 

「────以上で口頭での報告を終わります。正式な報告書は明日中に」

 

帰投から2時間後のS10基地司令室にて、武装を解除しグリフィンの正装に身を包んだブリッツが、メインモニターに映し出されたヘリアントスへ口頭での任務終了報告(デブリーフィング)を告げた。副官のLWMMGも、その場に同席している。

 

報告を聞いたヘリアンは一つ頷いてから口を開いた。

 

『了解した。任務ご苦労だった。報告書は明日で無くとも良い。貴官も疲れているだろう。それに、提出するデータの洗いだしにも時間が掛かるだろうしな』

 

「お心遣い、感謝します」

 

『うむ。では、通信を終了する』

 

ブツリと、通信が終了する。ブリッツも、小さく息をつく。

しかし休んでいる時間はない。保護したS07地区の人形とも至急話し合う必要がある。

LWMMGも引き連れて、司令室を後にする。向かう先は所属する人形たちの居住区画である宿舎だ。

 

S10基地の宿舎には、今回のような戦闘捜索救難(CSAR)などで保護した人形の為の部屋が幾つか設けられている。

短期間であれば不自由を感じさせない程度には、ソファーやテーブル、ラジオに少し古いテレビゲームやミュージックプレイヤーといった家具家電が揃っている。

ちなみにこれらの家具は全て所属する人形が、使わなくなったものを寄贈という形で持ち込んだものだ。

 

さて、そうこうしている内にそんな部屋の前に到着した。

礼儀として扉の前に立ち、すぐそばのインターホンのボタンを押す。部屋の内部は防音仕様だ。こうでもしなければ部屋の中にいる人形は来訪者の存在に気が付かない。通路にはカメラも用意されており、誰が来たか一発でわかるようになっている。

ドアも電子ロックだ。基地の制御を握っているナビゲーターなら簡単に開けられるが、流石に強制的に部屋に入ろうとは思わない。

 

来訪に気づいた誰かが電子ロックを解除、ドアを開けてくれた。

出てきてくれたのはSG人形のSPAS-12だ。メンテナンスを受けた後にシャワールームを使ったのか、ほのかに石鹸の良い香りが漂ってきた。

 

「スパス12だな。部屋はどうだ。不自由してないか」

 

「ブリッツ指揮官!いえ、実に快適に過ごさせていただいてます!」

 

ビシリと、そんな効果音が聞こえてきそうな程に見事な敬礼を、SPAS-12は見せてくれた。

その表情には若干ながら緊張の色が窺える。今日来たばかりで勝手もわからないのだ。肩の力が解れるのに、もう少しばかり時間が必要なのだろう。

 

「そう固くならないでくれ。実は君たちに話したい事がある。中に入ってもいいか」

 

「はい!どうぞ!」

 

少々ぎこちないながらもブリッツとLWMMGを迎え入れる。

I.O.Pのカタログの説明や社内報で伝えられてきた情報から、もっとおおらかな性格の人形というイメージであったが、周囲の環境の違いでそういう性格に変わってしまったのだろうか。という疑問をブリッツとLWMMGは抱きながらも部屋へと入る。

 

部屋の中は白を基調とした明るく清潔な印象を与えており、そこにイメージを壊さない程度に色とりどりのソファーやテーブルが配置されている。

 

しかし、そのソファーに座るS07地区の人形たち、Mk23、XM8、SIG-510、MG34の様子は、実に沈鬱なものであった。

出迎えてくれたSPAS-12以外は俯いたままだ。XM8に至ってはソファーの上で体育座りをして、膝に顔を埋めている。

まるでこれから解体処分を宣告される。もしくは宣告されたかのような雰囲気だ。

 

────しかしある意味で、その例えは正しいのかもしれない。

とはいえ、ブリッツも指揮官という立場である以上、伝えることは伝えなくてはならない。

 

わざとらしい咳払いを一つして、ブリッツは告げる。

 

「先程、君たちの指揮官に連絡を取った。貴方の部下の身柄を保護した、そちらに送り届けるので受け入れの準備をしてくれと」

 

彼女たちの体が小さく、弱々しく震えた。視線こそ合わせてはくれないが、話は聞いてくれているようだ。

だから一息に、ブリッツはS07の指揮官に言われた事をそのまま伝える。

 

「『ろくに任務を遂行出来ない人形はいらない。そちらで処分してくれ』。それが、S07の指揮官の返答だった」

 

それは残酷な。あまりに残酷な宣告であった。ただ言われた事を伝えただけのブリッツも、その相棒のLWMMGも胸が締め付けられるように辛い。

では言われた人形たちは?言うまでもない。

すぐそばに立っているSPAS-12を見れば、どれほど鈍感な人間でも察しがつく。

両手を握りしめ、涙を堪えている彼女を見れば。

 

「ふざけんな・・・!使うだけ使っていらなくなったら捨てるのか・・・!私たちは最初から捨て駒だったのかよ・・・!」

 

XM8が恨みがましく呟く。他の人形たちは何も言わず、ただ座して沈黙を保っているが、おそらくは彼女と同じ心境だろう。

 

ブリッツが察するにS07指揮官は、彼女たちが敵と刺し違える形となってでもシェルターを奪還するよう動いている節があった。

メンテナンスをさせる際に抽出したメモリーに保存されていた通信ログを読むに、ともかくシェルターまで突っ込むよう指示していた。鉄血からの十字放火に曝されてもなお、その指示を出し続けている。

 

このような状況であっても指示を固持し続けた理由。おそらくは敵の消耗が狙いだろう。

ある程度彼女たちが敵戦力を削って、その後で本命がシェルターに向かって進行。本命は最小限の消耗で目標を確保できる。あくまで、もしブリッツがS07の指揮官であったらという予想であって、本当にそうなのかは分からないが。

ただ先のS07の発言から考えれば、そう見当違いでもないだろう。XM8が言う通り、彼女たちは捨て駒にされていた。

 

 

戦術人形は、人間の代わりに戦場に立って戦う存在であり、現代の戦場における主力は戦術人形だ。

彼女たちは兵士であり、兵器であり、武器であり、人間ではない。

バックアップと資源があれば、いくらでも使える消耗品。使い捨て出来る戦力。残酷な話だが、それが人間側から見た戦術人形の価値だ。

 

では戦術人形は?それを良しとしているのか。

否である。彼女たちにも擬似的とはいえ感情がある。喜怒哀楽を表現できる存在だ。

 

現にこうして、S07の彼女たちは絶望感に打ちひしがれている。

 

「終わりたくない・・・終わりたくないよ」

 

嗚咽混じりのMk23の声。それは彼女たちの総意。彼女たちの意思。

 

「終わらせない。お前たちを、このまま終わらせやしない」

 

その意思に応えるのが、指揮官であるブリッツの務めだ。

 

「俺たちは兵士だ。任務を遂行し、使命を全うする存在だ」

 

俯いていた顔が、引き寄せられるように上がっていく。

 

「お前たちは兵士だ。遂行する任務は俺が与えよう。全うすべき使命は俺が授けよう。後悔はさせない。俺と共に戦ってくれ」

 

そう語るブリッツ(指揮官)の青い瞳はどこまでも真っ直ぐで、引き込まれそうな程に澄んでいて。それでいて力強い意思を秘めていた。

指揮官として人形を使役する人間としてではなく、戦場に赴く兵士として。

 

「敢えて君たちに問おう。今君たちには二つの選択肢がある。一つは回収分解してI.O.Pに返却されるか。それとも、兵士としてここで戦うか。強制はしない。君たちの意思を、君たちの決断を、俺は尊重する」

 

その問いの答えは決まっていたが、即答はしなかった。誰が言うでもなく全員が立ち上がり、全員がブリッツとLWMMGの二人と向き合うように整列する。

そして、一斉に敬礼してみせた。

 

「本日より、我々はS10地区司令基地の指揮下に入ります。私たちは貴方に従い、貴方と共に戦います。任務を与えてください、ブリッツ指揮官」

 

代表して、SPAS-12が宣誓する。そこに異論を唱える者はおらず、全員が真っ直ぐにブリッツを見ていた。

その意思に、その決断に、ブリッツは少しだけ顔を綻ばせ、答礼する。LWMMGも、いつもは着崩している赤いジャケットを整えた。

 

「ありがとう。S10基地は君たちの着任を歓迎する。今は感謝と束の間の休息くらいしか与えられないが、遠くない内に君たちには任務を与えよう。約束する」

 

話が一段落ついた所で、ブリッツとLWMMGの通信機に信号が入る。ナビゲーターからだった。

耳に装着されたインカムに手を当てて、通信を聞く。

 

「・・・了解した。すぐに行く」

 

通信を終えて、改めて新たな戦友たちに向き直る。

 

「すまない、急用が入ってしまった。正式な辞令や歓迎会はまた後日、改めて行おう」

 

言って、ブリッツとLWMMGは踵を返して部屋を出る。それからまっすぐ、司令室に向かう。

 

「ゲート、さっきの通信は本当か?」

 

『はい、指揮官。回収したデータの中に入っていたビデオログに、決定的な場面がありました。身元もわかっています』

 

「了解した。また忙しくなるな」

 

『いつも通り、ですよ』

 

「そうだな。退屈しない職場で何よりだ。─────さあ、仕事に取りかかろう」

 

グリフィンの制服である赤いコートを脱いで肩に担ぎ、ブリッツは早足で通路を進んでいく。

その顔からは、残酷で冷徹なまでに感情の色が抜け落ちており、これから彼が行う所業の程が如何なるものかを如実に物語っていた。

 

 

 

 

 

 




次回で色々解決させる予定です。色々風呂敷広げちゃった感あるけど、ま大丈夫やろ(慢心)
誰が言ったか武闘派復讐者が、まっとうな手段で問題を解決させるわけがないんだよなぁ

それはさておき、とりあえず欠片と作戦報告書とコアは着々と溜まってきてるんでドルフロ運営はLWMMGのメンタルアップグレードを早く実装してくれよな~頼むよ~


モチベーション維持のために感想と評価をおねがいします何でもしますから!
要望あったらこっちにもコメントください:https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=230528&uid=262411

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。