S10地区司令基地作戦記録   作:[SPEC]

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ワイの基地にAK-12とAN-94がやってきましたが、この作品の登場予定はありません(無情)


7-4

 

基地から上がる火の手と黒煙。吹雪のせいで視界が利かず詳細が分からないが、少なくともよろしくない被害は被っている事は明らかであった。

 

「AR小隊!応答しろ!」

 

通信機越しに呼び掛けてみるが、耳障りなノイズが返ってくるだけで反応はない。

 

ブリッツの焦燥は募るばかりだ。

まさか鉄血が、基地そのものを囮にするなんて考えもしなかった。それは本部もAR小隊も同様だろう。

 

何とも間抜けな話だ。

ブリッツは内心で愚痴る。現場に立っていた自分がその可能性に真っ先に気付けなかった。

今目の前に30分ほど前の自分がいたならば、その顔面を満身の力を込めて殴り付けているだろう。それほどの失態だ。

 

そこへ、モーターの駆動音のような物々しい騒音が、吹雪の風音に混じって聞こえてきた。

 

咄嗟にジュピターへ視線を向ければ案の定。主砲がブリッツの方へと旋回している。この至近距離でコイルガンは有り得ない。

あるとしたら、同軸の20mm機関砲。

 

こんな至近距離で20mmなんて喰らえば一溜まりもない。

 

「チッ!」

 

舌打ちを飛ばし、すぐにHK417を向ける。アンダーバレルに装着したM320の40mm榴弾を、20mm機関砲の砲口が自身に向けられるより早く発射。

爆発の衝撃で機関砲の砲身は折れ曲がり歪み、使えなくなった。これで現状のジュピターに攻撃能力は無くなった。

 

しかし安心は出来ない。ブリッツの足元や近くの木々に青緑色の光弾が着弾する。明らかに鉄血製DEWによる攻撃だ。

被弾するより前にジュピターの陰に飛び込む。これの装甲なら暫くはもつ。

 

方向は斜面の下。つまり麓方向からの銃撃。敵はヴェスピド。数は多数で横一列。退路を絶たれた形だ。

 

おそらくは囮にした基地を中心に円を描き、少しずつその円を縮めていく布陣。確実に敵を追い込み仕留めようという腹積もりなのだろう。ブリッツは、その途中で見付けた障害。当然道すがら排除しようとする。

 

その証左がこの銃撃だ。鉄血兵はジュピターが使い物にならなくなったと見るや、お構い無しに攻撃してきている。

 

されど、気持ちは落ち着いていく。銃火に曝されながらも、頭の中は冷たく冴えてくる。

今自分はどうしたらいいか。それが分かってくる。

 

一つ、深呼吸する。

 

「各員状況報告」

 

『やっと連絡寄越したわね!こっちは今どっかから現れた鉄血の相手してる真っ最中よ!』

 

真っ先に応答したのはFALだった。こちら同様敵と交戦中のようだ。

 

「こちらも今鉄血から攻撃を受けてる。悪いがそっちに戻るのは時間がかかりそうだ」

 

『ならそっちに行くから、ブリッツはそれまで待ってて』

 

LWMMGが落ち着き払った口調で告げる。戦術人形が使うプロトコルによる通信故に銃撃音は聞こえないが、今ごろ迫り来る鉄血兵相手にノルママグナム弾の嵐を浴びせているのだろう。

頼りになる相棒の存在に自然と口許が緩むが、すぐに真一文字に引き締める。

M320に新たな榴弾を装填し、マガジンを交換。まだ中に残っているが、中途半端な弾数よりも30発キッチリ入っている方が都合がいい。

 

ECWCSの懐から代用タバコとオイルライターを取り出す。タバコを一本口に咥え、火を着ける。オイルライターは寒冷地での使用に難はあるが、今回は懐で暖めていたため問題なく使用できた。

 

ブリッツは普段タバコを吸わないが、今回は特別だ。紫煙を燻らせるタバコを左手の人差し指と中指で挟んで持ち、着火のために吸い込んだ煙を吐き出す。

口内に代用タバコ特有の不愉快な苦みが広がるが、別に味を楽しむ事が今の目的ではない。

 

これは狼煙だ。

 

交戦開始(エンゲージ)

 

銃撃を続けるヴェスピドに見えるように、タバコを弾くようにして捨てる。

吹雪によってポイ捨てされたタバコはブリッツの元からどんどん離れていく。その熱と赤外線をヴェスピドの視覚センサーが捉え、射線がタバコの方へと逸れていく。

この吹雪で視界状況は最悪。となれば赤外線センサーを使った暗視装置のような視覚モードを使うはず。そこへ小さいとはいえ熱源が現れた。数瞬だが意識はそっちに向く。

 

その数瞬を、ブリッツは見逃さない。隠れていたジュピターから身をのり出しHK417を向けて発砲。マグネティックで敵を視界に収め、ホロサイトで狙いをつけて7.62mm弾を食らわせる。

胴体のコアから上へ正中線をなぞるようにバースト射撃。そうすると、効率的にコアと電脳を破壊できる。上手く行けば、銃撃戦の最中であってもダブルタップで一体倒せる。

 

そういった所は、人間兵士と変わらない。

効率的な銃殺が出来るよう、ブリッツは訓練と実戦を繰り返してきた。それこそ、少年兵であった第三次大戦の時から。

戦術人形の烙印システム(ASST)程ではないが、ブリッツもこのHK417A2との長い付き合いの中で。それこそ四肢の延長とも言える位には習熟している。今自分がどこを狙い、どこに当たるのか。それが感覚的に把握出来ている。

 

拡張弾倉に入っていた30発の弾丸全て撃ち切り再度ジュピターに身を隠す。スコアは1マガジンで10体。悪くはない。

だがそこに追加でリッパーが切り込んできた。ヴェスピドの後ろに控えていたのだろう。

すぐに空になったマガジンを引き抜いて、新しいマガジンを叩き込みチャージングハンドルを引く。

 

曲がりなりにも軍用人形として採用されていた鉄血製戦術人形。このような雪の斜面を駆け上がるという場面であっても、その機動力にはあまり影響はないらしい。スパイクでも用意しているのだろう。

 

遮蔽物に身を隠したまま、ブリッツはHK417だけを敵に向け、M320を発射。丁度リッパーの足元に着弾し爆発。数体ほど巻き添えを食らって止まった。トドメとして7.62mm弾を撃ち込む。

 

────ブリッツがリッパーの対応に意識が向いている最中、逆サイドから回り込んだヴェスピドとリッパーが奇襲を掛けようと息を潜めていた。

 

鉄血兵同士の通信ネットワークを駆使して連携を取り、多数のリッパーに意識を集中させ、少数かがら空きの側面に攻撃を加える。それで終わる。

 

味方機から合図が来た。

逆サイドから飛び出しブリッツに照準を合わせる。

 

が、それよりも早くブリッツのMP7が火を吹き、リッパーとヴェスピドの電脳とコアを撃ち抜いた。

 

「見えてるぞ、マヌケ」

 

意識を一方に向けさせておき、その隙に側面から攻撃する。よくある手だ。これで仲間をやられた事もある。

一対多なのだ。警戒しない訳がない。

息を潜めていたようだが、スマートグラスのマグネティックとサラウンドインジケーターによって存在は感知できていた。これまで使っていた旧式から、今回はバージョンアップを果たした新しいスマートグラスに変えたおかげで、周囲の敵の動きがより把握しやすくなった。

後でペルシカリア、ないし16Labに礼を兼ねたレポートを提出することを決めた。

 

とはいえ、現状は多勢に無勢。古来より戦いは数で決まることが多い。特に、戦場に戦術人形が登場してから、それはより顕著になった。

いくらブリッツが手練れであっても、いずれは押し潰されてしまうのは明白であった。

 

だが彼は一人ではない。

ブリッツに迫ってきていた敵集団の側面を、突如として無数の弾丸が飛来し撃ち抜かれた。

 

幾重にも折り重なった重厚な銃声を響かせて、LWMMGとM249を先頭に部隊はやってきた。

 

鉄血の陣形が崩れる。そこを見逃さず、ブリッツも援護射撃。二方向からなる弾幕は、瞬く間に鉄血兵を打倒していき、遂には殲滅に至った。

辺りから銃声は無くなり、吹雪の風音のみが聞こえるだけだ。

 

「お待たせ、ブリッツ」

 

「全くだぞ、ライト。もう少しでイジメられるところだ」

 

「よく言うよ」

 

ブリッツと無事合流を果たし、指揮官と副官による軽口の叩き合いを交わす。

 

「もう、勝手にどっかに行かないでほしいわね」

 

「ホントだよ指揮官!」

 

FALが呆れた口調でぼやき、RFBが唇を尖らせ頬を膨らませ、いかにも怒ってますと言わんばかりに声を荒げる。

他の人形たちも似たり寄ったりで、Vectorに至ってはジトリと睨むようにブリッツを見ていた。

 

確かに軽率で勝手な行動だ。指揮官としてあるまじきことだ。

 

「すまないな、みんな」

 

「まあいいわ。それで?これからどうするの?」

 

肩を竦めて、FALが問う。まだ任務は終わっていない。

ブリッツの中で、答えは決まっている。

 

「俺たちの今回の任務はAR小隊の支援だ。彼女たちを無事に基地へ送り届けるまで、任務を遂行したとは言えない。そして、こうなったのは指揮官である俺の落ち度でもある。落とした分は結果で取り戻す」

 

「ということはつまり」

 

「救援に向かう。今から敵前線基地に突入しAR小隊と合流。敵の包囲網を突破する」

 

「それはいいけど、敵さん一杯いるところに突っ込む気?それこそ無茶だと思うんだけど」

 

M249が指摘する。まさにその通りであり、今の鉄血はここより上の敵前線基地を包囲しようと展開している。その一端である部隊はたった今殲滅したが、それでも相当数の敵が基地に集結しているだろう。

数で負けている以上このまま突っ込んでも跳ね返される。

 

ブリッツは考える。何か策はないか。使えるものはないか。周囲を見渡す。

 

真っ先に目に入ったのは、すぐ傍に設置されているジュピターだ。20mm機関砲を潰され、近距離にいる敵に対してなにも出来ないジュピターはただ佇んでいる。主砲であるコイルガンをブリッツ達に向けてこそいるが、安全距離設定のせいで撃つに撃てず沈黙している。

しかし動力炉に問題はないのだろう。先ほどから稼働音が聞こえる。

ブリッツはジュピターを見上げながら考え、口を開いた。

 

「コレ使うか」

 

「は?」

 

皆が皆、素っ頓狂な声を上げて呆気に取られた。

そんな部下たちを横目に、ブリッツは一人行動を始めている。

 

「ゲート。出来るか?」

 

『ドラグーンのように、上手くいく保証はありませんよ?』

 

「構わない。やってみてくれ。使えないなら他に考える」

 

『了解しました』

 

PDAをジュピターの動力炉付近に翳す。端末からは断続的に甲高い電子音が鳴り響く。

 

やがて、ジュピターの動力炉は稼働を停止するが、すぐに再稼働を始めた。

 

『行けましたよ指揮官』

 

頼りになりすぎるナビゲーターからの一言に、これでよしと小さくブリッツが呟き、LWMMGらに向き直る。

 

「さあ諸君、ペイバックだ」

 

 





戦争してるんだから敵の兵器を鹵獲するのは当たり前だよなぁ?
じゃけん利用しましょうね~。

長い割りには話進まなくてすまんな。ゆるして


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