※リク貰ったものを書いた原則東方のリクエストボックスでござい。
基本一話完結なのでどこからでも読めます
ある目的の為に竹林を訪れた2人は、その目的の為刃を交える以外の選択肢を、持たなかった。
「…あら、貴女は確か、冥界の」
「あ、メイドさん。こんにちは、こんな所で何を?」
迷いの竹林を訪れた私は、そこで何かを探すような仕草をしていた庭師…魂魄妖夢と出会った。
「あ、私は幽々子様に言われて、タケノコを買ってくるように言われまして。ですが、中々人里には売っていなくて。ココなら採れると思いまして」
「あら、貴女も?私もお嬢様に言われて採りに来たのよ。私は最初からココで採ってこいって言われたけどね」
どうやら主人の要望に応えて来た事に変わりないようだ。
ーー今夜はタケノコ料理がいいわ。咲夜、採ってきてちょうだい!
そんな風にお嬢様は仰ったが、あの方には自分で採りに行く苦労を味わって貰いたいと若干思ったりもする。従者としては失格の意見だろうが、私個人としてなら問題あるまい。
「どうしました?」
彼女が訝しげな顔で声をかけてくる。しまった、顔に出ていただろうか。知らないうちに俯きかけていた顔を上げ、彼女を促すように歩き始める。
「いいえ、何でもないわ。とりあえず目的は同じみたいだし…一緒に探しましょうか」
「はい!」
彼女の主人は相当な大食らいだった筈だが、最悪あまり見つからなくても別の食材でどうにかなるだろう。私達はタケノコを求めて竹林の奥へと進んでいった。
ーーそして、どれくらい経っただろうか。
「……見つかった…?」
「いいえ…それどころか、このままじゃ帰り道も…」
私達は、同じ景色の竹林をひたすらに歩き続けた。しかし、何故かタケノコらしきものは一本も見当たらない。更に、途中からがむしゃらに奥へと進んだせいか、段々と戻る道も分からなくなってきている。その影響で、私達はとっくに疲れ果てていた。
飛べば脱出は容易とはいえ、これ以上体力を使ってしまってはこの後の夕食を作る気力も無くなりかねない。
早く見つけて帰らなければーーと、その時だった。
「あ…」
隣の妖夢が小さく声をあげた。彼女の向いている方向を見ると、やや大きめの、私達の求めていたタケノコが生えていた。
ただし、1本のみ。
「…!」
それを確認した瞬間、私達は同時に走り出した。
「悪いけれど…こうなったら、私がアレを頂くわ!」
懐から懐中時計を取り出し、能力を発動させる。
刹那、私以外の時間は、文字通り静止した。そのまま私はタケノコの近くに歩み寄り、それをそっと引き抜いた。
「よっ、と…。ごめんなさいね、妖夢。お嬢様はこういう時果たせずに帰るとうるさいのよ」
彼女の主人なら、他の食材でもきっと許してくれるだろう。あるいはまた生えている場所を探しに歩くのかもしれない。しかし私には、それほどの力はもう残っていないのだ。
「…さて、そろそろ行かないと」
能力を発動させているのにも、今の状態では限度がある。
私は能力を解除する。元通り動き始めた世界で、私は振り向こうとして。
ーー背中越しに、大きな殺気を感じ取った。
「っ⁉︎」
振り向くより先に、横へと飛ぶ。振り向くと、先程までいた場所に長い刀が突き立てられていた。
「妖夢…何のつもり?」
妖夢は長刀を引き抜くと、ややゆっくりとした動作で、こちらへと構えた。
「メイドさん…そのタケノコ、私に渡して頂けませんか?」
やや虚ろな目をした妖夢が、声を出す。その声は蓄積した疲労とタケノコを見つけた希望、そしてそれを持つ私への殺意が混じっているであろう、暗い声だった。
「幽々子様は沢山食べるんです…例え1本でも、あるないで大きく違いますし、何より私は、幽々子様の希望に応える義務があるんです」
一瞬だけ、妖夢の目に光が戻る。それを感じた私は、ゆっくりとナイフを抜き、構えた。
「ええ、私もよ。私もお嬢様の希望に応える義務がある。だからーー」
「倒してでも、頂きます!」
「貴女には、渡すわけにはいかない!」
時を止め、ナイフ型の弾幕をばら撒く。だが体力の消耗が思ったより激しいか、あまり多くは展開が出来ない。
「早く、カタをつけた方が良さそうね…!」
能力を解除した瞬間、突風のような勢いでこちらに妖夢が突っ込んでくる。私の放つ弾幕は、振られる刀に散らされていく。
そのまま勢いを緩めず、私の目前まで刀が迫る。
「はぁッ!」
「くっ…」
大上段から振り下ろされた一撃を、ナイフでどうにか受け止め、火花が散る。タケノコを抱えながらでは流石に分が悪い。だが。
「それを手放してくれたら、これ以上お互いに消耗しなくて済むんですよ…」
「そうね。でも私もお嬢様の為に負けられないの。だから…」
なるべく使いたくは無かったが、仕方がない。全てはお嬢様の為にーー!
一瞬だけ、時間を止める。その一瞬で妖夢の背後に回りこみ、首筋にナイフの柄を叩き込んだ。
同時に、能力が解除される。妖夢は振り向こうとして、その足がゆっくりと崩れていく。
「…あ……」
力なく、妖夢の声が聞こえる。それを聞いた私は踵を返し、
「まだ、です…!」
妖夢の、恐ろしいまでの執念のこもった声を聞いた。
「あああッ!」
左手1本に刀を握り、身体が反転する。その勢いのまま、刀が振り抜かれる。下から抉り、斬りとばすような、そんな気迫を纏う刃。
「ぐぅッ…!」
辛うじてナイフを滑り込ませ、またも大きく火花が散る。だが一撃を入れたこの状況なら、私の方が有利になる…!
「は、あッ!」
全力で、ナイフを上へと振り抜く。片手で振られた不安定な刀は、勢いに耐えられず妖夢の手を離れ、地に落ちる。
「これで…!」
だから一瞬、油断をして。だから、気付かなかった。
大きく跳ねあげられた左手と、逆の手。妖夢の背にあったそれは、鈍い黒色をしたモノを掴んで私に迫る。
「…!」
それは、長刀を納めていた鞘。充分な質量を持ったそれが、油断しがら空きになった私の胴を、強く薙ぎ払った。
「か、ハッ…!」
今の私に、それを耐える体力は無く。視界に今度こそ倒れゆく妖夢の姿を見ながら、私も同じように、身体を地に横たえた。
◆
「ん〜、やっぱりタケノコ美味しいわねぇ」
「そうね〜。うちの妖夢とお宅のメイドさんがあんな事になってるとは、思いもしなかったけど」
冥界、白玉楼。死者の行き着くその場所に、私と妖夢の従者組、お嬢様と妖夢の主人たる亡霊の姫君と、今回の件に関わるほぼ全員が集まっていた。
「その件は…本当に、申し訳なかったです…!」
「いいえ…私もどうかしてたわ」
眉を下げる妖夢に、私も頭を下げる。私達4人が囲む机には、タケノコの煮物が置かれている。私と妖夢で作ったモノだ。
私達2人が倒れた後、竹林に住む白兎によって私達は発見され、永遠亭に運び込まれた。その後目覚めた私達に駆けつけたお嬢様が事情を聞き、に それを聞いて軽い説教を受けた後、お嬢様達を含め万全の状態でタケノコを採り、今に至る。
「私達も、あそこに長居するのは良くないわね…」
「そうですね…。疲れは人をおかしくしますからね。私は半霊ですが」
行けども同じ景色に果たされぬ目的、それらが重なって起きた悲劇に、私達は大きく溜息をついた。どうあれ、こんな事はもう無いようにしなければ。
「咲夜〜、食べないの〜?」
「妖夢もよ〜」
お嬢様達がこちらを催促してくる。笑顔でタケノコを頬張る主人を見て、私達は笑いあって。
「ともあれ、目的は達成という事で…私達も食べましょうか」
「そうですね!」
私達は、4人でタケノコを頬張るのだった。