S10地区司令基地作戦記録   作:[SPEC]

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3月23日をもって、この作品が掲載開始一周年を迎えました。早いっすねぇ!
ここまで続けてこられたのも、皆さんの暖かい声援と高評価のおかげでございます。

これからもよろしくお願いしますm(_ _)m


8-3

 

 

────現在1315時。状況は静かに。しかし着実に動いていた。

ブリーフィングにてポイントアルファ、ブラボー、チャーリーと定めていた鉄血の防衛拠点。

鬱蒼と生い茂る草木に紛れるようにして建造されたその場所は、上空からの目とGPSによる誘導が無ければきっと辿り着けないような立地であった。

この拠点に繋がる道は、生産工場からの一本しかない。工場を通らず、陸路で直接向かうには些か厳しい。

 

拠点も拠点で、鉄血兵が常時在中。中央の対空レーダーを囲んで守るように複数のヴェスピドとプロウラーが外を彷徨いている。

その近くにもプレハブの倉庫らしき建物があり、そこに大量の鉄血兵が待機していると予想されている。

対空レーダーの重要度とプレハブ倉庫の大きさから見て、拠点一つにつき配備されている鉄血兵の規模は一個小隊は下らないと想定されている。

 

「こちらアルファ。配置に着いたわ」

 

攻略目標アルファを任されたWA2000は、木に登って枝に座った状態でライフルを構えたまま、通信機に告げる。

スコープには暢気に(なのかはわからないが)歩いているヴェスピドの横顔を捉えている。あとはトリガーを引けばあの頭を吹っ飛ばせられる。

S10基地第四部隊、USPコンパクト、ステアーTMP、T65、M249SAW、Px4ストームを引き連れてアルファを制圧する役目だ。各員配置につき、USPはWA2000の傍におり、TMPとT65、M249とPx4がそれぞれでツーマンセルを組んでいる。

 

『こちらブラボー。いつでも』

 

ブラボーを任されたSV-98も続いて報告。こちらは第五部隊、Mk23、SPAS-12、SIG-510、XM8、MG34を引き連れている。

こちらもSV-98にMk23がつき、スパスとMG34、SIG-510とXM8でツーマンセル。

 

『えっと、こちらチャーリー。準備できました!』

 

最後にS11基地のステンMk-IIが代表して通信を入れる。その声色からは緊張が窺える。

メンバーはAR人形のG3とガリル、FAMAS。RF人形のM14に、ステンMk-IIが入る。

 

『強襲部隊より各隊。こちらも配置に着いた。ジュピターがよく見える』

 

通信機から男性の声が聞こえた。

S10部隊からは聞き馴染み、S11部隊からすれば不安の対象である男の声だ。戦術人形の部隊の中で唯一の人間であるS10基地指揮官のブリッツだ。

 

『あ、あの・・・気を付けてくださいね』

 

ステンが不安そうにブリッツに忠告した。

WA2000は思わず吹き出しそうになった。彼女だけじゃない、すぐ傍のUSPも別の場所にいるSV-98も。言ってしまえばS10所属の人形は、ステンの忠告に吹き出しそうになっていた。

 

それもそうだった。彼は人間で、指揮官で、現代の戦場において一番足手まといになりかねない存在だ。すっかり忘れていた。

 

だが、今この場。この戦場においては、彼は一番頼りになる兵士である。彼がいる限り、敗北はあり得ない。

電脳が、メンタルモデルが、それを確信している。

 

『忠告、痛み入る。気を付けるとしよう』

 

そんなこちらの心境を知ってか知らずか、ブリッツがステンにそう返した。笑わなかった自分を褒めてやりたい。

 

『そんな現場指揮官から、作戦開始前に言っておきたい事がある』

 

厳かな声色で、ブリッツは告げる。

自然と、その声を正確に聞き取ろうと全員押し黙った。

 

『一部の人間や人形は、今から戦闘を開始すると思っているが、俺はそうは思わない。戦闘とはつまり殺し合いの事を指すのだが、俺たちは殺し合いをしない』

 

一拍溜める。

 

『これから行うのは戦闘ではない。一方的な殺しだ。己の()をもって片端から殺し、片端から潰し、片端から壊し、片端から粉砕し蹂躙しろ。一切の容赦も慈悲も無く虐殺しろ。

そして奴らに教えてやれ、俺たちはやつらにとっての脅威そのものであると。抗う事など敵わぬ脅威であると。・・・・・では諸君─────』

 

WA2000は、口角がつり上がる感覚を覚えた。彼女だけではない。S10部隊の全員が、同じ感覚を持っていた。きっと彼も同じ気持ちなのだろう。何故なら彼は自分達の指揮官だから。その指揮官の人形だから。

彼の口から告げられるであろう"その瞬間を"待ち望んでいる。

 

『─────強襲開始だ』

 

瞬間。WA2000はトリガーを引いた。

重い銃声と共に放たれた銃弾は、吸い込まれるようにしてヴェスピドの左側頭部を射抜き、電脳を破壊した。

機能停止して倒れるヴェスピドに気付いた近くの別個体にはコアへ一発撃ち込む。地面に膝を着いて動きが止まったタイミングでトドメのヘッドショット。

 

同時に、隠れていたT65とTMPが飛び出し発砲。火蓋を切ったWA2000のおおよその位置を掴んでいた他の鉄血兵からしてみれば、明後日の方向からやってきたT65とTMPに不意を突かれた形となる。

狙撃に対処しようと動けばT65とTMPによる銃撃に見舞われ。だからと二人へ反撃を試みようとすればWA2000の正確な狙撃を受ける。結果、鉄血兵はコアと電脳を確実に破壊される。

銃声に気付いたプレハブ倉庫で待機していた他鉄血兵が、正面のシャッターをぶち抜いて外へと躍り出る。

 

それと向かい合う形で、狙撃と同時に飛び出し待ち構えていたM249と、高い防弾性能を有する金属製のライオットシールドを持ってM249を守るPx4の二名と視線を交差させる。

 

「いらっしゃい」

 

気だるげな声と共にM249(MINIMI)が金切り声を上げた。

ガード。リッパー。ヴェスピド。プロウラー。スカウト。ぞろぞろと出てきた有象無象は5.56mmAPHE弾の餌食と成り果てた。

200連装のボックスマガジンが空になる頃には、倉庫から飛び出してきた鉄血兵の殆どは沈黙。仕留め損なった残り少数をPx4のハンドガンで黙らせる。

その隙にボックスマガジンを交換し、M249も周辺の敵を探しだし仕留めていく。

 

時間にして2分足らず。

想定した通りに現れた敵一個小隊はまともな反撃一つも出来ず沈黙した。

 

最後に、TMPがコートの下からC4爆薬を取り出し対空レーダーに設置。安全な距離を取ってから爆破。レーダーとしての機能が消失した。

 

「こちらアルファ。制圧完了」

 

『こちらブラボー。こちらも完了』

 

WA2000に次いで、SV-98からも報告が上がる。彼女たちに関しては特に心配もしていなかった為、「まあそんなもんよね」程度にしかWA2000は思っていなかった。

 

むしろ心配なのはチャーリーだ。

下に見るわけではないが、他の基地の他の部隊というのは実力が分かりづらくて、つい不安に思ってしまう。

S11基地の指揮官が新米で、戦力がそこまで纏まっていないというのも、不安をあおる要因となっている。

 

『こちらチャーリー』

 

その時、妙に聞き覚えのある声が通信機に飛び込んできた。

この声はS10基地のOTs-12だ。

 

『こっちも制圧完了。ただステンMk-IIとガリルが負傷しちゃった』

 

『あーもう、やってもうたわ・・・』

 

『うう・・・ごめんなさい』

 

OTs-12の報告に続いて、ガリルの悔しげな声とステンの申し訳なさそうな声が通信機越しに聞こえてきた。一先ずは大丈夫そうだ。

なぜチャーリーにOTs-12がいるのか、という疑問はあるが。おそらくはブリッツの指示でもあったのだろう。

事実、ブリッツはその事に言及せず「ティス、よくやった」とだけ告げていた。

 

『秘密兵器として、期待通りだったでしょ』

 

何となく、胸を張って鼻を鳴らすOTs-12の姿が目に浮かんだ。

 

ともかく、ポイントチャーリーは制圧出来た。これで、次に行ける。

 

『スレイプニル、出番だ』

 

『その言葉を待ってた』

 

遠くからヘリコプターの駆動音が響き、徐々に大きくなっていく。近付いてきている。

S10基地が保有しているガンシップの駆動音だ。

 

同時に、通信機からリヒャルト・ワーグナーのワルキューレの騎行が大音量で流れてくる。

ガンシップのパイロット、スレイプニルのお気に入りナンバーだ。

 

そのガンシップは木々の上を滑るかのように、接触するギリギリの超低高度でジュピター目掛けて高速で接近していく。レーダーは破壊したが、万が一破壊し損ねた。もしくはこちらが把握していない場所にレーダーがあった場合に備えての行為。

 

ガンシップの存在に気付いたジュピターがプログラムのフローチャートに従って、接近中の敵に砲口を向け赤外線による照準を行う。が、ガンシップに搭載された強力な赤外線ジャマーがそれを阻害する。

正確な照準が出来ない以上、ジュピターに砲撃は出来ない。

 

『喰らいな木偶の坊』

 

ヘリのハードポイントにぶら下がったロケット弾を発射。19発撃てる内の6発を放ち、その全てがジュピターの砲身や土台を破壊。可動部位であるジョイント部分が損傷したことで、巨大な砲身は耳障りな金属の断末魔と共に地に落ちた。

 

それを、工場の正門付近で待機していた強襲部隊のブリッツは視認した。

 

Bullseye(命中確認)。いい腕だスレイプニル」

 

『これは俺の奢りだ。ぶちかましてこいブリッツ!』

 

激励を残し、役目を終えたガンシップがUターンして基地へと帰っていく。彼はこの後補給担当のヘリの護衛に当たる。

ここから先は地上部隊。歩兵の出番だ。

 

「強襲部隊よりS11基地司令部(コントロール)。今から工場を制圧に向かう」

 

『コントロール、了解しました。ブリッツ指揮官、御武運を』

 

応答してくれたジェリコの声色からは、緊張感はあっても不安はなかった。

頼もしい限りだ。司令部がドンと構えてくれると、矢面に立つ側としても不安は和らぐ。

 

「全員、装備チェック」

 

静かに厳かにブリッツが告げ、自身が持っているHK417の安全装置を解除しチャージングハンドルを引く。

チャンバーに弾丸が送り込まれた感触を感じとる。

 

「チェック」

「チェック」

「チェック」

 

他の人形も、それに倣って次々にハンドルを引く。

LWMMGが。FALが。RFBが。一〇〇式が。Vectorが。AR70が。CZ-805が。MICRO Uziが。

装備のチェックが終わる。準備完了だ。

 

「では兵士諸君。殺しにいくぞ」

 

強襲部隊。総勢9名が、獰猛な笑みを携えて、一斉に敵生産工場へ向けて地を蹴り駆け出した。

 






さあ、鉄血解体ショーの始まりや。
ドッタンバッタン大騒ぎな感じにしたいなぁ(願望)


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