S10地区司令基地作戦記録   作:[SPEC]

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最近ガスガンにハマってしまったので、今自宅にシューティングレンジ作ってます


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ベレゾヴィッチ・クルーガー。

民間軍事会社グリフィン&クルーガーの設立者であり社長。

 

ロシア内務省系の退役軍人。

 

第三次世界大戦が停戦した2年後の2053年にグリフィンを設立。

 

当初は人間の部隊を戦力の中核としていたが、戦術人形の有用性、将来性を見越して運用を開始。

現在の「人間の指揮官+戦術人形の部隊」の指揮システムを確立。

 

I.O.P社とも業務提携を結び、様々なサービスを受けられるよう取り計らう。

 

その経営手腕によって、今やグリフィンは並みいるPMCの中でも頭一つ抜け出した大手として世間に認識されるまで成長した。

 

ブリッツが認識しているのはそれくらいだ。

 

「こうして面と向かって会うのは初めてだな。ブリッツ指揮官」

 

「はっ。このようにお目にかかれた事を光栄に思います」

 

「世辞はいい。その軍人めいた口調もな。ここはPMCであって正規軍ではないぞ。ブランク軍曹」

 

クルーガーの言に、ブリッツは僅かながら目を見開く。

かつての名前とかつての階級を告げられた事の驚きが、ブリッツの胸中をにわかにざわつかせる。

 

「ご存知のようですね」

 

「俺も元々は軍人だ。それなりに顔が利く」

 

言って、クルーガーはオフィスデスクの上に分厚い紙の束を放るようにして置いた。

話の流れからして、ブリッツに関する資料であろうことは容易に想像がついた。

 

「軍内部のアドバーサリー部隊、第74特殊戦術機動実行中隊。その中でも最強と謳われたデルタチームに所属。部隊教導の傍ら様々な作戦任務を遂行する。近接格闘(CQC)近接戦闘(CQB)といった白兵戦から、中距離の銃撃戦、選抜射手(マークスマン)などなど、様々な戦闘技術に精通。

他にも、単独で敵拠点にて中隊規模の敵集団を単独で壊滅させる。2000メートルの長距離狙撃に成功」

 

「一つ訂正を。正確には1964メートルです」

 

「殆ど変わらないだろう。それに、今日はそんな身の上話をしに呼んだ訳ではない」

 

楽にしろ、と告げて取り出した紙の資料をデスクの端へと追いやる。

そしてクルーガーの言に、これまで敬礼のままだったブリッツは応答して、素早く両手を腰の後ろに組み両足を肩幅に開いた。

 

どこまでも軍人気質なブリッツに若干ながら渋い表情を浮かべるも、話を先に進めるためにクルーガーは改めて切り出す。

 

「遅くなったが、先日の鉄血生産工場破壊、ご苦労だった。おかげで、S地区全体で鉄血の活動が縮小したという報告が幾つも上がっている」

 

「恐縮です。しかし、自分たちがあの任務を遂行出来たのはS11地区基地とS08地区基地からの支援。そして、自分の部下たちの頑張りあってのもの。自分個人の功績など微々たるものです」

 

「下手な謙遜だな。嫌味と捉えられても文句を言えないぞ」

 

「やれる事をやり、やるべき事をやった。それだけです」

 

平然とした態度と口調でブリッツは言い切る。

実際、彼はその通りだと確信している。あの任務は、別にS10地区基地(自分達)でなくとも遂行できた。S地区だけで見ても、同様の事を出来た基地はある。例えばS03地区分屯基地の独立支援部隊。少数精鋭を地で行くあの部隊ならば問題なくやり遂げられただろう。それこそ、自分達よりもスマートに。

今回は偶々その役目がブリッツたちに降って湧いただけ。それがブリッツ自身の評価の全てだ。

 

だからただ淡々と、彼にとっての事実を。それ以上でも以下でもない事実を告げた。

 

「あの任務はお前だからこそやり遂げられた。俺も含め、上層部はそう判断している。お前の自己評価はどうあれ、それ以上は協力してくれた基地や指揮官。延いてはグリフィンへの侮辱になるぞ。口を慎め、指揮官」

 

「はっ。申し訳ありません」

 

「よし。なら本題に入ろう」

 

場の空気を改めて整える。より一層、雰囲気が締まったようにブリッツは感じとる。

クルーガーが言った通り、これからが今日ここに呼び出された理由。本題なのだろう。

 

クルーガーがブリッツの前に立つ。

 

「ブリッツ指揮官。これまでの功績を評価し、貴官を上級指揮官に任命する。異論はあるか」

 

「ありません。慎んで拝命致します」

 

「よし。正式な辞令はまた近い内に通達する。・・・がその前に、一つ聞いておきたい事がある」

 

「なんでしょうか」

 

「お前は、鉄血に対して復讐心を抱いているようだな」

 

ブリッツの眉がピクリと痙攣するように動く。クルーガーの洞察力はそれを見逃さず、追撃とばかりに言葉を紡いでいく。

 

「ブリッツ。指揮官とは部隊の長だ。集団を率いる者だ。お前の判断一つで部隊は戦果を引っ提げて凱旋するか、戦場で塵芥と化すかが決まる。そんな責任を背負っている。身を焦がすほどの復讐心を抱くお前が、指揮官として正常に冷静に立ち振る舞えるのか。俺はその是非を、お前自身の口から聞きたい」

 

ブリッツは視線を落としクルーガーから外して黙り込んだ。

 

クルーガーの指摘は尤もだ。指揮官とは常に冷静で、無数に迫る選択肢の中から最善最良の行動を選択しなければならない。

復讐とはつまり、怒りと恨みの複合体。怒りは冷静な判断を鈍らせ、恨みは正常な判断を選ばせない。

平静を装ってはいるがブリッツの胸中には常に、鉄血に対する烈火の如き怒りと呪怨のような恨みが渦巻いている。

 

鉄血兵に対する徹底的な破壊は、確実に機能停止に追い込むためだけでなく、私怨も混じっているのかと問われれば、否定できない。

 

そんな心理状態を持つ指揮官を、果たして認めるだろうか。

当然認めないだろう。

 

だから、ブリッツはどこまでいっても指揮官としては二流三流止まりなのだ。

 

だから、ブリッツの答えも決まっている。

伏せていた視線を再びクルーガーの双眸に向ける。

 

「社長。俺は指揮官である以前に、兵士であるという自負を持っています」

 

「ほう」

 

「俺は兵士である以上、任務遂行を最優先事項としています。故に、私情には走りません。絶対に。付け加えるならば、俺の復讐はグリフィンの任務を遂行することで果たせます。

俺の復讐は、任務のついでで十分です」

 

それは、紛れもない本心であった。

仲間が殺された事を忘れたことはない。今でも夢に見て魘される。

夢に見るたびに心の中がドス黒くなる。どうしようもなく怒りと恨みが沸き上がってくる。

 

それでも、その仲間が教えてくれた兵士としての心構えを忘れたこともない。生き残った者として、それだけは忘れてはならないと固く心に誓った。

 

だから、自分の復讐は任務のついででいい。任務を遂行することで復讐を果たす。それがブリッツの中にある兵士としての意気地だ。

 

ブリッツの青い瞳を見たクルーガーは、小さく鼻を鳴らした。

 

「先の上級指揮官の任命。これを破棄する。代わりにお前には、別の役割を与える」

 

クルーガーが肩にかけていたコートの内側から、一枚の紙を取りだしブリッツに手渡した。

紙の上部には「新設部隊発足案」と記されている。

その下には、その部隊の名前も。

 

「S10地区基地をこの新設部隊の拠点とし、同時に基地所属の人形全員をこの新設部隊所属の隊員として扱う。そして、この部隊をお前が率いろ。特別現場指揮官としてな」

 

特別現場指揮官、という単語が聞こえた瞬間。ブリッツの目が大きく見開いた。

それはつまり

 

「お前の人形との共同戦闘を、グリフィンは正式に認める。俺が許可する。精々暴れてこい」

 

自然と、ブリッツは口角がつり上がるのを感じたが、それをあえて抑えようとは思わなかった。

 

「了解。慎んで拝命致します」

 

結果として出来上がった不敵な笑みを持ってして、ブリッツは敬礼し応えた。

 

─────こうして、ブリッツはグリフィンの新設部隊。「多目的戦闘群(Multi-purpose Action Group)-MAG」の現場指揮官として正式任命された。

 

 




はい。というわけで、S10地区司令基地の人形はもれなく「多目的戦闘群」のメンバーとして任命。ブリッツも正式に部隊を率いる現場指揮官として認められました。人形主力のグリフィンが、生身の人間が戦闘行動に直接参加する事を認めるって凄いんじゃね?

多目的戦闘郡を簡単に説明するならば、ありとあらゆる戦闘行動に対し即座に導入可能な部隊です。QRFみたいなものです。
ある意味コラボに向いた設定。使ってもええんやで?

そして途中出てきた「S03地区分屯基地の独立支援部隊」は、「白桜太郎」様作の「狼は前線にて群れを成す」より独立支援部隊ウルフパックです。
いつぞやに副官のライトさんが名前だけ出てきたのでお返し。
この作品の影響で私はドラグノフさんを育成しはじめました。スパルタンみたいな指揮官とドラグノフのイチャつきイイゾ~コレ


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