S10地区司令基地作戦記録   作:[SPEC]

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勢いで書いた。
所々でおかしいかもしれないけどお兄さんゆるして


8-7

 

 

近くの部屋から飛び出してきたリッパーのコアを刺し貫く。

天井のダクトから飛び出したブルートの首を斬り飛ばす。

浮遊し攻撃を仕掛けようとしたスカウトを縦に真っ二つにする。

 

これら全て、一分足らずの間に行われた一〇〇式の所業である。

ブリッツの指示で補給地点まで一時後退の最中。それまで鳴りを潜めていた鉄血兵が、突如として一〇〇式たちに猛威を奮い始めた。

 

それら全て。一切合切を一〇〇式は叩き伏せた。

一騎当千。活潑潑地といった活躍。

 

────しかし、一〇〇式のメンタルモデルにあるのは"焦り"であった。

 

ストックヤードに到達したブリッツからの通信を一〇〇式も聞いていた。そして何と出会したかも。

 

支援がいる。しかし思うように進めない。

1メートル進む毎に敵が現れる。歩くよりは速いが、走るより遅い。

もし敵がいなかったなら、彼女の機動力をもってすれば5分と掛からずストックヤードへ辿り着ける。補給物資を回収しても、10分掛かるかどうか。

 

敵がそれを分かっているかは知らないが、足止めを目的として動いているのは間違いない。

 

「ああもう!次から次へと!鬱陶しい!」

 

一〇〇式の後ろに着いているFALが、後方から迫り来る鉄血人形の群れに向かって銃撃しながら叫ぶ。RFBもそれに合わせて的確に電脳とコアを撃ち抜いている。それでも、倒す数よりも増える数。倒す時間よりも増える時間の方が早いため敵の数が一向に減らない。すでに通路には数多の鉄血兵が物言わぬ鉄屑が倒れ伏し、壁や床、天井にベッタリと人工血液とオイルが撒き散らされている。機関短銃も、ペンキをぶっかけたように敵の人工血液によって赤黒く変色している。どれだけの数を屠ってきたのかが一目で分かる。

 

もう数えるのも面倒になるほど倒してきた。しかし進んだ距離は倒した敵の数と全く釣り合わない。

 

「どけぇっ!」

 

至近距離で8mm南部弾をコアへ叩き込み、機能停止したリッパーを蹴飛ばす。

前方にいる何体かを巻き込んで倒れたが、その後ろにはまだまだ敵が控えている。

 

「うあぁぁぁっ!!」

 

負けてたまるものか。自らを鼓舞するように一〇〇式は叫び、敵の集団に向かって吶喊した。

 

 


 

 

鉄血工造製無人四脚歩行戦車マンティコアは、正規軍で配備されていた同様の無人四脚歩行戦車ヒュドラの劣化版(デッドコピー)である。

 

高度な戦術AIを搭載してはおらず、ただただ有効範囲内で接敵したターゲットを主砲の高出力DEWで攻撃するだけの単純なもの。

だが劣化版とはいえ、その戦闘能力は侮れない。

 

本家本元のヒュドラと比較すれば装甲は薄いが、機動力はその巨躯に見合わず高い。無誘導式とはいえ、初速の高い無反動砲を発射されてから避けるといった身軽さを持ち、多脚故にあらゆる地形に対する走破性も高い。

主砲である高出力DEWも、旧世代の装甲車程度なら容易くスクラップに出来る威力を誇る。人形でもまともに食らえば一発で大破だ。

 

歩兵が戦うには些か荷が重すぎる相手である。

ましてや、個人で携行できる程度の銃火器しかない歩兵3人では、尚更に。

 

「────撃てぇ!」

 

そんな怪物と呼ぶに相応しいマンティコアと正面から対峙しているブリッツは、有らん限りの声量でもって叫び、HK417のトリガーを引いた。合わせて、LWMMGもVectorも銃撃を開始。

 

同時に、マンティコアの左右の前脚が、まるでピーカーブー(いないいないバア)でもするかのように閉じた。マンティコアの前脚には分厚い装甲が施されている。頑丈なだけでなく、曲面形状でもあるため小銃程度なら簡単に弾いてしまう。

 

そんな例に漏れず、Vectorの45ACP弾とブリッツの7.62mmAPHE弾は表面に傷をつけるだけで全て弾かれた。唯一、LWMMGの8.6mm口径の.338ノルママグナム弾は深く抉るように装甲にダメージを与えていた。それでも貫通には至らず、LWMMGは憎らしげに小さく舌打ちを溢す。

 

ならばと、ブリッツはすぐにHK417のアンダーバレルに装着されたM320グレネードランチャーで攻撃する。40mmグレネード弾ならば、あの装甲にも大ダメージを与えられる。

 

しかし、マンティコアはグレネードが直撃する直前。左前後の脚部ダンパーが作動し硬いコンクリートの地面を蹴飛ばし、水面を飛ぶように移動するアメンボよろしくスライド移動。耳障りな金属の摩擦音と火花を掻き鳴らし、ブリッツたちの近くにうず高く積み上がったパレットラックやコンテナの山をその巨体で弾き飛ばし、崩してから止まる。

 

「退避!」

 

ブリッツが叫び、降りかかるパレットラックやコンテナから逃げる。カラとはいえ金属で出来たコンテナだ。人間や人形など簡単にペシャンコにされる。その内の一つであるコンテナが、ブリッツの目の前に落ちてきた。後1メートル前にいたら、今ごろただの肉塊に成り果てていただろう。

 

重量感のある音と振動がストックヤード全体に響き渡り、埃を巻き上げ煙幕のように周囲を飲み込んだ。

 

「ライト!Vector!」

 

痛む鼓膜に顔をしかめながら、ブリッツは声を張り上げ安否確認。目の前に転がり落ちたコンテナを遮蔽物として背を預ける。

 

「大丈夫よ!」

「問題ない!」

 

LWMMGとVectorがすぐに応答する。

落下物と巻き上がった埃のせいで姿は見えないが無事を確認出来た。しかし安心する間をマンティコアは与えてくれない。

ブリッツの声に反応してか、マンティコアが主砲である高出力DEWを連射。背を預けていたコンテナに直撃し火花を散らす。

 

「クソ、厄介だな」

 

悪態を吐き捨てながら、HK417の弾倉を交換し、M320に榴弾を装填。そうやって頭の中を冷静にさせて、考えを纏める。

 

以前S10地区の廃棄された軍事施設で遭遇したマンティコアは、周囲に障害物や味方の随伴兵がいたから思いきった動きもなく、一方的に銃撃を浴びせられた。

S09地区での"子守り"の際に遭遇した複数のマンティコアは、市街地という限られたスペースの中にあの巨体が複数犇めいていたからまともな回避行動も取れなかった。だからLWMMGの制圧射撃が効果的に作用した。

 

だが今は違う。広いストックヤードはマンティコアが単機で動き回るには十分だ。ましてや敵は少数。武器だって十分とは言えない。コンテナといった重量物も、今のように弾き飛ばしてしまえばいい。

装甲も硬く、攻撃が通りにくい。

おまけに、あのマンティコアはどうやら戦術AIも比較的優秀らしい。咄嗟の防御や回避が出来る辺り、これまでのマンティコアの戦闘データをインプットされている可能性まである。

 

条件が悪すぎる。かなり危険な状況だ。

だからといって、逃げることは出来ない。逃がしてはくれない。

 

やるしかない。

 

懐からタバコとオイルライターを取り出す。

口に咥え、火を着ける。一息で半分程燃えて灰になる。肺に溜めた紫煙を吐き出す。

 

覚悟は決まっている。

 

It's showtime.(おっ始めるぜ)

 

スマートグラスの視覚モードをノーマルからマグネティックに切り替える。埃や粉塵で視界が奪われていても、マグネティックなら関係なく視野を確保出来る。

コンテナと埃の煙幕の向こう側に、DEWを連射しているマンティコアの姿を捉える。距離にして20メートル。

 

しっかりとこちらにセンサーが向いている事を確認し、ブリッツは咥えていたタバコを明後日の方向へと投げ捨てた。

マンティコアの赤外線センサーがタバコの熱を感知。射撃を継続したままに主砲が宙を飛んでいるタバコへと向いた。

 

Come get some.(かかってきな)

 

コンテナから身を出してHK417をフルオート射撃。不意を突いた形で、今度は脚部の装甲に邪魔されずボディに7.62mmAPHE弾が命中し、火花が散る。強い反動を制御し技量だけで高い集弾性を発揮する。おかげでほぼ正面に弾痕が集中し、マンティコアの巨体が揺らいだ。

 

追撃とばかりにマンティコアの右側面に銃撃を浴び、たじろぐように巨体が揺れた。LWMMGがいつのまにか回り込んでいたのだ。

 

マンティコアの持つ装甲は確かに堅牢ではあるが、胴体部分の外郭自体はそれほど厚くはない。弾丸の種類によっては小銃でも抜ける。しかし黙って撃たれ続けるほどこのマンティコアはバカではない。またあのアメンボを彷彿とさせる高速移動で銃撃を逃れ、クルリとドリフトさせるように主砲をLWMMGに向ける。現時点で最も脅威であるとして最優先目標として認定されたのだ。

 

高出力DEWがLWMMGに向けて放たれる。それを近くのコンテナに隠れることで何とかやり過ごす。

 

「────こっちだよ」

 

静かに、底冷えするほど冷たい声をマンティコアの音響センサーが捉えた。次の瞬間、今度は左側面が高熱に曝された。AIに熱害による警告が流れる。

 

Vectorの焼夷手榴弾だ。マンティコアのボディに燃焼剤が降りかかり、直接炎によるダメージが蓄積されていく。

それを振り払おうとマンティコアはその場でグルグルと回る。まるで苦悶に喘ぎのたうち回るように。

 

それを見たブリッツがコンテナから飛び出し吶喊する。進行方向上に散乱したパレットやコンテナをかわし、乗り越え踏み越え、未だに衰えることなく燃え続ける左側面に向けてM320のトリガーを引いた。

今のマンティコアのAIに、榴弾をかわすだけの思考リソースは残っていない。呆気ないほど容易く40mmグレネード弾は命中し炸裂。

 

爆発によって炎は吹き飛ぶが、外殻も一緒に破壊した。本来ならば外装によって隠されている内部が見える。

おまけに、今の爆発の衝撃でAIが一時的にフリーズしたようで、四肢の一つも全く動くことなく静止している。

 

ブリッツとVectorが並んで立ちタクティカルリロード。穴の空いた側面に照準を合わせる。右側面にはLWMMGが既にスタンバイ。

 

3人は同時に銃撃を開始。

7.62mm弾と45ACP弾が露出した内部に直接命中。グシャグシャに破壊していく。

.338ノルママグナム弾は外郭を容易く貫き内部を蹂躙していく。

やがて機関部が稼働不可能なほど破壊し尽くされ、あれほど力強く胴体を支えていた脚部から出力が失せ、巨体は地に伏せた。

 

だがまだだ。

空になった弾倉を捨て新しい弾倉を機関部に叩き込み、ブリッツはマンティコアと正面から向き合う。そして、各種センサーが収められているヘッドパーツに向けて、HK417を至近距離で撃ち込んでいく。

 

原型を失うほど完全に破壊し尽くし、弾倉が空になってようやく止まる。

 

Yippee ki-yay.(ざまあみろ)

 

悪態混じりに吐き捨てて、ブリッツはHK417の銃口を下ろした。

 

「ふぅ・・・こちらブリッツ。マンティコアを撃破。全員無事だ」

 

『えーっと・・・こちらコントロール、了解・・・。たった3人でマンティコアを破壊するとは・・・』

 

通信機越しのジェリコが信じられないと言いたげに応答する。

 

「流石にヒヤリとしたがな。何とかなるものだな。引き続き、探索し破壊工作を行う。オーバー」

 

報告を終え、HK417をリロードし背中へと収める。今の戦闘でもう予備弾倉がなくなった。今装填したのはタクティカルリロードした際の残り物だ。あと10発も入っていない。

なのでメインアームをMP7、サイドアームをMK23として切り替える。

 

「最高の殺しだったね」

 

もう動かなくなったマンティコアを背に、Vectorが満足げに告げた。

ブリッツもLWMMGも、それに反応してつい吹き出して笑った。

 

しかしまだ安心は出来ない。談笑しているようでも警戒は解かない。

隣接する第二ストックヤードへと移る。

 

ここに敵はいなかった。ただし、こちらには様々な物資が保管されていた。

 

鉄血兵が使う指向性エネルギー兵器。

軍用のプラスチック爆薬。

そして、人形の補修用部品か。腕や足といったパーツが頑丈そうなケースに収納されている。それも大量に。

 

どうやら、ここは生産工場としてだけでなく、出撃した鉄血兵の修復施設も兼ねていたようだ。

もしS11基地がこの工場を見つけられずに結果放置されていたとしたら、どうなっていたことだろうか。

 

態勢を整え次第、居住区に侵攻していたかもしれない。その前にS11基地を襲い、居住区の防衛態勢に亀裂を与えていたかもしれない。

その余波は隣であるS10地区やS12地区にも及んでいた可能性もある。偶然とはいえ、早期に発見できて幸いであった。

 

探索もそこそこに、Vectorは周辺の柱に爆薬を設置し始める。

今は敵がいなくとも、いつ出てくるか分かったものじゃない。またマンティコアが出てきても面倒だ。さっさとやることやって撤収したい。というのがVectorの本音であった。

 

それはブリッツとしても同感でもあった。HK417がまともに使えない現状、もう一度あの戦闘を出来るかどうかと問われれば、まず間違いなく不可能であることは確定的であったからだ。

 

「ブリッツ」

 

Vectorと一緒に爆薬をセットしようとした矢先。不意に、LWMMGに声をかけられる。見れば、少し離れた場所に立っていた。そのすぐ近くにはこれまた頑丈そうなドアがある。

 

「どうした」

 

「こっち来て」

 

言って、彼女がドアを開け放ち部屋の中を見せる。

近付いて部屋の中を見れば、ブリッツは息を呑んだ。

 

部屋の中には、黒く巨大な砲弾が大量に整然と並んでいた。

 

直径だけで1メートル近く、全長は130cm前後。

すぐに見当がついた。

これはジュピターに使われる砲弾だと。

 

近くにはベルトコンベアがある。きっと、ここに設置されていたジュピターへと送り込み、使用するための砲弾であったのだろう。

この砲弾全てがいつでも使える状態であるとするならば、えらい事だ。

ここにある砲弾全てが爆発すれば、この工場丸ごと吹っ飛びかねない。

 

────これを利用しない手はない。

 

すぐに近くの砲弾に爆薬を設置。念の為にもう一ヶ所設置し、確実に爆破できるよう図る。

 

部屋を出てすぐに通信を入れる。

 

「ブリッツより各員へ。爆薬の設置が完了。残り10分で爆破するようセットした。至急離脱せよ」

 

『こちらUzi、了解よ。FALたちと合流したから、一緒に脱出する』

 

「了解した。敵残党の抵抗があるかもしれない。最後まで用心しろ」

 

『当たり前でしょ。じゃあ、後で』

 

通信を終えて、ブリッツたちもすぐに移動を開始。ストックヤードを突っ切って、地上階へと繋がる階段を駆け上がる。

その時通信が入る。相手はどうやらナビゲーターのようだ。

 

『ブリッツ指揮官。急いでください』

 

「どうしたゲート」

 

『大量の鉄血兵が工場に向かって進行中。あと8分です』

 

「了解した。こちらは後7分で外に出られる。他の部隊はどうした」

 

『すでに撤退済みです。正面広場にヘリが待機しています。急いで』

 

「遅れたことはない」

 

通信が終わると同時に階段を上がりきる。地上階まで上がってこれた。

通路に飛び出したところでリッパー2体と遭遇。即座にブリッツはMP7でコアを破壊し排除。蹴飛ばしながら通路を駆け抜けていく。

曲がり角を抜けると、ブルートがナイフを持って待ち構えていた。ナイフを振るうが逆にブリッツに奪われ頭部に刺し貫かれる。

 

その近くにいたヴェスピド2体をVectorが瞬く間に射殺する。

 

爆発まで残り1分を切ったところでエントランスを抜けて広場へと到着。すでにFALたちが周辺を警戒しながら待機していた。

 

「ブリッツ!早く乗って!」

 

FALが叫び、他の人形も声をあげて急かしてくる。本当に時間がないのだろう。全員ヘリの機内へと飛び込むようにして乗り込み、シートベルトの装着確認もせずにヘリは上昇開始。床に押し付けられるような上昇感を覚えながら外を見る。

 

地上には騒ぎを聞き付けた増援部隊がヘリに向かって銃撃をしてくるが、すでに有効射程範囲を離れている。墜落される恐れはないだろう。

 

次いで工場を見た。

 

『3。2。1』

 

ナビゲーターがカウントダウンを始めた。

 

『ゼロ』

 

瞬間。工場全体にオレンジ色の閃光が上がる。

先までヘリが着陸していた広場も、地下空間の爆発によって下から突き上げるようにして地面が盛り上がり、やがてそこも閃光が上がった。

派手に大気を揺らし、轟音をがなり立て、上空を旋回しているヘリをも揺らすほどのエネルギーをもってして、工場は先までの形を失い完全に崩壊した。

 

「工場の破壊を確認。任務完了だ。帰投しよう」

 

ブリッツの宣言に、ヘリの機内に歓声が上がった。

 

「帰り道を探そう。銃弾は一回につき一発だ」

 

お決まりの台詞も言ったところで、改めてヘリはS11基地へと進路を取った。

 

 

 





なんか呆気なかったかな~と思いつつも、自分の頭では現状あれ以上の描写が出来ないのでゆるして。あれでも3日は考えて考えてようやく捻り出したんや・・・
あんまりダラダラやるような場面でもないから、ま多少はね?

前回「ボチボチ一旦締めようかな~」なんて言いましたが、せめて10は行きたいのでもうちょっとだけ続くんじゃ。

しかし次どうするか決めてないんだよなぁ。どうするかな~

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