みんなありがとう!
U02地区からS10地区基地へ帰投した頃には、辺りはすっかり暗くなり夜の帳が降りていた。
隊長のM4A1以外のAR小隊メンバーは一先ず、予備宿舎に案内し休息を取らせている。
そのM4はブリッツに連れられ、ヘリアンに報告するために司令室へと連行された。
「─────以上が、作戦区域で起きた一部始終になります」
『・・・・・・了解した』
戦闘服からグリフィンの赤黒い制服に着替えたブリッツの報告を聞いていたヘリアンの表情は、モニター越しでも分かる程、終始厳しい物であった。
それもそうだろう。過程はともかく、結果だけ見れば今回の作戦は失敗だ。
こちらの任務はAR小隊の支援だが、それはAR小隊が作戦を遂行出来るよう手助けする事であり、AR小隊の作戦失敗はブリッツたちの任務も失敗である事を示している。
失敗の責を問われても仕方無い。
「こちらの勝手な判断でAR小隊を撤退させてしまい、申し訳ありません」
『いや、それはいい。責があるとすれば
「はい。彼と彼の部隊が来てくれなければ、私達は間違いなく全滅してました。今こうして、ヘリアンさんに報告する事も出来なかったでしょう」
『そういう事だ、ブリッツ指揮官。貴官はよくやってくれた』
ブリッツは目を伏せた。
どれほどフォローされたとしても、彼にしてみればあの任務は失敗である事に変わりはない。
しかし、だとしても
「恐縮です」
受け入れるしかない。そして、次に繋げるしかない。
『明後日までに正式な報告書を提出してくれ』
「了解しました」
『話は以上だ。通信を終了する』
モニターからヘリアンの姿が消え、通信が切れる。そっと一つ息をつき、無意識に入れていた力を抜く。
「あの、ブリッツ指揮官」
おずおずといった具合に、横に立っているM4A1がブリッツに声を掛ける。
「まだきちんと感謝を伝えていませんでしたよね。今回は、助けていただきありがとうございました」
深く頭を下げる。見た目は18歳そこそこの、まだあどけなさが残る少女が良い歳した男に頭を下げられると言うのは、どうにもむず痒さがある。
「礼を言う必要はない。それが俺が受けた任務だからな。むしろ、頭を下げるのはこちらの方だ」
「そんな事は・・・!」
顔を上げて、両手を振って慌てふためいた様子で、M4A1は次に繋げる言葉をどうにか紡ごうとしている。
予め本部より提供されていたM4A1のデータについて、ブリッツもある程度は確認している。
物静かで優柔不断。およそ部隊を率いる隊長としては些か不適格な性格を持つとされているが、ともに戦場を駆け抜けた身としては、もう少し別の印象も受けていた。
指揮の全てを見てはいないが、少なくとも見えている範囲では隊長らしい面も多く見られた。判断も迷ってはいないし、特に最後のSOPⅡにグレネード弾発射の指示は良かった。
そして何よりメンバーの事を考えて行動していた。
隊長としての責任感はあると見受けられるだけの働きは見せてくれた。
ただ、今の姿からはそんな隊長らしい様子は見られないが。まさに、年相応の少女といった態度だ。
「この話は終わった。さあ、君たちの仲間のもとへ行こう」
「あの、その前に、もう一つだけ良いですか?」
M4A1から先までのあどけなさが消え失せ、兵士の顔付きに変わる。
「なんだ?」
「今回の鉄血、動きがやけに統一されていると思いませんか?」
言われて、思い返してみる。確かに、最初は最低限の兵力のみ展開して静観を決め込み、AR小隊が目標を制圧したタイミングで基地ごとジュピターに砲撃。その直後に中隊規模の敵部隊が展開。AR小隊を包囲した。
鉄血兵の行動パターンは基本的に効率重視。戦術も戦略も、数に物を言わせて作戦目標に突っ込むというものだ。
だがしかし、その行動パターンにも例外が表れる事がある。
「あの場にハイエンドモデルがいたと?」
「その可能性があります」
「待ち伏せし、敵を追い込み、自分にとって優位な状況を確保する。ああ、そういうことを得意としているヤツには心当たりがある」
そう。ブリッツには心当たりがある。もしも本当に鉄血のハイエンドモデルがいたとして、そういう戦法を取る存在を、彼は知っている。
「ハンター・・・!」
爪が皮膚にめり込み、血が滲み出るほどに強く拳を握る。それは、彼の心の底に沈んでいる憎悪がそのまま表出しているようで、目の前に立つM4A1はブリッツから発せられるドス黒い空気に気圧される。
「ヤツは・・・ヤツだけは・・・!俺がこの手で、必ず殺してやる・・・!」
自分に言われた訳でもないのに、M4A1は動けずにいた。
どうにかしなければ、という思考はあっても具体的にどうするかの思考が出来ない。
こういう時、上官であるヘリアンの一言でもあればどうにかなったかもしれないが、すでに通信を終えてしまっている。再度通信を入れたくとも、体が動いてくれない。
正確には、目の前に立つブリッツという存在を、M4A1の電脳は脅威として判断。警戒態勢に入っていた。
警戒対象から目を離すことは自殺行為だ。腰のホルスターに収めているサイドアームの
しかし、こちらから攻勢を仕掛けることも出来なかった。メンタルモデルがブリッツという指揮官に対して、攻撃しないようプロテクトを働かせているからだ。
結果、M4A1は動けなかった。
ただ目前の脅威に備える事しか出来ない。
「コラ」
そんな時だった。いつの間にかブリッツの背後にいた人形、LWMMGが持っていたタブレット端末で彼の頭を軽く叩いた。
「何してるの?お客さんの前でみっともない姿見せないでよ」
「ライト・・・?」
呆れた、と言いたげにLWMMGは深くため息をついた。
まるでいつもの事、といった風の彼女のおかげで、重く張り詰めていた空気が緩んでいく。M4A1の電脳も、ブリッツが脅威対象でなくなったことを感知してくれた。握っていたガバメントのグリップから手を離す事ができた。
「・・・すまない。醜態を晒してしまったな」
「あ、いえ、お気になさらず・・・」
「全くもう」
申し訳なさから頭を下げるブリッツに、お返しとばかりに頭を下げるM4A1。その様子を見てまたため息を溢すLWMMG。
司令室になんとも形容しがたい、微妙な空気が漂い始める。
「それより、宿舎で問題発生よ。Px4とM2HBがAR小隊のいる部屋に大量のアルコール類を持ち込んだせいで宴会状態になってる。すでにウージーとワルサー、AR小隊はAR-15とRO635が重傷よ」
「え・・・」
さっとM4A1の顔が青ざめる。嫌な予感しかしないのだろう。ブリッツもそれは察していた。
「
「私もいきます!こうなったのも隊長である私にも責任が・・・!」
「最悪、鎮圧行動も視野に入れないとね。ブリッツ、良い?」
「許可する」
覚悟を決め、戦場と変わらぬ顔つきで、三名は修羅場へ。否、地獄へと歩を進ませる。
そうして到着した予備宿舎の部屋。
ドアを開ければ、そこには阿鼻叫喚の地獄絵図が出来上がっていた。
M16とM2HBが肩を組んで笑い声を上げ。
OTs-12とRFBはそれを囃し立て。
床にはAR-15とWA2000が並んで倒れ伏し。
UziとRO635はテーブルに突っ伏し。
RFBはSOPⅡと対戦出来るレトロゲームで盛り上がり。
後は好き勝手に飲んだり食べたり騒いだりと、それはそれはえらい有り様であった。
「総員、任務開始」
─────完全鎮圧には1時間を要した。
グリフィンの戦術人形から脅威判定される人間の指揮官がいるらしいっすよ。
こいつ絶対いつか問題起こすぜ(モブ指揮官並感)
メンテ明けでデイリー消化ついでに製造回したらPA-15がいきなりやって来て「は?(困惑)」ってなった。
さあ次はP90だ・・・。皆一緒に地獄へ行こうぜ